13話:邪竜ってなんだっけ?
奴隷+美少女+触手。
定番なんだろうけどさーーーー!
「アマラー!?」
紫色の触手に巻きつかれ、俺は窓から外に引き摺り出された。
ソムランが俺を助けようと窓に走るけど、それより早く触手は俺を空中に掻っ攫う。
「ぎゃー!? なんだこの触手ー!?」
「そ、そそ、それが、邪竜の幼体ですー!」
俺の叫びに王宮の使者が叫び返した。
なんでだよ!?
助けろよ! もう侵入されてんじゃねぇか! 手を打てよ! ってか、これの何処が竜だ!?
突っ込みどころが多すぎる!
「どうなってんだこの触手? ゲルみたいに硬い所と、ヌメヌメした柔い所にわかれてんのか?くそ、抜けねぇ!」
「おーい、アマラー? 大丈夫かぁ?」
すっごい半笑いでザナンが下から声かけて来た。
「お前、セオリー外さないなー」
「外したいわい! ともかく助けて!」
「いやなぁ、それが、こいつ刃が滑って斬れないんだよ。お前、自分の呪術で逃げられないかー? てか、何これ?」
「邪竜らしいけど、無理ぃ! こいつ本体じゃないから術がかからねぇ!」
「じゃ、本体近くまで運ばれるの待つしかないなー」
触手に運ばれる俺を追いながら、ザナンはそんな悠長なことを言う。っていうか、ソムランの屋敷の塀越えちゃったよ。
「落ちたら危ないからあんまり暴れないほうがいいぞー?」
「無理ー!」
見てわかれよ、これ気持ち悪いんだよ! 視覚的にも聴覚的にも触覚的にも!
一刻も早く抜け出したいの!
なんで邪竜なんて呼ばれる奴が触手系なんだよ!?
「アマラちゃーん!」
俺が泣きそうになってると、光の剣を手にした池谷が上から降って来た。
そのまま落下する勢いで触手を切断し、自分だけ綺麗に着地を決める。
「どうだい、僕の雄姿! 見てた? 見てた?」
「それどころじゃねぇよ!」
無様に尻から落ちた俺は、まだ体に巻きつく触手を剥がそうと悪戦苦闘してた。
それを、池谷は涎を垂らさんばかりに見てる。
「おい、待て。そんな目で見るな」
「はぁ…………、はぁ…………。リアルエロゲ」
「そんな目で見るな!」
「はいはい、お客さーん。ここからは別料金ですよー。割高になりますよー」
適当なことを言いながら、ザナンが申し訳程度に上半身を覆っていた布をはいで、俺についた粘液を取るのを手伝ってくれる。
「ところで勇者さまはこれ、倒したことあるんですよね? どうやって倒したんです?」
ザナンは池谷の視線から俺を守りつつ聞く。
当の池谷は触手の猛攻を片手で防いで切り飛ばしていく。けど、触手は次から次に生えて終わりが見えない。
っていうか、ザナンからチラ見えする俺に構わず、他にも触手に捕まってるおっさんやおばさん助けに行けよ! 本当に下心に忠実だなお前!
「これ、本体が伸ばしてる触手だから、本体来ればすぐにでも倒せるさ。なんたって僕は勇者だからね!」
「触手だいぶ多いですし、人間一人軽々と捕獲できる大きさありますけど、本体の大きさはどれくらいでしょう?」
「ドゥルドゥルのゴジラみたいだったな」
「「うぐ…………」」
ゴジラに謝れ!
俺とザナンは出そうになる叫びを必死に噛み殺す。
っていうか、本体も粘液塗れかよ! 邪竜ってなんなんだよ!?
「ごほん、相当でかいな。幼体なら小さいんだろうが、そんなのが街に入るとなると」
「た、大変じゃねぇか!」
歩いただけで壊滅するだろ! それこそゴジラのセオリー的に!
「勇者! すぐに本体倒して来い!」
「えー? ここで待ってればたぶん来るよ。この触手も僕を狙ってるみたいだし」
「余計に街の外行けよ! いや、行ってください! 勇者池谷のかっこいいとこ見てみたいなー!」
「喜んでー!」
俺の言葉に池谷は残像を残すほどの速度を出して触手の根元に向かって走り出す。
チョロイな池谷!
けど、スピード出し過ぎて触手置いて行くな! お前見失った触手が周りを問答無用で襲い始めてんじゃねぇか!
「おい、アマラ! あそこの色違うの、本体とかじゃないか?」
ザナンが指した先には、他の触手よりも黒っぽいドゥルドゥルの触手がいた。
確かに、紫色の向こうに芯のような黒い影がある。
「やってみるか!」
「アマラ、無事か!?」
「ソムラン! お前も手伝ってくれ。あの触手に近づきたい!」
「無茶をするな!」
剣を片手に助けに来てくれたソムランに声をかけ、俺は本体に繋がってそうな触手に向かって走る。
ソムランとザナンが俺を捕まえようとする触手を切り払ってくれたおかげで、芯のある触手に触れた。
けど、その触手はソムランの腕に絡みつき、上に持ち上げようとする。
「やめろ! 狙うなら俺にしとけ!」
咄嗟に魅了の呪術を使って、狙いを俺に向けさせると、触手は瞬間術にかかって動きを止める。
「あ、ヤベ…………」
ソムランの腕から解けた触手は、瞬く間に俺に向きを変えると殺到した。
「だー!? やっぱキモイ!」
「アマラー!」
「あーもー! このまま俺は街の外に向かうから!」
ソムランにそう叫び返して、俺は街を囲む防壁目指して道を走る。その間にも触手は俺を捕まえようと四方八方から伸びてきた。
足元を狙う触手を飛び越えると、横から伸びる触手がかすめて地面を転がる。
ザナンとサッカーもどきを練習してた時に転んでからすぐ起き上がる練習をしてたのが良かった。俺は止まらず転がって体勢を立て直すと走り続ける。
「アマラ! 無茶をするなと言っただろう!」
俺を狙う触手を払いのけ、ソムランが馬に乗って追いついて来た。俺に並走しつつ、剣で触手を払って時間を稼ぐ。
同じように追いついたザナンが持ってるのは、たぶんモーニングスターとかいう奴だ。うーん、世紀末感。
「ひぃ!? お、俺を食っても上手くねぇよ! 食うならこいつにしてくれ!」
「きゃーーーー! やめてお父さん! 誰か助けて!」
いたいけな少女を押し出して、触手の盾にするクソ親父がいた。
魅了をクソ親父につけてやろうかと思ったら、俺の横をザナンが駆け抜ける。そのまま馬から跳び下りて少女を片手に庇うと、もう片方の腕でクソ親父をフルスイングした。
「ナイス、ザナン!」
「後で追いつく! 無茶するなよ!」
少女を保護したザナンを置いて、俺とソムランは触手を払いつつ街の防壁を目指して進んだ。
「アマラ見えるか? 防壁の一部が崩落している!」
触手が伸びてくる先では防壁が崩壊してた。どうやら芯のある触手が突き崩したらしい。
「勇者さまは防壁の上だ! 何やら剣が光り輝いている!」
「ソムラン! この触手、勇者に押しつけたい! 防壁に上るところないか!?」
「真っ直ぐ進んで左手に防壁上部へ続く階段がある!」
「わかった! …………溜めてた呪力だけど、ここで出し惜しむ意味はねぇな」
俺は尽きそうになる体力を呪術によるドーピングで一時的に補う。ついでに、野猿と呼ばれたアマラの経験から、身体能力を向上させる呪術的な補助も発動させた。
「ソムランは安全な所に逃げとけよ!」
俺はそう声をかけて、手近な壷と二階の窓を足掛かりに建物の上部に跳んだ。続いて屋根を駆け、建物を飛び移り、左手へ少しずつ進路を変える。
行く先には、ソムランが言ったとおり防壁上部への外階段が作られていた。
「ギリか…………。ここで諦めてちゃ、男じゃねぇな!」
俺は防壁の階段に向けて建物の上から跳びだした。背後に迫ってた触手が紫の粘液を振り撒きながら空を切る。
ギリギリ階段に足が届いた俺は、体を捻って階段の中に倒れ込んだ。
痛い! けど、止まってたら触手の餌食だ!
「勇者! 何処だ…………って、いた!」
池谷は顔見知りだから触らなくても見るだけで呪術をかけられる。
俺は池谷に魅了の術を迷いなく押しつけた。
途端に、俺を捕まえようと突っ込んで来た触手が、池谷に狙いを変えて防壁の表面を削りながら上に移動し始める。
「う、嘘だろ!?」
耐震基準なんてないこの世界で、階段は脆かったらしく触手に削られ崩落する。
さすがにこれは呪術じゃどうしようもない。
「善き者よ! 我が友よ! 我を守り給え!」
精霊の気紛れに願いを託して俺は身を縮めると瓦礫の中に落下した。
背中から落ちた俺は体を襲う衝撃と痛みに息を詰める。それでも意識ははっきりしてるし、折れたとか血が出たような怪我の気配はない。
「うぅ…………。アマラ、無事か?」
「え!? ソムラン!? 嘘だろ、何やってんだよ!」
下を見ると、俺を受け止めるため瓦礫に飛び込んだらしいソムランがいた。
俺の無事を確認するように、手を伸ばして頬に触れる。
ザリザリするし、なんか血の匂いもするけど、俺のせいだよな?
「安全な所にって言ったのに! いや、じゃなくて、ごめん! すぐどくから!」
「アマラが無事なら、いい。…………私としては、もっと別の言葉が欲しいんだが」
「痛そうな顔しておいて、そんな軽口叩ける余裕あんのかよ? けど…………ありがとう。助かった」
「君のためなら、命も惜しくない」
「そこは他の奴らのために惜しめ」
そしてそんな決め台詞を俺なんかに使うな。勿体ない。
俺たちがお互いの無事を確かめている間に、邪竜の幼体は池谷によって消し飛ばされていた。
なんか邪竜爆発のちょっと前に、「愛っていいなぁ」なんて精霊の声が聞こえた気がしたけど、気のせいってことでいいよね!?
隔日更新、全十七話予定
次回:見た目八割って言うけどさ?




