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10話:あれ、猪になってる?

「奴隷として女性を売るに飽き足らず、女性狙いの商売を始めて食い物にし始めた悪徳奴隷商め! 今日こそ僕が正義を示す!」

「ちぃ! 帰れ!」


 もはや天丼か!?

 本当、今それどころじゃないから帰れ!


 また不法侵入して警備の戦奴を困らせる池谷に、俺は舌打ちも添えて叫んだ。


「あと、その女性狙いの商売は俺が発案した料理屋だ。脂っこい肉に飽きたんだよ。頭からソムランを悪く言うな」

「…………ソムラン?」

「お前は誰の家に押し入ってんだよ!?」

「悪徳奴隷商、さ!」

「そいつがソムランだよ!」

「あの豚にそんな名前があったのか!?」


 本当うるせーなー!

 先触れがないからきっとこいつは一人で突っ走ってきやがったんだろう。で、そういう時は警備が誰かしら池谷を追って来てるはずだけど、今日に限っては誰も来ない。

 どうしてだ?


「…………おや、誰も来ないね?」

「追い出されるのわかってて侵入するな、居座るな。もうお前元来たとおりに帰れ。今日はみんな忙しいんだよ」

「アマラちゃんが困ってるなら、僕が手を貸そう」


 お前の存在に困ってんだよ! この勇者さまはよぉ!

 なんて心の中で叫んでると、ようやく重い足音が…………なんかザナンに呼ばれる声がする。


「アマラ! 何処だ!?」

「ザナーン? こっち勇者来てるけど?」


 返事をすると、ザナンは俺と池谷のいる部屋に飛び込んで来た。

 利き腕に切り傷を負った状態で。


「ザナン!? どうした!」

「勇者の侵入に合わせて、賊が入り込んだ! 確認できただけで五人。屋敷内部の部外者の特定をしてくれ!」

「わかった! けど、お前のその傷毒だろ? 手遅れになるとヤバい気がする!」

「やっぱりそうか…………」


 傷は小さいのに、ザナンの利き腕は全く持ち上がらないほどになってる。本人もわかってたみたいだけど、俺を捜してここまで走ったらしい。

 俺が呪術を使う間にザナンはベルトを使って利き腕の止血を始めた。


「小さきものよ、我が友よ。主の住処を穢す賊徒を示せ」


 呪術師の爺さんが張った結界の中に据えられた精霊ジンを使って、俺は賊の数を特定する。


「侵入者は七人だ! …………近い!?」

「あぁ、いるね」


 突然呟いた池谷は、俺とザナンの横を駆け抜けて、廊下に手を突き出した。

 その手にはいつの間にか光を凝縮したような剣が現れており、部屋に入り込もうとした黒尽くめの賊を貫く。


「な、なんで?」

「この僕にくっついて来た精霊ジンが目印なんだろう? 違った?」

「いや、確かにお前もそいつも七人の侵入者の内の一人だけど…………」

「ってことは残り五人か」

「ザナン! 毒抜きするから動くな!」

「そうそう。怪我人は大人しくしているといい。アマラちゃんのために賊は僕が駆逐してあげよう!」


 お前も賊だ!

 なんて突っ込みも待たず、池谷は勝手に部屋を出て行った。


「大変だ! アマラ、早く毒抜け!」

「わわ、わかった!」


 けど俺がザナンを呪術で解毒する間に、屋敷を走り回る勇者という名の侵入者に、上を下への大騒ぎとなってしまっていた。


「お前それだけ元気ならさっさと邪竜倒して来い!」


 俺は召喚理由を蔑ろにする池谷を蹴り出して、ようやく一息つくことができた。


「はぁ…………疲れた」

「お疲れのところ悪いが、こうなったらお前にはソムランさまについててもらうしかない」


 ちゃんと腕の治療をしたザナンが、声をかけて来た。


「爺さんのほうじゃなくてか?」

「あっちはただの二日酔いだろ。それより、いきなり倒れたソムランさまのほうが用心すべきだ。…………まぁ、過労なんだろうけどな」

「それについては俺たちも一旦担ってるよなぁ?」


 実はソムラン、寝込んでる。

 店で暴漢と会ってから十日、ソムランはいつにも増して忙しく人と会い、報告を受け、指示を飛ばしと働いていた。

 そして昨日の夜、何処かへと出かけた後、呪術師の爺さんに労いと言って酒を甕でやり、今朝起きて仕事をしようとしたところで倒れてしまっている。


「やっぱりサッカーもどきはもっと詰めてから出すべきだったなぁ。飲食店のことで仕事量増えてたってのに」

「リュナシェーラが怪我したことですっごい怒ってたのもあるんだろうけどな」


 今さら言ってもしょうがない。

 俺は一時的に爺さんから預けられた結界の維持をしつつ、ソムランに危険が迫れば即応できるよう、ソムランの寝室に向かった。


「って、リュナシェーラ! なんでここにいるんだよ。まだ怪我治りきってないだろ」

「あら、アマラ。勇者さまはお帰りに?」

「帰った帰った。爺さん復活するまで俺が守っとくから、リュナシェーラも休めよ。怪我の腫れ引いても、まだ疼くだろ?」


 怪我をした時にばい菌が入ったのか、リュナシェーラは傷口の腫れと発熱があった。

 今は引いていても、美人の顔に包帯は痛々しい。


「…………じゃ、アマラに看病任せちゃおうかな?」

「え、看病? 俺、そんなのやったことないって。他に適任いるだろ」

「さっきの侵入者騒ぎで屋敷の備品色々壊されたらしくて、みんな片づけに出払ってるの。だから暇なあたしがここにいたんだけど。アマラが休めって言ってくれるなら甘えちゃうわね」

「マジかよ」

「ソムラン起きたら状況説明してあげてね」


 片手で口元を隠して笑いを堪えるリュナシェーラは、上機嫌にソムランの寝室を後にした。


「ちぇ、看病するならリュナシェーラ相手のほうが…………って、そうでもないな」


 未だに房事の講習を諦めてないから、耳塞ぎたくなるような話されるんだよな。

 慣れない女の体で、月のものとか滅茶苦茶世話にはなってるんだけど、だからってソムランの妾にはならねぇっての。


「なーんでこんな見かけだけの女に引っかかるかな?」


 ソムランのために用意されただろうドライフルーツを摘まみ食いしつつ、険しい顔で寝てるソムランを覗き込んだ。


 …………あれ? こいつこんな顔だっけ?

 ほぼ毎日見てる顔だけど、こうして上から覗き込むなんて初めてだ。

 それに、ここのところ運動をザナンが、食事をリュナシェーラが改善させたため、顔の肉はずいぶんと取れていた。

 埋もれるようだった目元は元の彫りが深かったらしく、太い鼻と合わせると白人のような顔つきだ。

 頬や顎の肉もなくなっているけど、元の骨が太いみたいで威圧感はあんあまり変わらない。


「せっかく痩せても、相変わらず新しく買った女奴隷には泣かれるんじゃな」


 あれだな。もう豚じゃないけど、筋肉ついてごつくなった分野性味が強まってる。だから、猪だ。

 うん、女子人気なさそう。


 なんて失礼なこと考えてたら、ソムランが目を覚ました。


「よう、気分はどうだ? お前倒れたんだぜ? …………あれ?」


 寝ぼけてるらしいソムランはぼんやりしてる。けど、俺を見返してるから聞いてはいるみたいだなんだけど、こいつの目の色って。


「ソムランって目の色、金色だったんだな。普段見上げてばっかだから気づかなかった」

「…………好きだ」

「…………聞かなかったことにする」

「早い…………」


 ソムランは厚みのある両手で乙女のように顔を覆ってぼやく。

 いや、起き抜けに何告白してんだよ。

 まぁね、もう屋敷の中でお前が俺に惚れてるの知らない奴のほうが珍しいくらいだよ?

 だからってなんで今言ったし?


「っていうか、よく考えたらちょうどいいな。俺から言うのは禁止されてたから」


 俺の声にソムランは指の間から俺を窺う。

 だから、そういうのは可愛い女の子がやってこそなんだって!

 いや、けど俺がやっても…………うーん?


「じゃなくて…………。ソムラン、俺はお前を恋愛対象として見れない。無理。ない。ザナンと同じくらいない」

「…………うぐぅ…………」


 いきなり唸るなよ、怖いな。

 それ、もしかして傷ついてる感じ?


「ザ、ザナンと同じくらいというのは、少しは、希望を持ってもいいのではないのか?」

「いや、ないって。まだ俺たちの仲疑ってたのかよ。ただのいい友達だって。逆にお互いその気が微塵もないから友達してられるんだし」

「うぅ…………そう、か…………」


 え、泣いてる?

 俺、泣かせちゃった?

 うーん、俺のこと諦めてくれれば仲良くできそうないい奴だとは思うんだけどなぁ。


「なぁ、ソムラン。あんたは俺の何処が気に入ったんだよ? 姿形だって言うなら、もしかしたらワンチャンあるかも?」

わんちゃん? よくわからないが、私が好ましく思っているのは見た目に限ったことではない」

「あー、だったら無理だな」

「な、何故だ!?」


 俺の解答が予想外だったのか、ソムランは勢いよく起き上がった。

 元気そうだな、うん。寝て回復するくらいなら良かった良かった。

 さーて、せっかくソムランから言い出したんだし、ここで上手く諦めて欲しいんだけど…………。

 肝心なこと言ってないのって、俺、不誠実すぎるよなぁ。


隔日更新、全十六話予定。

次回:もしかしてクズ?

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