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クランハウスにて

 招き入れてもらったクラン《円卓の騎士》のクランハウスは、一軒家としてみれば十分すぎるほどに大きく、しかし100人を超えるというクランメンバーの数から考えるとあまりにも小さな建物だった。

 ちなみにトーカちゃんは済ませたい用事があるとかで、あとからもう一度合流する約束をして今は離脱してる。

 なので、今この場にいるのは私とアーちゃん。それからもうひとり、円卓のメンバーと思われるメイド衣装のプレイヤーさんだけだった。


「ふふ、スクナは言いたいことがわかりやすいのう。クランの規模の割には小さい、とか思っとるじゃろ?」


「うっ」


「ここに常駐しとるのはワシだけじゃから、そんなに規模はいらんのよ。みな思い思いに攻略に勤しんでくれとる。昨日ようやくトップ層が第6の街(ゼロノア)に到着したところじゃ」


 アーちゃん曰く、ギルドの本拠はアーちゃんの移動に合わせて転居するらしく、単純に彼女の最大到達領域がフィーアスだから本拠がここにあるということらしい。

 クランマスターであるアーちゃんがなぜまだフィーアスに? と聞いてみたら、それなりの理由があるみたいだった。


「剣士であるワシら円卓はグリフィスへ向かうために岩石系モンスターが出ない世界樹洞を通るんじゃが、どうしてもこの所纏まった時間が取れんくてのぅ。ダンジョン内セーブポイントもあるが、そこまで行くのも難しかったんじゃ。どの道フィーアスから先は広大すぎて焦って攻略する意味も薄いからと、しばらくここに残っとったのよ。シュウヤからの伝言もあったことじゃしな」


「それは……私の事?」


「うむ。かつて敗れた大敵を倒した輩がいるというのじゃ。話を聞きたくもなろうさ」


 リビングの椅子に腰掛けながら、アーちゃんは嬉しそうにそう言った。

 彼女が赤狼アリアと戦ったのはサービス開始3日目だったそうだ。


「3日間ガチガチにレベリングを重ね、果ての森から帰る途中のことでな。突如としてフィールドが静かになったと思えば、奴と対峙しとったんじゃ。ワシのレベルは20を軽く超えておったが……5分と持たずに剣を折られて殺られたよ」


「レベリング後だと武器の耐久もだいぶすり減ってただろうし、運がなかったんだね」


「それもあるが、仮に万全であったとしてもワシのスタイルで勝てる気はせん。奴は魔法職殺しなどと言われることもあるが、正確には盾なしの武器は全てが不利と言えよう。ヌシのように無茶を押し通さん限りはな」


 ネームド装備に付いている効果から分かるように、赤狼アリアを強者として君臨させる最たる部分は、序盤のプレイヤーどころか現在の最前線プレイヤーですらSP切れを起こさせるであろう絶対的なスタミナ量にある。

 その性質上、能動的な攻めやアーツの使用自体が封じられた上での一騎打ちを強いられるアリアとの戦いは、実質的には耐久ゲーの類だ。

 しかもただの耐久ゲーではなく、攻撃を捌きながら反撃できる程度のプレイヤースキルとステータスが必要な耐久ゲー。

 そういう意味で、盾という物理攻撃を捌く術としては最良に近い手段を持ち合わせているかというのはかなり大きな要素だ。

 アーちゃんが言っている盾なしの武器が不利というのはそう言う考えからくるものだろう。


「じゃあ再戦したりはしないの?」


「正確に言うと、しないのではなく出来ないんじゃ」


 出来ない、というアーちゃんの台詞的に、戦う意欲が無いわけではなさそうだった。

 それは相応の理由があるという事だ。

 少し待っていると、アーちゃんはその理由を語り始めた。


「ネームドの討伐、それ自体はこれからいくらでも増えていく事じゃ。ものによっては出現すれば狩れるであろう者もおる。しかしソロネームドに関してはちと訳が違う。強大な敵である以前に、奴等はある一定以上のレベルを超えると出現しなくなる特性があるのではないかというのが現在主流の考察じゃ」


「ふむふむ」


「赤狼に限らず、トリリア湖上に出現する《水華の精霊・メロウ》もそうなんじゃが、あるレベルからぱったり遭遇できなくなる。赤狼なら40レベルが目安じゃ」


 それはつまり、レベル100とかで始まりの街の南の平原に行っても、赤狼アリアは出現しないという事だろう。

 私が多少特殊だったとしても、アリアの基礎ステータスはレベル14の鬼人族でも倒せる数値に設定されているのは確かだ。

 高レベルのプレイヤーならゴリ押しで勝てないこともないだろう。

 

 いや、でもちょっと待って。琥珀から聞いた話では、ソロネームドは戦う相手に合わせてステータスを変化させるんじゃなかったか。

 それならわざわざレベル制限なんてかける必要はないんじゃないだろうか。

 私がそう言うと、アーちゃんは肯定するように頷いた。


「ヌシの言う通り、琥珀殿の発言でこの説は崩れてしもうた。じゃから現在は再考察の最中じゃな。何より前の最有力説が本当なら、ヌシが琥珀殿に語られた《天枢の狼王》とやらに辿り着く術が一定レベルを超えると失われてしまう事になるじゃろ?」


「確かにそうだね。狼王に出会う条件は赤狼、黒狼、白狼の3種類を倒すことっぽいし」


「今考えつくのは、一定レベルを超えると出会える、または強化版のソロネームドと戦えるとかじゃろうか。ワシも頭が強い方ではないからそのくらいしか思いつかんが……」


「どの道、戦えないってことはなさそうだよね。もしくは三体のネームドを倒す以外の方法があるか」


「そうなんじゃよなぁ。ネームドに関してはわからんことばかりじゃよ」


 2人してうんうんと唸っていると、私達の前にそっとカップが差し出された。

 ふと顔を上げれば、メイド衣装のプレイヤーさんが微笑みと共に私の頭をひと撫でして去っていった。


「あれは……」


「アレはスリュー。円卓の第11位にして、メイドロールのプレイヤーじゃよ。ワシの傍付きでな、料理系のスキルが円卓一高いんじゃ」


「そうなんだ。……でもなんで撫でられたんだろう?」


「気に入られたんじゃろ。アレは気に入った物を愛でたいタイプじゃからなぁ」


 やれやれと若干顔を引き攣らせているアーちゃんの態度を見るに、多分アーちゃんはとても気に入られているんだろうなと思った。

 思い出して辟易とするくらいに、愛でられているということだろうから。


「まあ、基本的には有能なやつじゃ。無口ゆえ喋る機会はないかもしれんが、仲良くしてやってくれ」


「うん、わかった。それにしても……なんかアレだね、スリューさんも含めて、本当にお家の中って感じ」


 クランハウスというもののイメージは、もっとこう雑多にメンバーがいて、 ワイワイやってる感じだったんだけど。

 《円卓の騎士》はその名前から感じ取れる勇壮さからは想像できないほどに、穏やかなクランの雰囲気だった。


「ふふ、まさにその通りじゃからな。クランハウスとは言っても、ここはあくまでもワシの持ち家じゃよ。それにワシはただクランのリーダーであると言うだけで、実際には円卓の皆が指揮を取ってくれとる。メンバーがここにわざわざ戻る必要は無いんじゃ」


「そういうものなの? うーん、漫画みたいな感じじゃないんだね」


「《竜の牙》辺りに行けばヌシの想像に近い光景が見られると思うぞ。ワシらが規模の割に拠点を持たないだけじゃ」


 私はアーちゃんの言うことを聞いていく中で、まるでお飾りであるかのように自身のことを評する彼女に少しだけ引っかかりを感じた。

 思い出されるのはトーカちゃんの言葉だ。


「ねぇ、アーちゃんはさ。円卓最強なんだよね?」


「もちろん」


 私の言葉を受けたアーちゃんは全く態度を変えることなく、至極当然であると言わんばかりにそう言った。


「ワシがクラン最強であることと、クランに必要な存在であるかは別の話じゃよ」


 彼女は手に持ったカップを置いて、椅子の横に立て掛けた蒼銀の鞘を持つ剣に触れる。

 その瞬間、鋭い刃のような圧がクランハウスに張り巡らされた。

 思わず金棒に手をかけた私を見て、彼女は大いに笑っていた。


「ふははは! いい反応じゃ! とはいえ、ワシとしても皆が慕ってくれる以上リーダーを務めるのに異論はない。これがワシの唯一の取り柄じゃしな」


「そっか。そんなに強いんだ、アーちゃんは」


 彼女の言葉に嘘はない。それは見ていればわかる。

 それ以上に、あのリンちゃんが「強い」と言い切るほどの実力者なのだ。

 基本的には幼い少女にしか見えないけれど、剣に手をかけただけで圧を感じるくらいに、ずば抜けた剣の実力があるのがわかってしまう。

 そういうのに敏感でなくとも、剣が好きなプレイヤーなら彼女を慕う気持ちもわかる。


「VRとは面白いものでな。ワシやリンネのように仮想世界だからこそ自由に舞える者もいれば、ヌシのように現実とのギャップに苦しめられる者もおる。ステータスが支配する世界はさぞかし窮屈であろう?」


「ん? 私は窮屈だと感じたことはないけど……」


「ふふふ、そのレベルに至ってなおその感想を抱けること自体が窮屈さを物語っておるよ。……ヌシにもいずれわかる時が来る。仮想世界の自由さがな」


 現実世界よりよっぽど好き勝手動ける分、むしろストレスフリーなくらいなのに。

 そう思って首をかしげる私を笑いながら、アーちゃんはこの話を打ち切った。


「さ、茶もあることじゃし、トーカ嬢が戻るまでゆるりと話を聞かせてくれ」


「おっけー。何から話そうかな……」


「スリュー! 茶菓子をいくつか持ってきとくれ!」


 アーちゃんの呼びかけに返事はなく、しかし呼ばれて数秒でお菓子を乗せたお盆を持ったスリューさんが現れた。


「あ、このケーキ美味しい。思えばこのゲームでポーションしか口にしてないような……」


「なんと勿体ない。この世界はこの世界で面白い食べ物もあるんじゃぞ? 例えばじゃな……」


 そう言ってメニューカードをいじるアーちゃんが見せてくれたのは、彼女のとっておき(らしい)グルメ画像だった。

 どうやらアーちゃんは割と珍味を好むらしく、紹介された料理は全体的に「ゲテモノ」と呼ばれるものばかりだったけど。

 「どうしてかみんな嫌がるんじゃよな〜」とか言っていたので今度一緒に食べに行く約束をしつつ、今は2人で茶菓子を楽しむことにした。

円卓のクランハウスはだいたい5LDK位の立派な一軒家。常駐してるのはアーサーとスリューだけです。

実は移動式……ではなく、円卓のみんなでアーサーのために毎度買い直してます。円卓の騎士はアーサーファンクラブみたいなとこあるから……(ºωº)

ロリコンだ!捕まえろ!

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― 新着の感想 ―
[一言] お巡りさんこちらです
[気になる点] 水竜饅頭「今の大きさでもまだインパクトが足りないのか……もっと大きくならなくては!?」
[一言] 「あ、このケーキ美味しい。思えばこのゲームでポーションしか口にしてないような……」って言ってるけど「どこが水竜かわからない水竜饅頭」食べていましたよね? ※琥珀のためにわざわざ一つ余分に買っ…
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