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冷製トマットン

「興味深い話を聞けたのう。また会おうぞ」


「次はアーちゃんがグリフィスに到達したらかなぁ」


「ふふ、ワシは今度のイベント関係で会いそうな気がしとるがな」


 トーカちゃんから用事を済ませたという連絡を受け取った私達は、話を打ち切ってここで別れることにした。

 去り際にイベントの事を言われ、そう言えばと思って聞きたかったことを聞いてみる。


「アーちゃん、この辺でレベルを上げやすいスポットってある?」


 リンちゃんからしばらく先に進む必要はないと言われてはいても、のちのちグリフィスを目指すのであればイベントまでにレベル50は超えておきたい。

 そう思って聞いてみたら、アーちゃんは少し悩んでから答えてくれた。

 

「レベリングか? ふむ、そうさな……打撃武器が得意なら《焦熱岩窟》などがいいと思うぞ」


「しょうねつがんくつ?」


「焔の古代遺跡を含む、北西の永久焦土地帯の一角にある洞窟じゃ。温度とは別の理由で熱対策が必須なんじゃが、世界樹洞に比べれば出てくるモンスターの強さは控えめじゃな。硬質なモンスターの出現が多いために剣士には向いとらんが、ヌシにはちょうどよかろう」


 永久焦土というちょっと心惹かれるワードと共にアーちゃんが教えてくれたのは、炎属性っぽさ満載なダンジョンの名前だった。

 実際にはただの不毛地帯なのかもしれないけどね。焦土って燃えてる土地の事じゃなくて、どちらかと言えば燃え尽きた土地の事だもんね。


「普通に古代遺跡をレベリングスポットに使うのも悪くないぞ。あるいは焦土の奥地……いや、これは流石に勧められんか」


「何かあるの?」


「行けばわかる、とだけ言っておこう。ワシとしては勧めんが、行きたければ行くといい。死んだところで失うものは時間くらいじゃよ」


「確かにね。気が向いたら行ってみるよ」


 バイバイと言いながら手を振りあっていると、タイミングよくトーカちゃんがやってきた。


「姉様、アーサーさん、お待たせしました」


「そんなに待ってないよー?」


「よいよい。トーカ嬢も達者での」


「アーサーさんも、また一緒に遊びましょう」


 今度こそ私達は挨拶を済ませ、《焦熱岩窟》へと向かう準備を整えるために、フィーアスの市場へと繰り出すのだった。





「《冷製トマットン》……」


『トマットン』

『とまっとん』

『捻り方が雑ゥ』

『トメイトゥ』

『↑それはただの英語じゃね?』

『トマトじゃん』


 街のよろずやの店頭に売られていたそのアイテムを見て、私はなんとも言えない気分になっていた。

 アイテムの名前は冷製トマットン。何のことはない、ただ氷水で冷やされただけの大きなトマトだ。


「姉様、これ経口摂取するタイプみたいです」


「これ食べるの? いやトマト嫌いなわけじゃないけど、持ち歩くのなんか……なんか!」


「気持ちはわかりますけど、必要なものですから諦めましょう」

 

 永久焦土はかつてとある災害によって生まれた不毛地帯。高熱を帯びてしまった大地の影響で植物が生えることが出来ず、生物もそのほとんどが死滅してしまったらしい。

 代わりにどこからともなく住み着いたのが「熱を食らう」モンスター達。彼らは食らった熱をエネルギーに変え、生きるためだけでなく時に攻撃にも転じさせる。

 その為、永久焦土やその近辺に行く際は、熱耐性がとても大きな役割を持つのだそうだ。

 私が紹介された焦熱岩窟は永久焦土の一角にあるらしいので、当然熱耐性を整えていく必要がある。


 そんな話を聞いた私達は、一時的に熱耐性を付与してくれるアイテムを買うためにこうして街のよろずやに来たわけなんだけど。


「どう見てもただ冷やしただけのトマトですね」


「トーカちゃん、トマト嫌い?」


「いえ、特には」


「ちょっとボリューミーだけど仕方ないね。効果時間は……ひとつ2時間だって。結構長いね」


「2つずつ買いましょうか。あとは……私はポーション類も買わないとです」


「ゴリラに使わされてたもんね」


 昨日のゴリラとの戦いの中で、トーカちゃんはだいぶ大きなダメージを受けてしまっていた。

 その際に使っていた分だけポーションを買うようだった。

 ポーションは結構重量があるから、筋力の低めなトーカちゃんのインベントリではそんなに沢山入れられない。

 だから使う度に補充する必要があるんだと思う。


「せっかく今は余裕あるんだし、私も少し買っておこうかな」


 子猫丸さんに買い取ってもらったミステリア・ラビのお金のおかげで、今の私の懐はとても潤っている。

 近々大きな出費はあると思うけど、魔法を使う敵も増えてきたことだし、少しリッチにポーションを買ってもいい頃合いだろう。

 選ぶのは中級のポーション。ミドルポーションなんて呼ばれたりする奴だ。


「うーん……300回復で5000イリスかぁ」


「NPCショップなら妥当じゃないですか?」


「そうだねぇ。大きめの回復アイテムも欲しいしいくつか買っとこうか」


 回復アイテムには数値回復タイプと割合回復タイプがあって、どんなゲームでも高レベルのプレイヤーほど後者を好んで使用する傾向がある。

 これは数値回復タイプがレベル上昇に伴って効果が足りなくなるのに対して、割合回復タイプなら常に一定の効果を発揮してくれるからだ。

 

 だからこそ、同じ回復率を持つ割合回復アイテムの値段差をつける要素は、回復速度に絞られる。

 これは何を飲んでも同じ割合回復するなら、より早く回復するアイテムを使いたいというプレイヤーの需要によるものだ。


 ここまでの話だと数値回復タイプには序盤しか価値がないように見えるかもしれないけど、少なくともWLOではそれは違う。

 確かに数値回復タイプの回復量はポーションによって固定されていて、100なら100、200なら200と一定だ。その回復量は使用者のHPには縛られない。

 レベルによる成長もまるで関係なく、常に同一の数値だけ回復する。当然値段は回復量の一点のみで上下するため、傍目からでも値段と効果の釣り合いがわかりやすい。

 

 低レベルプレイヤーから見れば割合回復タイプより安くそこそこの数値を回復できるため、相当のレベルまで上がらない限りはこちらの方が遥かに得なのだ。


 更に、数値回復タイプのポーションは効果量に関係なく回復しきるまで1分かかるという設定がある。

 これが数値回復タイプの最大の魅力で、この1分というのは最大回復量に対しての時間になっている。

 例えばHP100のプレイヤーが瀕死の状態で回復量500のポーションを使えば、わずか10秒程度でHPが急速回復するのだ。


 こういった事情から、ポーション生産者達は日々研鑽を続け、また派閥のようなものも存在するらしい。

 数値回復タイプのポーションの回復量を上げるか、割合回復タイプのポーションの回復速度を上げるか。

 その他にもポーションの味を追求したり、採算度外視で色んな効果を発動させたり、小型化したり……生産は生産で楽しそうではあるね。


 ちなみにNPCショップのポーションはほとんどが数値回復タイプ。効果が均一でやや割高なのが常だ。

 また、回復アイテムにしても必ずしもポーションしかない訳ではなく、他の飲み物や食べ物、お菓子だったりと、とにかく今は試行錯誤の時期のようだった。


 ついでに言っておくと、今度のイベントのランキング報酬にあるレイズポーションは使用時HP全回復状態異常解除の最強アイテムらしく、「死んでなくても使えるし死んでても使える」万能回復アイテムらしい。

 ゲームの序盤に配布するアイテムとしては確かに破格だった。


「トマト食べながら攻略ってなんか不思議だね」


「そのうちナスやキュウリなんかが出てきたりするのかもしれないですね」


『トマト嫌い』

『ナス嫌い』

『キュウリ嫌い』

『ピーマン嫌い』

『ネギ好き』

『↑好き嫌いしちゃいけません!』

『好きはセーフなのでは?ボボは訝しんだ』

『ボボって誰だよ』


「なんでも食べられるに越したことはないんだよ?」


 ゲームに野菜モチーフのモンスターが出るのは決して珍しいことではないけれど、実際に出てこられたら気が抜けそうだなぁと思う私だった。

冷製トマットンはクーラードリンクを素直に出したくない運営の生んだ悲しみのアイテム。

味はフルーツのように甘く、フィーアスでは結構人気だったりするらしい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] > わずか10秒程度でHPが急速回復するのだ。 ごめん待って。 戦闘中に使う事想定すると、10秒かかるのは「めっちゃ遅い」んですけども。 割合回復はもっと遅いってこと? その遅さだと…
[一言] ボボは訝しんだってクラムボンは死んだみたいw
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