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16話:勝ちは勝ちだろ?

「卑怯だぞアマラー!」

「そんなのずるよアマラー!」

「うるせー! 外野は黙ってろ!」


 俺は地面に倒れ込んだソムランと池谷を見下ろし拳を突き上げる。

 どう見ても俺の勝ちだろうが!


「うーん、俺もどうかと思うぞ、これ?」

「お前に一番言われたくねぇよ、ザナン」


 俺の隣に並んだザナンが、周りのブーイングをぼんやり眺めて呟く。なんでこいつがいるかと言うと、俺は呪術でザナンを引っ張り込んで勝利した。

 なので、決闘のための剣はザナンがしっかり持ってる。


「しかしこの呪術での身体強化ってすごいな。…………漲る…………」

「惚れ惚れしてるついでに、ちょっと剣持ったままポーズ取ってみろよ」


 適当に声をかけると、呪術でアドレナリン放出状態のザナンはあっさり応じてくれた。


「おらー。文句のある奴は降りて来い! まだまだこの筋肉男は元気あるぞー」

「馬鹿! ザナンさんに勝てるわけないだろー! なんだよその筋肉の膨張具合!?」

「ザナン使った上に呪術で強化するなんて面白くないのよ! 詐欺よ詐欺ー!」


 あー、うるさいうるさい。勝てばいいんだよ、勝てば。


「ちょっとそこの奴隷! 何をなさっているの、あなた!」


 茫然としてたハイファ姫まで文句言って来た。


呪術師おれの持ちうる限りの力使っただけだろ?」

「二人がかりみたいなものではありませんの! しかも、こんな一方的にメイトさまが負けるだなんて…………」

「自分で制約課して、ほぼ自前の戦闘力での勝負に持ち込んでおいて何言ってんだよ」


 俺が話している内に術が解けて来たのか、頭を振ったザナンにげんこつを落とされた。


「お前、俺にどんな術かけたんだよ? なんか無駄に興奮した気分で落ち着かん」

「悪い悪い。身体強化以外だと、判断力の低下と興奮、俺への好感上昇、戦闘意欲向上なんかだな。後は口で誘導して手駒になってもらっただけだから、時間が経てば落ち着くぜ」

「うーん、簡単にアマラの手に乗ったと思うとすっごい屈辱だな。…………ソムランさま、ご無事ですか?」


 ザナンは主人であるソムランの介抱のため剣を放す。

 俺は対戦者の証のような剣を拾って、審判の下へ向かった。


「ほら、俺が勝利でいいだろ、お姫さま。勇者は勝てなかった。目的は達成したはずだ」


 俺の指摘にハイファ姫は悔しそうに唇を噛んで、勝者の宣言で俺の名前を告げた。

 なんか睨まれてるから、ちょっと背中押してやるか。


「お姫さま、ここは好きな相手の怪我心配して、自然に抱き締めたりできる美味しい場面だと思うんだけど?」

「…………!? は、はしたない言い方をなさらないで! …………でもメイトさまが心配なのは確かですし、お怪我があるなら私が歩みをお助けいたしますわ」


 早口に言い訳しつつ、ハイファ姫は池谷を助けに行った。

 俺はザナンにやられた腕を庇って起きるソムランに向かう。


「大丈夫か、ソムラン? ずいぶん派手にやられてたけど?」

「アマラお前な、ソムランさまでもさすがに奴隷に攻撃されたら処罰を考えなきゃいけないんだぞ?」

「俺が操れるのなんて表面的なところだけだぜ? ザナンならソムランが死ぬような攻撃はしないと思ってだなぁ」

「ふ…………ふふ、ははは。これだけ見事に負ければ、ザナンの力量を褒めこそすれ処罰などはしないさ」


 どうやらザナンは一発強い攻撃を当てて、無駄な怪我をさせない最速でソムランを倒したそうだ。

 鍛え足りないとか呟くソムラン。筋肉質になった自分の腕を見ていたと思ったら、俺に向かって残念そうに微笑みかけて来た。


「こんな体たらくでは、アマラに惚れてもらうことはまだ無理そうだ」

「お、おう…………。お前も物好きだよな。こんなことやらかす俺なんかに惚れるって」

「は! アマラちゃんにイノブタの魔の手が!? 今助けるからねー!」

「あぁ! メイトさま!?」


 背後で上がった騒がしい声に、俺は呪術を使った。

 決闘が終わって能力に制限のなくなった池谷は、身体強化で風のような速度を発揮し俺に手を伸ばす。

 初めて会った時と同じ行動だ。俺も身体強化で池谷の速度に合わせ、立ち位置を入れ替えるようにスッテプを踏み後ろに回る。


「な…………!? アマラちゃん?」

「それはもう見た。対策してないわけがないだろ?」


 俺は手にした剣を後ろから池谷に突きつけた。

 瞬間、周囲から弾けるような喝采が起こる。


「やればできるじゃねーか! 勇者の後ろ取りやがった!」

「アマラかっこいい! 決まってるー!」


 え、そう? なんか照れるな。

 …………てか、勇者なのに池谷への声援とか激励ないな。お前、どれだけ周りに迷惑かけてんだよ? 王宮から来た人たちも俺に喝采送ってるぞ?


「ほら、お前は負けたんだから俺のお願い一つ聞けよ」

「…………アマラちゃん、なんて強くて凛々しいんだ! 惚れ直した!」

「うるせー! お前少しは殊勝な態度取れないのかよ!?」


 一発殴らせろとでも言おうかと思ったら、俺に近寄って来たソムランから囁かれる。


「アマラ、あまり過激な願いは…………。せっかくこの私闘で収めようとしてくださっている国王陛下のお心を無碍にしてはいけない」

「…………はぁ。ソムランがそう言うなら仕方ないな」


 俺は突きつけていた剣を降ろして、少し考える。


「勇者、お前これから何処であろうと窓からの出入り禁止な。この屋敷はもちろん、王宮でも出入りするなら扉使え扉」

「む、アマラちゃんに会うための最短ルートなのに…………」

「敗者に拒否権はねぇ! この決闘任されたっていうお姫さまもちゃんと見張ってろよ!」


 そうハイファ姫にも念を押したら、いつも池谷を追ってくる王宮の使者が潤んだ目で俺を見つめてから、膝を突き天に掌を向けた。

 これ、神に感謝を捧げる最上級のお礼のポーズだって、アマラの記憶が言ってる。

 …………そんなに、窓から飛び出す池谷追うの大変だったんだな、この人。


「アマラ、では私に何を望む?」


 ソムランは俺を見下ろして願いを聞いた。

 ハイファ姫も窓からの出入り禁止は気に入ったようで、初めて俺に笑みを向けてなんでも願えと頷いてくる。たぶんソムランが嫌がっても強制する気だな。


「じゃ、俺を奴隷から解放してくれ」

「…………!? そう、か…………。それがアマラの願いか…………」


 見るからにしょんぼりするソムランに、俺は顔見知りの奴隷たちから非難の視線を向けられる。え? そんな責められるような願いか?


「えっと、俺を買った分の金は後で稼いで払うからさ!」

「…………それには及ばないとも。アマラは私に、買値よりもさらに大きな利益をもたらしてくれた」


 物わかり良さげに言ってるけど、どんどん首が下向いて明らかに項垂れて絶望してますって感じの体勢になってるんだけど?

 っていうか、リュナシェーラが塀の上から飛び出そうとして周りに止められてる。

 いいじゃん、奴隷やめさせてもらうくらいさ。

 周りの騒がしさに気づかないみたいで、ソムランは大きく息を吸って体勢を立て直した。


「敗者に拒否権はない…………。ならば、私もアマラの願いを聞き入れよう。君は、今から自由だ」


 いや、そんな泣きそうな顔されて言われても…………。

 跪いたソムランは、ひどく丁寧な手つきで俺の足環を外す。なんかもう慣れてたけど、そう言えばこれ奴隷の証だったな。


「は! アマラちゃんが奴隷じゃなくなったなら、僕たちの間に身分の壁はなくなった!? だったら僕と王宮へ」

「勝手に帰れ! いっそ元の世界に一人で帰れ! っていうか、胸の大きさならそこのお姫さまのほうがでかいし、身分も高いんだからそっちに求婚してやれ!」


 いきなり元気になった池谷を怒鳴りつけると、ザナンが「デリカシーなし男」と呟く声が聞こえた。なんで今俺、罵られた?


「…………僕は色白が好きだ! 大好きだ! 細い腕が好きだ、柔肌が好きだ、胸も好きだ、程よい大きさが好きだ! 白い肌に映える碧眼を縁取る金色の睫毛がまた白さを際立たせるのが好きだ。白い肌を透かして血色が良くなるさまを見るのはもうたまらない! 強気に怒鳴りながら微かに震える肌の白さ際立つ胸も最高だ! がふ!?」


 俺は思わず渾身の力で池谷の頬を張り飛ばした。

 全身に鳥肌を立てて震える俺を責める奴は誰もいない。

 ハイファ姫も、ちょっと残念なものを見る表情で池谷をチラ見すると、お付きに命じて池谷を回収し、静かにその場を去って行った。

 いや、去り際に「お顔が…………」って言ってるの聞こえたな…………。どんだけ惚れたんだよ、池谷の顔に。


「アマラちゃんの強気ではっきりものを言う性格もちゃんと好きだよーーーー!」


 なんか余計な叫び声が聞こえた。ついでみたいに言われて信用できるかー! はっきりものを言うってわかってるなら、お前実はあえてKYだったんじゃねぇか!

 …………張り飛ばさなかったら何処まで喋ってたのか、考えたくもない。


「その、アマラ…………。大丈夫か?」


 ソムランに力なく頷くと、なんか迷いながら自分の指をツンツンし始める。

 だから、そういう女の子がやって可愛い仕草をお前がするな。


「奴隷から解放することを記した証書を、作成させる。一日かかるが、その後は、何処へ行くつもりだ? 故郷に帰るなら、馬車を用意するから三日ほど留まっても…………」

「え? 何処にも行く気ないけど? っていうか、俺親族に呪いかけてここに売られてるのに、どんな顔して戻れって言うんだよ?」

「で、では、この街に住むつもりか? 女一人では、少々住みづらいところもあるが」

「いや、えっとここにそのまま住むのって奴隷じゃなきゃ駄目? 俺、ソムランにこのまま雇ってもらいたいんだけど?」


 利益もたらしたって言ってくれたから行けるかと思ったけど、図々しすぎたかな?


「ちゃんとソムラン守る結界の維持するし、呪術師として雇ってくれそうなところ、俺、ソムラン以外に知らないんだけど? 迷惑か?」


 答えてくれないソムランに不安になる。

 色々言ってみてると、周りを振り切ってリュナシェーラが塀を越えて俺のほうに走って来た。いや、ソムランに駆け寄って、背中をスパーンと叩く。


「ぼさっとしない! こっから惚れさせるのよ! ソムラン!」


 いや、リュナシェーラ。俺の目の前で言うことじゃないし、普段の旦那さま呼びとれてんじゃねぇか。


「返事が欲しいんだけど? ソムラン、俺のこと雇ってくれない?」


 固まったままのソムランを見上げると、絞り出すような答えが返った。


「…………できれば一生お願いします…………」

「それは考えさせて」

「気が早いのよ!」


 またリュナシェーラに活を入れられるソムランに、俺は思わず笑ってしまう。するとつられてソムランも笑い返してくれた。


「即否定じゃなくて、考えさせて、ねぇ?」


 背後から囁かれたザナンの言葉に、俺は笑顔を凍りつかせる。当のザナンはにやにやしながら分厚い手で俺の肩を叩いた。


隔日更新、全十七話予定

次回:これも有りかな?

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