心は曇り空
「はあ。どうしたものか……」
紫苑にあんなこと言ったものの、後悔している俺だった。
昨日のことあってか、紫苑は頭痛で休みということになっている。
俺にとっては見え透いた嘘だが、皆は知らない。
それにしても、この虚無感は何だろうか。
罪悪感とはまた別のような。
その2つが合わさったせいで、テストの解説が耳に入ってこない。
そのまま時間は過ぎていき、裕樹と千堂と昼飯を食っているワケなんだが。
「なんかボーっとしてるよな一也」
「やっぱそうなんか?」
「ああ。それよりさ、ホントにお見舞いに行かなくていいのか?」
「俺はええよ」
「と言っても一応は紫苑さんの彼氏なんだろ?」
「いやぁ、どうしても外せへん用事があるでな」
「そっか。じゃあ里佳さん、2人で行こうか」
「あ、はい……」
「ん?どうかした?」
「いえ、別に……」
それにしても一体どうすればいいのだろうか?
学校を休むなんて一時凌ぎの手段でしかない。
やっぱり謝った方がいいのかな。
「ごちそうさん」
「あれ?もう食ったのか?」
「ああ、ちょっと野暮用があるで先に失礼するわ」
──屋上
俺は授業をサボって空を見上げていた。
何もない空に思い浮かべるのは只1つ。
あいつはどうしているのだろうか?
それだけが雲だった。
「あら。こんなところでどうしたの?サボり?」
ゆっくり視線を移すと白衣の女の先生がいた。
誰だっけ?
どこかで見たことあるはずなんだが。
「私のこと忘れちゃったかな?桜丘 絵梨よ」
「ああ。保健の担当の」
「保健じゃなくて保健室の担当よ。間違えないでね」
苦笑いする先生。
その保健室の担当がこんなところにいていいのだろうか?
「あなた、何を悩んでいるの?」
「はあ?」
「前にも会ったことあるけど、そんな顔してなかったわよ」
なんなんだこの人?
会っただけで顔を覚えられるとかあり得ないだろ。
「先生の目は誤魔化せないわ。話したらスッキリするかもしれないから、良かったら話してみなさい」
何でだろう。
この人になら話してみてもいい気がした。
「………実は」
俺は事情をかいつまんで話した。
もちろん紫苑とのことを。
「そっか。あの一之瀬さんとね」
「あいつのことも知ってるんですか?」
「あら。あなたたちは2人とも有名なのよ?」
「え?なんですかそれ?」
「一之瀬さんって美人で賢い優等生だけど、あんまり交友関係ないでしょ?」
「はい」
「でも、あなたと荻野君は別。特にあなたは彼女と親しいから皆が噂してるの」
「そうでっか……じゃなくて、そうですか」
「なんか変に関西弁を使ってるわね。あなた、関西弁より標準語の方が自然よ。本当はこっちのほうの出身じゃないの?」
どうしてこんなにも鋭いのだろうか。
「ええ、そうですよ。それより話戻していいですか?」
「そうね。じゃあ質問、一之瀬さんのことどう思ってるの?」
いきなり核心をついてきた。
「どうって……」
何故だろう。
答えに詰まってしまう。
「答えられないんだ?少しは意識してるのね」
「そりゃまあ、あんなことがあったもんですから」
「あなたは結局どうしたいの?」
「……………」
「まずは自分と向き合いなさい。それからでも遅くはないわ」
「はい」
「それにしてもいいわね」
「はい?」
「青春って感じがするわ」
「先生もまだ若いでしょうに」
「ありがと。また何かあったら保健室に来なさいな。じゃあね」
バタンと屋上のドアから先生が出て行った。
そういえば、結局あの人はここに何をしに来たんだ?
まったく謎な人である。
「はあ………」
空を眺めて、言われたことを思い出す。
自分と向き合えってどうすればいいんだろう?
とりあえず自問自答でもしてみるか。
よーい、スタート!
Q「俺の名前は?」
A「大原一也」
Q「趣味は?」
A「料理」
Q「一度してみたいことは?」
A「世界征服、いや宇宙制服やろか?」
Q「好きなゲームは?」
A「ポケットに入れるモンスターズの金銀かな?」
金銀までしかやったことないけどね。
最初にワニとか火ネズミをよく連れてたっけ。
Q「好きなアニメは?」
A「龍の球を集めたり敵と戦ったりするやつ。個人的にZよりGTが好きやね」
こんなことしてて意味あるのだろうか?
自分に向き合ってはいるが、なんかズレている気がする。
Q「あなたの気になっている人は誰ですか?」
A「やっぱあいつやろか?でもなぁ……うーん」
あれ?勝手に質問が出てきたぞ?
「こんにちわ、一也さん」
「せ、せせせせ千堂!?いつからっ!?」
急に背後から現れた千堂。
心臓に悪い。
「『好きなゲームは?』のところです。私もよくやりましたよ、あのゲーム」
「そうか……」
「ええ。博士にはいつも葉っぱが頭についているのを貰ってましたが」
「ええええええ!?」
「まあ、この話はまた後ほど」
「そ、そやな。それより授業はどうしたん?」
「一也さんこそ、どうしたんですか?」
「…………」
「…………」
「ま、無粋なことは訊かんとこか」
「ですよね」
「で、さっきの質問はなんや?」
「そのままの意味ですよ」
「なんでやろな。答えがはっきり出てこんよ」
「紫苑さんはもう答えを出していると思いますよ」
「はあ?」
「きっとテストの時も今日も、頭痛の原因は一也さんですよ」
今日のは間違いなく俺のせいだが……。
テストの時も?
「じゃあ、私は戻りますね」
「え?」
「後は自分で考えてください」
「このまま一緒にサボらへんの?」
「裕樹さんに変に思われたら嫌ですし」
「そうでっか」
「では、頑張ってサボってくださいね」
「斬新なサボり方やな」
ギギィ〜バタン!とドアが閉まった。
俺は再び青い空を見上げる。
「テストのときも俺が原因か………」
まさか、あいつワザと休んだのか?
俺に勝ってもらうために。
まあ、これもある意味ハンデと言えばハンデだが、意図が違う。
「………あれ?」
それはつまり。
俺が勝ったら恋人になるっていうのは。
紫苑は最初からそれが目的で?
「ははは。そんなアホな……」
どんな推論だ。
あいつが俺を好きだなんて。
あいつが俺を………。
『カズっち。明日デートしようか?』
『そんなことないよ?全てカズっちの為に選んでいるんだから』
『このほうが恋人っぽいでしょ?』
……………。
なんだこの息苦しい感じは?




