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決断の時

2人で朝食を食べている時、紫苑からある提案があった。



「思い出作り?」


「うん、思い出作り。2人で遊園地に行きたいなーって」


「……それがお前の答えか?」


「そう、これがあたしの答え」



つまり修業に行ってきていいよということ。

それが紫苑の答え。



「遊園地か……わかった。明日は学校休むのか?」


「馬鹿。あんたはそんなこと気にしなくてもいいの!」


「そうだな。失言だった」


「あんたはもっと空気の読める男になりなさい」



そこまで言うなら、なってやろうじゃないか。



「……なぁ紫苑。少し目をつぶってくれ」


「え?」


「少しの間でいいから」



真顔で言うと紫苑は顔を少し赤らめた。



「う、うん」



紫苑はそっと目をつぶる。

改めて顔を見るとこいつは美人だ。


ホントはこのままキスしたいところだが……。



むにゅ



軽くほっぺをつねってやった。



「…………」


「…………」


「……ぷっ」


「あ、あんたねぇ〜!!」


「あははははは!」


「信じられない!普通あそこであんなことする!?」


「だぁははははは!」


「むっかぁーーー!」



やっぱり辛気くさいのは似合わない。

紫苑は元気でいるのが一番いい。










電車に揺られて30分。

紫苑の望みどおり遊園地にやってきた。


デートや家族で来たりするのには持ってこいの人気スポットの1つ。

しかもこの遊園地は日本でもかなり大きな部類に入るので何度来ても楽しめる。



「平日だけあってやっぱり客は少ないな」


「その分いっぱい回れるからいいじゃない」


「それもそうだな」


「ねえ、知ってた?実は、あたしたちが恋人になってから初めてのデートなのよ」


「……そういえば」



友達だった頃はよくどこかに遊びに行った。

まあ、千堂がいたし、途中からは裕樹も混ざっていたが。


これは紛れもなくデートだ。

そう思うとなんだか恥ずかしさというか、むず痒さというか……。



「えいっ」


「なぁ!?」


「恋人だし、いいよね?」


「………あぁ」



紫苑は自分の腕と俺の腕を絡めてきた。

次いで俺を襲うのは女の子独特の匂いと柔らかさ。


こいつとここまで密着したのはコンビニでの1件以来かもしれない。

あの時は体がボロボロだったためか、そんなに気にならないで済んだ。

しかし今は……。



「さあ、カズっち。行こっか」


「お、おおぅ」



ヤバい。心臓がドキドキしてやがる。

そんな俺の心中を知ってか知らずか、紫苑は絶叫系のアトラクションの方へ歩を進める。


俺がリードしてやりたいけど、今日はこいつの思う存分のことをさせてやりたい。

紫苑の歩く方へと大人しく引っ張られていた。





『ウルトラぐねぐねマウンテン』



なんてネーミングセンスの無いジェットコースターだ、これは。

もっとブラックサイクロンとかスチールドラグーンのようなカッコイイ名前は思い浮かばなかったのか?

何でもかんでも『ウルトラ』を付ければいいってもんじゃないぞ。


とりあえず実際に乗ってみた。



「うわぁぁ〜〜〜!!!何だこのぐねぐねぇ〜〜!!」


「〜〜〜〜♪」


…………

………

……


「何でお前はそんな平気なんだ?」


「ん?別にあれぐらい普通でしょ。もしかして酔った?」


「いや、酔ってはいないが平衡感覚が少し変だ」


「それは酔ってるんじゃないの?」


「気持ち悪くないから大丈夫だ」


「じゃあ次はあれにしましょうか」



紫苑が指をさしたのはお化け屋敷だった。





『ホラホラホラー』



アトラクション名が意味不明にも程があった。

ここの開発部の連中の頭は大丈夫か?

これでは子どもに人気の某アニメにでてくるガイコツ男ではないか。


何でこんな遊園地が街の名物なんだろう?

珍味みたいなノリか?


まあ実際に入ってみた……。



「あっはっはっはっは!」


「……お前笑いすぎ」


「だ、だってさ……。っぷ、あっはははは!」


一体なにがそんなに可笑しいのか。

紫苑はおばけを見るなり大爆笑していた。


子泣き爺の従業員、さぞショックを受けたことだろう。

てか、紫苑。お前のほうがなんだか怖えよ。



それから俺たちは色々回った。

空高く上昇する絶叫系のやつやらコーヒーカップやら。



「あ!ねぇ、あの店で土産買おうよ」


「おう」



ちょっと洒落た良い感じの店だ。

中にはお菓子やら特製マスコットグッズやらがある。



「ねえ。このぬいぐるみとこのぬいぐるみ、どっちが可愛い?」


「どっちも同じじゃねえか」



この2つの違いがどこにあるのかさっぱり分からなかった。



「微妙に違う!どっちが可愛い?」



ずいっと顔を近づけてきた。

その楽しそうな顔を見て……。



「……お前が一番可愛い」



そっぽ向きながら何となくガラでもないことを言ってみた。

視線だけ紫苑に移すとポカーンとした表情をしていた。


でも、ちょっとだけ優しい顔になって……



「……バカ」



ちゅっ



俺たちは口づけをした。

顔の温度が40度ぐらいに上昇した気がする。


……でも、こういうのもいいかもしれない。



「ねえ」


「うん?」


「最後にさ、観覧車行こうよ」


「……ああ。そうだな」



紫苑が口にした『最後』という言葉で一気に現実に戻された気がした。

もうすぐ俺と紫苑は……。











「すごい。きれいな夜景」


「ホントにきれいだな」



約束どおりに俺たちは最後に観覧車に乗っている。

まだ乗って間もないからそんなには上昇してない。


それでも遊園地のネオンは観覧車からはきれいに見えた。

同時にほんのり薄暗い中、紫苑の横顔もきれいだった。



「だんだん高くなっていくなぁ」


「そうね」



月並みな言葉しか出てこない。

こんな時はなんて言えばいいのだろうか。



「ねえ。カズっち」


「うん?」



あれこれ考えていると紫苑が先に口を開いた。



「とても楽しかった。今日1日、とても幸せだったよ」


「良い思い出になった?」


「うん。良すぎて逆に寂しいぐらい」



どういう意味なのかよくわからなかった。

だが、紫苑の次の言葉で嫌でも理解してしまう。



「3年後なんだよね?その間ずっと……ずっと遠くに」



紫苑は泣いていた。

暗くてよく見えないけど、声で分かる。



「ごめんカズっちぃ。泣いちゃ、ダメなのにぃ……涙が……うぅ、ぐす」


「紫苑……」



俺は紫苑を自分の胸に抱き寄せた。

いつも気丈で元気なこいつが、こんなにも震えて泣いている。


俺のために泣いているんだ……。



「……行かないで」


「え?」


「こんなに……こんなに好きなのに」


「…………」


「何で行っちゃうのよ?」


「…………」


「ずっと一緒にいたいよ」



それが目の前の人の願いだった。


それが紫苑の純粋な想いだった。


だから俺は……



「バカ。行くわけないだろ」



自分の本当の願いを。



「行きたくないに決まってるだろ」



偽りの無い想いを。



「俺もお前とずっとお前と一緒にいたいんだ」



飾りのない思いを大切な人に伝えた。


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