4つのアイテム
「一応振り返っておくと、だいたい一週間前くらいに湖底廃都・エス≠トリリアっていう竜宮城みたいなダンジョンで、すごい数のモンスターと戦いましたと。私のライバーズアカウントにある4時間半くらいの動画がソレなんで、見てないリスナーは見てもろて……」
『苦行で草』
『勘弁してくれぇ』
『一本でゲーム実況の総集編みたいなボリューム』
『ちゃんと切り抜き師のクリップもあるぞ』
『竜宮城にしては夢がないというか……』
『既に250万回再生されてるのバグ??』
『人外カミングアウトからアーカイブも戦闘シーンまとめも再生数爆伸びやからなぁ』
『戦闘シーンまとめ(迫真)』
『収益ヤバそう』
「収益はわかんないなぁ……私お金使わなくて、全部リンちゃんに管理してもらってるから」
リンちゃんの話だと、5月は最初にドカンと投げ銭をしてくれた人がいたらしくて、収益計算の期間が短い割にはそこそこの収入になったらしい。
6月は投げ銭を切ってたからそういうボーナスはなかったけど、アリア戦がグングン伸びたのとリンちゃんとのコラボ配信、それから使徒討滅戦までが丸ごと入ってたから、5月の3倍くらいはあったみたい。
そして7月分はまだ集計期間の真っ只中だからわからないんだけど、体感だと豪華になりそうだとは思う。
何故か未だに伸び続けてる薪割り動画があったのと、大きなところだと月狼戦、メルティ戦、エス≠トリリアから影法師、そしてお誕生日配信までが丸々含まれてるし。計算期間の最後の方にリスナーの言うところの「人外カミングアウト」があったのと、バトラーでのMHKS乱射事件なんかもあった。
「金額は聞いてないけど、収益は6月分だけでも今住んでる部屋の家賃を賄えるくらいにはなってるみたい。まあ、賄えるってだけでリンちゃんのヒモであることに変わりはないんだけど」
『はぇ〜』
『なんか初期に100万投げてた富豪おったからそれか?』
『素直に羨ましい』
『スタートダッシュが違うとはいえ伸びたもんじゃ』
『7月の収益目玉飛び出るくらい伸びてそうだな』
「そうだねぇ。……よし、この辺人少ないしこの辺にしよっか」
リスナーと会話しながら裏で静かにアイテム整理ができる場所を探していた私は、一度第2の街まで戻ってきていた。
なぜ今更デュアリスなのかと言えば、なんと言っても人気がない。というより、あまりにも中継地点すぎてここを拠点に活動しているようなプレイヤーが本当に少ないのだ。
特色ある他の街に比べると明らかにのどかな田舎といった風情だし、初心者向けの小さな市場と生産プレイヤー向けの共同工房があるくらいで、探索メインのプレイヤーからはあまり見向きされなくなりつつある。
なによりトリリアの存在が良くない。ぶっちゃけあの湖上都市は早く行ってみたくなるよ。
だからちゃんと上級者向けのサーバーを選んだ時、一番空いてるのがこの街の周辺になってしまうわけだ。
「ま、と言っても目玉アイテムは片手の指で済むくらいになるかな。沢山倒したとはいえ、所詮は通常モンスターとレアモンスターだしね」
『無双ゲーの雑魚だけみたいな』
『レアモンいたっけ?』
『雑魚が硬い無双ゲーなんて嫌だ』
『何体くらい倒したんだ』
「フルタイムで652体だね。倒したモンスターの数図鑑で見られるのに気づいて、あとから確認しておいたんだ。軽くおさらいしておこっか」
湖底廃都は湖に眠る惨劇の跡地。地上から300メートルも落下して地底に衝突した衝撃はかつての住民をことごとく即死させた大惨事であり、その怨念は流れ込んでくるはずだった湖の水さえ拒絶して、湖底に無人の廃都を存続させ続けている。
ダンジョンの特徴としては、とにかく物量が凄まじいの一言に尽きる。
街に住んでいた住民、拠点にしていた冒険者。大崩落に巻き込まれた全ての人々が死霊となって襲いかかってくるアンデッドの巣窟だ。
内部の探索はほとんどできていないけど、触れられた範囲だけでも高難易度ダンジョンの呼称に相応しい圧倒的なモンスターの密度と耐久力が垣間見えた。
ただし、レベル100超えを謳う割には敵の特殊能力が乏しく感じるダンジョンでもある。
ほとんどが街人の死霊だからか麻痺やら毒やらが精々で、冒険者タイプの個体が魔法や武器攻撃をしてくるくらい。
基本的にはシンプルに防御力を固めて、状態異常の対策をしていけば戦い自体は成立する。
とはいえ、結局のところ物量こそが最大の難点であり、ソロ・パーティ関係なくハイドアンドシークしながら奥を目指すダンジョンだと思う。
「ダンジョンの特徴はこんな感じかな。見た目がどんな場所なのかは動画の方を見ればわかるから。海洋恐怖症の人は気をつけてね」
そんなことを言いながら、メニューカードを操作する。
メニューは思考操作もできるし、ホログラムを叩くような形での操作も使う時は使うんだけど、なんだかんだ物理的に触れる端末での操作って楽なんだよね。
「アイテム自体はまあまあ大量に落ちたけど、目玉商品は4つだね」
『ほう』
『少なくね?』
『↑ボス以外はそんなもんや』
『言うても雑魚モンスだったからかぁ』
『目玉ってどれくらい凄い?』
「一個は超すんごい。一個はすんごい。一個はすごい。一個はおお……ってくらいかな」
『期待できんなこれは』
『ダメそう』
『超すんごいのか〜』
『曖昧すぎるのぅ』
「体感的にレア度の低いのから見せていくね〜」
私が湖底廃都で戦ったのは、街人の幽霊であるロストシティ・ゴースト、冒険者の幽霊であるロストシティ・シーカー、そしておそらく大富豪とか貴族とかの幽霊であるロストシティ・ミリオネアの三種類。
実際にはシーカータイプはソードマン、アーチャー、マジシャンの三種類がいたし、ゴーストも体格とかは結構違ったんだけど、そこら辺は置いとくとして。
この中で特にレアなアイテムを落としてくれたのが、激レアモンスターである「ミリオネア」だった。
「私の索敵の感じだとゴースト500~1000体に1体くらい湧いてたんだけど、戦闘に入ってきた650体の中で運良く3体倒せたんだよね。レアなのの上から3つはこいつのドロップ。残りはシーカーから落ちたヤツだね。ちなみに死ぬほど倒したノーマルゴーストのは全部コモンとアンコモンの汎用ポーションだけですぅ」
『めっちゃ豪華な鎧のやつ?』
『ミリオネアってのがなんかもうチープ』
『ゴールデンなスライムみたいなもんかな』
『雑魚のドロップなんてそんなもんですよ』
『あの難易度で薬草とか上薬草みたいなのしか落ちないのマジ??』
「そうそう、豪華な鎧のやつ。じゃあちゃっちゃか見せていきますよ〜」
見せたいアイテムを最近見つけた「お気に入りアイテム登録機能」を使ってより分けた後、レア度の低いものから表示させた。
「1個目がこれ。レア度・ハイレアの長弓、《トリプレッツ・ロングボウ》のレリックバージョンでーす」
――
アイテム:《トリプレッツ・ロングボウ》
レア度:ハイレア
属性:なし
要求筋力値:400
攻撃力:+150✕3
敏捷:-40
耐久値:420/420
ウェポンスキル:《拡散・三》
分類:《長弓武器》《射撃武器》《遺物》
現代にも存在する拡散弓。
高い耐久と重量は安定性と強固な攻撃力を生み出すが、取り回しが悪いため機動力に難があり、現代では廃れてしまった。
――
「簡単に言うと、撃った矢が自動で3本に分裂する弓みたい」
『良さそう』
『レリックってのは古いってことか』
『弓使いがすばやさ下がるの嫌かもな』
『長弓って弓とは違うの?』
「一応違うね。主に違うのは大きさと連射性能と威力かな。基本的にアーチャーってこまめに移動しながら戦うんだけど、長弓使いはほぼ固定砲台になるみたい。ゲーム内の分類でしかないから、めっちゃ大きいけど普通の弓カテゴリだったり、短弓っぽいけど長弓カテゴリだったりって武器もあるみたいだよ」
『なるほど』
『性能とデザインの乖離は鍛冶師の腕の見せどころですわな』
『このレベルの弓って売ったらどのくらいになるんだろ?』
「うーん、NPCショップとプレイヤー相手で結構変わるからな〜。他の見せる前にはるるに聞いとこう」
『はるる、この弓って売ったらいくら?』
『人によっては3Mは余裕で出すってところですねぇ……』
『返信早っ!?』
『見てますからねぇ……』
『そうだった』
「速攻返事来たよ。300万イリスくらいだって」
『早すぎて草ァ!』
『はるるもよう見とる』
『NPCショップじゃ買い叩かれそうだしプレイヤーに売りたい感』
『スクナの武器と比較しても攻撃力結構高いし妥当かも』
『矢も三本出るしな』
弓って武器は矢の種類とかでカスタム性も高いから、こういうシンプルに強い武器の方がいいってのはあるかもしれない。
後ではるるに委託して売ってもらってもいいなと思いつつ、もう一個似たようなの武器があったのでそれも見せることにした。
「二個目はこれ。こっちも同じ連射弓なんだけど、シンプルに強かったさっきのとは真逆の超ネタ性能タイプだね」
――
アイテム:《魔弓・Vボンバー》
レア度:ハイレア
属性:大爆発
要求筋力値:550
攻撃力:+1✕5
耐久値:40/40
ウェポンスキル:《拡散・五》
分類:《弓武器》《射撃武器》《耐久消費倍加》
あらゆる矢に大爆発属性を付与する、とある賢者が戯れで作った五連弓。
脆い上に、取り扱いを誤れば射手の命ごと全てを焼き尽くす大問題児。ただし火力は超一級品。
――
「見てよこの大爆発属性ってやつ。初めて見たよ」
『ひぇっ』
『草』
『ロマン武器すぎる』
『なんか昔やってたゲームにこんな武器あったな……』
『脆い上に壊れやすいとか終わり過ぎてて好きw』
『射手の命ごと……??』
5連射の弓を撃ってくるミリオネアが居て、戦闘中も流れるだけ流れてたドロップ的にソレが手に入ったというのだけは覚えてた。
ただ、改めて見るとミリオネアが持っていた時と比べて明らかに性能が違っている。あの時の矢は確かに5本に分かれてたけど、特に爆発とかはしてなかったからね。
「見る限り矢の威力じゃなくて爆発で威力を出すんだと思うんだけど、爆破属性のダメージってどういう計算されるのかわからないんだよね」
『攻撃力1だしなぁ』
『爆破属性自体は防御無視の固定ダメージだったはずです』
「あ、固定なんだ。じゃあほんとに爆発だけでダメージ与える系なんだね」
『火薬による爆発は物理ダメージだから紛らわしい罠』
『細けぇんだなぁ』
『爆弾とか作れそうじゃん』
「私が初期に使ってたメテオインパクトって武器は、確かハンマーのヘッドに火薬を入れてたかな。最近あまり使ってないけど、打撃武器スキルにメテオインパクトっていうアーツがあってね。それを使うと発生する武器破壊の衝撃を利用して、指向性のある爆発を打撃と共にねじ込む悪魔みたいな武器だったよ」
『ひぇっ』
『懐かしいなぁ』
『この動画のやつですな つ《【ボス戦闘シーン・黄金の騎士編】》』
『あとで見てこよ』
『それもはるるさんの作った武器なんです?』
「そーそー、はるるってああいうイロモノ武器作るの好きだから」
イベントの試練でゴルドを倒した時に破壊してしまったメテオインパクト・零式。
あの時の爆発は属性によるものじゃなく、火薬を詰めたとはるるがはっきりいってたから、ダメージとしては物理ダメージだったってことなんだろう。
「黒狼戦で使えるかもだから、やっぱり後で試射だけはしとこうね。というわけで3個目行こ〜」
――
アイテム:《王鱒剣・キングアビス》
レア度:ハイレア★★★★
属性:水流
要求筋力値:300
攻撃力:+280
耐久値:159/159
ウェポンスキル:《属性強化・八》《水中移動強化・二》
分類:《片手剣》《斬撃武器》
元は純粋な水鉱石によって造られた剣が、キングアビストラウトの力によって鍛え上げられた姿。
類稀な水流属性を宿している他、アビストラウトの加護により水中でのスムーズな移動を可能とする。
――
「なんと、既に最終強化済の水属性片手剣です!」
『おぉ〜!』
『強そう』
『おうますけんって読むんか?』
『おうそんけんだろ』
『あのクソデカ鮭キングもおるんか』
『水属性なら火山特攻で使えるんじゃないか』
『剣かぁ……』
『強化 #とは』
「ああ、この★マークが強化された武器のマークなんだ。レアリティによって強化できる回数が決まってて、ハイレアは四番目のレアリティだから4回強化できるってわけ」
『あざす』
『なるほど』
『たしか逢魔も強化品だったはず』
『最終強化は上位レア度の無星武器くらい強くなる……だっけ?』
「みんなよく覚えてるね……それであってるよ」
そう、つまりこの片手剣・キングアビスはハイレアの上位、エピックレア相当の性能を持った武器ということになる。
高水準の攻撃力、十分な耐久、上位属性にそれを強化するっぽいウェポンスキルと、更には移動補助の特性までついている。
私の持ってる武器の中では、蹂躙猟機に次ぐ最高峰の性能だと言ってもいい。
これを手に入れて強化した人は、さぞかし丁寧に使っていたことだろう。
……いや、お金持ちの死体であるミリオネアからのドロップだから、案外ただ単に売りに出された品かもしれないけど。
「……まあ、これはアーちゃんにあげるんだけどね。私剣は要らないし」
『は?』
『www』
『草』
『草』
『草』
『マジか』
『草』
『太っ腹ァ!』
『だよなw』
「剣は使えるけど、使いこなせる人に持ってもらった方がいいでしょ〜」
これはこの剣をひと目見た時から決めてたことだ。
確かに強いし、火山では役に立つだろう。それこそホットロールキャベツに通りのいい属性だし、アーツを絡めなくても便利に使えるとは思う。
ただ単に、私には要らない。そもそも便利に使える属性武器ならそれこそ、あらゆる属性に対抗できる蹂躙猟機を使えばいいのだ。
「だからこれはこれまで色々手伝ってくれたお礼も含めてアーちゃんへのプレゼントにするんだ。ちなみに明日から一緒にやる許可はもう取ってるよ。この武器のことは私もさっき知ったばかりだから、当然知らせてないけどね」
『徐々に準レギュ化しつつあるしなぁ』
『打撃武器メインなのもアイデンティティだし』
『マジで未練ないならええやろ』
『アーちゃんならいいよ』
『いきなり剣使われても解釈違いではある』
『ナイフまでなら許すよ』
「じゃあどのみち剣はアウトじゃん!」
金棒を含めた打撃で戦うのが、私の基本的な戦闘スタイルだ。剣やナイフはいっぱい見たから使えるだけで、得意でも使いたい訳でもない。
なんたっていつでもどこでも使える素手や大抵は拾える鈍器と違って、刃物は用意しないとまともに使えないからね。
「という訳でこれはアーちゃんのね。……あっ、大丈夫大丈夫。心配しなくてもリンちゃん用のはちゃんと最後に取ってあるから」
『????』
『あれ?』
『??』
『待って?』
『なるほどな?』
『???』
『リンちゃん用?』
『スクナのは?』
「やだなぁ、双狼奏衣と蹂躙猟機以上の武器なんて簡単に手に入る訳ないじゃん」
レベル150の、月に一度しか戦えないネームドボスの素材を使って作ったり強化したりした装備だ。
いくらレベルが高いダンジョンだったりレアなモンスター相手だとしても、性能面で劣るなんてことはまず有り得ない。
それに何より。
「アーちゃんにはプレゼントを用意して、リンちゃんには無いなんてありえないでしょ」
『アッハイ』
『ソヤナ』
『ウン』
『ごもっともすぎる』
『浮気ダメ、絶対』
『圧を感じる』
『目が据わってますよ……』
『ひぇぇ』
収益はナナの貯金が数倍になるくらいドンと伸びました。
それでもリンネの稼ぎからすれば雀の涙です。悲しい。