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対夏の風物詩

作者: 山田助兵衛

動力は単3乾電池一本で駆動します。(意外とハイテク)

『出来ました!』

 毎度毎度ドアをぶち抜きそうな勢いで仮にも上司のいる部屋にノックも無しに飛び込むのは例の部下である。

 で、その上司と言えば別段驚きも怒りもしないでタバコの灰をトントンと灰皿に落としてから口を開いた。

「で?今度の物は━━ん?」

 上司の机の上にでんと置かれた物は、夏になるとよく見掛けるような物であったが。

「これは蚊取り線香かね?いや、しかし━━」

 そう。夏になると活躍する例の渦巻き状の物ではあるが、その下には何やら5cm×5cm程の少しだけ厚みのある箱がくっついている。

「いえ、これは単なる蚊取り線香ではありません!」

「まあ、そうだろうな。君がそんなマトモな物を作るとは思えん」

「はい!これはその名も━━『ガトリング線香』です!」

「……随分物騒な名前に聞こえるが、どんな物なのかね」

 そしてその部下は素早くポケットからライターを出して線香の端に火を着けた(勿論上司の机の上である)。

 が、着火の火が消えても、普通に一条の煙が上に伸びていくのみで特に変わった様子は無い。

「これはですね、自動で蚊を狙い撃つ機能があるのです」

 そして部下はさらにどこからか大きめのジャムの入れ物のようなガラス瓶を出した。その中にはどうやら大量に生きた蚊が入れられているようだった。

「それ行けっ!」

そして広口の蓋を開ければ待ってましたとばかりに中の蚊が一斉に外へ飛び出して行く。すると━━。

 スパパパパパパパパッ!!

 それまで静かに立ち上っていた煙が突如四方八方へと、それこそガトリング砲が火を吹くが如くに撃ち出された!

 スパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ………………パスっ。

 そしてようやくその連射が収まった時には、全ての蚊は動かぬ死骸へと成り果てている筈なのだが……。

「成る程ねぇ。確かに蚊は見事に殲滅したらしい(・・・)な」

「はい……」

「ただし━━」その上司は手探りで灰皿を引き寄せ、タバコをぎゅっと押し付けて消しつつ言った。「君の顔すら見えない位に煙が充満するのは『少々』問題だと思うのだがね」

「その通りですね……。やはりこれも━━」

「ボツだ」

 火事と誤解されなければよいが、と思いつつも上司の男は窓を開けて取り敢えずは煙を外に逃す。

「はあ……それでは失礼します」

「いや、待ちたまえ」

 肩を落として部屋を出ようとした部下を、何故か上司の男は呼び止めた。

「はい?あ、蚊の死骸を片付けなければなりませんでした」

「まあ、それもあるのだが……。その蚊取り━━ガトリング線香を少し改良して貰いたい」

「改良ですか?」

「そうだ。上手くするとこれはイケるかも知れんな」

 そうして上司はニヤリと笑った。


 その半月後には『ガトリング線香』は一部の仕様変更をされ、無事に発売された。具体的にはその渦巻き上に目盛が付けられ、蚊のいる数を目安にそこで折って使うと確実にその分の蚊を落としてくれ、特に一匹だけ紛れ込んだ鬱陶しい蚊を落とすのに効果的だという事、さらには花火のようで面白いという副産物まで評価されて意外なヒット商品になったのであった。

これからの季節、こんなのあったら欲しいですねぇ……。

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