色々な武器
「それでは御三方、また会おう」
伝えたかった話を全て伝えたからか、ドラゴはさっさと立ち上がると再び迷宮の方へと歩いていった。
ほんとにアイツは生粋の廃人というか、なんというか。
「ごめんなさいね、2人とも蚊帳の外で」
「別にいいよ~」
「大丈夫です!」
ドラゴが二人きりで話したいと言うから、さっきまで2人には少し離れたテーブルに移ってもらっていた。
多少申し訳ないと思って伝えた謝罪だったんだけど、2人は全く気にしていない様子でそう答えた。
「まだ時間はあるし、もう少しだけお茶していきましょうか。なんだか楽しそうだったけど、2人は何を話してたの?」
「これの話とか?」
「あー、主に武具の話ですね。赤狼装束はもうだいぶ有名すけど、影縫の方は新武器じゃないですか。いいですよねこれ、黒より黒いって感じで」
2人が指し示したのは、ナナがはるるに制作を依頼し完成させた影縫だった。
ビジュアルや組み込み機構のようなリソースを全て排除し、純粋な素材の強さのみを引き出した一品だ。
確かに強い。純粋な火力のみなら作成直後のネームドウェポンにも匹敵するだろう。もちろん特殊能力などは一切ないので総合的には影縫の方が下だけどね。
ただ、実質的不壊と言っても過言ではない耐久を加味すると、継戦能力で今のナナを越えられるプレイヤーはいないだろう。
ナナのこの武器が造られるまで、オーバーヘビーメタルなんてはっきり言って産廃金属だった。
馬鹿みたいに重いから使い手が限られる上に精製に必要なスキルレベルは高く、貴重な素材も使用する。
精製のコスパは最悪で、更に鍛造も非常に長い時間を要する。根気のないプレイヤーでは武器の形にすることさえ困難な代物だ。
いざ作ってみれば多少高めな攻撃力と頑丈さ以外取り柄は微塵も存在しない。
ごくごく一部の変人だけが使用するような、まさに産廃のはずだったのだ。
「影縫に限ってはほんっとにいい武器なのよねぇ……」
「うへへへ」
「性能聞いてビックリしましたよ。俺もヘビメタの大盾とか作ってもらおうかなぁ」
「そう言えば大盾使いだったのねぇ」
影縫を抱きながらだらしなく笑うナナは置いといて、席の横に立て掛けてあるブルームの装備を見る。
盾というのはなかなか面白い武器で、片手用か両手用かで使い方が大きく異なる。
間違ってはいけないのが、盾というのはこのゲームでは防具扱いではないという所。もちろん基本的には防御に使うものではあるけれど、打撃武器の一種でもあるのだ。
シールドバッシュなんかは分かりやすい攻撃方法のひとつだろう。突進しながら攻撃することで、身を守りつつダメージを与えられる。
特にブルームの持つ大盾でそれを行えば、重量も相まって凄まじい威力を叩き出す事もできる。
扱いは非常に難しいものの、安定した戦い方もできるし、素材しだいで色んな魔法にも優位が取れる。
欠点はその鈍重さだけど、上手く使えればそれも補ってあまりある便利な武器種だ。
タンクプレイヤーが使う武器の中では三指に数えられる人気度と言える。
「ガッチガチにタンクやりたくて。俺はあまり応用効くタイプじゃないすから、一番スタンダードな大盾タンクしてるんです」
「あら、いい事じゃない。今後の流行はさておき、いつの時代も流行が出来るってそれなりに理由があるものよ。大盾タンクはオールラウンドに強いからいいわよね」
「そっすかね? リンネさんに言われるとなんか安心します」
今の言葉に嘘はない。
実際に大盾タンクは強力な壁役になれるし、やや火力に乏しい分防御力は紛れもなくこのゲームで一番だ。
そもそもタンク自体が比較的少なめの中、ちゃんとタンク職を張れるプレイヤーというのは貴重だ。
少なくとも初心者の壁であるフィーアスまであっさりとタンクでこられているあたり、彼自身も相当に優秀なプレイヤーではあるのだろう。
「崩しづらいから私は嫌だなー」
「心にもないこと言うのはやめましょうねー」
「ひどいな~」
特にショックを受ける様子もないナナに、本当に冗談でしかなかったというのを理解する。
そもそも打撃武器は刃物に比べれば盾持ちに有利なのだ。
理由は純粋に、武器自身が発生させられる衝撃の強さの違いだ。どうあっても斬撃や刺突では打撃に比べて純粋な衝撃に劣る。
インパクトの瞬間に発生するエネルギーが、純粋に重さのある打撃武器の方が大きいのだ。
そもそも打撃武器自体が切断や刺傷などの特殊効果を持てない分、純粋な威力が高めな武器だしね。
そして衝撃を上手く通せれば、盾の上からでも幾らかのダメージは与えられる。
これは重量があって頑丈な打撃武器の特徴と言えるだろう。
代わりに斬撃なら切断や失血、刺突ならそれに加えて貫通という強力な効果を持つわけで、更にいえば打撃武器に比べれば急所も狙いやすい。
ナナがアホみたいに急所狙いが上手いだけで、本来インパクト面が大きいのに最大威力の有効範囲の狭い打撃武器は急所狙いがしづらいのだ。
「最近ちょっと打撃武器の人気も上がってるらしいすよ。スクナさんのおかげかもですね」
「そうだといいねぇ。本当は私も色々使ってあげたいんだけど、これが一番しっくり来るんだよ。でも両手棍とか久しぶりに使いたいなぁ」
影縫を抱きながらそういうナナを見て、私たちは思わず苦笑する。
「スクナさん、両手棍なんか使ってましたっけ?」
「配信外で使ってて一日で壊しちゃった」
「もう少し大事にしてあげてください」
「相手が強くてさぁ……フィニッシャー使ったんだよねぇ。だから壊れちゃった」
ナナが両手棍を使っていたらしいのは、ロウと戦った日の話だったか。
変形式の両手棍を貰って即壊したというある意味凄い話だけど、それでもなおナナに武器を作っているはるるという鍛冶師も中々のものだ。
即日ぶっ壊すとか流石に私が製作者でも唖然としそう。
それに、私の記憶する限りはるるは剣作りの達人だとかいう話だったはずだけど……オーバーヘビーメタルの精製と鍛造ができるってことは、少なくとも相当の熟練度を打撃武器の製作に振っていることは間違いない。
何よりオーバーヘビーメタルで金棒を作りたいなどというナナの要望に嬉嬉として応えてる辺りがもうおかしい。
「ナナは追い詰められたら躊躇いなくフィニッシャー切るもんねぇ」
「武器スキルの序盤に手に入れられるアーツとしては破格ですからね。でも、そんなあっさり武器を捨てられるってのも思い切りがあって凄いすけど」
「うーん……まあ武器は武器だし。なくなっても殴ればいいし」
武器よりも何よりも自分の体が一番信頼できるナナにとっては、確かにそういう一面はあるのかもしれない。
それでも基本的には素手より武器を持った方が強いのがこのゲームだ。何せリーチが段違いだし、盾としても使える。
《素手格闘》はそういったデメリットを考慮した上で高めのスキル性能を与えられてはいるけれど、それでも武器なしというのは想像以上にデメリットが大きい。
「一応素手格闘スキルもあるんでしたっけ?」
「ちょっとだけ熟練度上げたよ。あのスキルは最初から沢山アーツがあるから使いやすくていいよね」
「最初から全アーツが解放されてるものねぇ」
素手格闘スキルは10のアーツを持つスキル。
熟練度を上げようと上げまいと、この部分だけは最後の最後まで変わらないんだとか。
そしてその10のアーツは全てが最初から解放されていて、自由に使うことが出来る。
確かナナが実際にいくつかのアーツを配信で使っていたはずで、その中には素手格闘の最大連撃アーツ《十重桜》もあったはずだ。
このゲーム始まって以来、未だに最大威力の《十重桜》が放たれたことはない。
それはつまり、素手格闘スキル最大の「切り札」が使われたことがないということを意味する。
「ちょっとね、もう少し筋力値を上げればもしかしたら……っていうのがあって。素手格闘も育て上げたいんだよねぇ」
「へぇ、そうなんすね。あんま素手格闘で戦ってるプレイヤーって見たことないんで、スクナさんの配信楽しみにしてようかな」
「うーん、もっとレベリングしないとだからしばらくは先の話になるかも。少なくとも一週間くらいかなぁ」
「上手く行けばイベント最終日にはレベル足りてるんじゃない? まあ、肝心の撃つ相手がいないのがネックよね。《十重桜》を耐えられるモンスターが全然いないもの」
3人であぁ……とため息をついてから、揃って笑いを零す。
意味もなく動作が揃ったせいで、思わず笑ってしまった。
武器やスキルの話をしているだけで盛り上がれる。
これもまた同じゲームに熱中しているからこその楽しみだった。
ゲームやってると武器の話だけで無駄に盛り上がれたりしますよね。