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メネアスの気まぐれ

 ボヨン、ボヨン。

 そんな風に音を立てて弾むスライム、メネアスに対して、私はなんとも言えない気分で立ち尽くすしかなかった。


「何もしてこないね」


『可愛い』

『可愛い?』

『可愛くはない』

『なんか面白い』


 非アクティブ状態なのか、ひたすらにボヨボヨ弾んでいる巨大スライム。レベル差は2倍近くあり、打撃が効きそうな相手でもないから、はっきり言って勝てる気はしない。

 多分これがアーちゃんが言ってた永久焦土の奥地にあるものなんだろう。

 打撃にも斬撃にも強そうな体は魔法に弱かったりするのかもしれないと思いながら眺めていると、メネアスは体の一部を変型させて、ゆっくりと触手のようなものを伸ばしてきた。

 警戒する私を他所に、メニューカードをつつくメネアス。何かを訴えかけているようだけど、なかなかその意図が掴めなかった。


「なんだろう」


『触手プレイ?』

『↑おいやめろ』

『なんか可愛いね』

『欲しいものがあるとか?』

『鉱石が欲しいんじゃ?』


「なるほど」


 試しにヘビメタを取り出すと、触手にペシッと叩き落とされた。

 軽く掠っただけでHPが4割も消し飛んだ。嘘でしょ。


「ヘビメタじゃあご不満ですか……」


 あと2回ミスったら私、死ぬんじゃないだろうか。

 ぺたぺたとメニューカードを叩く触手が増えるのも構わず、私は鉱石に限らず手持ちのアイテムからメネアスが欲しそうなアイテムを吟味する。

 まあ、今手持ちにあるレアな素材って意味ではレッドメタルがベストな選択だろうか。

 あとはもうひとつ、とっておきの素材があるけど……。


 とりあえず手持ちのレッドメタルをありったけ出してみる。と言ってもインゴットが3つくらいしかないんだけど。

 炎属性の素材で武器を作りたい時に、一番馴染ませやすいのがレッドメタルという鉱物の特徴だ。

 見た目炎属性のメネアスに対して、今一番興味を持ってもらえそうなのはこれだろう。


 ボ、ボヨン、ボヨヨンと身体を弾ませたメネアスはレッドメタルを触手で絡め取ると、体内で燃え盛る火にくべて液状に溶かしてから吸収し始めた。

 もったいなくは思うけど、3時間で3つくらいは取れるアイテムだ。また集めればいい。

 メネアスが何を考えてるのかさっぱりわからないけど、触手で何かを急かすのはやめてくれたらしい。

 じわじわとレッドメタルを吸収しているメネアスはどことなく気持ちよさそうに震えていて、少なくとも嫌がってはいないようだった。

 しばらく吸収に時間がかかりそうだし、かと言ってここから逃げ出すというのもなんだかもったいない気がした私は、とりあえずポーションを飲んで様子を見守ろうとした。


「あっ」


 油断していたとはいえスルッと私の手からポーションのビンを掠めとったメネアスは、ビンを何度か揺らしてからビンごとポーションを体内に取り込んでしまった。


「うーん……何がしたいんだろう」


『わからん』

『不思議な生命体だ……』

『触ってみたい』

『溶かされたい』


「アブノーマルな趣味はここではダメです」


 本当に不思議な生命体だ。今の所害意は感じられないけど、普通にダメージは受けたわけで。

 リスナーの間ではチキンレースのごとく私に近付けだとか触れだとか無茶を言ってくるけど、一発でもぶん殴られたら即リスポーンなのを理解して欲しい。


 10分くらい待っただろうか。遂にレッドメタルを消化しきったメネアスは、体内の炎の中から宝石のようなものを生成し、吐き出した。

 それを自分の触手で掴んだメネアスは、私に受け渡すように放り投げる。

 手に取ったアイテムを見て、ルビーよりも鮮やかな紅の宝玉に感嘆する。持っているだけでじんわりと熱いのを見るに、やはりこれは炎属性の宝玉なのだろう。

 インベントリにしまい込んで、メニューカードからアイテムの詳細を見る。


――


アイテム:クリムゾンジュエル

レア度:ハイレア

効果:透き通るような紅の宝玉。火山などの高温地帯を含む、レッドメタルを産出する地域でごくごく稀に精製される。レッドメタルが持つ親火性をより高めることにより、あらゆる金属に火属性、または炎属性を持つ素材を合成できるようになる。


――


 説明を見る限り、炎属性を含有する素材と金属素材を結びつける効果があるアイテムであるらしい。

 レッドメタルとの違いは、土台となる金属がレッドメタルでなくてもいい点。例えばヘビメタ製の武器に炎属性を付与したりできるという事だ。

 レア度:ハイレアのアイテムは実は初めてではなくて、先程万一の場合は出さなければならないだろうとひっそり覚悟していた《水の竜結晶》も同じくハイレアのアイテムだったりする。

 滅多に手に入らないエピックやレジェンドといったレア度のアイテムの存在を考えると、基本アイテムの中では相当レア度が高い部類だ。


『プチクエスト:メネアスの空腹をクリアしました』


「なぬっ」


 唐突に鳴り響いた小さなファンファーレに驚いて、思わず声を出してしまった。

 プチクエストってなんぞや?


『なんだ』

『どしたの?』

『すごいアイテムだった?』

『きれー』

『ちくわ大明神』


「いや、なんか……プチクエストをクリアしましたって通知が……ちくわ大明神って何?」


『草』

『ワロタ』

『クエストだったんだ』

『やったじゃん』

『プチクエスト?』

『プチクエストっていうのはランダムで突発的に発生するクエストの事で、プチって付いてる通り内容は簡易なお使い系が多い。メネアスからそんなクエストが発生するなんて聞いた事ないけど……』

『クソ早タイピング兄貴!』

『なるほどね』


「なるほどね」


 一瞬で説明してくれたリスナーさんのコメントに、思わずみんななるほどねと呟いてしまった。

 つまり私は運が良かったんだろうか。いや、まあアーちゃんの話では殺られる前提のモンスターっぽい説明だったし、即死させられてないだけ運は良かったと思うけども。


 メネアスはご機嫌そうにボヨボヨ跳ねながら触手で私の頭を撫でると、まるでバイバイするかのように手を振り始めた。

 これ以上長居しても得られるものはなさそうだし、流石にこの状況で戦おうと思うほど私も好戦的な訳じゃない。

 なんだか少しだけ仲良くなれたような気がしつつ、結果としてレアアイテムも手に入ったという事でリターンも確かにあった。


「じゃあ、今度来る時は戦う時だからね」


 バイバイの形で振られる手に軽くタッチしてそう言うと、理解しているのかしていないのか、メネアスはボヨボボヨンと体を跳ねさせる。

 最後まで可愛いやつだと思いながら、私は永久焦土を後にする事にしたのだった。

 結構長い間触手を振ってくれていたメネアスだけど、1キロほど距離を取ったら再び巨岩を吐き出し始めた。

 あれはもしかしたら、メネアスの縄張りに入った相手にフルオートで発射されるものなのかもしれない。

 とはいえ今度は私向けに放たれている訳ではなく、山の方へと飛んでいっているようなので、誰か私以外のプレイヤーが永久焦土の山を登り切ってしまったということなのだろう。

 その不運なプレイヤーの幸運を祈りつつ、私は今更になって、なんだか貴重な経験をした事を噛み締めるのだった。

プチクエスト:メネアスの空腹

レッドメタルインゴットを2つ以上持った状態でメネアスの元に辿り着くと発生。一切攻撃せずにレッドメタルを捧げると、クリムゾンジュエルが返ってくる。

※プチクエスト発生条件を満たさずに辿り着いたり攻撃したりすると、地獄を見ることになるので注意しよう。

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めねあす「地対地迎撃砲、発射するめね〜」w
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