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グラップラースクナ

スクナ「友達がボール」

「というわけで魔の森に行くわけなんですけども」


『わこ』

『わこつ』

『わこつー、どういう訳?』

『わここ』

『初見』

『待ってた』


 デュアリスの正門に立って意味不明な供述をした私に対し、リスナーからの反応は薄かった。

 いや、うん、放送枠の最初にこんなことを言った私が悪かったね。


「その前に、昨日は配信できなくてごめんなさい。実は例の動画の魔法に巻き込まれて昼くらいからデスペナ食らってまして……」


『アレかぁ』

『あそこにいたのか』

『そうなんじゃないかと思ってた』

『察してた』

『例の動画って?』

『↑公式掲示板見てこい』

『↑サンクス』


 真っ赤な嘘……いや真っ赤な嘘ですね、はい。

 よく良く考えれば私が死んだのは魔法のせいじゃなくて酒呑に殺されたからだったよ。

 とはいえリスナーからの反応は同情的だ。こう言っちゃなんだけど、結構な被害だったんだろうなぁ……。

 巻き込まれた人達にも何かしらの恩恵があるといいんだけど。


「とはいえちょっと装備も新調したし、昨日一昨日で少しはレベルもあげたんでね。今日は拳で戦ってこーと思います!」


 両腕を覆う重金属のガントレットを見せる。この重量感にもだんだん慣れてきた。


『グラップラースクナ』

『男に生まれたからには!』

『ほう……ナックルですか』

『見た目がごつすぎる』


 見た目がごつすぎるという意見には本当に賛成したい。なんかもうロケットパンチでも打つの? みたいなね。

 パワードスーツの腕部分を全部ガッチガチの金属にしましたって感じの見た目の上に漆黒だから、めちゃくちゃ重たそうに見えるのだ。


「ヘビーメタルって素材なんだって。あと私はれっきとした乙女ですぅ」


『おとめ』

『乙女?』

『うんうん、漢女だね』

『漢女』

『漢女は笑うからやめてくれ笑』


「これは印象操作ですね間違いない」


 そんなことばかり言ってると私の怒りが頂天に達しますよ……!

 


「というわけで魔の森行こう。もうカエルはいやだよ……」


『打撃耐性あるもんな』

『スクナ打撃しかしないし』

『打撃系だからね』

『両手武器も見たい』

『投擲はよ』


 そう、あそこのカエルは打撃耐性持ちだから、殴ってて気持ちよくない。

 動きは機敏じゃないから倒しやすいんだとしても、あの何となくボニョッとした感触にはこの2日でちょっと飽きた。


「両手武器もそのうち使うよー。今日はコレのお試しだけど。お、ゴブリンだ」


 遠目にちらりと見えたゴブリンを捕捉して、私は距離を詰めるべく駆け出した。

 このフィールドではあまりにも高くなりすぎた私の敏捷は、数十メートルの距離を瞬く間に詰め切った。


「ふっ!」


 岩陰に身を潜めようとしていたのか、こちらを向いていないゴブリンの背中に打ち上げるように拳を叩き込む。

 ズドッ! という打撃音と共に吹き飛んだゴブリンは、訳が分からないといった様相のまま地面に叩きつけられて消滅した。

 拳を振り上げたままそれを見届けた私は、想像以上に気持ちいい感触にちょっぴり嬉しくなりながら、静かに拳を下ろした。


「これ気持ちいいかも」


 金棒越しの衝撃もぐっと来るけど、このダイレクトに腕に響く重みがたまらない。

 距離を詰めるのに関しても赤狼装束によるブーストでそれほど問題は感じないし、ガントレットの持つ敏捷低下効果も思ったほど感覚に影響はなかった。



「もうちょっと試したい……敵はどこかな」


 スキルを使って探知をすれば、2、3体のモンスターの位置が表示される。

 この辺りはまだ魔法を使ってくるモンスターもいないし、片っ端から突っ込んでも問題ないだろう。


「ひとつずつ狩っていこうね」


 一番近くにいたのはラビット種のモンスターだった。

 基本的にラビット種って突進かジャンプして突進くらいしか攻撃パターンがない。

 サイズが小さいから普通に殴るのは難しいんだけど、相手が勝手に浮いてくるなら……ここ。

 パァン! と大きな破裂音を立てて、カウンター気味に大振りの右が炸裂した。

 クリティカルヒットがHPを削り切るのを確認して、再び探知を発動する。


 次の標的は、位置的に左前方に見えている岩の陰。

 投擲アイテムを使って炙り出したいところだけど、がっちり指までガントレットに覆われてるせいで投擲の精度がすごく落ちてるんだよね。


「……あ、これがあったっけ」


 使えそうなアイテムがないか探ってみると、昨日はるるから購入した投擲アイテムのひとつが使えそうだった。

 黒い布で覆われた球体を手に持って、刺さっている棒を引き抜いてから確実に岩の上側を通るようにふわりと投げ込む。

 山なりに飛んで行った球体は岩の頂点に達したあたりで破裂し、周囲に白い粉をばらまいた。


「ゲギャッ!?」


 隠れていたのはゴブリンだったのか、突然上から降ってきた粉末に驚きの声を上げている。

 私はその隙に駆け出すと、岩の裏でワタワタしているゴブリンにボディ、リバー、アッパーの3連コンボを叩き込んだ。

 不意打ちに対応出来るはずもなく、ゴブリンは呆気なくその命を散らした。



「これが小麦粉玉戦法だよ」


 はるるいわく、信管に当たる棒を抜いてから10秒で爆発する、一種の手榴弾的なアイテムだ。

 柔らかい布を破る程度の火力しか出ないみたいで、手榴弾と呼ぶにはあまりにもおそまつだけど、工夫すればこういう使い方もできる。

 ちなみにはるるはいずれ胡椒玉を作ると言っていた。


『今の小麦粉なの?』

『小麦粉なんかあるんか』

『ヤバい薬かと思った(小声)』

『いつの間にあんなのを』


「この武器を作った子が作ってたのを買ったんだ。使い道あるかなぁと思ったけど結構ありそうだね」


 とはいえ、真正面から投げるものでもないし、使いどころは考えなきゃいけないかな。

 ちなみに小麦粉玉といっても、ゲーム内で小麦粉が売ってるわけじゃないらしい。あくまで小麦粉っぽい白い粉を、便宜上はるるが小麦粉と呼んでいるだけだ。


 このゲームでは料理もできるらしいからね。

 ラビットとかウルフとかフロッグからも肉はドロップするから、スキルさえ取れば料理もそんなに敷居の高いものじゃないのかもしれない。


「うーん、しかしこのガントレット、気持ちいいけど上手く殴れてない気がするなぁ」


『え?』

『え?』

『え?』

『どこが……?』


「いや、なんかこう……もっと効率よくやれる気がするんだよね。いや違うよ殺れるじゃないよそっちじゃない」


 自分の身ひとつで戦うとなると、敵の大きさに合わせてどう攻撃するのかを変える必要がある。

 これは単純なリーチの問題がひとつと、相手の攻撃を受ける手段の問題だ。

 リーチの問題は、さっきのラビットとの戦いがいい例だろう。要はパンチだと足元に攻撃が届かないのだ。

 と、ここまで考えてふと思った。

 別に蹴りを使えばいいんじゃないの? と。


 両手にガントレットを着けてたから気を取られてたけど、そもそも金棒を使ってた時から蹴りは使っていた。

 金棒を軸にして無理やりアクロバットするのも悪くはないんだけど、やっぱり四肢を使っての動作の方が慣れてるわけで、そういう意味ではより動きやすくなったと言えるかもしれない。


 試しに草むらに隠れていたホーンラビットに向けて、角を避けつつサッカーボールキックを決めてみる。

 はっきり言って、拳の比じゃない威力で吹き飛んでいった。レベル差が酷いな、これ。



「うーん、こうか。いや、こうかな。あ、これはいいかも」


『ひぇっ』

『ひぇっ』

『ほのぼのした掛け声で虐殺してるぅ』

『撲殺鬼娘の再来や』

『やべぇよやべぇよ』


 打撲音と共にモンスターが死ぬ。 そんな光景を見てか、私が見ていない間にリスナー達が震え出す。

 しばらくの間、リスナーや攻略そっちのけで素手格闘の練習に励んでいた私は、後からそのコメント欄を見て少し頭を抱えるのだった。

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― 新着の感想 ―
グラップラーは投げ・寝技が得意な選手のことやね 打撃系が得意ならストライカー
[一言] この世(ゲーム)に蔓延る悪党(魔物)どもを蹴って殴っていい気持ち。 まるで某メリケン番長のようだね。
[一言] おれの怒りが有頂天に達してて草
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