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14話:見た目八割って言うけどさ?

 邪竜との戦いの翌日、俺は熱を出して寝込んだ。


「当たり前でしょ。日焼けって要は火傷なんだから」


 回復した俺に、元女子高生のザナンが鼻で笑う。

 手元では、ソムランから新たに貰った香辛料、粒マスタードを入れるためにマヨネーズの材料をガチャガチャと掻き混ぜていた。


「知らねぇし。日焼けくらいで熱出て寝込むなんて思わないし」

「肌が弱いと日焼けさえできないもんよ? 二年の時の同じクラスにいた那須ちゃん覚えてる? あの子がそれで日焼け対策大変そうだったもん。那須ちゃんに聞いたけど、白人って日焼けできないらしいよ? アマラもそうなんじゃない?」

「マジかよー。那須、美白に命かけてると思ってたー」

「それ、本人に言ってたら私がジャーマンスープレックスかましてたからね?」

「いや、そんなの女子にできて堪るか。…………え、冗談だよな?」

「試す?」

「今は完全できるだろお前! うわ、やめろ! 腕ひしぎかけようとするな! 無理無理、体格差を考えろって!」

「やー、あんたのその空気読まないデリカシーなし男な言動のお蔭で、見様見真似の技かけても、みんな佐藤が余計なこと言ったんだろうで流してくれてたよねぇ」


 そう言えば、俺がこうして暴力振るわれてる現場を誰も止めてくれなかったな!?

 え、俺が悪いと思われてたの、あれ?

 思わぬ悪評を知らされて脱力すると、ザナンは飽きたらしくマヨネーズ作りを再開する。

 うん、アマラの細腕じゃザナンの丸太みたいな腕に余るから、技かけにくかったみたいだ。非力なせいで命拾いしたぜ。


 なんてやってる所に、ソムランが困った顔で現れた。


「また池谷が何かした?」

「アマラ、勇者さまを即座に疑うのは…………その…………」

「ソムランさま、そこで言いよどむってことは、あの勇者関係で間違いないんでしょう?」


 ザナンにまで言われ、ソムランは俺を嗜めること諦めたようだ。

 あの邪竜との戦いで、俺は熱出して寝込んだけど、ソムランは擦り傷と打撲で済んでる。

 というのも、俺が階段の崩落の際に助けを求めた精霊ジンが、何故かソムランを気に入ってソムランの守護についたからだ。

 助け求めたの俺なのにな?


「実は、王宮から邪竜の幼体討伐の功労者として賞するため、宴に招かれたのだ」

「へー、それってすごいこと? 良かったじゃん、ソムラン。あ、それで池谷に絡まれるならそうでもないのか?」


 俺が気軽に返すと、何故かソムランは俺を指した。


「私と、アマラが招かれている」

「俺!?」


 いやいや、俺にも奴隷の身分についてアマラの常識持ってんだぜ?

 王宮にも奴隷っているけど、そういう奴らは基本的に公の宴には出られないし、さらに市井の人間が所有する奴隷なんて、王宮に足を踏み入れることもできないはずだろ?


「アマラを招いたのは、勇者なんですね?」


 ザナンの確認にソムランは重く頷いた。


「ご自身が主賓だというのに、アマラがいなければ出席しないと仰ったそうだ」

「うへー。アマラ、頑張れ」

「他人ごとかよ、ザナン!?」

「まー、なんだ? 女の身支度は時間がかかるっていうけどな、異世界ここは特にすっごいぞ?」

「は?」


 ザナンが諦めたような顔をして俺の肩を叩いた。

 ソムランも俺から視線を外して言いにくそうに口を開く。


「王宮からの使者に事の次第を聞く時、側にリュナシェーラが侍っていてな。…………我がことのようにやる気なっている。耐えてくれ、アマラ」

「はい?」

「よぉし、見つけたわよ、アマラ!」


 金色の瞳を獣のように光らせたリュナシェーラが、ソムランを押しのけ、ザナンにぶつかって揺るがせつつ、問答無用に俺を引き摺る。


「磨くわよー! 普段無駄にしてるその美貌! いかんなく発揮して勇者と言わず、王宮の男ども全員魅了してやるのよ!」

「なんでだよ!?」

「販路拡大! 新規顧客! 金づる獲得!」

「嘘だろ!?」


 俺なんのために王宮行くんだよ!? 労われる側じゃないの!?

 てか、女奴隷として売り込みさせられるの!?


「いーやーだー!」

「宴まで三日しかないんだから泣き言は聞かないわ!」


 そうして俺は、三日かけてスキンケアだ、体型改善だとリュナシェーラを筆頭に女たちから宴の身支度をされることになった。


「おうち帰りたい」

「アマラ、その、綺麗だ。だから、俯く必要はない」


 ソムランの的外れなフォローに、俺は死んだ目を向けるだけ。

 綺麗なのは知ってるよ。リュナシェーラたちが散々拘ったからね。髪も艶々、肌もモチモチ、胸だってふわふわに盛ってある。

 綺麗って…………作れるんだな…………。


「ほぉ…………なんと美しい。いったい誰だ?」

「まさか、あれが噂の? 奴隷と聞いていたが、これは」

「あれで呪術師? なんと勿体ない」


 うん、周りの声ですっごくいい出来なのもわかるよ? わかるけどさ、男としてそんなの嬉しくねぇんだよ。

 あと、嫌な声も聞こえるしさ。


「まぁ、姫を押しのけ勇者さまを垂らし込むだけのことはありますのね」

「ふん、少し見た目がいいだけで奴隷がこのような晴れがましい場を汚すなど」

「勇者さまも呪術にかけられたのでは? あの好色そうな顔、そうに違いありません」


 うーん、美少女+奴隷+呪術師への色眼鏡がすごい。

 そして、色狂いな気持ち悪い視線もすごい。

 おうち帰りたい。


「こちらのお席へ」


 そして案内されたのは絨毯の端っこ。ソムラン遠…………。

 広間の端の俺はまぁ、奴隷だから末席だ。で、奴隷の手柄は主人のものってことで、ソムランは上座にいる。

 んで、高い位置には主催の国王。その隣には主賓で勇者の池谷がいた。


 なんの嫌がらせか、いっぱいあるごちそうも俺にはほとんど回ってこないとくる。

 給仕してる奴らも俺を下に見てんだろうな。

 なんでこんな所居なきゃいけないんだ。本当おうち帰りたい。


「…………何処のこと言ってんだか」


 頭に思い浮かんだのは、慣れた石の壁と絨毯の床。

 俺は深く考えたくなくて、上座の様子を人の頭越しに窺った。


 ソムラン、こうして改めてみても体でかいな。座っても大体の奴見下ろしてるし。筋肉ついて見た感じの強さ増してるし。うん、威圧感がすごい。

 っていうか、作り笑い下手か! 悪役みたいな不穏な笑顔になってるぞ!?

 屋敷だと乙女みたいな反応するくせに何やってんだか。ソムランって八割がた見た目で損してるよなぁ。


 で、王の隣の池谷のさらに隣には、褐色美少女がいる。

 完全誘ってますわって言いたくなる格好と笑顔で池谷見てるけど、褐色美少女あんまり相手にされてない。てか、池谷キョロキョロしまくってる。

 何やってんだ? でかいおっぱいが隣にあんのに。俺にしてるみたいに下心満載の笑み浮かべてドン引かれろ! その顔面で得してる分、痛い目見やがれ!

 …………俺に会う時のやに下がった不愉快な表情ないと、イケメンが前面に出て案外まともに見えるもんだな。


「…………あ!」

「げ…………!?」


 じっと見てたら池谷と目が合ってしまった。

 満面の笑みを浮かべた池谷の異変に気づいたソムランが腰を浮かそうとするけど、それより窓から出入りするクソ勇者のほうが早かった。


「アマラちゃーん! こんな所にいたのかー」

「うぉ!? ちょ、待て、いや、待ってくださ」


 池谷の奴! 一回のジャンプでこっちまで来やがった!

 五十メートルはあっただろ!?


「ほらー、一緒に飲もう!」

「うぉあー!?」


 俺の返事なんか聞かず、池谷は軽々と俺を横抱きにしてまた大ジャンプで人の上を移動する。

 あまりのことに、王さまも池谷見上げて固まってるじゃねぇか!


「勇者さま、無体な真似はおよしください」


 ソムランが止めに入ってくれたけど、池谷は俺を放そうとしない。

 ソムランは王さまの座る一段高い場所に上がることができないみたいで言葉での説得をするけど、池谷だからな。聞く耳持ちやしねぇ!

 そこに、思わぬ助っ人が立ち上がった。


「メイトさま。そのような下賤の者を王と同じ座に上げてはならないのです。どうぞ、下賤には下賤のあるべき場所へ。奴隷に奴隷の分というものがございます」


 助っ人かと思ったけど、俺に対してめっちゃ棘があるー。

 何この褐色美少女? いや、国王や勇者に並んでるんだからこの国のお姫さまとかそういう人なんだろうけど。

 そう言えば池谷に助けられて惚れちゃったお姫さまの話聞いたな。この子か…………。イケメンとは言え、池谷の何処が良かったんだよ?


「あなたも、いつまで分不相応にメイトさまの腕を占領なさっているのかしら?身のほどを弁えぬ行いなど、見苦しさを通り越して醜くすらありましてよ?」


 いたたたた!

 ちょっと、池谷から見えない場所抓るのやめて! 羨ましそうな顔して睨まないで!

 俺だってお姫さま抱っこなんて嫌だよ! けど、この勇者力だけは本物なんだよ! 抜け出せねぇの!


「ハイファ姫、アマラは重々分を弁えております。どうか、勇者さまをお鎮めください」


 ソムランの指摘で俺も気づいた。

 池谷がいつもソムランに突っかかる時の顔してる!

 おい、嘘だろ? まさかお姫さま相手にも奴隷差別するなとか、人間と思わないのは許せないとか言うつもりか?

 王さまの目の前で? お姫さまをソムラン相手の時のように罵るの?

 そんな政治案件に俺を巻き込むなー!


「今まで我慢していたけど、ハイファ。君こそ醜…………むご!?」


 俺は咄嗟に池谷の口をバチーンと叩きつけるように塞いだ。

 衝撃に、池谷も驚いたみたいで黙る。


「我慢してたならそのまま黙っとけ! 俺も空気読めないとか言われるけど、お前ほどじゃねぇぞ、バカ!」

「…………あぁ…………アマラ…………」


 ソムランの震える声が虚しく響く。

 気づいて辺りを見回すと、俺の蛮行に王さまから給仕まで、その場の全員が絶句して冷え切った空気が宴の広間を満たしていた。


隔日更新、全十七話予定

次回:乱入ってあり?

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