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唯一の欠点


土曜か日曜のどちらかには更新するようがんばります。



うっすらと目を開くと見慣れた天井が視界に入る。

眠い目をこすって意識を整える。

普通なら今何時だろう?と気にするところを今日に限って違っていた。



「懐かしい頃の夢やったな」



大阪から転校してきた日の夢。

そしてその日の放課後に紫苑に会ったことが内容の大半だった。


ときにこんな話を聞いたことはないだろうか。

夢はその人の欲望を表すという説。



「それがホンマやったら、俺は変態か?」



夢の中では、初めてあいつと会って散々弄られたことしかなかった気がする。


もしも、夢の内容=欲望という方程式が成り立つとしよう。

それならば、紫苑に弄られるのが俺の欲望ということになる。

どう考えても完璧に変態だった。



「んなあわけあるかいっ!!」



大阪で一度は言ってみたいツッコミ。

その掛け声を一喝して勢いよく拳を振りおろした。


ホントは布団が受け止めてくれるはずだったのだが………



バキィッ!!!



「〜〜〜〜〜〜っ!!」



もの凄い速さでベッドの木の淵に指が当たった。

しかも手を握ってる状態での小指の第2関節に。


どれほど痛いか容易に想像できるだろう。

これは相当痛い。

思わず涙が出てきた。


ゴマをすっているような感じで患部をさする。

きっと周りから見れば、今の俺は媚びへつらう卑しい人間に見えることだろう。


朝からとんだ災難だった。

もう何もかも紫苑のせいだと決めつけることにする。

明らかに責任転嫁だが、こうでもしないとやり場のない憤りがおさまりそうにない。



「朝から何やってんのやろな……」



泣きたいぐらいだった。

あ、既に泣いてるんだったな。


ちなみにまだ俺はゴマをすっている。

早く痛みは引いていかないだろうか。











家を出発して学校に向かう。


もう10月だというのにまだ暑さが残る。

学校までの道のりはあまりないが、この気温のせいでしんどい。

地球温暖化の影響は凄まじいようだ。


どうせ時間もまだ余裕があるので、のっそりと歩いていた。

朝から無駄な体力を消耗したくない。

寝起きのことがあるから尚更だ。



バシンッ!!



いきなり背後から叩かれた衝撃で前のめりになる。

が、足を踏ん張ってコケるのを防いだ。


なんとなく犯人の予想はつく。

というより俺にこんなことをするのはただ1人。



「何やってくれるねんっ!」


「おはよー。今日も暑いねぇ、カズっち」


「人を叩いといて何やねんその爽やかな挨拶?」


「なんか朝から怒ってるね。カルシウム不足?」


「いや、お前のせいやがな」



この罪悪感のカケラも見せないこの女は一之瀬紫苑。


彼女を一言で表すなら猫だろう。

表情がころころ変わったり、気まぐれなところがあったり。


出会った時はあれほどウザく感じたが今はよく一緒に行動している。

同じ料理部として話をしていたりするうちに次第に慣れてきた。


彼女は超が付くほどの天才で、大抵のことをそつなくこなす。

天は二物を与えずというが、そんなものは嘘。

才色兼備、文武両道、さらには文理両道を欲しいがままにしている。


だが、人には必ず欠点というものがある。

紫苑は料理部だが肝心の料理が下手なのだ。

初めて彼女の作ったものを食べた時の惨劇は今でも思い出せる。



…………

………

……



「え!?転校生君が入部するのは分かるけど、一之瀬さんも?」


「うん。ひょっとしてあたしは入部できなかったりする?」


「いえいえ、とんでもない!一之瀬さんなら大歓迎よ」


「ホント!?ありがとう」



何こいつのこの態度?

俺と会った時とはえらい違うやないか。

これが社交辞令の時の彼女のキャラか?


どうやら紫苑は学校では優等生なのらしい。

廊下ですれ違った先生や部の人からの信頼も厚そうだった。


俺の時は散々からかってきたくせに。

この猫かぶり女め。



「じゃあ、ここにある材料で何か作ってみて」


「ほいほーい」


「は、はい」



急に紫苑の声が弱々しくなった。

ちらっと顔を見ると少し口元が不自然に引きつっていた。

一体どうしたのだろうか?



「おい、あんた大丈夫なんか?」


「え?」


「今、様子がおかしいで。口元が引きつってるわ」


「ま、まかせなさーい」



微妙に答えになってなかった。

Vサインも出してはいるがその手はプルプル震えている。

………まさか、こいつ料理できないのか?






その後、俺はオムライスを作った。

まあ、出来合いの料理にしてはなかなかだ。


紫苑の作った料理を見てみる。

その皿の上には得体のしれないものがあった。

尋ねてみると………



「チャ、チャーハン?」



なぜか疑問形で返事をされた。

どうやらこの薄気味悪い固形物はチャーハンらしい。

一体だれがこれを処理するのだろうか。


周りにいた部員たちの口も引きつっていた。

そりゃそうだろう。

こんなチャーハン、世界中のどこに行ってもお目にかかれない。


きっと部員たちも紫苑がこんなものを作るとは全く予想していなかっただろう。

一応こいつは優等生で名が通っているらしいしな。



「え、えーと……。じゃあ君たちで試食し合おうか!」


「ええっ!?」



なんて卑怯なっ!!


俺にこの物体を食えといいますか。

改めて紫苑のチャーハンを見てみると、何とも言えない不気味さが漂っていた。

作った本人を睨んでやると「えへっ」と可愛らしいリアクションが返ってきた。


俺って保険に入っていただろうか?

もしかしたら胃薬を用意した方がいいかもしれない。

いや、最悪食ったら死ぬかもしれんな。


これこそ本当の最後の晩餐と言えるのではないかと思う。


だけど断るわけにもいかず、しぶしぶスプーンですくって口のところに運ぶ。

見た目こそ最悪だが、特段おかしな臭いはしない。

もしかしたら案外大丈夫なのではないだろうか。

というより、大丈夫だと信じたかった。


もう、どうにでもなれ!

と、男らしく腹を括って一思いに口に入れてみる。



「うぇ………まずぅ!」



塩だけでなく砂糖もふんだんに使っているらしい。

そこに醤油の味やら油のギトギトした感じやらが加わっている。

食えるだけマシだが、いっそ清々しいぐらいの不味い一品だった。



「じゃあ、あたしはオムライスいただきま〜す」



スプーンにすくわれたカケラをパクッと一口。

次第に紫苑の頬が緩んでいく。



「美味しいねぇコレ!どうやったらこんなの作れるの!?」


「どうやったらあんな不味いもんが作れるんか、こっちが聞きたいわっ!」


「むー、仕方ないじゃん………。いきなり作るとは思わなかったし。それに人間誰しも下手な分野があるのよ!」


「普通、人間誰しも取り柄があるって言わんか?なんかムカつくわ、それ」


「それにしても美味しいなぁ」


「ふ、まあ俺にしてみればこんなん普通なんやけどな」


「人間誰しも取り柄があるんだねぇ」


「人の神経を逆撫でするんのが趣味なんか?」



…………

………

……



「あかん。思い出しただけで腹が痛くなってきそうや」


「思い出すって何を?」


「入部した時に食ったお前のチャーハン」



ボコッ!!



紫苑のカバンが顔にクリーンヒットした。

その衝撃で顔は天を仰ぐように上を向く。

首にかかった負担は凄まじい。



「首がもげて取れるかと思ったわっ!アホか!」


「カズっちが変なこと思い出すのが悪いんだよー!」


「あんな不味いもん、忘れられるわけないがな」


「まだ言うか。しつこいねぇ」



互いに一歩も引かないまま学校に到着した。

もはやこれは恒例のことだ。

おかげで周りからはケンカするほど仲が良いとか言われてイジられる。


正直言って紫苑を異性として意識してはいない。

むしろ、倒すべき敵といったところか。


事あるごとに紫苑に勝負を挑んでは、ことごとく敗北している。

俺が料理で負けることはあり得ないが、それ以外では全く勝てない。

つまりは目の敵なのだ。



「ま、もうちょっとぐらい美味くなってほしいわ」


「なんか朝から不機嫌だねぇ……。さっきのことまだ怒ってるの?」



実は寝起きからお前のせいで不機嫌だったんだけどな。

いちいちそんなことを言うのも面倒なので適当に、はいはいと答えておいた。




とりわけ胸が躍ることもないが、地味に楽しい日常。

こんな日がいつまでも続けばいいと思う。


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