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全てを失った公爵令嬢は旅に出る  作者: 高槻いつ


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35/65

繁華街の賭博

「明日、馬車を取りましょう。プリシュティー侯爵が事前に押さえて下さっているそうですから」


宿に戻ってきたわたし達は、既にカジノへと出掛けてしまったカール達とは顔を合わせずにベッドへ横になっていた。


伝言役として残ってくれていたベルホルト曰く、三人は夜から朝に掛けて荒稼ぎをしてそのまま昼にはプリシュティー侯爵が事前に用意して下さった馬車に乗って侯爵領へと向かう。


休憩を挟みつつも馬車で移動すれば一週間程で領地へと入って、侯爵が治める街のベルトンにて侯爵家の馬車に乗り換え、そこから更に三日移動したのならば遂にプリシュティー侯爵家へと辿り着く。


「お嬢様?」

「……なあに、ヒルマ」

「お考え事ですか?」


何度も何度も頭の中で描いてきた段取り。しかし、何回行っても上手く行かない構図しか描けないわたしを見たヒルマが視線を配る。それに釣られた、ファティも。


「……心配なの」


いつものように何でもないと作りそうになった口を一度閉じ、それから素直に心境を吐き出した。


これまでの付き合いで色好い態度を頂けなかったこと、わたしの立場、これからのことを全てひっくるめた結果が、どうしても良い未来を想像出来ないと。


しかし、それは当然のことなのである。


だからこそ、こうして何度擦切らせた思考が同じ場所へと着するのだから。


「お嬢様……」

「ごめんなさい。すぐ、切り替えるから」


なるべくみんなに本心を語るようにしたけれど、流石にこんな暗い話はするべきではなかったと判断したわたしは即座に言葉を切り、撤回する。そしてもう寝ようと二人へ言い出そうとしたところで、ヒルマとファティ、二人がわたしの肩を抱いてくれる。


「暫く、付き合いのない私達は、お嬢様に大丈夫だと答えることが出来ません」

「ええ、勿論よ。ありがとう」

「でも」


わたしに比べ、ずっと付き合いのある二人ではあるがお母様が亡くなって以来は対面でのやり取りはない二人。故に、そう寄り添ってくれる二人に感謝をしながら再度言葉を重ねようとする前に、ヒルマが優しい翠の瞳を湛える目でわたしの不安を塞いだ。


「プリシュティー侯爵は……旦那様は、絶対にお嬢様を傷付けることは致しませんし、仮にそのようなことがあっても私達がお傍におります。ですので、お嬢様がご心配になることはございません」


そしていつかの、旅に出たいとわたしがねだったときのように。


二人が、ぎゅっと手を握ってくれる。


あたたかい手。良く知る温もりは、もう一人ではないことを教えてくれるから、わたしもその手を握り返した。


「もしそんなことがあれば、またみんなで旅に出れば良いだけです。カールとディルクに資金を稼いでもらって、土地でも買って家を建ててもらいましょう」

「ふふ……そうね。ありがとう」


鬱々と塗り潰されていた思考は、二人の言葉で晴れて行く。また再び思考が暗く覆われたとしてもこの言葉を思い出せば良いと、わたしは二人の言葉を呑み込む。


「さて、眠りましょう。明日も、早いのですから」

「ええ」


そうして静かに、夜を過ごした。




「ねえカール、本当にやるの?」

「勿論。引き際は任せる」


夕食を終え、何処かへと出掛けて行ったミーナ達が戻る前に俺達は港の前で栄える賭場へと来ていた。きちんとした会場は勿論、港の前でさえも市民の娯楽の場となっているこの街ではあちらこちらで賭け事をする人間が溢れている。


「ある程度稼いだらあっち入るんだよな?」

「ああ。小銭を稼いだら移動する」


城から持って来た通貨も勿論あるが、帝国の通貨と王国の通貨は異なる。店であれば平均を割り出して通貨を交換、若しくは王国の通貨を帝国の通貨に換算した金額で交渉出来ることもある。


しかし、ここは誰かが管理している訳ではない、市民が勝手に賭場にしている場所。故に換金場所などはなく、俺達はそもそも帝国の通貨を稼がなければならない。


会場に行けば通貨を交換することも可能だろうが、出来ればそんな風に足跡を残すことはしたくないために、こんな面倒な手段を取ることにしている。


「わかった。じゃあ、俺はあっちにいるから終わったら呼んでくれ」


そんなことをアズールに説明し終えれば、颯爽と人に多い方へと消えていく。向かう方向は単にコインが表か裏かを決めるゲームを行っている場所。アイツの持つ謎の勘なら問題ないかと視線を逸らした。


「カール、僕はあっちのポーカーにいるよ」

「ああ」


そしてディルクへ向き直ると、俺が何かを言う前にアズールの反対側で行われている一角を指差して手を振りながらそちらへと去って行った。


コイントス、ポーカーが埋まったのならば自分は何にしようかと辺りを見渡す。


予め決められた数字をランダムに配られるカードで揃えるゲーム、カードを裏にして交互に捲っていき表の数字を揃えるゲーム、変わり種としてチェスなんかもある。無難に記憶力で稼ぐなら二つ目の場所で良いかと決め、俺は二人とは離れたその場所へ向かう。


「おう、やんのか?」

「ああ。その前にカードを確認させてもらいたいんだが、良いか?」

「構わねえよ」


一人の男の前、会場で言うところのディーラー的な男に帝国通貨を換算した際に多くなるように王国の通貨を渡し、二十六組の木で出来たカードを確認させてもらう。


こういった公共の無許可な賭場は、こうして主とも言える人間が木箱に座ってその相手と直接的なやり取りをする。このゲームに関しては一日に何度もこのカードに触る人間と初めて触る人間とでは有利度が違うためにこうして何か仕掛けがないのかと確認するのが一般的。


とはいえ、多数の人間はこの五十二枚あるカードのうち、些細な傷、木目の違いなど覚えられないが故にこうしたゲームは賭け事において不人気である。


そのため、このゲームに参加する人間はその辺りの通りを知らない阿呆か、よっぽど自信があるかの二択に分かれる。周りの同情的な視線から察するに前者だと思われているのだろうと知りながらも、全てのカードを確認した俺は床に並べられる木札を見つめた。


「先行は譲るぜ。知ってるとは思うが、揃えられたのならもう一度捲っていい。揃えられなかったら交代だ」

「ああ、把握した」


親切に先手を譲ってくれた相手に頷き、手始めに一枚捲る。そして迷うことなく一組揃えれば相手の目が瞬く。


「おお、運が良いな。もう一回捲って良いぜ」

「ああ」


言われずとも既に二組目を作るために一枚捲り、もう一枚も捲る。時間があるのなら適度に外して怪しまれないように遊んでも構わないが、今回のメインはここではなくて会場の中である。なので、俺は先手をくれた相手が一枚捲る時間すら与えずに、綺麗に二十六組を連続で揃えた。


「……すげえな」

「騙し討ちみたいなことをしてすまない」

「いや、ここまで揃えられちゃ何も文句言えねえよ。受けた俺が悪いわ」


三組目、四組目辺りまでは偶然だと思っていた相手も、五組以降揃える俺を見てもう諦めて何かを察したようで、そこからは渡した王国の通貨分含め、帝国の通貨に換金した払い分を用意していた。


「こっちはやる。多少なりとも残るだろ」

「悪いな、助かる」


怒鳴られることさえ覚悟していたが、文句ひとつ言わずきっちり払ってくれた相手に感謝とは言わずとも埋め合わせとしていくつかの王国の通貨を渡す。換金の際に手数料は取られるだろうが、何日か分の食費にはなるだろうそれを受け取った相手に別れを告げて元居た場所へと戻った。


「おかえり。圧勝だったね」

「お前もな」


既に麻袋に帝国の通貨をそれなりにぶん取ってきたらしいディルクは、俺がゲームを終えるのを見計らって切り上げていた。対戦相手を良い感じに煽り、金を捲り上げる姿はとてもミーナには見せられたものではなかった。


「あとはアズールだけだけど、なんかあっちも盛り上がってるね」


俺、ディルクもそれなりに注目を浴びてはいたが、それよりも人目を引くのはアズールが向かっていった先。人が集まり、歓声や罵倒が聞こえるその場所。


「目立つなっていうのも言っときゃ良かったか?」

「無理でしょ、僕やカールみたいに何か仕掛けがある訳じゃないんだからさ」


なんて話をしつつ、人混みを掻き分けて騒ぎの中心地へと入っていく。何が起こっているかなんて見るまでもないが、開けたその場所で騒ぎを目の当たりにすれば集まるのも無理はないだろうと溜め息を吐いた。


「なんかやってんだろ!」

「何もやってないって。目を閉じて当てたでしょ?」


騒動の渦中、一人けろりとした顔で着々と小銭を稼いでいるアズールと、入れ替わり立ち代わりする対戦相手。この場所は主を立てると言うよりは希望する人間同士で賭け事をしていくシステムのようで、アズールの前には何人も負けたと思われる男達が声を荒げていた。


「くそっ」


アズールへ当たりたくとも、こうも衆人環視の中では流石にそうは出れないのか最後の対戦相手は舌打ちをしながら立ち去って行く。


「次……あ、もうそろそろ行かなきゃ」


俺達より圧倒的に掛け率の低いゲームで麻袋をパンパンにしているアズール。意外にも興味本位で彼と遊びたい人間はいるらしく、まだ稼ごうとしていたアズールを少し遠目の、しかし必ず目に付く正面に立って呼ぶ。


相手を探していたアズールはきちんと俺達の姿を見つけ、名残惜しそうにする観客を置き去りにして騒ぎから外れた場所で合流した。


「やりすぎ」


人気の少ない繁華街の小道。今は熱が冷めず集まる観客も、暫くすれば先程の騒ぎなど忘れて新たに騒ぎ始める。それまで待機することにした俺達は、そこでアズールに言葉を掛けた。


「やっぱり?なんか、ちょっと騒がしくなったなとは思ったんだよね」

「ああ。周りを巻き込んでどうする」

「ごめん」


流石のアズールもあの状況に関しては同意見だったのか、ぽつりと謝罪の言葉を零した。巻き込んでいるのは俺達とはいえ、逆に目立っては意味がないだろうと理解しているアズールにはそれ以上を言わず、港の広場が落ち着くまでただ待つ。


「……もういいんじゃない?」

「ああ、行くか」

「りょーかい」


そして数十分程。大分人の入れ替わった港を確認して、俺達は再び港を通り今度こそカジノの会場へと向かった。


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