クライネの真意
あけましておめでとうございます。
本年も引き続きよろしくお願いします。
「……さて、スクナはどう見る?」
「何か隠してはいる、かな」
クライネを見送ってから少しして。
未だにクライネが去っていった方に視線を送っているリンちゃんからの問いかけに、私はそう答えた。
『どうとは?』
『突然どうした?』
『どしたん?話聞こか?』
『急にシリアスになるやん』
「ん? ああ、クライネが色々と怪しいって話だよ」
混乱気味なリスナー達。
まあ、突然こんな話をしだしたらびっくりするよね。
「まず順応が早すぎるのよ。スクナは本来の手順を全部省いて無理やり見つけ出して、挙句の果てに攻撃までしたのに、物凄くすんなり受け入れたでしょ」
「まー、普通は警戒するよね」
「それに、依頼を受ける前からペラペラと喋りすぎ。黒狼についての情報はさておき、どうして倒したいのかなんて普通依頼を受けてから話すようなことでしょ。特に呪いのことなんてなおさらね。その割にクエストの報酬については何も言わずに行ったし。チグハグなのよね、色々と」
「この世界の常識がそれなんだ、って言われたらそこまでだけどね」
「それはそう。もうお手上げよね」
『草』
『適当に放り投げんな〜!』
『でも何となく怪しいのわかる気がする』
『あんなに可愛い子が俺らを騙すわけないだろ!』
『↑そう言われるとむしろありそうな気がしてきちゃう』
『でも受けるんですよね?』
「そりゃもちろん。クライネが何を考えてたとしても、私たちはそもそも黒狼と戦いたくて彼女に接触したんだから」
「クライネの補助なしで影の中で死ぬのはちょっと試してみたいわよね。どんなペナがつくのかしら」
「アイテム半分くらいロストしたりして」
「多額の救助料金を取られる可能性もあるわよ」
なんて、クライネが脅し文句として残していった言葉を考察なんかしたりして。
彼女が黒狼を見つけるために多くの手を必要としているのは本当だろう。
ただ、個人的には……呪い周りの話に関してはあまり信用していないというのが本音だ。
私はクライネが呪いについて話している時、ずっと思っていたのだ。
七大災禍に、ひいては鬼神に連なる呪いさえ何の苦労もなく解呪できる程の力を持つノクターンが、同格と思われる黒狼の呪いを解呪できないなんてことがあるだろうか、と。
彼女は月狼のことを知っていた。月光属性の存在もだ。
けれど、彼女は聖都の聖女の力を借りていることは話していても、月狼を探したという話もなければ解呪のために頼ったという話もなかった。
仮に鬼人の里に向かって事情を説明すれば、黒曜や白曜は協力してくれたと思う。あの里には人族のプレイヤーも来ていたけど、住民とのコミュニケーションで困ってる様子もなかったしね。
調べてもほとんど情報がないという黒狼を倒したら呪いが解けるという根拠は何なのかとかも気になるよね。……まあ、これは私がその場で聞いたら答えてくれたのかもしれないけど。
「ま、あの子が何を考えてるのかはどうでもいいっちゃどうでもいいんだ。弱くはないけど、戦えば多分勝てるし。黒狼と戦っている時に後ろから刺して来たりしなければ何を企んでても構わないよ」
「この世界のNPCあるあるだけれど、私たちのことを一応人として扱ってくるのよね。だから自分がやりたくないことはこっちもやりたくないだろうって思いがちみたいなのよ。ネームドとの戦いなんて嫌がるだろう、みたいな考えをするわけ」
「私たちとしてはむしろ情報があるならとっとと渡して突撃させて欲しいよね。だからもしクライネが色々と怪しげだった理由が『何とかしてクエストを受注させたい』とかそんな理由なら、的外れもいいとこではあるんだけど」
『なるほど』
『戦いたくない人もいるやで!』
『常人とゲーマーの溝は深い』
『まあ死ぬか死なないかみたいな違いは大きい』
『でも割とスクナみたいな考えの人多くない?』
『↑鬼人族とメルティだけじゃないかな』
『スクナは称号のせいで戦闘狂引き寄せるから(震え声)』
この世界でレベル数百とかに届いてるような化け物たちは、当然のことながらネームドボスなんて当たり前のように倒してきているし、乗り越えてきた死線も桁外れだろう。
だから琥珀やメルティは私たちと近い思考を持ってる。強い相手と戦う愉しみを知っているからだ。
でも、一般的にはこの世界でネームドの縄張りに入ることは死を意味する。
誰だって死ぬのは怖い。死ぬ可能性が高いクエストなんて中々受けたがらないだろう。
……と、この世界のNPCは考えるらしい。
でも、私たちにとっての死はただの失敗のひとつでしかない。ましてデスペナルティがめちゃくちゃ軽くなった今、本当にトライアンドエラーの一環でしかなくなった。
『ふーむ』
『価値観の違いかぁ』
『空回りしてると思うとちょい可愛い』
『なーんちゃって!みたいな裏切りがないといいが』
『クライネちゃんがちょっと抜けてるだけの可愛い子の可能性もあるやん??』
「背中を刺されないようにだけ注意しとこうね」
「敵って感じはしなかったし、大丈夫だと思いたいわね」
「とりあえず、改めて今からやることを確認しよっか」
考えても仕方の無いクライネの思惑より、黒狼を見つけられる前提で準備を整える方が先決だ。
「①ドスオルカ活火山のフィールド情報調査、②火山行きのアイテム・装備の準備、③調査兼ボス戦の仲間集め、④ボス戦の作戦会議。最低でもこんなところかな?」
「そうね。アーサーはどうせ自分から来るからいいとして、ドラゴは今回は厳しそうよ。竜の牙は今は《第8の街・オルオクティ中立地区》に向けた大規模攻略を展開中だから」
「オルオクティ……さっき言ってた大森林の中の街ってやつか」
ゼロノアが商業の中心になってるって話をしたあたりで、第8の街が亜人種の集まる場所にあるって話をしていたと思う。
オルオクティ中立地区とやらがそれなんだろう。
大規模攻略もちょっと気になるけど、ドラゴさんは本来クランリーダーとして攻略の最前線を率いる立場の人で、ノクターン戦は使徒討滅戦のよしみで特別に時間を作ってくれたのだ。
おそらく一日では済まない黒狼探索と黒狼攻略に付き合ってもらうわけにはいかない。どんなに譲歩したとしても攻略の方だけとかだ。
あと、ぱっと思いつくところで言うと……。
「ロウ……は流石にレベリングが追いついてないと思う」
「そうね。ノクターン戦の時のメンツはあんま揃わないか……」
殺人姫・ロウ。ノクターン戦でデッドスキルを発動するためにレベルを50に下がるまで捧げたロウは、下がったレベルの補充作業で忙しいだろう。
なんせ彼女はこのゲームでは大犯罪者だ。恨みを買った相手は山ほど居て、彼らからの追撃を避けつつレベルを上げるのは至難の業だ。
捕まったって話は聞かないから逃げられてはいるんだろうけど、今呼び出せる状態じゃないのはなんとなく推察できた。
「あと私が声をかけられるのはシューヤさんとメグルさんくらい」
アーちゃん率いるクラン『円卓の騎士』の双大剣使いである、シューヤさん。
そして同じ鬼人族で、鬼人の里に行くのだったり里で生活する時に色々お世話になったメグル(メメメ・メメメ・メメメル)さん。
これが私の人脈の限界だった。
「そうねぇ……いいわ、じゃあ今回は私の方で集めることにするわね」
「いいの?」
「ええ。とりあえずスクナはアーサーを引っ張ってきて。2人なら宛てはあるから、それで5人にはなるでしょ」
リンちゃんの言う「宛て」が誰を指しているのかは、正直いってわからない。
(でも私の人脈じゃ集まらないしな〜)
『もしや』
『あっ……(察し)』
『まあナナなら大丈夫だろう……たぶん』
基本的にはリスナーのみんなも理解できてはいなさそうなんだけど、それでもこんな感じで何かを察している人もいた。
私は昔も今もリンちゃんの交友関係自体には特に興味がなかったから、どんな人が知り合いなのかとかはわからないんだよね。
「流石に明日すぐには呼べないから、本格的な探索は明後日以降からにしましょ」
「じゃあ明日は火山に関する情報収集とアイテム準備メインだね!」
「そーゆーこと。じゃ、いい時間だし今日はそろそろ終わりましょ」
「うい。んじゃ〜みんな、ちょっと早いけど今日はここで終わりにするね。明日も配信はするから、後でライバーズのコミュニティで時間告知しておきまーす」
『サイト活用できるようになってきたやん』
『いいねlol』
『圧倒的成長!』
『SNSの方の爆裂通知は止まったんか』
「SNSも最近は何とかね」
バトラーの時から激重だったSNSも、通知が来すぎて止まらないみたいなことはなくなったんだよね。
「じゃあお疲れ様!」
『おつ!』
『おつです』
『おつ』
『お疲れ様でした〜』
『おつおつ』
『おつ〜』
助っ人二人は新キャラです。