帰ってきた親父
──昼休み
俺たちは屋上で昼飯をとっていた。
俺と紫苑が恋人同士になったことを話すと千堂と裕樹が……
『じゃあ、明日はそれぞれ恋人同士で弁当を食べましょう』
『ダブルデートみたいな感じでいいんじゃない?』
『そうですね』
ってことになった。
至極、意味不明な企画である。
で、まあカップルで弁当を食べているわけだ。
隣を見てみると……
「うん、流石里佳さん。料理も上手いなぁ」
「どんどん食べてくださいね」
まあ、普通のカップルの光景だ。
誰もが一度はこういうことをやってみたいだろう。
それに引きかえこっちは……
「うん、流石カズっち。相変わらず料理の腕は凄いなぁ」
「何でお前が作ってもらう側なんやろな」
「だってあたしが作ると不味くなるから」
「まあ、お前にそんなん期待するほうが間違ってるんやけどな」
「人には得手不得手があると思うわけよ」
「さようか……」
俺も弁当に箸を伸ばしておかずを取ろうとした。
が、そのおかずは横から出現した別の箸にさらわれてしまった。
その腕をたどっていくと……
「うーん、私のより美味しいですねぇ」
意外なことに千堂だった。
いや、そうでもないか。こいつは結構お茶目なとこがあったりする。
「頑張れば料理人になれるんじゃないですか?」
「料理人……か」
「そうだよカズっち。目指せ中華一番!」
「それは某アニメやろ。えらい簡単に言うてくれるけど、簡単になれるもんちゃうがな」
「ネガティブ思考だねぇカズっち。駄目だよそんなんじゃ」
「じゃあお前は?将来の夢とかあるんか?」
話を紫苑に振ってとりあえず茶を飲む。
「あたしはカズっちのお嫁さんだね」
ブブゥー!
勢い良く噴射した茶は裕樹の顔にかかってしまった。
「おい一也。せめて誰もいないとこ向かって吐けよな(-_-メ)」
「ごほっ、けほっ……す、すまんっ」
「今の反応はちょっと傷ついたよ」
「けほっ……、はあ。こんのボケぇ!飲んでた茶が鼻に入ったわ!」
「一也さんは見事な照れ屋ですね。紫苑さん、頑張ってください」
「言われなくても、カズっちをリードできるのはあたしだけよ」
「他人に茶をかけないようにたしなめてやってくれ、紫苑さん」
「カズっち。他人に茶をかけてはいけません」
「お前のせいじゃ!」
皆で笑い合った。
なんだかんだで俺も楽しんでいた。
これからもこんな日々が続けばいい。
そんなことばかり考えていた。
日常が崩れ去ることも知らずに。
「ただいま」
靴を脱ごうとして足元を見ると見慣れない靴があった。
この靴は親父のだ。
「帰ってきてたのか……」
おそらく居間にいるのだろう。
どのみち顔を合わせることにはなるだろうし、挨拶ぐらいはしとくか。
そう思って居間のドアを開けた。
「帰ってきてたんやな。おかえり」
「ああ、一也か。ちょうどいい。話があるからそこに座りなさい」
親父に言われてその辺のソファに腰掛ける。
兄貴に話なら分かるが、何故俺なんだ?
「早速だが、話と言うのはお前が彼女を連れてきたと秀一から聞いてな」
「兄貴が?」
「お前、一体どういうつもりだ?」
「どういうつもりって別に深い意味はあらへんよ」
「そのふざけた関西弁は止めなさい。死んだ男のことをいつまでも引きずりよって」
その言葉に怒りが込み上げてきたが、自制する。
「別に深い意味は無い。俺はその女が好きになった。ただそれだけだ」
「お前には許嫁がいるだろう!」
「ああ。どこぞの社長の娘か。あんな女に興味はない」
そう、俺には許嫁がいる。
いわゆる政略結婚という時代遅れも甚だしいものだ。
相手とも以前に会ったことがあるが、どうにも好きになれない。
「どうせお前は1人では生きていけん。ここで結婚しておくのが身の為だ」
「調子に乗るのも大概にしろよ?俺の人生は俺が決める」
「調子に乗っているのはお前だ!育ててやった恩も忘れるとは何と薄情な奴だお前は!」
「恩も何も、育ててもらった覚えなんてねえよ。お世話になったのは家政婦さんぐらいだ」
「それでも経済的に工面してやったのは私だろう!?」
「有り余る金がありながら何が工面してやっただ」
「いい加減にしなさい!親に向かって何だその口のききかたは!」
「悪いが親と思ったことは一度もないんでな」
「もういい!この家から出ていけ!!」
「そうか、じゃあ荷物まとめて出ていくわ」
そう言い残して部屋を出た。




