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過去

「うん!やっぱりあんたの料理は美味しいわ」


「そりゃどうも」


「そーだね、特にこの肉じゃが!あんた良い主夫になれるわよ」


「お前は駄目な主婦になりそうやな」



ポテチ片手に昼ドラを寝そべって見る光景とかが浮かび上がってきた。

これは俺の偏見だろうか?



「あたしは働くからいいのよ!その方が性分にあってるの」


「はいはい」


「ん〜、ホントに美味しいなぁ。なんと言うか……おふくろの味?」


「俺は男やけどな」


「じゃあ親父の味!」


「アホか……」



親父の味ってどんな味だよ?



「それにしても悔しいなぁ」


「は?何が?」


「なんか飼い犬に餌付けされている気分なのよねぇ」



なるほど。あまりにも的を得た説明だ。



「犬のほうがお利口ってか……」


「言っとくけど、飼い主の手を噛むようなマネしたら追い出すからね」


「わかっとるけど、人間扱いせえ」


「さっき自分で犬っていったじゃん。でも、あたし犬って結構好きだよ。個人的にはコーギーが一番!」


「要は俺が短足やと言いたいんやな?」


「ホントに好きなのよ!あの短い足でトコトコ歩く姿がラブリーよねぇ」



ほわわ〜んとした顔になっていた。

こいつ、そんなに動物好きだったっけか?


まだまだ知らない一面もあるもんだな。



「そういやあんた、ちゃんと日用品とか持ってきた?」


「日用品?」


「歯磨きとかどうすんのよ?歯ブラシちゃんと持ってきたの?」


「あー、持ってきたような持ってこなかったような?」


「言っとくけどあたしのは貸さないからね」


「俺は変態か!?そんなことせんわ!」


「どうだかねぇ。カズっちって変態(M気質)だと思うよ?」


「そういうお前の方が変態(S気質)みたいやけどな」


「「ふっふっふっふ」」



お互い睨みあっていた。


我ながら、何やってんだかな。



「ちゃんと確かめてなかったらコンビニでも行ってよね。あたし今から風呂に入るから」


「は?」


「何マヌケな顔してんのよ。風呂なら誰でも入るでしょ。……覗くなよ?」


「わあっとるわ!」


「あ、それと鍵はテーブルの上に置いとくから、行くなら鍵は閉めてよね」


「ほいほい」


「じゃあ、入ってくる」



そうだった。今さらだがこいつは女なんだよ。


改めて意識しだすと、妙にそわそわした気分になる。

なんかドキドキしてきた。


そうだ!いつも普通にしてきたようにすればいいんだよ!

あれ?いつもどうやって接してきたっけ?


ヤバい。分からないぞ。



「とりあえず深呼吸だ深呼吸」



口と鼻から大量の空気を吸う。

すると甘い香りがした。



「あかん、逆効果やった……」


「何が逆効果なのよ?」


「うわぁぁ!!きゅ、急に話しかけるんじゃねぇ!」


「え?」


「驚いただろうが!少しは気を使え!」


「おーい。関西弁がなくなってるよ?」


「お、おぅ。まあ、それでやな……」


「ふーん。動揺すると標準語に戻るってことは、やっぱりその関西弁、意図的に話してるんだよねぇ?」


「………ああ」


「前にも1度訊いたよね?どうしてそんな喋り方してるのよ?」


「…………」


「いや、やっぱ言わなくていいよ。初めて訊いた時みたいに悲しい目してるから……」



紫苑は踵をかえして台所に行こうとした。


こいつには話した方がいいのだろうか。

少し迷ったが、俺は紫苑の腕をそっと掴んだ。



「え?」


「少し湿っぽくなるが聞いてほしい」


「……うん。わかった」


「そうだな……まず何から話そうか」


「ゆっくりでいいよ。ちゃんと聞いてるから」


「ああ」



俺は紫苑に話す決意をした。



「大阪に行ってたときに、俺の伯父の家で生活してたんだ。

2人暮らしだったし、俺がいた家と同じぐらい広かったから部屋も余ってたしな。


そのころ俺からもう既に親は忙しくて……。

それで、向こうに居た時は叔父さんと叔母さんに遊んでもらってたんだ。

今まで俺の親は、親らしいことを全くしてくれなくてな。


嬉しかったよ。初めて家族ができたみたいで。

俺と兄貴を遊園地とか水族館とかにも連れてってくれたりしてさ。

まあ、わかるとは思うけどその夫婦は関西弁を話す人なんだ。」


「ふうん。それでその人たちの影響を受けて関西弁喋ってんだ?」


「ちょっと違うかな。実はこっちに引っ越してきたのは亡くなったからなんだよ」


「え?亡くなった?」


「ああ、交通事故で2人ともな。だから俺は思ったんだ。

絶対に忘れちゃいけないんだって。

絶対に覚えてなくちゃいけないんだって。


でも、写真とかの遺品は親父たちが処分してしまった。

だから俺は関西弁を話してたんだ。

どんなに頑張っても言葉だけは奪えないからな」


「そっか……。そう、だったんだ」


「わかってるさ。こんなの、意味のないことぐらい」


「…………」


「でも、俺にとってはあの2人は大切な両親なんだよ」


「うん。誰も笑わないよ……」


「そう、だな」


「でもね、カズっち。きっと忘れないよ。

だってその人たちはカズっちにとっての家族なんでしょ?

それならカズっちの心からは消えないよ」


「あ……」



そうだ。忘れるわけないじゃないか。

あの人たちは俺の家族なんだから。


俺の心からいなくなるわけないじゃないか……。



「紫苑。ありがとう……」


「うん」



俺は彼女を抱き寄せた。


こいつも俺の大切な……。


俺の心の中から消えない人。


もしかしたら、あの2人はお前に逢わせてくれたのかもな。



「ところでさ、カズっち」


「ん?」


「素の言葉で喋るほど何で動揺してたのかなぁ?」


「え?いや、それはだな……」


「ふふ、一緒に風呂入る?ふうっ」


「なあ!?」



耳に息を吹きかけられた。



「あれぇ?顔が真っ赤だよ?熱でもあるのかなぁ?」


「お前のせいだろっ!!」


「くっくっく。やっぱあたしはこうでなくちゃねぇ」



どうやらこいつの性格はずっとこのままらしい。


初めての短編小説『当たり前、でも大切なもの』を書いてみました。

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