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1話:俺が美少女?

 皆さんおはようございます。

 夜寝て起きたら、俺、美少女になってました。


 いや、何言ってるかわからないとは思うよ?

 俺もわからないもん。

 あ、ありのまま今起こったことを話すぜ。


 二十一世紀の日本に生まれて、別に特殊な過去もなければ、特別な力もない高校生の俺。

 いつもどおり夜、部屋で寝て起きたら、分厚い絨毯に大小さまざまなクッションの中にいた。誓って言っておく。ここは俺の部屋じゃない。

 っていうか周りは石でできてて、空気はちょっと埃っぽいけど冬並みに乾いてる。明らかに日本じゃない。

 そして近くにある金属の水差しに映ってるのは、歪んだ像でもわかる美少女なんだ。

 頭がどうにかなりそうだ。

 なんか恐ろしいものの片鱗を味わってる。


「うぅ…………これがポルナレフ状態…………?」


 目覚める直前、俺は夢を見た。

 夢、だと思いたい。なんか今喋った声が女の子っぽいのも気のせいだと思いたい!

 だって、『やってらんねぇ! あたしゃ一抜けさせてもらう、あばよ!』って、金髪碧眼の美少女が吐き捨ててたんだ。

 そして、水差しに映ってる美少女、夢の奴そっくりなんですけど?


「いやいや、俺が美少女とか。ないない。はは、ないって。ない、よな…………? と、ともかくよく見なきゃ」


 水差しに手を伸ばしたら、なんか胸元で揺れてる! そして足の間にあるべき物がない!

 すっごく嫌な予感がするんだけど、もっと大変なことに気づいた。

 腕になんか光る幾何学模様が浮かんでるんですけどー!?

 え、何これ? あ、どんどん薄くなってく。


「怖! え、何これ、怖い! …………なん、だ? この記憶…………」


 光がなくなって行くと同時に、俺は体に刻まれた記憶が頭の中に浮かぶのを感じた。

 正直気持ち悪い。テレビを見るより生々しく、その時の感情までわかるけど、この記憶は明らかに俺のものじゃない。


「く…………、呪術師の、アマラ?」


 それがこの美少女にして、体を捨てて身代わりに俺をこの体に詰めていった奴だった。

 どうやらアマラは呪術師としての才能があって、その才能を伸ばそうという意欲もあった。けど、それを周囲の大人、主にアマラの父親を始めとした親族の男たちが反対したようだ。


「いや、呪術で抵抗した末に、手に負えないからって奴隷として売るなよ、親!」


 そして俺を身代わりに置いて行くな、アマラ!

 似た者親子じゃねぇか!


 アマラは抵抗したけど売られて、最後の手段で体から逃げ出した。

 体から逃げるためには変わりの生贄が必要だったらしく、適した魂を探して呼び出した。それが、俺。


「ふざけんな! なんで奴隷として売られた奴の身代わりなんだよ! しかも俺は男だぞ!? もうちょっと人を選べ! いや、選ぶな! 他人を巻き込むな!」


 『あばよ!』じゃねぇ!

 俺はやり場のない怒りを、水差しに映る美少女に叩きつける。

 一人息を荒くして座り込むと、広がる裾が目に入った。

 俺が今着てるのは、ぴったりしたTシャツに巻きスカート。さらに上から透けるほど薄い布を羽織ってる。

 なんか、中東とかインドの民族衣装っぽくて、全てに刺繍がびっしり。

 鮮やかな色の布や刺繍は、全て人の手で作られている。ここはそういう世界で、今着てる服はアマラが着たことないくらい高いことは、体の記憶でわかった。


「そうだ、こんなことしてる場合じゃない。早く逃げないと、アマラを買った奴隷商人がここに来る…………!」


 アマラが世を儚んで体を捨てた理由。

 それが、アマラを買った奴隷商人だった。


 それなりにやり手の商人らしく、若くして呪術師なんてしてたアマラにも奴隷商人の噂は聞こえてた。

 女奴隷を買い集めては、飢えた男に売り払う。

 けど気に入った女は自分の所に置いて、美女だらけのハーレム形成してるって。


 ただ、アマラの記憶によるとハーレムって、王族にしか許されないことらしい。

 だから、実際はハーレムと呼ばれるような一夫多妻じゃなく、独身の奴隷商人が女奴隷に手を出しているだけで、奥さんにまではしてないとかなんとか…………。

 それはそれで、奴隷商人クソだな。

 飽きたら売るし、奥さんじゃないからなんの責任も負わない。そんな相手を複数人。

 アマラも奴隷商人に対する認識は俺と同じだったらしい。


「だからってな! 俺を巻き込んでんじゃねぇよ! いきなり風呂に入れて着飾らせて、明らかにこれ、ぐへへ案件だろ!?」


 アマラの純潔とかどうでもいいけど、今は俺の純潔なんだよ!

 何が悲しくていきなり野郎の餌食にならなきゃいけないんだ!


「くっそー。アマラが最後の力で術使ったせいで、俺は魔法っぽいの使えないみたいだし」


 アマラの記憶を見る限り、呪術師としての力を蓄えればまた魔法のような力は使えそうだ。けど問題は、今この体に呪術を使うだけの余力がないこと。

 アマラの奴、俺と入れ替わるために力全部使っていきやがった。

 さっき寝てたのは、力の使い過ぎで気絶してたからだ。


「体力も力の使い過ぎでマイナスだし。あと、自分についてると案外邪魔だなこれ!」


 腹立ってきた!

 こんな胸揉んでやる!


 もみもみもみみもみもみもみもみもみ…………。


 うん、自分の胸って揉んでもつまらねぇ! あと、力入れすぎると普通に痛い!

 って、こんなことしてる場合じゃないんだよ!

 一人苦悩してる俺の耳に、重い足音が聞こえて来た。


「げ、来た!?」


 くそ、この部屋壁にタペストリー飾られてるだけで、窓が見当たらない。

 俺が隠れ場所を探して慌てている間に、木製の扉が外から開かれる。

 現れたのは、入り口を扉の代わりに塞げそうな巨漢の男。

 太い鼻に肉に埋もれぎみの目、唇が薄めな分、頬肉や顎肉が目立つ。

 黒髪だけど明らかに顔つきは黄色人種じゃない。体の各部位は大きく丸々としていて、例えるならその姿は豚のようだった。


「ひぃ…………」


 入って来る豚に、思わず引き攣った声が漏れる。

 自分でも驚くくらい怯えた声だったけど、これってしょうがなくない?

 寝て起きたらいきなり貞操の危機だぜ? しかも他人の代わりに性別まで変わってさ!

 あ、やべ。理不尽さに涙出そう。


「…………私は、今日からお前の主人となるソムランだ」


 何故か入り口の辺りで足を止めた豚似の奴隷商人が名乗った。

 俺も名乗るべき? アマラって? 中身男ですなんて言って聞いてくれるかな? 俺も被害者なんですって?


「怖がる必要はない。身を任せれば辛い思いはさせないことを約束しよう」


 あっー! 見た目美少女なら関係ないよな!

 くそ! しかもなんか出てきた記憶に、アマラの父親たちの罵詈雑言がある。

 呪術師っていう存在自体、恐れられて嫌がられるもんらしい。呪術で中身入れ替わった不思議人間なんてばれたら、それこそ気味悪がられて殺されそうだ。

 一歩ソムランが近づいて来たのを見て、俺は反射的に大きく後ろに下がる。


「ご主人さま、手伝いましょうか? 先ほども何やら騒いでいた様子」

「いや、慣れている。お前は下がっていろ。そうだな、少しの間人払いを」


 扉の外にいる奴に声をかけられ、ソムランは辺りから人を遠ざけた。


 慣れてるってなんだよ! いったい何人を食い散らかしたの!?

 いや、聞きたくない! けど俺もそうなるの!?

 拒否権プリーズ!


「悪いが、呪術師だと聞いているので対策はさせてもらっている。無駄な抵抗は考えるな」


 そう言って、ソムランは首から下げた大きなペンダントトップを持ち上げた。

 えーと、アマラの知識からすると、厄除けのおまじない?

 俺の知識と照らし合わせて言うなら、状態異常無効のアイテムっぽい。

 ずる…………!

 呪術使えてたら、幻覚見せることもできたのに!

 今は、使えないんだけどな!


「これは一つの商売だ。何も悪いことではない。私の役に立つのなら、君の生活は保障しよう。何より君にはもう帰る場所はない。諦めたほうが身のためだ」


 言いながら、ソムランはじりじりと近づいてくる。

 太い指のついた手を広げて、懐柔しようとするかのように。


 ごめん、中学の時に変質者に追いかけられた辻本!

 それくらいで泣くなよなんて言って、本当にごめん! 俺何も知らなかった!

 てか何これ、めっちゃ怖い! 体格差だけで逃げられないのわかるのも怖い!

 んでもって怖くて足に力は入らなくてヤバい!


「…………き」


 俺の口から引き攣った音が漏れると、ソムランは足を止めた。


「き?」


 耳を傾けるように俺に向かって屈みこんでくる。

 その影が迫る恐怖に、俺の理性は決壊した。


「きゃーーーー!」

「ぶへ!」


 俺はアマラの甲高い声で叫びながら、手元にあるクッションをソムランに向けて投げつける。

 アマラの運動神経は悪くないらしく、俺は元の肉体と同じくらいの命中精度でクッションをソムランの顔面に当てていった。


「きゃー、きゃーー、きゃーーーー! 来るなー!」


 渾身の叫びと共に、手元のクッションを投げ尽した俺は、荒い息を吐き出しながら床に手を突いた。運動神経悪くないけど、男に比べると体力少な!

 …………もう駄目だ。俺、終わった…………。


 絶望に打ちひしがれる俺に、ソムランが手を伸ばそうとした時、突如として部屋の中に外の光が差し込んだ。


「そこまでだ! 悪徳奴隷商!」


 窓を塞いでいたらしいタペストリーを切り落とし、突如室内に入って来た男は叫ぶ。

 どや顔で入って来たのは、茶髪のイケメン。

 着ているのは、何処にでもありそうな紺のブレザー。

 顔つきはイケメンだけど、どう見ても骨格からして細い黄色人種。


「「へ…………?」」


 あまりのことに、俺はソムランと同時に間抜けな声を漏らしていた。


隔日更新、全十六話予定

次回:これが女の勘?

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