11話:もしかしてクズ?
俺はドライフルーツを摘まみつつ、俺の現状をわかりやすく説明する言葉を探した。
異世界人が憑依してますなんて言っても、適当な言い訳扱いされそうだしなぁ。
「…………そう言えば、ソムランは爺さんから俺がこの屋敷で最初に呪術使った時、何か言われなかったのか?」
「あぁ、言われた。…………最悪、失敗して部屋で死んでいるかもしれないと」
「あの爺! わかってたなら止めろよ!」
俺が思わず叫ぶと、ソムランは宥めるように両手を挙げた。
「奴隷として売られた経緯を考えて、抵抗するのはわかっていた。最後の抵抗くらいは好きにさせてやれと言っていたのだが」
「それさ、最悪この体があれば結界維持の人柱にできるからって打算あってのことだろ」
呪力を溜める傍ら、俺は呪術師の爺さんに呪術を習ってもいる。
その中で、最悪アマラの体に呪術埋め込んで屋敷の中に埋めることで、結界維持の人柱にできると言われていた。
だから、体の中身が俺でもアマラでも、あの爺さんにとっては大した問題じゃないんだと。
「そうなのか?」
「知らないのかよ。…………ま、呪術使える素養がないと言ってもわからないか」
呪術は精霊を見たり、他人の思念を操作できたりする。
それはつまり、そういうことができて当たり前の素養がないと、呪術というもの自体を理解できないんだ。
「ソムランへの適当な説明はそのせいか? 俺が何してたかは聞いた?」
「いや。呪術師のやることに口を挟むのは己が呪術に染まるも同じだ。雇い主でも深入りしないのが常識とも言える」
「そういうもんか。…………簡単に言うと、俺は本来のアマラじゃない」
「は?」
簡単に言いすぎた?
ソムランの目が点になってる。
「奴隷になるのが嫌で、本来のアマラは逃げた。で、俺は代わり。体はアマラだけど、俺の意識はアマラじゃない。だから俺はアマラの体で誰かといい仲になる気はない。わかる?」
「…………さっぱりわからん」
「だよねー」
とは言え、ソムランは俺の訴えを流すことなく、じっと自分の中で理解しようと考え込む。
「本来のアマラという状態に戻れば、少しは前向きに考えてくれるということだろうか?」
「そこは本来のアマラに聞いてもらわなきゃわからないなぁ。たぶん、俺とこうして話してる記憶は本来のアマラに戻っても引き継ぐと思うから、その時になったら改めて口説いてくれ」
俺はつい他人ごとで言ってしまった。
自分のこととして考えてない俺の様子に気づいたソムランは、眉間を険しくして厳めしい顔になる。
「先ほども言ったとおり、私は君の内面も好ましく思っている。それが変わるようなら…………それはもう、私が思いを寄せる君ではないのではないか?」
「お、おう」
なんか改めて言われると恥ずかしいな。
俺、誰かに告白されたの初めてなんだけど?
何が悲しくて豚から猪に進化した野郎に言われなきゃいけないんだ?
逆に真剣すぎて泣けるわ。笑い話にくらいさせてくれよ。
「なぁ、ソムランって本当俺の何処がいいわけ? 自分でも残念美少女だって自覚あるんだけど、俺」
「確かに女性としてはとても外見を活かせない残念な性格ではあると思う」
そこははっきり言うんだな? てか、残念だと思ってはいたんだな? この野郎。
「それでも、君は私を忌避しないでいてくれた。私にとって、その一事が、どれだけ救いになったか」
「大袈裟じゃないか? ソムランのこと認めてる奴は他にもいるだろ? リュナシェーラやザナンや、他にもソムランだからついて行くって部下もいるじゃねぇか」
俺の指摘に、ソムランは困ったように笑った。
「ありがとうと言われたのは、初めてだったんだ」
「え? 嘘ぉ…………」
リュナシェーラやザナン辺りは言ってくれるんじゃないの?
と思ったら、ソムランは俺の考えを読んだように首を横に振った。
「普通奴隷は、主人に何かしてもらっても礼など言わない。恐れ多いと恐縮するものだ。ザナンはその辺りの線引きはしっかりしてるし、リュナシェーラは言葉ではなく行動で示すからな」
「言われてみれば。けど、ソムランくらい気づかいしてくれる人間なら、奴隷相手じゃなくても言われるんじゃない?」
「…………少し、昔話につき合ってくれるか?」
そう言ってソムランは、自分の父親について話し出した。
女奴隷を買い集めては、飢えた男に売り払い、気に入った女は自分の所に置いて美女だらけのハーレムを形成。その上、独身のまま女奴隷に手を出して、子供作らせても奥さんとして扱わない。
果てには女奴隷が生んだ自分の子を奴隷として売り払う。同じ奴隷商人の中でもやりすぎだと苦言を呈されるほどの外道。
「そんなクソみたいな男が私の父親だ」
「…………なんか、聞いたことある話なんだけど?」
「父の悪名は国内に広まっていてな。父が死んで代替わりした今でも、悪名だけは生きている。君が私に売られて抵抗したのも、父の悪名を私だと思ったからじゃないか?」
「そ、そうかも…………。言われてみれば、聞いた噂とソムラン違いすぎる」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。正直、新たな商売を提案してくれた時も、とても嬉しかったんだ」
ソムランがこうして結界を張った屋敷に籠っているのも、父親が築いた恨み辛みを息子に晴らそうという者がいるからだそうだ。
ソムラン自身は父親を反面教師に他人を蔑ろにするような商売はしていない。
けれど、ソムランよりも長く商売を続けていた父親の悪行は同業者にまで及び、気に入った奴隷は奪うわ、そのくせゴミのように捨てるわ、性格はクソだが商才はあったのでやりたい放題。
さらに奴隷を守りきれば商売できないよう嫌がらせをしていたため、死ぬまで誰も下手に刺激したくない面倒な害悪だったらしい。
父親が死んでも人間という生き物を扱う商売を投げ出すわけにもいかず、新たに売られてくる奴隷を放置することもできず、ソムランは仕事にストレスを感じていたようだ。
そんなソムランは幼い頃、全く父親の悪事を知らなかったんだとか。
「数えるほどしか会ったことがなかった。母を妻にしたのは親族の身を固めろと言う圧力に押されてのことで、跡継ぎを産んだ後には母にも私にも興味がなかったんだろう」
息子が生まれても、ソムランの父親は行状を改めなかったそうだ。
それを見て、親族の中で良識のある者たちはソムランに父親の轍を踏ませないよう厳しく育てたと言う。
母親は、夫を更生させようとしたが、ままならず身も心も細らせて、亡くなった。
…………重!?
え、なんかすっごい重い話されてる! ソムランにとってありがとうって言われたの、そんな根深いとこに響くことだったのかよ!?
こ、こんな時ってどんな言葉かければいいんだ? 「大変だったね」とか、「良く耐えたね」とかありきたりでなんか、心籠ってなくない?
「父の行状を私に教えたのは、リュナシェーラだった」
「リュナシェーラが? もしかしてリュナシェーラ、ソムランの父親の?」
お手付きだったの?
って言おうとしたら、ソムランがちょっと意外そうに俺を見た。
「君の呪術師としての能力を疑ったことはないが、気づいていないのか?」
「何が…………? って、あれ? そう言えばリュナシェーラとソムランって、同じ目の色して…………え!?」
呪術師は人間の思念に干渉できる。それはその人間の根源に触れるようなもので、根源に触れるとその人間の生い立ちなんかもわかるようになる。
で、今気づいたけど、ソムランとリュナシェーラって根源に共通点がある。つまり、血が繋がっているという証だった。
「兄弟!?」
「リュナシェーラは同じ年に生まれたと聞いている。二つくらいまでは同じ屋敷に住んでいたらしいが、リュナシェーラの母に飽きた父は、自分の娘ごと捨て売りしたそうだ」
「うぇ…………。反吐が出るってこういうことか。とことんクズだな」
「同感だ」
母親を看取ったリュナシェーラは、父親に文句を言おうと訪ねたが門前払い。
そこで諦めないのがリュナシェーラらしく、警備の緩いソムランのほうに突撃をかましたそうだ。
「リュナシェーラは父似でな。血の繋がりは確かだし、奴隷としてこの屋敷で生まれ、ここから売られたから記録もしっかり残っていた。私は父の実態を知り、同じようにはならないとリュナシェーラに誓った」
「ソムランが働きすぎなのって、そのせいか。誓いを大事にするのはいいけどさ、少しは自分のことも考えろよ。俺が来るまでお前の看病してたのリュナシェーラなんだぜ」
「そうなのか」
思うに、リュナシェーラはソムランに贖罪は求めてない。
俺をソムランの妾にって推すの、ソムランが俺に気があるからだ。俺のほうがソムランに気があっても、リュナシェーラは今ほど推してはくれないと思う。ソムランの重荷を増やしたいわけじゃないから。
「ザナンも中途半端な案出してソムランの仕事増やしたって気にしてたし、ここにはソムランを心配する奴はいても、責める奴はいないんだ。十分、ソムランは父親とは違う人間だって示してるよ」
「はぁぁああ…………」
え!? なんで俺、盛大に溜め息吐かれてんの!?
「君は、私を諦めさせてもくれないんだな」
「それ、どういう意味?」
え、なんの話?
あれ? ソムランが手を伸ばして適当に置いてた俺の手に重ねて来たんだけど?
って、おー。やっぱり体が大きいと手も大きいな。ザナンには劣るけど。そう言えば初めて会った時より手もすっきりしてる? 手も太るもんなんだなぁ。
「君のことは変わらずアマラと呼んでいいか?」
「へ? …………あぁ、本来のアマラじゃないって言ったの気にしてたの? いいよ、別に。この体がアマラだってことに変わりはないし」
「そうか…………。いつか、君の名前を教えてもらえると嬉しい」
いやー、日本名で呼ばれるようなことがあると、池谷に突っ込まれそうだし。
中身男だってあいつにばれるのは、ちょっと勘弁してもらいたいなぁ。
っていうか、いつまで俺の手握ってんの?
「アマラ、君は今、思う相手はいないと思っていいか?」
「思うって、好きな相手ってこと? いない、いない」
気軽に答えて気づいた。
ソムランがなんか真剣な顔して俺を見つめてることに。
え、やめて。なんか熱を感じるほどの視線なんだけど?
あ、ヤバい気がする…………。
「なら、どうか君を思い続けることくらいは、許してくれないか。君を思う気持ちが、今の私の意欲でもあるんだ」
「けど、俺…………」
「頼む」
うぅ、そんなマジで言われたら、適当なこと言って諦めさせるとかできないじゃん!
あーもー! 結局俺の罪悪感増しただけだー!
隔日更新、全十七話予定(訂正)
次回:お前は何をしに来たんだ?




