8話:要は金儲けだろ?
外食として売り出すメニューは三品。
日本みたいな飽食社会じゃないからそれで十分飲食店は出せるらしい。
と言うわけで、店とかの経営はソムランに丸投げで、女奴隷たちは食べたい物を好きに作ってる。
俺は自分が食べる分のマヨネーズを作るため、ガチャガチャとボールの中身を掻き回しながら、呪術のための力を溜める日々。
そこに、辻本ことザナンがひょっこり顔を出した。
「よう、暇か?」
「なんか、そういうドラマあったな」
「観てたのか? ま、それはいいさ。ちょっと付き合ってくれ。俺もお前に相談したいことがあるんだ」
「ここじゃ駄目なのか?」
ここは俺に宛がわれた部屋で、売る前提で買われてる女奴隷たちとは離れた場所だ。
周りにはリュナシェーラのような売る予定のない女奴隷の部屋もあるけど、だいたいは台所か風呂に行ってる。
「一回見たほうが早いと思ってな。前に、戦奴って何? って顔してただろ?」
「え、そんな顔してた?」
恥ず…………。けど気になるからついてく。ちょうどマヨネーズできたし。
「戦奴ってのは、まんま戦うための奴隷だ。十年くらい前から、西の海峡で戦争真っただ中だったんだが、三年前に休戦協定結んだから、今は平和」
「へー。村育ちだからその手の知識ないな」
「村育ちだからじゃなくて、お前の場合は呪術にしか興味なかったからだろ」
うん、否定できない。このアマラ、ちょっと常識知らないとこあるし。
あと、村っていう狭い世界しか知らない上に、村の近くにある森で呪術の腕磨いてたから、村の生活も半分放棄してやがった。
実は村でのあだ名、野猿だ。
「あれ? ザナンが一年前に死にかけたのはなんで? もう戦争に行ってないんだろ?」
「戦争終わったら終わったで問題あるんだよ。血の気の多い兵士たちが、飯の種失くして用心棒崩れになったり刺客に転向したりな」
「うわー。もしかしてソムラン守って死にかけたのか」
「勇者が侵入したことでわかると思うが、呪術で生きた人間は防げない。だから俺らの出番もあるってわけだ」
そう言ってここぞとばかりにバッキバキの背筋を隆起させるな。
ただ、ザナンがソムランに信用されてる理由はわかった。
仲いいなとは思ってたんだ。そうなると、リュナシェーラがなんであんなにソムラン相手に気さくなのかちょっと気になる。
「で、ソムランさまも戦奴を抱えてるんだが、警備に回すにしても人間が余ってんだよ」
そう説明するザナンに連れて来られたのは、俺たち女奴隷が本来なら入れない壁の向こう。いや、逆だな。女奴隷は壁に囲まれた居住区に住んでるから、入れないんじゃなく、出られないんだ。
「今は警備のための交代要員や夜勤の奴らがいるだけだが、ここにいるのは全員が引き上げて来た戦奴だ。戦奴は女奴隷と違って消耗品だからな。数がいなきゃ意味ないが、売れる市場がなくなった今、不良在庫扱いになってんだ」
「おいおい、自分もだろ。もう少し言い方考えろよ」
「はん、自分のことだから言ってんだよ」
そう笑ったザナンは、俺の知る辻本とは全く違う表情をしていた。
「お、いたいた。あそこ見てみろよ。今ちょうど、ソムランさまが運動なさってる」
「運動って、あれって剣術の稽古とかそういうんじゃないの?」
木の剣打ち合ってるじゃねぇかよ。
っていうか、ソムラン動いてるとだいぶ筋肉ついたのわかるな。
顔も最近すっきりしてきてるし。
「あんなオモチャ振り回してる内は、ちょっとした運動だよ」
「なんかその台詞カッコいいな」
「だろ?」
そこで筋肉見せつけてこっち見るのがなければなぁ。
ソムランを横目に、俺はザナンの部屋に案内された。
「うーん、相手がお前じゃなけりゃ、身の危険感じるシチュエーションだな」
「くっ殺ってやつか?」
「いやー、それソムランと初めて会った時に思ったやつだな」
「あー…………オークネタかぁ」
「…………なんでくっ殺とかオークとか知ってるかは聞かないでいてやるよ」
「なんで上からなんだ。こっちにだって選ぶ権利はある。少なくともお前は、ない」
言い返したいけど、俺も美少女とは言えアマラはないからなぁ。
不毛な会話を切り上げて、俺はザナンと対座した。
「それで本題なんだが、余った戦奴を有効活用できる商売ない?」
「いきなりだな!」
「いや、女奴隷なんてそれこそ性を売る以外はあんまり需要ないんだよ。そういう一点突破な需要は、戦奴も同じなんだが、ばら売りできる女奴隷と違って、戦争は数だから、こっちはダース売りが基本なんだよ」
「だから言い方…………」
ザナンが言うには、よほどの手練れでなければ戦奴は単体では売れず、部隊単位で売る商品らしい。
そして、休戦協定は結ばれていても、今までの慣例からして、数年で破棄されるだろうとのこと。
ただし、長ければ十年もった例もある。そう考えれば、戦奴を無駄飯食いとして抱えていることに不安があるそうだ。
「それ、ソムランが言ったのか?」
「いや、俺のっていうか、ザナンの経験則だ。後は先達から聞いた話」
「不良在庫なら処分だけど、戦奴ってどうすんだよ?」
「きっつい工事現場にダース売り。戦争の後って、人足雇って戦場周辺の復旧するから」
どうも人足の扱いは相当に悪いらしく、在庫処分されるとわかると逃げ出す戦奴も多いらしい。
そうして逃亡奴隷が増えると、ザナンが死にかけるほどの刺客が湧くんだとか。
うーん、確かに何か手を打ったほうがいいとは思うけど。料理みたいに俺だけの力じゃどうしようもない上に、上手くはまってくれなきゃ意味がない。
「あ、お前にはそこまで期待してないから」
「は?」
「アイディア出し手伝ってくれるだけでいいんだよ。方針は一応あるから」
「なんだよ、人が真剣に考えてやろうとしたのに!」
「おう、考えろ考えろ。お前に出してほしいアイディアは、スポーツだ」
「スポーツ? 戦奴にスポーツやらせてどうすんだよ?」
「ほら、スター選手っているだろ? あれみたいに戦奴にスポンサーつけば戦奴抱えるための資金にできるんじゃないかってな」
どうやらザナンはザナンで現状をどうにかしようと考えていたらしい。
けど、ザナンの中身の辻本は、あまりスポーツに関心がなかった。
だから俺に上手いアイディアはないかと言って来たそうだ。
「っても、俺が文化部だったの知ってるだろ」
「それでも、セリーグとパリーグの違い、説明してくれたじゃない」
「あれは知らないお前がおかしいって!」
「他の子たちも知らなかったでしょ! 女子は野球になんか興味ないのよ」
逞しい肩を竦めてみせるザナンは、咳払いをして口調を戻す。
「体を鍛え続けるためにもスポーツさせるっていう案は考えついたんだが、俺はスポーツの面白みがわからないからな。どんなスポーツさせれば人気が出るかもわからないんだ」
場所もできれば狭く。対戦形式で、あまり難しいルールもなく、少数のチームでできるもの。
「となると、野球やサッカーは駄目か。卓球、テニスは面倒な道具作りとかもあるし…………あ、相撲は?」
「レスリングみたいな遊びはあるから、目新しさが欲しい」
「わがままだな。いっそ、新しいスポーツ考えるくらいがいいのかな」
「だろうな。なるべく怪我が少ないものがいい」
本当にわがままだな。
うーん、サッカーの少人数版にして、あ、前映画にゴールを間口の狭い穴三つにしてるのあったな。
「ちなみに、戦奴は武器振り回すから、基本足は遅いぞ」
「ぐ…………、常に走り回るとかは駄目か」
「戦略的な部分あったらやってる側も楽しめるんだけどな」
「えーい! もうゲーム自体に拘らないでおこうぜ!」
要望ばっかり多くて無理!
俺が声を大きくすると、ザナンは顎を向けて先を促す。
「要は、体鍛えてる戦奴を使って金儲けしたいんだろ? だったら、トトカルチョでもすればいいんだよ」
「トトカルチョって、何?」
「海外にあるサッカー賭博」
「ほう…………」
俺より日本での倫理観捨ててるザナンはすぐさま食いついた。
簡単に言えば勝敗予想で金賭ける遊び。確か、元の世界だとサッカーチーム抱き込んでのやらせ試合があったりして禁止されたんだったかな?
「コート狭くして人数も少なくすれば、ルールも簡略化できるし、走るだけで体力削ることもないだろ?」
「あのサッカーコートに書いてある白い枠線とか、色つきのカードの意味わかるか?」
「コート狭くしたら枠線なくていいし、戦奴がやるならちょっと荒っぽくていいだろ。カードもいらない」
とは言え、直接攻撃はなしだな。そんなのただの乱闘でスポーツじゃねぇ。
「ま、俺の知る限りのサッカーのルール教えるから、いらないのは削って行こうぜ」
俺はザナンにルールを説明しつつ、コートの大きさや選手の数について話し合う。
「ゴールを小さく三つか。キーパーいらないのもいいな。ただ、もう一つ独自性が欲しい」
「じゃ、玉を重くするか。どうせボール作るところからになるんだし、すぐ真似できるようなもんじゃなくて、鍛えられた男だからこそできるスポーツにしようぜ」
「あ、それはちょっと燃えるな。そうか、ゴールの穴を地面から少し浮かせた枠にすれば、ボールの蹴り方の優劣で得点を狙う者の技巧を示せるかもしれない」
「そこはボールとゴール作ってやってみないと加減がなぁ」
熱中して話していると、外から扉代わりの布が持ち上げられた。
「ザナンさん、いますかー…………って!? ひゅー、お楽しみのところすみませんね!」
「あ、おい!」
俺たちが何を言う前に、ザナンを訪ねて来たはずの戦奴は走り去っていく。
「おい、ザナン。何かすごく不愉快な勘違いされたんじゃないか?」
「だから俺にだって選ぶ権利があるんだってのに。誰がこんな残念美少女と」
「うっせー、このナルシー筋肉。俺だって願い下げだ。だいたい、この体にずっといるわけじゃないんだ。俺はアマラの魂連れ戻して、自分の体取り戻すんだからな!」
「あぁ…………うん…………」
俺が拳を握って決意を口にすると、なんかザナンが微妙な顔した。
「なんだよ? お前もリュナシェーラみたいに俺をソムランとくっつけたい口か?」
「リュナシェーラの考えわからなくもないがな。ソムランさまはあれで女は遠ざけてるところあるから。珍しくソムランさまが近くに寄せてるお前は、実は希少なんだぜ?」
「げー、いらねぇよそんな情報。あ、お前好みの筋肉に育てて、お前がソムラン貰ってやるとかどうよ?」
「そうだな、もっと筋肉にキレがないと、ないな」
「え…………冗談だったのに、そんなマジレス…………」
「こっちも冗談だ」
本当に? 本当に冗談、だよな?
俺は友人の性別にちょっと頭を抱えることになった。
隔日更新、全十六話。
次回:強けりゃ偉いのか?




