表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

4話:エロってファンタジー?

「僕だよ!」

「帰れ!」


 正しく正門から剣を置いてやって来た勇者に、俺は一言言い渡して部屋を出た。

 あいつの面の皮どうなってんだ!?


「あぁん! アマラちゃん待ってー!」

「お客さま、困ります、お客さま、あー、いけません、お客さま、困ります、あー、お客さま、お客さま」


 俺を追いかけようとする池谷を、ムッキムキ、バッツーンの警備担当者以下五人で囲んで、文字通り肉の壁になってくれる。

 すっごいやる気のない声で早口に言って、池谷が追ってくるのを阻んでくれた。その内に、俺は池谷との面会を命じたソムランの下に向かう。


「顔だけは見せて来た!」

「…………早いな。本当に顔を見ただけなのか?」


 ペンみたいな棒を持ったまま、豚によく似たソムランが呆れた声を返す。


「対応は任せるって言ったのソムランだろ」

「確かに言ったが、これでは勇者さまがまたアマラを不当に囲っているといちゃもんをつけてくるだろう」

「どうせ俺が何言っても聞かないって。あいつ、一回顔見ただけで、後は胸と尻しか見てなかったからな」

「それは、なんとも…………」


 ソムランはペンを持っていないほうの手を、机とは別の卓に置いた皿に伸ばす。

 そこには甘い揚げ菓子が乗っていた。


 俺が美少女奴隷に憑依して十日。

 ソムランが野獣的な見た目に反して理性的なことは理解した。あと、リュナシェーラが言うように世話焼きで、俺の口調を許容してくれるくらいには懐が深い。

 ついでに、仕事とか頭使うことしてる間延々甘味摘まんでるのが、豚っぽい見た目の原因だろうな。ほぼ家から出ないし、座り仕事ばっかりだし。だからデブるんだ。


「気は乗らないだろうが、これからも三回に一度くらいは顔を出してもらうことになる。勇者さまが君に狙いをつけている現状、王宮方面に貸しが作れる」

「え、あの池谷って召喚した側からも厄介者扱いなのか?」

「邪竜を討伐していただくための貴重な戦力ではあるが、どうも思想が危険であることは王宮も把握している。ただ、姫君が大層勇者さまにお心を傾けておられるそうで、あちらも強くは言えないそうだ。暴れさせずに抑制できるとなれば、こちらに便宜を図っていただけるとの言質はとった」


 奴隷解放とかほざくと危険思想扱いか。

 排除されないのは戦力としての使い道があるから、と。

 郷に入っては郷に従うって、大事な教訓なんだな。


「それで、今日はなんの仕事してるんだ?」

「今は顧客が要望する奴隷を選んでいるところだ。こんな仕事を見ても面白くなどないだろう? 君も変わり者だな、アマラ」

「わかってて買ったんだろ。まだ呪術使えるほど力溜まってないから暇なんだよ」


 俺はここのところ、ソムランの執務室に入り浸ってる。

 じっと揚げ菓子を見つめると、ソムランは卓ごと押しやって俺にも分けてくれた。


「リュナシェーラがずいぶんと張り切って君を躾直すと言っていたはずだが?」

「だからだよ…………」


 物食ってる時に嫌なこと思い出させるなよ。

 俺は揚げ菓子を口に放り込んでそっぽを向いた。

 そんな俺の反応に、ソムランは首を傾げながら仕事に戻る。


 男にはわからねぇよなー。俺も知りたくなかったんだけど。

 …………女の園って、怖いんだよ。

 俺も最初は口調とか身嗜みとかそんなの躾けられると思ってたんだ。けど、待ってたのは性教育・中級編だったんだよ! アンダーヘアの手入れとか、跨ぎ香とかそんなの知りたくなかった!

 なんかAVの裏側見せられた気分だわ! もうエロイとかそんなの通り越してんだよ! エロは現実じゃなくていい! 綺麗なままのファンタジーで良かった!

 実体験での女側からの失敗談とか生々しすぎて童貞にはいっそ重いわ!


「うぅ…………この顔の使い道とか考えたくもない」


 思わず俺が呟くと、ソムランが果物の甘い蜜漬けを差し出してきた。

 どれだけ甘いもん持ってんだよ?


「たまに外見が良すぎて割を食う者はいる。そういう点ではリュナシェーラは経験者だ。上手い躱し方も知っている。もう少し、話を聞くだけでもしてみたらどうだろう?」


 せっかくの美少女なのに面白いこと何もねぇなって思っただけなんだけど、なんか、優しい声で諭された。

 違うんだよなぁ。そうじゃないんだよぉ。惜しい、ソムランってなんか色々惜しいなぁ。同じ男として同情するわ。

 友達にもなんでこんな気のいい男が振られるんだろうって、思うような奴いたよ。けどソムランの場合嫌がられる原因はっきりしてて、女の見る目がない! なんて、同じく見た目で判断した今の俺には言えないし。


「あら、やっぱりここにいたのね、アマラ」

「げ、リュナシェーラ!」


 ひょっこり顔を出したのはムッチムチ、バッツーンな美女。


「本当にその見た目でその口調って残念ね。呪術師なんてやめて女磨いたほうがいい暮らしできるのに」

「結局ソムランに養われるなら今と変わんないんだろ!」


 どうしてリュナシェーラは俺をソムランの妾にしたいようだ。

 理由は、中身が残念すぎてソムランくらいが俺の捕まえられる最高水準の男だかららしい。見た目さえ諦めれば、財産と性格の破格な相手なんだってよ。

 知るかそんなこと!

 俺は男に貰われる気はない! ないったらない!

 リュナシェーラもなんだかんだでお節介だ。俺の嫁入り先なんて気にしなくていいの!


「ほら、旦那さまも。女の子が訪ねて来てるのに仕事の手も止めないなんて」

「俺お菓子もらえればそれでいいよ。仕事の邪魔したいわけじゃないし」

「本当に変わってるわね、アマラ。こんな面白くもない所に来るなんて、普通媚び売るためくらいのものよ?」


 アマラが変わり者なのは否定しない。

 異世界から男呼び出して自分の体に生贄として詰めてくような奴だからな。

 けど、媚び売るためが普通だとは認めねぇ!


 ちなみに、俺に後を継がせる年寄りの呪術師とは顔を合わせた。

 皺くちゃの爺さんだったけど、本物らしくアマラの中身が違うことは一発で見抜いてくれてる。

 ただ、爺さん的には中身はあんまり気にしないらしい。

 と言うか、体に残る残滓を見るに、アマラより俺のほうが性格いいからこのままでオールオーケーなんだとよ。

 ふざけんな!

 って言ったら、別にアマラを呼び戻すことを邪魔しないから、一人で頑張れって言われた。くそ、呪術師って自分勝手な奴しかいないのかよ。


「アマラ? 顔が険しいが、どうした?」


 仕事の手を止めたソムランが、声をかけて来た。

 言い出しっぺのリュナシェーラは、飲み物を取りに行ってる。


「ちょっと先々のこと考えてただけ。今のままじゃ何もできないからな」

「呪力の回復か…………。呪術師として買われたことに不服はないと言っていたが」

「それはないない。本当、女としてより呪術師としての価値見出してくれて良かったくらいだから。けど、うん、これは俺の問題だから気にしないでくれ」


 って言ったら、ソムランが指ツンツンモジモジし始めた。

 だから、そういうあざといことをお前がするな!


「あー、そうだな。だったらどんな客がソムランから奴隷買うのか教えてくれよ。爺さんが言うには、客から呪い受けることもあるんだろ?」


 どうも客から恨みを買うこともあるらしくて、俺が呪術師として求められるのは、このソムランが住む場所に結界を張って、呪いや不幸を防ぐことらしい。

 狙って呪ってくる奴もいれば、無意識に呪ってくる奴なんかもいるってのが、アマラの記憶にある。

 無意識ってのは、簡単に言うと嫉妬や劣等感がずば抜けて強い奴だ。

 ソムランが成功してるのを妬む客って、それなら客になるなよとは思うんだけどな。


「基本的にはアマラが聞いていたとおり、男に女奴隷を売る。さっきやっていたのも、顧客との相性を考えていた」

「相性?」


 なんか聞いたら、売る女奴隷はお偉いさんの妾なんだと。

 だからリュナシェーラが教えるのも基本的に房事。

 で、顧客は自分で女を用意できないような人物が主で、そういう客って、何かしら問題を抱えてるもんらしい。


「特殊性癖や好みにうるさい程度なら悩まないんだが…………。理想の女性像と好みの女性像に乖離があったり、本人には問題はないものの血縁の女性たちが強烈であったり」

「うわー」


 それ、結婚相談所みたいなもんじゃないの?

 奴隷扱ってるから同じって言ったら駄目だろうけど。

 マッチングっての? そういうことだろ?


「…………あれ? なんで妾?」

「奴隷を妻にする者は稀だ」

「あ、なるほど」


 なんか普通に聞いてるけど、他人ごとだと思えるからだよな。

 俺、気持ちは男だし。体は女になってるけど、ソムランが俺を買ったの売るためじゃないし、危機は感薄い。

 けど、まぁ、こういう現状知ったら、池谷みたいに奴隷商人を悪って断言する奴いてもおかしくないよなぁ。

 奴隷に尊厳とかってないし。命じられたことを拒否するなら命で贖うだけだ。

 同じ人間だと思うから、池谷の奴俺を助けようとしたってことだよな。


「次来た時は、少し会話してやろうかな」


 俺の呟きに、ソムランは少し考えただけで相手が池谷だとわかったらしい。


「勇者さまと、ご縁があったなら、その、そちらへ行くつもりがあるということだろうか?」

「え、それはない。あいつ、下心が見えすぎててヤダ」

「あら、潔癖なのね」


 飲み物を運んできたリュナシェーラが、俺の答えに笑ってた。


「こういう子、育てる楽しみを知ってるおじさまたちには人気出るでしょうねぇ。呪術使えない今なら、楽に売れるんじゃない?」

「やだ!」


 何言ってんの、リュナシェーラ!? ぎゃー! ちょっと想像しちゃったじゃん!

 今の一瞬で体中鳥肌立ったんだけど!?


「呪術使えないまま女として売られるくらいなら、なんか別の商売して自分で稼ぐわ!」

「あら、いいわね」

「へ?」


 思わず叫んだ俺に、リュナシェーラがにやりと笑った。


「じゃ、何か商売を考えてもらいましょ。今のところ呪術の使えない呪術師なんて無駄飯食いだもの。言っても聞かないなら何かしら許容できる才能を示してくれなきゃ」


 え、なんか、リュナシェーラの金の瞳が殺気立ってる気がするんだけど?


「講習を受けない君に、腹を立てているようだ」


 ソムランに耳打ちされ、俺は言い訳をしようとした、んだけど。


「もちろん、商売として使えるかどうかは旦那さまに判定してもらいますから、手心など加えませんように」


 リュナシェーラの釘差しに、主人であるはずのソムランも黙ってしまう。

 お前、何か弱みでも握られてるのか、ソムラン?


隔日更新、全十六話予定。

次回:おや、ムッキムキバッツーンのようすが?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ