鬼といえばやっぱり金棒
レベルが10になるまで狩りを続け、なんだかんだと帰りにもうひとつレベルを上げた私たちは、始まりの街に戻っていた。
時間的には5時間も経っていないので、プレイそのものはまだまだできる。
ただ、私たちの前にアイテムのインベントリが音を上げてしまったのだ。
大量のウルフ素材が蓄積されたインベントリはステータス規制がかかるほどに重くなり、仕方なくいくつかの安い素材を捨てて帰ってきた訳だ。
ウルフ素材はそこそこ金になるようで、リンちゃんに指定された素材だけ残して後はNPCショップに売り払った。
その結果、私のメニューカードのステータスには30000イリスを超える、初期資金から比べれば中々の数字が記されていた。
「だいぶお金も貯まったよ」
「なんだかんだでウルフは割がいいのよね。硬いくせに大した素材も落とさないボアよりはよっぽど。その分、ウルフの方が遥かに危険度も高いんだけど」
《ボア》というのは北の平原に生息する雑魚モンスターで、基本的にノンアクティブな優しいモブらしい。
大抵は初心者の初戦闘の相手になる。
きちんと攻撃を当てれば簡単に倒せるが、初めて戦う人にとってはなかなか苦戦することもあるそうだ。
レベルの割にタフでもある。
慣れればサンドバッグのようなものだとリンちゃんは鼻を鳴らしていた。
話を戻して、私たちは街の東区にいる。
ここはいわゆる商店街だ。
アイテム屋が立ち並び、そのどれもにプレイヤーが並んでいる。
新規プレイヤー流入のピークは過ぎたと思うけど、未だにごった返す人混みは見ていて目眩がしそうなほどだった。
確かに、これを見ているとさっさと始まりの街は抜けた方が良さそうだと思えてしまう。
「せっかく街に戻ってきたんだし、武具を揃えたいわよね」
商店街の人混みを慣れた様子ですいすい進んでいくリンちゃんに手を引かれて、私もそれに習うようについて行く。
武具を揃える、そう言って私が連れてこられたのは、遠目から見てもわかるほどに大きな建物だった。
「ここが始まりの街の武具店。複合商業施設みたいな所よ。一階は武器毎に店舗が入ってて、防具は上の階。武器から見たいところだと思うけど、まずは防具を見ましょう。流石に麻の服セットじゃこの先やっていけないわ」
「まあ防具ではないよね、これは」
《麻の服セット》とは、初心者装備ということでとてつもない耐久を持ってはいるものの、防具としての補正効果は一切ないただの衣服である。
ちなみに耐久はそのアイテムが破損するか否かを決めるステータスであって、防御力とはまた別だ。
「鬼人族の物理ステータスなら、始まりの街の装備でつけられないものは無いはずよ。一応装備の重量が一定を超えると敏捷に下降補正がかかるから気をつけて選んでね」
「わかった。店員さんとか居ないんだね」
「混雑してくると一人一人対応する暇がないからね。ちょっと味気ないけど、システム的に処理した方がいいこともあるのよ。無人のNPCショップは始まりの街の特色ね」
私の他にも武具を選びに来たプレイヤーはそれなりにいるものの、ごった返す街中ほどではない。
何故だろうと値札を見てみると、安いものでも《2000イリス》や《3000イリス》、高いものだと《5000イリス》から《8000イリス》位のものまで幅広く置かれている。
ウルフをそこそこ狩ったレベル7の私でも5000イリスは持ってなかったから、単純に武具を買うほど金を持ってるプレイヤーが少ないのだろう。
プレイヤーが居ない理由は思ったより単純なところにあった。
とはいえ空いているならありがたいことだと、私は防具を吟味することにした。
WLOでは、防具の装着は《頭部》《胴体》《腕》《脚》《靴》の五部位ある。
この他にアクセサリーの枠があるそうだが、それは割愛。
私はこれまでウルフと戦ってきた中で、真っ先に欲しかった装備があった。
それは腕装備。より正確に言うなら、ガントレットのような物が欲しいのだ。
私は現状、ヒットアンドアウェイとカウンターを主軸にしているが、出来れば敵を腕や脚にあえて食らいつかせてゴリ押せるようにしたい。
そのためにガントレットが欲しい。
脚も、グリーブがあるなら買っておきたい。
胴体や頭の装備も気にはなるが、1番狙われやすく盾にしやすい四肢から守りを固めたかった。
「一番下のが《なめし革の篭手》と《なめし革のグリーブ》ね……」
それぞれ、お値段は《500イリス》。店売りの中では安い部類だ。
茶色の皮はウルフのものではなさそうだが、果たして何が素材なのやら。
ボアのものなのかもしれないと思いつつ、防御が心もとなさそうなそれらを棚に戻した。
「《鉄板シリーズ》。ちょっと値が張るけど、これがいいかな」
見た目は《なめし革シリーズ》とそう変わりないが、随所に鉄板が縫い付けられていて、ついでに体を覆ってくれる範囲も広めだ。
篭手とグリーブを揃いで買っても《4000イリス》。なめし革の四倍だが、所持金を考えれば問題なく買える。
私はまずこの二つの装備を購入して、メニューから装備してみた。
胴体が相変わらず心許ないが、少しはマシな見た目になった気がした。
「あら、篭手とグリーブ? なかなか似合ってるわよ」
「ありがと。なんか少し強くなった気がするよ」
私を放ってウィンドウショッピングに勤しんでいたリンちゃんの素直な褒め言葉を受け取りつつ、私は次なる装備を探す。
頭は大事だ。しかし、ガチガチのフルフェイスの兜は御免被りたい。
色々悩んだのだが、頭は《鉄の鉢金》という鉢巻に鉄を縫いつけた簡易兜にした。お値段《3000イリス》。
後は胴と脚か。グリーブがかなり高いところまで脚を保護してくれてはいるのだが、一応グリーブは靴装備の扱いなのだ。
鎧に関してはかなり奮発した。
お値段《6000イリス》の《鎖帷子》である。
脚に関しては装備と言うよりただの中着の扱いなのか、防具としての効果は現状では期待できそうもなく。
投げナイフを2つ挿せるホルダー付きの《ベルト付き革ズボン》というものがあったのでそれを購入した。意外と高くて《1500イリス》もした。
結局、防具に関しては14500イリスの買い物になった。
狼狩り様々である。
「リンちゃん、どうかな」
「あら、鎖帷子にしたのね。高いけどいい判断だと思うわ」
「鉄の鎧よりは安いし、軽いからね」
「スクナは重戦士ではないからいいんじゃない? 鉢金のおかげで顔が見えるのもいいわね。高いけど女子には人気なのよ、鉢金」
「無骨な兜ってのはちょっとキツイよね」
「まあ帽子装備なんかもあるし、今後色々探したらいいわ」
そういえば、確かにリンちゃんは帽子を装備しているようだ。
薄茶色のふわふわしたローブ、やわらかそうな素材のズボンに革製のブーツ。腕は篭手ではなく手袋を装備している。そんな魔法使い然とした格好に、魔女の三角帽子が良く似合う。
今更ながら、見栄えのいい装備だった。
「結構お金余ってるわよね。武器も見ちゃいましょ」
防具を整えて一端のプレイヤーっぽく見えてくると、背中の棍棒が逆に浮いて見える。
断る理由もなく、私はリンちゃんと共に武器屋のある一階に降りた。
剣の専門店、槍の専門店、弓の専門店と武器種毎にある専門店の中から、打撃武器の専門店を探す。
私の《打撃武器》スキルの熟練度は現在25。
100くらいまではすんなり上がって、そこからはちまちまとしか上がらなくなるそうだけど、現状で派生スキルは見えていない。
もう少し待って派生スキルを見てから変えることも考えたけど、武器屋の誘惑に負けたのだった。
「《木製バット》《釘バット》《金属バット》……なんで三種類もあるんだろう」
バットと名のつく装備ではあるが、野球の道具に比べると少し太い。
棍棒よりは細いが、見慣れた持ち手が魅力的ではある。
お値段は一番高い金属バットで《2000イリス》。
悪くは無いが、ファンタジーの世界でバットを振り回したくはなかったのでそっと棚に戻した。
次に目をつけたのは《金棒》。鬼といえばこれだろう。
――
アイテム:金棒
レア度:コモン
要求筋力値:20
攻撃力:+15
耐久値:500/500
分類:《打撃武器》《片手用メイス》
シンプルな金棒。シンプル故に、その耐久は群を抜いている。
――
棍棒と太さは変わらず、長さはちょっと上。殺傷力を高めるためか先端の方には棘がついている。
金棒というだけあって当然素材は金属製。中は詰まっている訳では無いのか、見た目ほどには重くなかった。
攻撃力の補正は金属バットよりいくらか高い分、重量がある。ちなみに金属バットの要求筋力値は5だった。
私の筋力なら防具を含めてもぎりぎり敏捷低下にはならない範囲だったので、見栄えも含めてこれを購入することにした。
お値段《8000イリス》。大事に使おう。
「リンちゃん見て見て! 金棒!」
鬼という種族を選んだ時点で少しだけ期待していた武器を手に入れてはしゃぐ私を見て、リンちゃんは呆れたような笑みを浮かべた。
「……まあ、スクナなら買うと思ってたわ。鬼人族の打撃武器持ちは必ずそれを買うんだもの。しかも値段相応に強いのよね」
「結構重めだけど、しっくりくるよ。あと、耐久がめちゃくちゃ高いの」
「まあ、攻撃力だけ見たら2000イリスのブロードソードとかと大差ないもの。それの値段が高いのは耐久性の突き抜けた高さのせいなのよ」
棍棒は初期装備だからか5000というぶっちぎりで高い耐久度を誇っていたが、金棒も500というずば抜けた数値を誇っている。
ちなみに金属バットは200。これでも相当高い方なのだ。
金属バットと金棒の攻撃力は金棒が少し上回る程度。値段の割にはそう変わらないと言える。
ただ、耐久度が2.5倍違った。
その辺が、値段差の理由だろう。
まあ、金属バットにせよ金棒にせよ、他の武器よりは控えめな攻撃力というだけで棍棒よりは遥かに強い。
ちょっとやそっとでは壊れないというだけで頼もしい存在だった。
「どうする? もう少し買い物していく?」
「うーん、せっかく装備変えたし狩りしたいなぁ」
「熱心ねぇ。じゃあ、道具屋だけは案内するわ。ポーションとかもいずれ必要になるもの」
「あ、ちょっと待って! 買いたいものがあるの忘れてた」
道具屋へと足を向けようとしたリンちゃんに声をかけて、私は投擲武器を売っているお店に向かう。
せっかくベルト付き革ズボンを買ったんだから、投げナイフを装着したかったのだ。
2本買って腰に差すと、余計にしっくりきて少しだけ笑みが零れた。
その後、私たちはNPCの道具屋に行き、薄いハーブ味のポーションを買ったりして、再び狩りに出るのだった。