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ステータスの暴力

前話においてバフの加算乗算の説明が意味不明気味だったので、わかりやすく読めるように修正しました。

「最初の5分、私から攻撃するのはなしにしよう」


 赤狼とも違う、真竜とも違う。

 同じ鬼人族であるということ。

 最も近しいが故に、はっきりと分かる。

 私と琥珀の間に広がる絶対的なステータスの差が。

 練り上げてきた経験の差が。

 感じる圧力はまるで巨大な山のようだった。


「まずは好きなように攻撃しておいで。スキルやアーツの使用は自由にするといい」


「……うん!」


 緩やかに語る琥珀のおかげでほんの少し余裕が出来た私は、スキルとアーツの使用は選ばずに単身で駆け込んだ。

 互いに素手、と言うには私の拳にはごつい武器がついているけれど、格闘による戦闘である事に変わりはない。

 身長差があるからリーチでは負けている。

 なら、とりあえず懐に潜りこんでみよう。


 重視するのは手数と速さ。全てのステータスで負けているのは明らかだけど、彼女のステータスが筋力に特化している都合上、1番差がないのは敏捷だからだ。

 そして、私はネームド装備のおかげでSPが実質2倍ある。どの道息切れ覚悟で突っ走るしかないのだ。



「せいっ!」


「ふふふっ」


 あえて私を懐に招き入れたのだろう。あまりにもあっさりと実現した近接戦(インファイト)だったが、琥珀は私が繰り出す乱打を涼しい顔で受け流す。


 反撃がないと分かっている以上、ロウと戦った時とは違い強打も交えた連撃を中心に責めたてる。

 受け流されてると言っても、全ての攻撃が当たらないわけじゃない。

 出の速いジャブのような攻撃はちょこちょこ入っているはずなんだけど、琥珀のHPは微動だにしなかった。


 理由は単純。彼女の頑丈を、防御力を、私の攻撃力で突破できていないだけだ。


 鬼人族は鬼人族であると言うだけで強靭な物理ステータスを得られる。仮にひとつのステータスに特化していようとも、レベルさえ上げれば他の種族の比にならないくらい強力な物理ステータスを得られるのだ。

 琥珀のレベルが幾つなのかは私は知らないけれど、対面して感じた印象をそのままレベルに換算するなら最低3ケタ。場合によっては200を超えてるんじゃないかというのが私の予想だ。私とはダブルスコアどころか、6、7倍のレベル差がある計算だ。


 そして、琥珀の戦闘スタイルも、私とは少し相性が悪い。

 敏捷と動体視力と反射とSPを組み合わせて回避とカウンターに寄せた私と違い、彼女は攻撃を受けることを躊躇わない。

 見える攻撃の中で重そうな物だけを丁寧に捌いて、そうでないものは受けても気にしない。

 多分捌こうと思えば捌けるんだろうけど、彼女はその分のキャパシティを割くことを嫌って、高いステータスで受けることを選んだのだ。


 まるで山を殴ってるような、どうしようもなく大きな力量差。これはもう加減とか様子見とか、そんな段階で物を考えている時間が無駄な気がする。

 2分ほど力を測るように攻め続けた私はそう判断して、一度バックステップで距離を取る。


 攻撃をしないと決めた以上、琥珀は当然追って来ない。

 私は左脚を前に出して、胸の前で両手を打ち鳴らした。





 鬼の舞はそれぞれのアーツに固有のモーションや《餓狼》のような起動の台詞を持たない代わりに、自分で発動の為のモーションを登録する必要がある。

 それをどんな型にするかは使用者の自由だ。ただし、鬼人の里の慣例では、大抵の場合は師の型をそのまま受け継ぐらしい。

 私も琥珀の型を見せてもらってから、素直に継がせてもらうことにした。


 琥珀の鬼の舞は、全ての発動モーションで「拍手」という動きを基準に持っている。

 それに加えて足の開き方、手の角度、そういった体勢の変化で5種類の舞の型を管理しているそうだ。

 昨日はその5つの型を覚える為に、かなりの時間を費やした。一度定めた型はかなり厳密に再現しないとアーツの発動に至らないからだ。


 《鬼の舞》スキルが本当の意味で「舞」であった時代に、それをより実践的に扱いやすく自由な形に変化させたのは酒呑の功績。

 それでも多少の制限がかかってしまうのは、スキルそのものの効果の高さを考えると仕方がないことと言えるだろう。

 元々1対1の戦いでもなければ、有って無いような制限だし。



 発動したのは《二式・諸刃の舞》。

 跳ね上がる筋力と敏捷が高揚感を与えてくれるけど、同時に身の守りが全て無くなったことで寒々しさを感じる。

 目の前には紛れもなく「最強」のパワーを持つ存在がいて。

 私は諸刃の舞の効果で、頑丈どころか防具の防御力さえも失っている。

 琥珀が無抵抗でいてくれる時間はもう3分とない。様子見は終わりだと言わんばかりに、私は爆ぜるような踏み込みで拳を放った。


 それを掌で受け止めようとする琥珀に対して、私は拳が到達する直前に手を開き、琥珀の指を絡めとる。

 受け止められて衝撃が殺されるのとは違う。

 私は掴んだ手を基点にして、互いの体を引き寄せるようにもう一歩踏み込んで掌底を叩き込んだ。


「おおっ」


 琥珀の反応は「ちょっとビックリ」って感じだったものの、今日初めて入ったクリーンヒットはバフの効果も相まってようやく琥珀のHPを削る事に成功している。

 削れたHPはほんの僅かだけど、少なくとも筋力が300を超えてかつ武器を装備すれば、琥珀の防御は貫けるってことがわかった。


 さらに追撃を加えようと腕を引き絞ろうとすると、先程の掴み取った方の手が琥珀によってがっちりと固定されてしまっていた。


「ぐっ……ふんぬぉわぁっ!?」


 思いっきり引き抜こうとしたら手を離されて、私は変な声を出しながら尻もちをつきそうになるのをこらえた。

 ほんの少し生まれた空白の時間。琥珀はそれを見計らって言葉を発した。

 

「諸刃の舞は初めて使うと上手く制御できないものなんだけど……ああ、そう言えば君にはもうひとつ、似たようなスキルがあるんだったね」


 素直に驚いたというような反応を見せる琥珀に対して、私はやっぱりバレてたんだなと思った。


 隠していた訳でもないんだけど、昨日スキルを教えて貰った時点で、私がもうひとつバフスキルを持っていることは琥珀にはバレていたのだろう。

 というより、琥珀は私とロウとの戦いも、アポカリプスとの戦いも見ていたらしいから。

 正確には一昨日の時点で何かしらのスキルを持ってるのはバレていたんだとは思う。


 返事をしつつ、再び前に。

 時間が惜しいから、必死に手足を動かしていく。


「昨日使っちゃったからっ、今日は使えないけどねっ!」


「一日単位で制限があるスキルは珍しいね。そこまで強力な効果には見えなかったけど……」


 私の攻撃をさっきまでに比べれば真剣に防ぎつつ、琥珀は余裕ある表情でそう言った。

 うん、私もね。昨日諸刃の舞を覚えた時に一瞬そう思ったよ。

 結果として見れば餓狼の新しい効果を発見できたから、全くの無意味ではなかったけど。

 バフには掛かる順番と掛かり方に違いがある。これは今後も重要になってくる要素だ。



 会話をしながらも手は止めない。不意打ち上等の汚い戦法を恥じることなくぶつけていく。

 しかし残念なことに、不意打ちのほとんどは無理な体勢から打つせいで威力が足りなくて、琥珀は躱してもくれない。


「君は本当に、どこからでも手が出てくるね」


「取り柄っ! だからね!」


 ステータスの暴力が憎い。筋力は2倍になってるはずなのに、当てても当ててもビクともしないんですけど。


「ほらほら、あと2分だよ」


「ぬあああああああ!!」


 煽るように時間を伝えてくる琥珀に、やけくそ混じりの突貫を続ける私。

 後で自分の配信のアーカイブを見てて思ったけど、ミニ闘技場というフィールドの見た目も相まって、闘牛でもしてるのかなと言いたくなるような光景が展開されていた。

 

 ちなみに。

 私の攻撃を捌いている間。

 何が楽しいのか、琥珀はずーっと満面の笑みを浮かべていた。

 ちくしょうめ!

おまけ・WLOにおけるバフの表記


WLOでは、基本的にバフの数値は%表記になっています。根本的に100%を1とした基礎ステータスがあり、ここに何%加算されるかで実質何倍という計算になります。

50%加算されるのであれば150%で1.5倍。

100%加算されるのであれば200%で2倍という具合です。

基本的に普通のスキルやアーツによるバフは加算型で、合わせて150%加算されたのであれば基礎ステータスの100%に足して合計2.5倍になります。これは《鬼の舞》も例外ではなく、羅刹の舞と諸刃の舞を同時に発動させた場合の倍率は、筋力なら2.2倍です。

しかしながら、《餓狼》は全てのバフが乗り切ったステータスを参照した上で、そのステータスの50%分を増加させます。

算数で簡単に式を書くと(1+バフ+バフ+バフ+バフ)×1.5って感じです。バフがゲシュタルト崩壊しそう。

バフが重なれば重なるほど強力になっていく《餓狼》君の明日はどっちだ……!


ちなみに%制が採用された理由は、運営が設定したとあるネームドボスモンスターのせいだとか。



最後に。要は色んなバフを足してって最後に1.5倍してくれるのが《餓狼》スキルです。

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