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イベントの告知

「お腹空いた!」


「出前にしましょ。作る気力がないわ」


「わかったー」


 ぐーぐーと文句を喚き立てるように鳴り続けるお腹の音。

 なんと丸1日以上もぐっすりと眠っていたようで、起きたらリンちゃんが帰ってきていた。

 嬉しいような悲しいような、とりあえず寝ている間に心配してくれていたトーカちゃんには返事しておかなくちゃいけないので、リンちゃんが出前の注文をしている間にメッセージを飛ばしておく。


「適当に頼んでおいたから、出来次第来るでしょ。燈火には連絡した?」


「うむ、ばっちり」


「ま、寝てたならしょうがないわよ。バイトの頃の疲れが溜まってたか、慣れない長時間のプレイで疲れたんでしょ。ノルマの時間だけ見たら週10時間なんだから、無理しちゃダメよ」


「そうだねぇ。実際に使ってるのは頭だけのはずなんだけど、私にはむしろそっちの方が疲れるのかも」


 勉強もゲームも何年もやってなかったのだ。WLOが楽しいゲームだとはいえ、慣れないことをすれば疲労は溜まる。

 昔はリンちゃんに付き合って徹夜で協力プレイとかしてたんだけどなぁ。


「そう言えば、なんか夢を見たような気がするんだよねぇ」


「内容は覚えてる?」


「それが全然覚えてないんだよね。夢を見ること自体珍しいから、夢を見たのは間違いないと思うんだけどなぁ」


 起きる前はすごい印象的だと思っていたような気がしなくもないんだけど、いざ目覚めたら私の脳内メモリはさっぱりその事を忘れていた。


「鳥よりもさっぱりした頭ねぇ」


「そんなことないですぅ」


「いや、自覚してないかもしれないけど、ナナの記憶力は相当悪い方よ」


 結構マジなトーンで返されて、思わず私は固まった。


「え、冗談だよね? ね?」


「さあどうかしら。どっちだと思う?」


「リンちゃん、リンちゃん? はぐらかさないでよー!」


「うふふふふふふ」


 リンちゃんにすがり付いて前言を撤回させようとする私と、それを楽しむリンちゃんのじゃれあいは、出前のラーメンが届くまで続いた。





「はー食った食った」


「おっさん臭いからやめなさい」


 ラーメンとピザと寿司というみんな大好き3点セットを平らげた私がいっぱいになったお腹を撫でていると、リンちゃんからため息をつかれてしまった。


「ほんと、この量がどこに入っていくのかしら」


「うーん……お腹?」


「デコピンするわよ」


 さっとおでこを守ったらほっぺを引っ張られた。おのれリンちゃん、姑息な嘘を……!


「さ、そろそろ遊ぶのはやめましょう。ナナは昨日寝てたから知らないでしょうけど、WLOは今ある話題で持ちきりよ」


 そう言ってすすっとタブレット端末に指を滑らせると、リンちゃんはある画面を表示させた。

 何かの公式サイトみたいだけど……あ。


「WLOの公式サイトだね」


「そうよ。この部分を読んでみて」


 リンちゃんが指差したのは、WLOの公式サイトのお知らせ欄。

 上から3つくらい《←New!》というマークがついてる項目があるうちのひとつだった。


「なになに……イベントのお知らせ?」



☆ ☆ ダンジョンイベント:《星屑の迷宮》 ☆ ☆


 創造神の導きにより、天空の迷宮への道が開かれた。星を目指す旅人よ、迷宮を踏破し力を示せ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ダンジョンイベント! ……ってなに?」


 詩的な……というか、こう、うん。説明する気ないな! って感じの文章を前に、私は何も理解できずにリンちゃんに質問を飛ばした。


「あのね、ちゃんと見なさい。説明書いてあるわよ」


「ふむふむ」


 下にスクロールしたらイベント詳細が書いてあった。

 とても丁寧に記載されたイベントの概要を、ざっくりと要約していこうと思う。





①各街の入口に設置されるワープゲートを通り、別の世界に存在する《星屑の迷宮》に挑むイベントである。


②難易度は4段階あり、始まりの街、デュアリス、トリリア、フィーアス以降という形で通ったワープゲートによって難易度が決まる。


③迷宮は挑んでいるプレイヤーごとに別々の物となる。すなわちバッティングが発生しない。同時に、救援の類は一切期待できないとも言える。


④本イベントに伴い、イベント期間限定で5つのサーバーを設置する。プレイヤーは初めてダンジョンに潜る際にサーバーを決め、以後はそのサーバー内で迷宮を探索することになる。


⑤迷宮内のモンスターが落とす《星屑の欠片》を集めることで、アイテムと交換してもらえる。武器や防具、素材など、選べる範囲で好きなものと交換できる。高難易度であればあるほど、難しい代わりに多くの《星屑の欠片》を手に入れることが出来る。


⑥迷宮のボスはクリアする度に多くの《星屑の欠片》をドロップする。より多く《星屑の欠片》を集めるためには、何度も迷宮をクリアするのが手っとりばやい。


⑦《星屑の欠片》の収集数を基本として、いくつかの要素を元にサーバー毎のランキングを発表する。最終ランキングの順位に応じて、消費アイテムが報酬として配布される。


⑧各サーバーのランキング上位者は……?





 つまり、めちゃくちゃ簡単な言い方をすると、いっぱいダンジョンを周回してアイテムたくさんゲットしよう! というイベントである。


「だよね?」


「ナナにしてはいいまとめね」


「はっはっは……褒めてる?」


「もちろん」


 よしよしと頭を撫でられて顔を緩めていると、なんだか色々とどうでもよくなってくるね。


「まあ、ざっくりいえば周回イベントね。交換アイテムはまだよく分からないけど、ランキング報酬なんかは凄いわよ。この1位〜10位までに配布される《蘇生ポーション》とか、ベータテストの最後の方で確認された蘇生アイテムと同じ名前だもの」


「ほほう」


「他には……上位の報酬にはレアアイテムが結構あるくらいで、限定アイテムの類はなさそうね。どれも現時点では高価ぐらいの価値かしら。まあ、まだ始まったばかりのゲームで一品物なんて与えないか」


 ゲームバランスの観点から真剣にイベントの考察しているリンちゃん。

 細かな点はよくわからないけど、今回のイベントはリンちゃん的にはグッドっぽい。


 それにしても、ダンジョンイベントかぁ。それも周回前提のやつ。

 周回っていうのは名前の通り何度も何度もダンジョンクリアを繰り返すことだけど、素直に感想を言わせてもらえば時間を多く取れるプレイヤーが有利なルールだ。

 

 難易度によって報酬が変わり、ボスから沢山のイベントアイテム《星屑の欠片》がドロップする以上、ランキングのトップに載るためにやるべき事はシンプルだ。

 なるべく長い時間の中で効率よく最高難易度のダンジョンを攻略し、ひたすら周回する。

 イベント期間中これをしっかりとやり遂げられれば、きっとランキングの上位に入るのも夢じゃないだろう。


「イベントの開始日は次の金曜日。つまり6日後ね」


「あれ、その日って第3陣の人達が始められる日じゃなかったっけ。イベントと被せたら凄い重くなりそうだよね」


「いや、第3陣は明後日よ。今回からは2週間じゃなくて10日区切りに変えるみたい」


「なるほど」


 リンちゃんがチラリと耳に挟んだ話だと、第1、第2陣共に想像以上に序盤の攻略が早かったが故に、新規プレイヤーの追加スパンを短くすることになったらしい。

 イベント当日とか新規プレイヤーの追加までしちゃうと、アクセス数やら処理やらでゲーム自体が重くなるだろうから、ある程度の分散を考えれば4日空けるというのは合理的な考え方だろう。


「一応フィーアスから先だとイベントダンジョンの難易度は変わらないみたいだね」


「そうね」


 昨日……じゃなくて一昨日、トーカちゃんとやった強行軍のおかげでフィーアスに辿り着いている私は、最低限のラインには乗れていると言えるだろう。

 ただ、リンちゃんがいるのはフィーアスの先の第5の街(グリフィス)だ。6日もあればたどり着けないってことはないと思うけど……。


「何考えてるのかはわかるけど、グリフィスにはまだ向かわなくていいわよ。今回のイベントに関しては私がフィーアスに戻るわ」


「え、いいの? リンちゃんもそろそろ第6の街が見えてきてるんだよね?」


「最短で向かえばね。でも、トリリアまではあまりないんだけど、フィーアスから先は村とか小さな町とか、そういう寄り道スポットがあるのよ。細かなスキルの習得とかもできるから、より遊び方の幅が広がるって感じかしら」


「フィーアスまでがチュートリアルって、割と真を突いてるんだね」


 とは言ったものの、フィーアスに現在到達しているのは第1陣の3割程度だ。

 第2陣でも私のように突破してるプレイヤーはいるだろうけど、まだそんなには多くないだろう。多分合計して4千人に届くかって程度だ。

 次のイベントまでにもう少し増えるとしても、フィーアス到達プレイヤーがトリリアより手前のプレイヤーより遥かに少ないのは間違いないわけで、フィーアス以降の難易度が括られているのはその辺が関係していそうだった。


「そう言えば、子猫丸さんからNPC主催のオークションに誘われてるんだ。あと、フィーアスに来たからシュウヤさんの所の……何とかってクランに行かないと」


 デュアリスにトーカちゃんを送って貰った時に出会った片手剣士のシュウヤさん。

 別れ際にフィーアスでクランを訪ねて欲しいと言われていたのを思い出したのだ。


「シュウヤ……ああ、あの人か。じゃあクランは円卓ね。リーダーに会ったらよろしくって伝えておいてちょうだい」


「あ、リンちゃんはリーダーさんと知り合いなんだ。どんな人なの?」


「そうねぇ……強いのは確かよ」


 それはまあ、クランのトップを張るくらいだから強いは強いんだろうけど……お茶を濁すってことは何か別のところに問題でも抱えてるんだろうか。


「まあ、会えばわかるし、ナナとはウマも合うでしょう。とりあえず今日から6日間はフィーアス周辺で観光とか探索をしてたらいいわ。やりたいことがあるならそっちも優先させていいし、配信を休みたかったら休んでもいいわよ」


「了解っ!」


「あ、あとは武器やアイテムのストックは多めに用意しておきなさい。ダンジョン周回の途中で壊れたらロスになるから」


「おっけー。リンちゃん、ガチだね」


「当然、ランキングがあるなら取りに行くわよ。当たり前でしょ?」


 勝負に負けるのが嫌いなリンちゃんらしい強気な発言だ。

 好戦的な笑みを浮かべるリンちゃんに、私もまた笑って頷いた。

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