狙えば当たる
「よし、終わり!」
「やりましたね!」
アーマード・マウントゴリラを倒した私達は、ハイタッチをしてから橋の反対側へと歩き出した。
『おつ』
『やったぜ』
『個性的なゴリラだったな』
『結局ひとりで削り切っててワロ』
『スクナたそだからね』
『完全サポ割り切っててすこ』
『トーカちゃん結婚して』
「トーカちゃんはやらん」
「ふぇ?」
「いや、コメントの話」
私がって以前にリンちゃんの壁が厚いと思うね。
そう言えばリンちゃんは何してるんだろうなぁ。そろそろ目的地には着いたんだろうか。
ワイワイしながら橋を渡り切ってみると、門の前にいた兵士風のNPCから声をかけられた。
「ほう、女子2人で奴を倒してきたか」
装備は橋の手前にいた門番と同じものだから、多分この人も門番なんだろう。年齢的には初老くらい。
違うのは強さ。向かい合ってるだけでわかる。この人は相当強いNPCだ。底知れなさって意味では、琥珀に似たものを感じるくらいに。
「まあね。色々予想外のモンスターだったよ」
「そうだろうな。あれはなかなかユニークな奴だとも。しかし2人でというのは実に久しぶりに……いや、その証を持つ者ならば必然か。貴殿の事はワシの耳にも届いているからな」
胸に煌めくオリハルコンを指しての言葉に、私は特に反応を返さなかった。
琥珀の例もあるし、彼女の話では《名持ち単独討伐者の証》は世界でもほんの僅かにしか所持者のいないアイテムらしい以上、こういった場所にいる兵士にくらいは話がいっててもおかしくはないからだ。
「既に洗礼は受けたようだが、その証を身につけること自体が一種の試練であることは自覚しておくといい。ワシはそれを身につけた者が世界に押し潰される様を何度も見てきたよ。神に認められるとはそういう事だ」
「洗礼、ね……」
どの戦いのことを、と思ったけど多分アポカリプスとの戦いのことだろう。
もし彼の言うことが本当なら、琥珀が言っていたコレの所持者が世界に何人もいないっていう言葉の意味も随分と変わってくる。
ただ手にするだけならもう少し居たはずなのに、世界にそれを潰された、そんな英雄達がいたって事だ。
「ありがとう、えっと……門番さん?」
「ジェストだ、若き鬼人族のお嬢さん」
「じゃあジェストさんで。またここに戻ってくるから、その時はよろしく!」
「うむ。……ああそうだ、一応通行許可証の確認をさせてくれ。神の目を欺くことは出来んが、決まりなのでな」
「はーい」
先程のマウントゴリラ戦でドロップしたカード型の通行許可証をインベントリから取り出して見せると、ジェストさんは頷いて道を指し示してくれた。
「帝都は道なりに進んだ先にある。主にラビット種が多いが、それを狙うイーグル種のモンスターにも気をつけることだ」
「へぇ……飛行モンスターかぁ」
確かに空を見上げてみると、何かが飛んでいるのが見える。
平原とは言ってもこれまでのように広大に開けた大地ではなく、止まり木のように所々に密集して木が生えているので、その辺に巣があるのかもしれない。
「よし行こう、トーカちゃん」
「はいっ、スク姉様!」
「武運を祈る」
こうして門番のジェストさんと別れ、私たちはフィーアスに向かうのだった。
☆
「そう言えばさっき、フィーアスの事を帝都って言ってたよね」
空に向けての警戒は怠らず、しかしのんびりとした気候の道を歩きながら、私はトーカちゃんと雑談していた。
基本的にノンアクティブらしいフィーアス周辺のラビットは、こちらから仕掛けたり近づかない限りは襲ってこないのだ。
「帝都、つまりは国の首都のようなものですね。確か……始まりの街から第8の街までがメルスティヴ帝国とかいう名前で、その帝都がフィーアスに当たるみたいですね」
「めするてぃぶていこく」
「メルスティヴですよ、スク姉様」
『ヴだぞ』
『ヴ』
『ブじゃない』
「いや、あの……発音じゃなく名前が長いなぁって思ったというか……」
「カタカナの国の名前はなかなか覚えられないって人いますよねぇ」
世界史が苦手なタイプの人はたまにそんな事を言う気がする。かくいう私もそうだしね。
「メルスティヴというのは建国の英雄の名だそうです。たったひとりで10万のモンスターを足止めしたとか」
「はぇ〜」
「帝都に銅像があるらしいですから、後で見に行きましょうね」
私はそのメルスティヴという英雄の話ではなく、トーカちゃんのゲーム内知識が半端ない事に驚いていた。
何を聞いても答えが返ってくるし、しつこ過ぎないうんちくまで追加してくれる親切さだ。
とりあえずフィーアスに行ったらメルスティヴの銅像とやらを見に行こう。
魔の森で30体程度のモンスターにやられかけてた私的に、10万のモンスターと戦ったという逸話は結構衝撃的に刺さっていた。
城壁を砕いただの10万のモンスターを足止めしただの、この世界のNPCの逸話って結構規模がでかいよね。
それにしても、この辺はほんと不思議なくらい平和だ。
帝都って言ってたし、街の周囲をしっかり掃除してるってことなんだろうか。
単純にモンスターが弱いのかと聞かれればそんなことはなくて、普通にレベル30を優に超えるモンスターが闊歩してるのだ。
帝都の人は最初のレベリングをどうやってるんだろう。
なんにせよ、ただ平和なだけだから楽でいいんだけどね。
「むっ……」
「どうかされましたか?」
「ちょっと静かに」
かなり遠くの方、木が密集してる辺りにある物を見つけた私は、手持ちの中で一番跳ねやすい投擲武器である鉄球を取り出した。
さっきのマウントゴリラとの戦いで投げた分銅を考慮するに、筋力は足りる。軌道計算も大丈夫。どうやら動き回っている訳でもないから、精度を最大に重視する。
集中力を高め、右手で鉄球を持った私は少しだけ助走をつけて右腕を振り抜いた。
「…………シッ!」
鋭い呼気とともに放られた鉄球は、先程の分銅に比べると直線的な軌道を描いて飛んでいく。
今回は投擲の威力を増すために《ショット》という《投擲》スキルのアーツを使用した。《シュート》に比べて真っ直ぐに、素早く、高い威力で投げられるアーツだ。
凄い勢いで木々の中に入っていった鉄球は、枝や幹を計3回跳弾してから目的の相手の眉間に突き刺さった。
木の枝の上で眠っていたのであろうそのモンスターが衝撃と痛みに悶えて落ちてくる所に、時間差で追撃しておいた2本の投げナイフが突き刺さる。
ちょうど喉をへし折ってくれたようで、そのままの勢いで投げナイフがモンスターを木に縫い止める。
動きを止めたモンスターはしばらくしてから出血ダメージで消滅していった。
「よーっし」
なんかレアっぽいモンスターだったから狙ってみたけど、思い通りに刺さってとても気分がいい。
さっきのマウントゴリラ戦から続いてすごい調子がいいんだよね。頭もさえてるし、すごいいい感じ。
「……何かいました?」
「うん、虹色のラビットがね、一瞬だけ見えたから」
「当たりましたか……と聞くのは野暮ですね。虹色のラビットって、対岸でスク姉様が見えたって言ってたやつですよね」
『なになに?』
『虹色の兎かぁ』
『うーん、見えない』
『そりゃもう消えてるからな』
『草』
『スクナたそ視点で見てもさっぱり』
「《ミステリア・ラビ》って言うんだって。素材が結構……やけにいっぱい手に入ってる」
お肉が美味しい。毛皮が高く売れる。経験値は少なめだけど、お金は沢山貰えた。
基本的にプレイヤーを探知するとワープで逃走するみたいで、こっそり近づいてワープされる前に倒すのが普通の倒し方。
今みたいに見つかる前に倒せれば、たくさん素材を手に入れられる設定らしい。
割と脆いみたいだし、見つける度に倒してたら結構美味しいのかも。さっきはたまたま見えたから殺ったけど、次からは積極的に狙おうかな。
はるるに毟り取られて以来、私の懐事情は結構ギリギリなのだ。金策もしなきゃいけないのが辛い所だった。
Q:何でこの主人公弓とか持たないの?
A:殴った方が気持ちいいのと手数
ちなみに弓は割と人気武器なんですが、サブ武器レベルのクロスボウ、メインで人気の中射程弓、狙撃用長射程の大弓に別れます。
クロスボウ以外はボス戦でかなり有用。逆に雑魚戦ではクロスボウが人気。
全体的にコストのかかる武器種です。
投擲はPS依存性が非常に強い代わりに実はそこそこ威力が高いです。そうじゃなきゃほんとに魔法でいいってなりますからね。