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17話:これも有りかな?

「ふっふっふ…………ふはははは…………ふぁーはっはっはっは! ついにこの時が来たぜ!」


 拳を握って悦に入る俺に、ザナンが後ろから分厚い手で叩く。


「やるならさっさとやれよ。なんで俺がお前の呪術のお目付け役しなきゃならないんだ。心配して声かけたソムランさま袖にしておいて、俺を指名するとか。その時のソムランさまの顔見たか? ちょっと涙目になってたんだぞ?」

「いいじゃん、お前だったらメタ発言とか気にしなくていいんだし」


 愚痴っぽいザナンに適当に相槌打ったら、もう一度叩かれた。お前な、今は俺のほうがか弱い女なんだぞ?


「ソムランさまにあんたがつけた愛の精霊ジンとか言う奴のせいで、私が周りからお邪魔虫扱いされてんのよ。魂違うから私には効かないけど、精霊ジンの魔力でみんなあんたとソムランさまくっつけようとしてんだから、いい加減観念しなさい」

「いやだーい、いやだーい! 俺はまだ諦めたくないんだー!」


 そのために今日まで俺は呪力を溜めて、呪術の腕を磨き、やっとアマラの魂を呼び寄せる呪術を使える準備を整えたんだ。


「はぁ…………、その姿にだいぶ慣れたけど、中身があんただと思うと萎える…………」

「ソムランと勇者も萎えてくれねぇかなぁ」

「この一年懲りずにいるんだから無理だろ。勇者なんかアマラ惚れさせるために逗留延長してんだし…………。ところで、こんな無駄話してていいのか?」

「大丈夫! もう魔法陣は起動してるから、後はアマラの魂引き寄せるだけ。その内現れるはず! あの酔っ払い呪術師に酒渡してちゃんと確認はしてもらった」


 今いるのは扉も窓も閉め切った部屋。俺とザナンの目の前には、床の半分を埋める魔法陣が光を放っていた。


「お、来たみたいだ。やっぱり肉体との縁は切れてなかったな」


 見ていると、光の中に靄が現れ、少しずつ形を取り始める。輪郭のぼやけたその姿は、まさに心霊写真。


「おー、同じ顔。本当にアマラ呼び出せたのか」

「…………誰?」


 ザナンの感想に、霊体のアマラは思ったよりはっきり喋る。しかも警戒も露わな表情を浮かべてみせた。

 改めてみると、やっぱりアマラって美少女だよな。


「誰ってのはないだろ。俺だよ俺。お前が奴隷になるのが嫌で身代わりにされた善良な異世界人だよ」

「異世界人? あたし、そんなの呼び出してたの?」

「知らなかったのかよ。っていうか、その姿…………霊体じゃないな? お前、体を離れてる間、何してたんだ?」


 幽霊は自我がない。もしくは薄い。はずなんだけど、今のアマラはしっかり受け答えして、過去の記憶もしっかりしてるみたいだ。

 靄を纏うだけの全裸で、アマラは誇らしげに胸を張った。


「あたしと魂の色が似てるだけあって、なかなか理解力があるみたいじゃないの。ふふん、あたしはもう霊体なんて貧弱な存在じゃないわ。日月の精を効率的に吸って、この短期間に精霊ジンにまで自分を昇華させたのよ!」

精霊ジン!? おま、何してんだよ!」

「それってすごいことなのか?」


 この体で一年過ごして、アマラの呪術に対する天才的な素養は身に染みてたんだけど、まさか人間やめてるなんて思わないって。

 興味なさげなザナンに、アマラは精霊ジンになることがいかに高度で素晴らしいことかを力説する。けど、ザナンは「へー」「ほー」「ふーん」で聞き流す。


「頭来た! あたしの力の恐ろしさを思い知って泣きを見るがいいわ! 禿散らかしなさ…………きゃ!? ち、力が…………!」

「ふん、他人を生贄にする奴を呼んで、なんの対策してないわけないだろ?」

「対策したの俺な? んで、なんてしょうもない呪いかけようとしてんだよ、アマラ」


 霊体相手に大袈裟な守りかと思ったけど、魔法陣の檻に入れる形で呼び出しておいて正解だったな。アマラ、ヤベーわ。しょうもないけどおっさん大号泣の呪いを迷いなく放とうとしたぞ。


「わざわざ呼び出したのはお前の近況聞くためじゃねぇんだよ。俺を呼び出したお前なら、俺を元の世界に戻すこともできるはずだ。今すぐ、俺を元の体に戻せ!」


 精霊ジンになってたのは予想外だったけど、逆に人間より高度な術が使えるようになってるはずだ。拒否するなら檻の中で反省させて、うんと言うまで…………。


「無理」

「は? なんだよ無理って」

「適当に引っ張り込んだだけだもの。何処が元の世界かも知らないし、あんたの元の体が誰かも知ないわよ。そんな状態で戻せるわけないでしょ」


 なんで「これだから素人は」って感じの玄人感出して言ってくれてんだ!


「それに、あんたの世界って魂が抜けた体、一年以上も生かし続けられる術があるの?」

「あ…………。い、いや、けど、家族が気づいて病院連れて行ってくれてるかも…………」

「死人を保存しておく理由って何よ?」

「し、死人じゃねぇよ! 意識がないだけなら植物人間でベッドに寝てるだけとか」

「何言ってるかよくわからないけど、魂のない肉体なんて、一晩あれば死ぬわよ。だからあたしも身代わりの魂詰めて、精霊ジンになるまでの時間稼ぎにしたんだから」


 精霊ジンとして存在できるようになるまで、肉体の死に魂が引き摺られないようにする。どうやらそれが俺を呼び出した最大の理由だったようだ。


「運よく体が生きてても、誰が世界を渡るためにあんたの魂向こうの世界に引っ張ってくれるのよ? この世界から押し出したって、元の世界に戻れるかは運だし、魂のまま漂ってもすぐ消えるわよ。全く、そんな初歩的なことを説明させるためにあたしを呼び出すなんて」

「…………ふ、ふふ、ははは」

「な、何よ? 気持ち悪いわね」


 そうだよ、アマラってこういう奴だよ。

 肌弱くって農作業向きじゃないから家族から雑に扱われて、森に籠って呪術に傾倒したとか、そんな幼少の可哀想な経験霞むくらい、性格外道に振りきっちまってる奴だよ。


「お前みたいなのに、期待した俺がバカだったよ」

「はぁ? あたしに利用されるだけの人間が、精霊ジンに至ったこのあたしを軽んじる気?」

「あぁ、軽く見てやるよ。お前なんかの意志に重きは置いてやらない! お前が俺にしたようにな!」


 俺は用意していたもう一つの魔法陣を起動した。

 俺とザナンの背後で、魔法陣が光を放つ。その中心には、金色に輝くアラビアンなランプが置かれていた。


「いっそ精霊ジンになっててくれて良かったぜ! アマラ! お前は俺が罰する! このランプに封印され、持ち主の願いを延々と三つずつ叶えて回れ! いつかお前を許し解放するなんてお人好しが現れるまでなぁ!」

「何よそのクソみたいな解放条件! 精霊ジンの力を好きに使える状況で解放するなんて、そんな馬鹿な人間いるわけないでしょ!?」


 俺はアマラの抗議を無視して、二つの魔法陣を繋ぎ、精霊ジンのアマラをランプの魔法陣へと強制移動させた。

 途端に、ランプの蓋が開いて身悶える全裸のアマラが引きずり込まれて行く。


「いやいやいや! あたしは人間なんて矮小な生き物の括りから自ら脱して崇高な意志の下に高みから全てを嗤う存在に…………!」

「バーカ。滅茶苦茶欲に塗れてんじゃねぇか。そんなの崇高とは言わねぇよ。ただの人間の願望だ」


 抵抗虚しく、アマラはランプの中にスポッと吸い込まれた。

 独りでに戻ったランプの蓋の金属音が、無音になった室内に響く。


「…………お疲れさん」


 ザナンは分厚い手で俺の頭を撫でた。


「俺が死んでるかもってアマラが言った時、驚かなかったな?」

「そういうこともあるかなって、考えたことがあったの。魂がないと死ぬって、こっちじゃ常識だから」

「そっか…………」

「…………こっちで生きるのは嫌? サッカーもどきのトトカルチョ、上手いこと回り始めたばっかりだけど」

「嫌じゃねぇよ。嫌じゃねぇけど…………あーもー! なんでお前は性別変わってそんなに落ち着いていられるんだよ!? 人生滅茶苦茶だろ!?」


 八つ当たりで叫ぶと、ザナンの顔をした辻本は当たり前のように笑った。


「だって、女だろうと男だろうと、今ここで生きてるのは私だもの。だったら、自分がどう生きたいかを考えるだけよ。佐藤、あんたはどうしたいの?」

「俺は…………」


 なんか、負けた気がする。男として、負けた…………。


「はぁ、正直呪術の腕磨くの楽しいし、あの爺さんに負けっぱなしの腕じゃ俺は満足できない。料理屋とかサッカーもどきも言い出しっぺだから関わって行きたいとも思ってる」

「じゃ、後は貞操をどう守るかだな!」

「他人ごとみたいに言うな! 親指立てるな!」

「はいはい、まずは外でソワソワしながら待ってるだろうソムランさまへ報告に行くぞ」


 さっさと扉に向かうザナンを追って、俺はアマラを封じたランプ片手に部屋を出る。


「アマラ…………?」

「おう、俺だよ俺」


 いつもの口調で答えると、ソムランは見るからにほっとする。

 リュナシェーラは喜んでいいものかどうか考え中って感じだ。俺は絶対女言葉は使わないからな!


「そうだ。ソムランさまにも本来のアマラを見せたらどうだ?」

「いやぁ、見て面白い奴でもないだろ。まぁ、見たいなら」


 俺はソムランに頷かれたので、ランプの腹を三回擦った。

 すると、口の部分から靄が溢れてやっぱり全裸のアマラが現れる。


「やってくれたわね? たかが身代わりの分際で…………!」

「ふん、やり返される覚悟もなく、他人を巻き込んでんじゃねぇよ」

「ア、アマラ、なな、何故裸なんだ?」

「やっぱり気になるよな? おい、服くらい着ろよ、痴女」

「なんですって!? 金とるわよ!?」


 俺に噛みつきながら、アマラは靄を服に変えて纏う。本当、なんで最初裸だったの? 羞恥心あるなら裸族ってわけじゃないんだろ?


「何か失礼なこと考えてるでしょ、身代わりのくせに」

「身代わり関係なくないか? もうこの体俺のにするしかなくなったんだし」

「本当か、アマラ!?」


 おう、俺消えるかもしれないとか言ってたせいで、ソムランがめっちゃテンション高くなった。と思ったら、アマラが風のような手で俺を突く。


「ちょっと、どういうこと? あたしの体でなんでこんないい男誘惑してるの? しかも格の高い精霊ジンの加護持つ相手とか。寝たらいい呪力の供給源になるじゃない。ランプに封印されたこき使われるより、断然こっちのほうがいいんだけど?」

「お前は他人をそういう風にしか見れないから奴隷落ちしたってこと自覚しやがれ」

「その話詳しく!」


 だー! アマラが余計なこと言うからリュナシェーラが食いついて来た!


「俺は呪力のために体売ることはしない!」

「売る必要ないわよ? 旦那さまと甘ーい夜を過ごすだけでいいのよ? ね、そうなんでしょ? せっかく奴隷じゃなくなったんだから、正妻目指してみなさいよ!」

「待ってくれ、リュナシェーラ。その、私にはまだそんな、は、早いじゃないか…………」


 そしてお前は頬を染めてモジモジするな、ソムラン!

 アマラの体に残らなきゃいけなくなったけど、俺はまだ男であることを捨てる気はないんだ! まだ心は男のままなの! 旦那さまと甘い夜なんて望んでないの!

 しれっとフラグ建てを手伝うな愛の精霊ジン! 何に魔力使ってんだ!?


「こうしてアマラの受難の日々はまだまだ続いてい行くのだった、丸。ってか?」

「面白がらずに助けろよ、ザナン! 友達だろぉ!?」

「馬に蹴られるのは勘弁」


 ソムランに羨ましそうにチラ見されて、ザナンは速攻逃げやがった! 友達甲斐のねぇ奴だな!


「アマラ、その、君の問題が一つ解決したのは本心から喜ばしい。私は君に惚れてもらえるように、これからも自分を磨くことを続けていこうと思う。それで、少し君の心に余裕ができたようなら、私にも目を向けてもらえると、いいな、と…………」

「旦那さま、そこは腰に手を回してぐっと押すの! 心の余裕は心の隙間! 隙を突いてなし崩しに!」

「ねぇ、ちょっと。この人もしかして奴隷商? 話が全然違うんだけど!?」

「あーうるせー! まず俺の状況一回説明するから! それでもまだ惚れただなんだ言えるなら、考えてやるよ!」


 俺なら美少女の中に男とかドン引きなんだけど、ソムランあんまり気にしない気がするんだよなぁ。魂に性別はないとか言いそうだし。

 はぁ…………。


 どうやら本当に、俺の受難の日々はまだまだ続くみたいだ。



ここまで読んでいいただきありがとうございます。

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