13 孫の友達は転生者かもしれない
みんななかよく。
ワシの名前は、荻原 健治。定年を迎えてそれほど間もない、少し若めのジジイだ。いまどき、定年を迎えたばかりなら、シルバー派遣にでも再就職して働け、と言われそうだが。だいぶ前に、かみさんとも死別したし。年金もそこそこ、貯蓄もそこそこある。
息子も嫁を迎えて孫娘もいるし、息子夫婦とも同居していて、生活に不自由もない。迷惑をかけない程度に隠居生活を送る、という方針で、悠々自適の隠居生活を送っている。
ひと昔前だと、老人仲間と遊んでないとどうしようもない、という事だったかも知れないが、今はそうでもない。適度に散歩でもして体を動かしていれば、あとはインターネットでもテレビゲームでも、暇を潰すような手段はいくらでもある。特にインターネットは、ひと昔前とは違って通信も定額使い放題だし、高速通信で無料動画も見放題だ。
インターネットではゲーム以外でも、同人小説家が投稿する、素人小説が無料で読めるサイトもあるし、バカな書き込みのニュースを読むだけでも時間が潰せる。
ジジイがネットやゲーム??と、一部の若い者は思うかもしれないが、それは認識間違いというものだ。テレビゲームが世間に浸透し、各段の進化を始めたのは、ワシらが現役学生だったり、就職したての頃だったりするからだ。家庭用ゲームで時間をつぶすのは子供の特権のように思われていた時代でも、ゲームセンターで幅を利かせていたのは、ワシらのように、『経済力をそこそこ持った』ゲーム好きの大人か、それに近い学生達だ。
つまり、ワシのような若めのジジイが、ゲームを趣味にしているのは不思議でも何でもない。大昔のように、囲碁と将棋と盆栽がジジイの趣味、というのは過去のものだ。
もちろん、最新型ゲーム、というのは。反射神経やら、画像処理の激しさの面も、そしてデザインの感性とかもあって、全部が全部、受け入れられるものでもない。スマホのソシャゲなどは感性に合わない。もっぱらワシがやっているのは、『若い頃にやりたかった、もしくは、もっともっとやってみたかったが、時間と金の関係で、やりきれなかった』という思い出を残している、懐かしい『レトロゲーム』がメインだ。
少し前まではレトロゲームをプレイするのも大変だったが、今では昔のロムカートリッジを読み込める互換機もあるし、最新型ハードのダウンロード販売で、昔のゲームが一通りプレイできたりする。いい時代になったものだと思う。
そんな訳で、ワシは今日も今日とて、体力維持の散歩とラジオ体操を終え、一息ついてから、懐かしのゲームをやる。つもりだった――
「おじいちゃーん。クラブラやろー!!」
「洋子か。よし、ちょっと待ってな」
孫と地頭には勝てぬ。みたいな言葉があったが、まさに真実だ。かわいい孫の頼みは、何においても優先される。ワシの遺産が死ぬまでに残っていたら、洋子にやる。決定事項だ。
クラブラ。クラッシュブラザースの略だ。正しくは『大激闘クラッシュブラザース※※』だったはずだ。何世代か前の家庭用ゲーム機から、ずっと続く人気ゲームの続編。いわゆるパーティゲームと呼ばれる複数対戦ゲームのアクションゲームで、ある程度の人数が集まって同時プレイした方が盛り上がる。
もちろんネット通信対戦もできるが、知らない人とプレイすると、色々とトラブルも起きる。子供は知り合いか、家族とプレイするのが和やかにプレイできて楽しい。ワシは『ゲームのできるじいちゃん』という立ち位置で、孫の支持を一定量勝ち得ている。ゲームに付き合わない理由なぞ無い。
「こんにちは、おじいちゃん!!」
「おじゃましております」
おや、洋子の友達か。金髪の子は……賢いとウワサの、山村さんちの雪奈ちゃんかな。ちゃんと話した事は無いから、どんな感じかは知らないが。ウワサでは、空手使いだとか、中国拳法の使い手だとかいう話もあるが。
「こっちは、みゆきちゃん!!こっちは、ユキちゃん!!」
「ゆきなちゃん、だよ。よーこちゃん」
「まあまあ、細かいことですよ。子どもなんですから」
何やら、雪奈ちゃんの反応だけが子供らしからぬ賢さのような気がする。大人を気取っている感じなのかも知れんが。
ワシらは4人同時プレイで、クラブラを楽しく遊んだ。
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「あーもう、おじいちゃん、けっこう強いなぁ」
「おじいちゃん、つよい!!」
「なかなかの反射しんけいと、れんけいですね」
「はっはっはっ。まあまあだったかな」
うむ。接待はうまくいったようだ。
「……あー、ところで洋子。おじいちゃんと、レトロゲームしないか?」
「えー。あの古いの??」
「古いゲーム??」
「ほう!!古いゲームときましたか!!」
ワシの提案は、孫娘には素気無く切って落とされた感があったが、雪奈ちゃんだけは食い付いてきた。レトロゲームに興味があるらしい。
「おじいちゃんさー、ゲームすきなんだけど、古いゲームをやりたがるんだよね」
孫娘の評価が少し悲しい。レトロゲームも悪くないもんだよ。
「古いゲームって、どんなの??」
「なんかもう、絵がカクカクしてるの。クラブラの昔キャラみたいなの」
「ほほー。きょうみありますね」
やはり雪奈ちゃんは食い付きがいい。レトロゲームに対する孫娘の好感度を上げるためにも、ここは雪奈ちゃんを味方につけるべきかな。
「雪奈ちゃん、レトロゲームやってみるかな??」
「やりましょう!!なにしますか??」
そうだな……できるだけ、かわいい感じの、食い付きのよさそうなやつ……
「『バルーンファイター』は、どうかな?風船でフワフワ浮かんで敵を倒すゲームだよ。確か、クラブラでもステージがあった、ような……」
「……やりましょう。のぞむところです」
雪奈ちゃんの青い瞳がギラリと光った気がしたが、たぶん気のせいだな。
PLAY START !!
「まずね、下に落ちないように――」
「スキあり!!」
雪奈ちゃんの1Pキャラが、高速で突っ込んできて、ワシの2Pキャラを踏んづけた。2個ある風船の1つが割れる。
「「ああっ!!」」
洋子と、美由紀ちゃんが驚いた声を上げた。
「――このゲームは、こういうものでしょう??おじいちゃん」
「……なるほど。素人では無かったようだ。本気でいくぞ」
ゆるさんぞ、小娘め。
GAME OVER !!
「いやー、ひさしぶりに熱くなりましたね!!」
「すごーい!!ユキちゃん!!うまい!!」
「そっかー。このゲーム、クラブラみたいなもんなんだ!!」
「…………」
接戦の末、ワシは雪奈ちゃんに負けた。いや、最初の不意打ちがなければ、互角……いや、ワシが勝っていたはずだ。素人だと思って油断していなければ、必ず。
しかし、今のプレイを見て分かった。この娘、ちょっとレトロゲームをかじった素人などではない。間違いなく上級者だ。山村さんちの家風だろうか。もはや油断などできない相手だ。
「リトライしますか?それとも、ほかのゲームを??ほかのも見てみたいのですが」
「いいだろう、雪奈ちゃん。次は『マリルブラザーズ』で、どうかな」
「よろしい。受けてたちましょう」
「ユキちゃん、かっこいー!!」「がんばれー!!」
おのれ。洋子の支持を奪いおって。必ず倒してやる。
――そして。やはり激戦となった。踏みつけ、飛び越し、突き上げ、あらゆる技術と読み合いの末、最後に運を味方につけたのは――
GAME OVER !!
「……生きのこったのは、ワタシが少しだけ長かったようですね??」
「くうううう」
ほとんど自爆攻撃の最後の攻防の末、先に残機が尽きたのは、ワシの方だった。
「ユキちゃん、すごーい!!」
「レトロゲームうまい!!」
「まあ、それなりには。たしなみ、というものです」
(そんなわけがあるか!!)
どう考えても、相応にやり込んでいる。山村家はレトロゲーム天国なのか。だとすれば、むしろ家族づきあいしたいくらいだ。
「……雪奈ちゃん。次は、雪奈ちゃんのやりたいゲームで、対戦しようか?」
言外に、『対戦できるゲーム』を、と言ってみる。
「……そうですね……では、少し新しくなりますが。テトリスで。対戦ルールなし、デフォルトのしようでいきましょう」
「……ほう。純粋に技術勝負、という事か。ニューヨークの夜景はワシのものだぞ」
「それはこちらのセリフです」
よーし、勝負だ!!と、ゲーム選択から始める。
「なんか、すごい仲いいね」
「前からのともだちみたい」
洋子と美由紀ちゃんが何か言っていたが、その時のワシには聞こえていなかった。
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「……じゃあ、格闘ゲームはVRファイター3くらいまでかね?」
「VR2くらいが、はだに合っていましたね。リアルとフィクションのバランスとかが」
「『ジュピター』と専用スティック2台あるぞ。バッテリーは無いから、隠しキャラは使えんがな」
「それはすばらしいですね!!こんどやりましょう!!」
「好きな技とかあったかね?ワシは鉄山靠だなあ」
「バカるん豪特急です」
「そこが分かるか。キャラは何を使うんだね?」
「シャドーとサリーが好きです。でも、カマキリ男も大好きです」
「カーマ、キリキリっ!!カマキリ拳法をくらえ!!」
「それは芸人の方ですよ。なつかしすぎです」
などと。しばらくゲームをした後、何故か同世代のゲーム友達とバカ話をするような話をしていた。この子、本当に小学2年生なのだろうか。話が合いすぎる。
「4月うまれの、8さいです」
と、本人が自己申告していたが。
洋子と同じクラスの小学2年生だというし、どう見ても容姿は子供なのだが。なんだろう。違和感がありすぎる。特に困った事もない訳で、不都合が無いから問題がない、と言えばそうなのだが。
そんな訳で。ワシに間接的ながら、町内のゲーム友達ができた。かなり年齢差がある友達ではあるが。まあ、ネット社会でもあるし、今どきは、こういうのも珍しくはないだろう。
しかしそれでも、雪奈ちゃんの会話、知識、リアクションのアレやコレやには、何か説明のつかない何かを感じる。本人は『テレビで』『ネットで』覚えました、と言っているが。時事ネタみたいなものを時々差し込んでくるあたり、ぜんぶネットで回収できるものだろうか??
――そこで疑惑を覚えてしまうのだ。
もしかしてあの子は、『前世の記憶を持つ転生者』ではないのか、と。
ちなみに、この概念は時たま巡回している、素人作家の投稿小説サイトでよく見かける設定で学んだものだ。……もちろん、こんな事は誰にも言えない。こんな事を口に出そうものなら、『あのジジイまだ若いのに耄碌しやがった』と思われて、『早く医者に連れていけ』と、息子夫婦に告げ口されるに違いない。
……まあ、この疑惑が本当であろうとなかろうと、実生活に問題があるわけじゃないし、孫娘を見守る大人が増えたようなもので、ワシにとっては都合がいいくらいだ。ついでに言えば、近くに昔のゲーム話が通じる友達が増えたという事で、特に詮索するような事でもない。ま、事の真実は、今際の際にでも聞いてみる事にしよう。その機会があれば。
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「まったくもって、暑くてかないませんね。しがい線もキツイですし。オゾン層しゅうふくそうちとか、なんかそういうマシン、誰かつくってくれませんかね」
「ホントに暑くなったよなあ」
「むかしがなつかしいです。カエルの歌もちいさくなりました」
この子、普通の8歳児に偽装するつもりは無いんだろうか。素が出てるというか、そこら辺は何も考えてない気がするというか。頭は悪くないはずなのに。
「そういえば、むかしは夏場、道路がカエルの、れきしたいで、ほそうされてませんでした?」
「あー。雨が降った後とかな」
偽装しろ偽装。そんな事、ネットでもそうそう載ってないぞ。
彼女は孫娘と並んで座り、スイカをモシャモシャと食べつつ、ときどきタネを吹き出している。
(……まあ、洋子の友達だし。何かやらかしたら、少しくらい助けてやるか)
なんだか残念な感じの、同年代の友人を見るような目線で、孫娘の友人を見るワシなのだった……と。その友人のスイカを食べる動きが、ピタリと止まる。
「……スイカ、といえば」
「……ワシは『毛里名人』派だったぞ。『ゲームはNameco』だ」
えー!!なにいってんですか、元スーパーの店員こそが名人でしょー!!夏といったらキャラバン、夏といったら指でスイカ割りでしょー!!
などと。すべてを言わずともネタが通じ合える友人なのだった。実に楽しい。そしてコイツ、『鷹橋派』だったのか……ミーハーというか、わりと普通だな。それはそうとして、死んだ婆さんはゲームをしなかったし、最近はゲーム友達との付き合いも無くなって久しかったから、こういう下らない話をするのは本当に楽しいと思える。
洋子には時々、このちょっと間抜けな転生者を遊びに連れてきてもらおう。そんな事を考える、ワシなのだった。
ゲームは一日、一時間!!
――――で、済むわけない!!あんなの、PTAに言わされた戯言ですよ!!
ゲーム会社的には、イメージを保つ必要がありましたからね……ハチ助さんの会社、けっこう社会貢献とかしてる会社だったのに……っ!!
最近は吸収した親会社が美少女ゲームで一世を風靡した会社なだけあって、爆弾男ゲームもすでにギャルゲーと化しているとか。これも時代ですかねえ。
ときどきこういうネタに走りたくなります。次もやるかも知れません。あまり興味のない方は、ゆるーく読み流してくださいませ。この作品は、読者の方の寛容な心によって支えられております。