武器スキル
ウルフを5匹倒したところで、再びレベルアップの音が響いた。
余りポイントが6になったので、敏捷と器用に3ずつ割り振ってやる。
急所を打てばそれほど力がなくても機動力を奪える訳で、それならより正確かつ素早く攻撃できるようにしたいのだ。
素で高い物理ステータスでゴリ押し気味に倒せたけれど、今後のことを考えると敏捷はいくらあっても足りなさそうだ。
さっきのウルフ程度の速度でならいいけれど、雷の魔法なんて名前からして速そうでしょ?
壊滅的な魔防を補うためにも、回避に関わる敏捷はしっかりと上げておかなければならない。
と言うより、魔法を捌く方法も考えなければなと思いながら、ステータス割り振りを終了した。
「無事でよかったわ」
「うん。まあ、経験値になったし結果オーライかな」
ウルフ。あれは私と相性がいい気がする。
確かにそこそこ速いのだろうが、防御があまりにも薄い。多少筋力が上がった今の私なら、急所を叩くことであっさり行動不能にできる。
「配信のコメントもなかなか盛り上がってるわよ?」
「おー、それはよかった」
「反応もまあ、概ね好印象かしら」
まだそんなに好印象を与えられるようなことをした記憶はないけれど、リンちゃんの言うことだ。
きっと事実なんだろう。
配信のコメントは視聴者と配信者にしか見ることが出来ないから、私はそう思うしかなかった。
「この後、どうする?」
「とりあえずひたすら狩りかしら。第二陣のボリューム層が街に溢れかえる前に草原の先に行けるようにしておきたいのよ」
「えーと、リソースの食い合い、だっけ?」
「そういうこと。幸い、この先の《果ての森》は魔法系のモンスターがほとんどいないから、行けるようになればスクナのいい狩場になると思うわ」
リソースの食い合いというと難しく感じるが、要するに100匹しかいないモンスターを1万人で狙おうとすれば奪い合いになるよね、という事だ。
スーパーの特売なんかを思えば、イメージしやすいかもしれない。
広大なフィールドとはいえ、モンスターの出現には流石に限度というものがあるのだ。
ちなみにモンスターの出現をポップ、再出現をリポップと言う。
「もう少し先に行くと、さっきみたいにウルフが群れてくるわ。本来なら危険だからオススメしたくないんだけど、さっきのを見る限りそっちの方が効率良さそうよね」
「うん。10匹くらいまでなら、今のままでもやれると思うよ」
「頼もしいわね。じゃあ行きましょうか」
話し合いの結果、南の平原をさらに先に進むことになった。
そういえば、さっきから私しか戦っていないけど、リンちゃんはどんな戦い方をするんだろう。
そんなことを少しだけ疑問に思ったが、少なくとも二週間先行しているリンちゃんが戦いに参加したら私は何もすることがなくなってしまう。
とりあえずレベリング。そしてリンちゃんに追いつく。
話はそれからだと、私は気を引き締めた。
――
両サイドから同時に飛び掛かってくる狼をバックステップで躱して、左に流れた方の背中を思い切り殴り付ける。
ひしゃげるように折れ曲がったそっちを無視して右のウルフに石ころを投擲。
着地した直後のウルフはまさかの飛び道具に反応できずに怯み、投擲と同時に距離を詰めていた私はそのままウルフの脳天に棍棒を《叩きつけ》た。
「あれっ?」
初めてワンパンで爆散したウルフに驚くも、そんな場合でもない。
スキルを使用したことで一瞬硬直したタイミングで別のウルフが背中から飛び掛かってきたが、硬直の解除と同時に棍棒を思い切り後ろに振り抜く。
残念ながら棍棒は直撃しなかったものの腕が当たったようで、叩き落とされた狼を足で踏みつけて動きを封じてから撲殺する。
最後に、最初に背骨を折り砕いて動きを封じたウルフを《叩きつけ》で倒した。
「ふぃ〜」
最近のゲームはすごいものだ。
モンスターの体内まできちんと作り込まれているのだろう。
だから顎を攻撃すれば脳が揺れるし、足を砕けば動かなくなる。
HPが残っている限り死にはしないが、多分剣とかなら首を落とせばクリティカルで即死とかあるんだろうな。
戦闘が終了したからだろう。
経験値が入り、レベルアップの通知が来た。
通算6度目になるから今回でレベルは7だ。
ステータスの割り振りを済ませて、改めて自分のステータスを確認する。
――
PN:スクナ
Lv:7
種族:《鬼人族》
職業:
所持金:4880イリス
ステータス
HP:117
MP:7
SP:65
筋力:27
頑丈:20
器用:40
敏捷:33
知力:1
魔防:1
幸運:22
残りステータスポイント:0
装備
武器:棍棒
頭:なし
胴:麻のシャツ
腕:なし
脚:麻のズボン
靴:皮の靴
スキル
《打撃武器》熟練度:10
《投擲》熟練度:7
――
器用はレベルアップ分の半分を常に注ぎ込んだおかげで、かなり具合よく育っている。
最初に比べれば格段に、思った通りの動きに近づいてると言っていいだろう。
敏捷もレベル3から欠かさず増やしたおかげでかなりのものだ。
筋力もボチボチ。ウルフばかりのこの辺りでは増やす必要も感じないので、おいおいやっていけばいいだろう。
お金も地味に貯まった気がする。
問題はスキルの熟練度だ。
基準が全くわからない。
「スキルの熟練度ってどのくらいまで上げられるんだろ……」
「公式で発表してるけど、基本は1000。後は物によりけりね。《打撃武器》スキルは派生してからが本番らしいわよ?」
「派生?」
「例えば《片手用メイス》スキルとか、《両手用メイス》スキルとか、珍しいところだと《両手棍》スキルなんかも打撃武器の派生よ。《片手剣》だと《曲刀》とか《両手剣》とかね。最初に選べる武器スキル自体も極めると強力だけど、こういう派生させての楽しみ方もあるってわけ」
意外と細かく武器の種類が設定されているようだ。
ゲームによっては《メイス》なり《ハンマー》という形で纏められてもおかしくないのに。
ちなみに、両手棍というのは恐らく《棒術》とか呼ばれる武術で使う武器のことだろう。
穂先のない槍みたいな物で、シンプルなものだとパッと見は棒にしか見えない。
伸びない如意棒って言えばわかるかな? 切り裂くことは出来ないけど、叩く、突く、払う、受け流すといった基本的な動作に秀でている。
シンプルな威力では力が集約するメイスに軍配が上がるけど、総合的な使い勝手と長さで棍が勝るって感じ。
「なるほどね。《打撃武器》スキルを伸ばしていくのもありではあるけど……ってことか」
「ぶっちゃけ、打撃武器って少し特殊なのよね。メイス持っても棍棒持っても《打撃武器》のアーツ……あ、スキルで覚える技の事ね。それは使えるの。ただ、熟練度が最大で500しかなくて、他のスキルにあるような高火力のアーツが覚えられないらしいのよ。だからみんな乗り換えるんだって」
「ふーん……まあ、剣使いの人たちもみんな片手剣から始めるんだろうし、そういうものなのかな」
《打撃武器》スキルが繋ぎ用であると判明してしまったものの、冷静に考えると両手剣を使いたい人も《片手剣》スキルを繋ぎにしなければならないわけで。
決して打撃武器が不遇なわけではないのだった。
実際、《打撃武器》スキルで覚えた技……アーツ? 自体はあらゆる打撃武器で使えるらしいし、上げておいて損はないだろう。
強敵相手に必殺技が必要だとしても、雑魚にはシンプルな技が便利だったりするのが世の常だ。
両手で持って振り抜くだけの《叩きつけ》の便利さといったらない。
「ちなみに《片手用メイス》スキルを例にすると、だいたい30くらいから解放されるみたい」
「あ、やっぱり数値解放なんだ」
「特殊な条件だったりすることもあるらしいわよ。《刀》スキルとかはそうだって」
「ロマンあるねぇ」
刀。居合とかできるんだろうか。
しゅぱしゅぱ敵を切り刻んでいけたら爽快だと思うが、私的には扱いを間違えてポッキリ折りそうだ。
その点、打撃武器はいい。力任せにボコスカ殴るだけである。
「やっぱ打撃こそシンプルな暴力ですよ」
「いきなり何言ってるのよ……」
思わず漏れた言葉を聞いて、リンちゃんはやべーやつを見る目で私を見ていた。
その後、私たちは平原のさらなる奥に進み、リソースいっぱいのウルフ祭りを楽しんでから始まりの街に帰還した。
レベル10は達成したものの、リンちゃんの放送を見ていたリスナーたちの間で私に《撲殺鬼娘》という異名がつけられたそうな。
も、もうちょっとおしとやかに行こうかな……。