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3話:人は見かけによらないってやつ?

 結果、俺が呼ぶ前に助けが来ました。

 俺マジ役立たず。

 てか、立ち上がった途端、完全武装で仲間引き連れた屋敷の警備が雪崩れ込んで来たんだよ。

 勇者の池谷もさすがに数には勝てないみたいで撤退した。

 いやー、逃げ足の速いこと。やっぱ速さって強さだよな。「当たらなければどうということはない」とか言ってみたいよね。


「押し入って来た賊は、本当に勇者だったのですか?」

「異郷の姿だ。間違いない」


 警備担当のムッキムキ、バッツーンな人とソムランがそんな話をしてた。

 警備担当の褐色の髪や肌は、やっぱりここが日本じゃないことを実感させる。

 てか池谷、賊呼ばわりされてるよ。


「本物の勇者となれば、王宮に訴えるほか…………」

「陛下の客だ。訴えたところで咎め立てはされん。それよりも、言動が気になる。放っておくと私以外にも被害が出そうだ。何か奴隷商に対する怨みでもあるのだろうか?」

「手の者に勇者の監視をさせましょう。…………それにしても、呪術師対策で守りの護符をつけておいて良かったですね」

「全くだ。お前たちが来る前に殺されていてもおかしくなかった」


 おう、本当に命がけで助けようとしてくれたんだなぁ。

 なのに俺、警戒されてた呪術なんて使えないし、守られて無傷で、役立たずすぎだよな。


 ちなみに俺は落ち着くようにと、ムッチムチ、バッツーンなお姉さんに肩を抱かれてる。

 せっかく意識逸らしてたのに、チラ見したら落ち着かなくなってきた。

 あ、ヤバい! いい匂いがする! 温かい! 柔らかい! 変な汗出て来た!


「震えちゃって可哀想に。そんなに怖がらないで大丈夫。もう賊は追い払ったわよ」

「いえ、えっと…………」


 心のチ○コが反応しそうで身構えてるだけなんで! お願いだから耳元で優しく囁かないで! お姉さん体も美人だけど顔も美人だから!


「あぁ、名前言ってなかったわよね。あたしはリュナシェーラ。旦那さまとの顔合わせの後は、あたしが世話役として紹介される手はずだったんだけど。改めまして、ここでの生活ではあたしを頼ってくれていいわ、アマラ」


 そう言って、リュナシェーラは左足を俺に見せる。

 左足には金属のアンクレットと足の指に指輪がはめられていて、細い鎖で繋がっていた。

 俺としてはお洒落だな、くらいのものだけど、アマラの記憶では奴隷の印だ。

 思い至って俺も左足を確かめると、リュナシェーラより地味なアンクレットと指輪がはまっていた。


 つまり、リュナシェーラも俺と同じ奴隷。ただし、装飾的な奴隷の証はそれだけ主人に気に入られているという印だ。

 うん、女囲う奴隷商人なんてとか思ったけど、こんなお姉さんなら囲いたくもなるよな。艶々の黒髪に金色の瞳とかエキゾチック感満載だし。

 そこは男として同意する。するけど、俺まで囲うなんてのはノーサンキューだ。


 足音に顔を上げると、いつの間にかソムランが俺に近づいて来ていた。

 顔が肉で覆われてるせいで、あんまり表情が読めない。

 けど、今思えばソムランから池谷のような下心は感じなかった気がする。


「…………無事か?」

「いや、あんたのほうが怪我しただろ?」


 思わず答えると、リュナシェーラから後頭部を叩かれた。

 驚いてリュナシェーラを見ると、なんかこう、「うわぁ」って顔してる。


「ちょっと、アマラ。変わり者だとは聞いてたけど、何その言葉遣い?」

「こ、これが俺にとっては普通なんだけど」

「馬鹿なこと言わないの! そんな綺麗な顔しておいて、なんで男みたいな喋り方してるのよ! 勿体ない!」

「勿体ないも何も、別にこの顔になりたかったわけじゃ」

「口答えしないの! いいわ。あたしが躾直してあげようじゃないの。まずはあんたじゃなくて、旦那さま、もしくはご主人さまって呼ぶのよ」


 あ、待って。顔近づけないでリュナシェーラ。

 怒ってるのはわかるけど、俺美人にそんな近寄られたことないから。

 思わず顔を背けると、なんか上から笑うような息の抜ける音がした。

 もしかして、ソムラン笑った? 頬肉と顎肉に口元隠れててわかんないんだけど?


「喋らなかったのは、怪我をしていたからではないようだな」


 お、おぉ…………。ソムラン、本当に俺のこと心配してたのか?

 見かけで判断して申し訳ないことしたなぁ。

 とか思ってじっと見てると、今度はソムランが顔を背けた。

 うん? 耳は意外と普通だな。

 そっか、耳が太るとか聞いたことないし、そこは人並みなんだな。…………うん、なんで耳真っ赤になってるの?


「あら~?」


 リュナシェーラがにやっと笑ってソムランを見る。

 何このわがままボディさん? なんか悪巧みしてそうな舌なめずりしてるけど?

 エッロ、じゃなくて、今はそれより言わなきゃいけないことがある。


「ソムラン、助けてくれてありがとう」


 言った途端、また問答無用でリュナシェーラに後頭部を叩かれた。


「さすが呪術で暴れすぎて売られただけあるわね。一度や二度じゃ言うこと聞かない性格かしら? ほら、旦那さまもきちんと叱って」


 リュナシェーラが俺の態度を叱るよう指示すると、ソムランは口元に片手を当てて挙動不審になっていた。


「は…………はわわ…………」


 豚が鳴いた…………。

 馬鹿野郎! それは美少女、もしくは幼女にのみ許される台詞だ!

 豚に見紛う巨漢が言っていい台詞じゃねぇ!


 俺は喉から出そうになる罵倒を必死に飲み込む。

 その間に、リュナシェーラが頭痛を堪えるように額を押さえてフォローしてた。


「あれよね? いつも怖がられてまともに会話もできない生娘たち相手にしてたから、こういう対応されると、なんて言っていいかわからない…………ってところかしら?」


 だからって「はわわ」はねぇよって、目が口ほどに物言ってるぜ、リュナシェーラ。


「けど、怖がられるなら怖がられるで、そこを有効活用するよう言ってるでしょ。なんでいつまでも泣いて嫌がる奴隷をあたしが慰めなきゃいけないのよ?」

「あ、そういう役回りなんだ…………」

「そうよー。聞いて、アマラ。いえ、教えてやって。アマラもどうせ旦那さまの噂聞いて売られるの嫌がった口でしょ?」

「うん、まぁ…………。女奴隷に手を出して気に入ったら囲うって聞いたから」


 アマラは嫌がってたよ?

 っていうか、慣れてるって怯えられ慣れてるってことかよ、わかりにくいな。


「そうでしょう? けど実は指一本触れない上に、こっちから要望出せば売る相手吟味する世話焼きなのよぉ」

「そうなの?」

「やっぱりアマラ、妾にでもされると思ってた?」

「妾っていうか、売られるにしても一回は弄ばれて凌辱されるしかないとは思ってたけど」

「し、しない! いや、そんなことしたことがない!」


 ソムランは呼吸を荒くして否定する。


「いや、その必死さがいっそ怪しい。あと縦も横も大きいから、圧迫感が酷い。あんな状況で人払いとかされたら、最悪想定して身構えるわ」

「う…………、そ、そうか。だから、顔合わせで必ず怯えられたのか」

「旦那さまの悪評は、それだけのせいじゃないけど。確かにアマラくらい小柄だと、圧迫感覚えるわよねぇ。気遣いがから回ってるわ」


 リュナシェーラは奴隷の割に、ソムランにも意見を言える立場のようだ。

 というか、案外ソムランって話聞いてくれるタイプか?

 俺がずけずけ言っても怒らないし。アマラの記憶にある尊大で横暴な奴隷商人像とはだいぶ違う。


 と言うか、俺をチラチラ見るな。恥ずかしがり屋の乙女か!


「…………役に立つなら生活を保障するって言ってたよな? 俺も、すぐには売られないと思っていいのか?」


 確認すると、恥じらっていた豚、じゃなくてソムランは切り替えるみたいにはっきり頷いた。


「元より、君を買ったのは懇意にしている呪術師の助言だ」

「あぁ、その装身具作った奴?」

「わかるか?」


 ぶっちゃけ俺はわからない。

 けどアマラの記憶と体は、呪術を知ってる。

 感覚で、ソムランが身に着けてる装身具全てが呪術師によって術がかけられていること、装身具全てに同じ気配が宿っていることはわかった。


「これらを作った呪術師は先代から世話になっているが歳だ。跡目もいないから、役目を引き継げる者を占ってもらった」


 で、ソムランを助ける呪術師として指名されたのが、アマラだったらしい。

 本人、体捨てて逃げたけどな。


「俺、今本調子じゃないんだけど?」

「最悪、今の呪術師が張った結界を維持できればいい。最低でもそれくらいはできると占いには出たそうだ」


 解放してくれないかな、とかソムランの善意を試してみたけど、駄目だった。

 つまり俺、と言うかアマラは飼い殺しにされる運命らしい。


 …………これ、チャンスじゃないか?

 アマラの記憶と体があれば、俺にもたぶん呪術は使える。ってことは、俺がアマラの魂捜してこの体から離れることも可能ってことだろ?


 アマラの記憶を探って黙り込んだ俺に、リュナシェーラが綺麗に爪を整えた指で顎を掴んだ。


「呪術が使えなくても、その綺麗な顔と若い体を有効活用すれば、売られないわよ? その辺りも、あたしが教えてあ、げ、る」

「え、いや、それは…………遠慮したいな」

「あら、ソムランの閨に入るのは嫌?」

「そりゃ、嫌だよ」

「あれで情が深いから、一度寝れば他に売られないわよ? お金もあるし、この屋敷以外にもいくつか持ってるから、住む場所も選べるわ。そうそう、ここお風呂あるのよ。ここに住めば使いたい放題よ」


 風呂ってアマラの記憶にある限り、すごい贅沢品だ。

 なんせ水と薪が売り物として成立する世界だから。やっぱり日本じゃないよな。

 風呂使いたい放題って相当金持ちで、囲われたらそりゃいい生活できるだろう。

 でもなぁ…………。


「何が駄目、アマラ?」


 リュナシェーラに笑顔で聞かれて、つい俺は答えてしまった。


「…………デブはないよな」


 つい、本人の前でそう言ってしまった。


隔日更新、全十六話予定。

次回:エロってファンタジー?

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