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お誕生日配信⑦武器編

過去話で投擲スキルでアーツを覚える熟練度周りの数値を修正しました。

「いやぁ……やっと私の出番ですねぇ……」


「ずっとはるるのターンのような気がするけど」


 防具に関してだいたい内容を把握した私たちは、ようやくはるるが作ってくれた武器の発表にこぎつけることができた。


「今回制作したネームドウェポンは《投擲》スキルの運用を前提としたものですがぁ……50メートルを超えた遠距離戦闘で使うことは想定しないことにしていますぅ……スクナさんがたまにやる馬鹿みたいな長距離狙撃を想定すると武器のスペックが落ちまくるのでぇ……」


「あ、うん。それはいいよ。というかそれでも50メートルは使えるんだ」


「投げ物ですから射程が短すぎるのもそれはそれでってなりますからねぇ……」


 実際の戦闘で必要な投擲の距離は長くても2~30メートルだろうけど、まあ射程距離は長いに越したことはないか。

 そんなことを考えている私を尻目に、はるるはひとつのジュラルミンケースもどきを取り出した。


「さてさてお披露目と行きましょうかぁ……これが新たなネームドウェポン《蹂躙猟機じゅうりんりょうきおぼろ》ですぅ……」


 はるるが取りだした武器は、パッと見だけを見るならとても反応に困る、シンプルな見た目をした武器だった。

 なんと言ってもまず小さい。長さで言うと40センチほどしかない。

 加えて見た目もこれまたシンプルで、もうほんとに単純に表現するなら「太さ3センチほどのただの棒」だ。

 色合いはプラチナに薄い黄色が混じったような、月の光のような色。マフラーに使われていた色に金属の光沢が合わさって、素直に美しい色合いだった。まさしくノクターンを象徴するような色彩だ。

 形状の面で言うと、唯一目を引くのが棒の真ん中に付いている4つのボタン。押すことによって何かしらギミックが発動するのは明白だった。


「これ、押せばいいの?」


「ですねぇ……」


「ふ〜ん……おわっ!?」


 とりあえず一番上のボタンを押してみると、変化は一気に発生した。

 グイン! とでも効果音が出そうな勢いで棒が一気に1.2メートルほどの長さに伸びて、更に先端に槍の穂先が現れたからだ。

 驚いたのはその伸び方。警棒みたいにより細い筒が出てくる訳じゃなくて、そのまんま棒自体がぐんと伸びたのだ。

 反対側には石突が付いていて、明らかに短槍の類。なるほどこれはわかりやすい。


投げ槍(ジャベリン)だね」


「正解ですぅ……投げ物となるとやはり王道はこれですよねぇ……」


 先の尖った棒を投げて串刺しにするという、極めてシンプルかつ原始的な投擲武器。

 陸上競技にも槍投げはあるし、原始人がマンモスを殺す絵なんかもよく投げ槍の絵が描いてあったりする。

 その名を冠するミサイルが昔は戦場で使われていたと言うくらいに、飛び道具としてのイメージが世界的に強い武器だ。


 とはいえ、投石器や弓や銃みたいな遠距離武器に敵うようなものじゃないから、歴史的にもとっくの昔に廃れた武器だ。

 投げた人の力に威力を大きく依存するジャベリンと違って、人と武器の数を揃えさえすれば一定の成果が挙げられるのがああいう飛び道具の強みだからね。

 使い捨てで用意するなら矢や弾丸の方が楽だっていうのも、そもそも武器を使って仕留める相手が大きな獣から人間に変わっていったのも、投げ槍の衰退に拍車をかけたのかもしれない。

 そもそも投げ槍自体、投石器と同じで専用の器具を使って行われるようになっていったんだよね。スピアスローワーってやつ。だから戦争の中で人の手で槍を投げていた時代なんて、少なくとも近現代ではほぼないと思う。


 ちなみに投げ槍の実効射程は現実でも20メートルがいいとこで、ステータスで身体能力を底上げできるこちらの世界でもはるるが目指した50メートル級の射程が関の山。

 というか、それより遠くに投げる意味がパフォーマンス以外じゃ特にない。モンスターとの接敵距離はネームドを除けばせいぜい2〜30メートルからだしね。


「なかなか精通してるんですねぇ……」


「精通っていうか、使えるように練習する中でそう思ったってだけだよ。私があんまり勉強好きじゃないのは知ってるでしょ?」


「それもそうですねぇ……とはいえこの世界ではステータス然りアーツ然りで人の力が遥かに強いですからぁ……」


「だね」


 人の力に限界があるから道具に頼ったのが現実の世界。

 でもこの世界の人の力は、レベルが上がる限り際限なく伸びていく。

 だからこそこんな古風な武器でも十分に戦える。そもそも現実世界じゃほぼ使われてない剣やら弓やらで戦えてる時点で、現実世界の基準を持ってくるのも野暮な話だ。


「それにしてもこれバカみたいに重いね。逢魔より重く感じるんだけど」


 小難しい話は適当に切り上げて、そんな感想を口に出す。

 要求筋力値に比例して武器の重さは変わってくる。とはいえそれは適正な筋力を持っていれば本来なら気にならない程度のもの。

 ただ、私は極端に軽い防具を装備している分、普通に鎧を着ている近接アタッカーのプレイヤーに比べて武器にかかる比重が大きい。

 普通のプレイヤーが武器と防具で7:3くらいのところ、私は9.8:0.2くらい武器に寄ってるからね。

 

 それにしたってこんな小さな棒が持ってていい重さじゃない。

 さっき投げ槍の形にした時も重さは変わらなかったけど、やっぱり小さい状態の方が密度が高い分重く感じる。

 初めてメテオインパクトを持った時くらい、グンと重くなったように感じた。


「そりゃあ逢魔より遥かに必要筋力値が高いですからぁ……」


「どうせまたステータスギリギリまで使い切ったんでしょ……逢魔の装備外してなかったら持つこともできなかったよ、多分。ボタンの数的にまだ他にも機能がありそうだけど、先にステータス見てみよっか」


 意を決して武器のステータスを投影する。もちろんリスナーにも、リンちゃんたちにも見えるようにだ。


――


アイテム:《蹂躙猟機(じゅうりんりょうき)おぼろ

レア度:ネームド・PM

属性:月光

要求筋力値:920

要求器用値:350

要求敏捷値:240

攻撃力:+650(+325)

MP:-200

知力:-150

耐久値:91/91

ネームドスキル:《月狼げつろう夜想曲ノクターン

分類:《切断武器》《打撃武器》《片手用メイス》《変形機構:No4》《サブウェポン》《自動回収》

月夜に紛れし王狼の爪牙。

蹂躙の悲鳴こそ、月夜に奏でる夜想曲と成らん。


※この装備はロストしない。耐久度がなくなった場合《破損待機状態》となる。

※ネームドスキルは装備に付与される特異なスキルです。装備者のスキル枠に関わらず、その恩恵を受けることができます。


――


「おお……攻撃力たっか……」


「うふふふふ……凄いものですよねぇ……これがレベル150のレアネームドモンスターの素材を使ったネームドウェポンの基礎スペックですよぉ……」


『要求ステータスバグってないか?』

『おほぉ』

『すんごい』

『あれ、簒奪兵装の攻撃力っていいとこ350くらいじゃ』

『やばすんぎ』

『まず名前が強すぎるんよ』

『武器説明こわ』

『要求値限界まで絞り切った力作ですねこれは……』

『耐久過去一脆くね?』


 まず第一に目に付いたのは、これまで持ったあらゆる武器を凌駕するとてつもない攻撃力。

 単純な攻撃力は逢魔の二倍以上。耐久値も低めとはいえ、あくまでとりわけ頑丈な部類に入る金棒と比べての話。

 これまでは筋力だけしか見ていなかった要求ステータスを増やして、しかも全てが私の基礎ステギリッギリを攻めていて、その上で魔法ステータスをきっちり下げて。

 可能な限り性能を高めるために、相当苦心したのが伝わってくる。


「いくつか見た事ないステータスもあるね」


「サブウェポン、って最近追加されたやつでしょ。アプデの内容で見覚えあるわ」


 少し静かにしていたリンちゃんも我慢できなくなったのか、投影された武器ステータスを見ながらそう言った。


「そうですよぉ……これは名前の通り武器にサブウェポン属性がつくものですねぇ……」


「サブウェポン属性?」


「その前にひとつ思い出しておいて欲しいんですがぁ……装備の要求ステータスは合算値であるというのは覚えていますよねぇ……?」


「あれでしょ、要求ステータスは武器と防具でそれぞれ求められるから、重たい防具を着てると重たい武器は持てないみたいな。実際さっきもわざわざ逢魔を外したわけだし」


「その理解でいいですよぉ……今回のサブウェポン属性はその制限を一部解消するための機能なんですぅ……」


「はるるが説明するとかったるいから私が説明するわ」


 のったりとしたはるるの喋り方に痺れを切らしたのか、その先はリンちゃんが説明してくれた。


 サブウェポン属性というのは、武器がある条件下に置かれた時に『その要求ステータスの加算をなかったことにできる』機能のことだ。

 条件は二つ。ひとつは《サブウェポン装備》スキルを習得していること。

 そしてもうひとつは、装備者のステータスが武器の要求ステータスを上回っている……要するに、メインウェポンとして装備する前提であればその武器を装備できること。

 この二つの条件を達成した時、初めて武器をサブウェポンとして常時携帯することができるようになるんだとか。


「うーん……まあ、私もナイフと鉄球はいくつか常備してるから瞬間換装に頼らず武器を持ち替えられるのは便利な機能だとは思うけどさ。それって投擲武器を携帯するためのスキルではないよね、明らかに」


 基本的に投擲アイテムはわざわざサブウェポンとして持つものじゃない。だってどれもこれも要求筋力値は1とか、場合によってはそもそも重さがないから。

 そして携行性を考えれば常に持てるのはせいぜい2~5個。こんなしょうもない重さに対してわざわざスキル枠をひとつ潰すのはいくらなんでも勿体なさすぎる。


「察しがいいですねぇ……これは二刀流系のスキルを持つプレイヤーからの要望で実装されたんですよぉ……」


「二刀流……ああ、なるほど。武器を二個持たなきゃいけないから筋力値がきつくなるってこと?」


「正確には元々二本目は要求ステータスが半減されてはいたのよ。ただ、それでも足りなかったのね。特にヤバいのがシューヤの持ってる《双大剣》スキルかしら」


「大剣二本は確かに重そうだったねぇ」


 使徒討滅戦の時、シューヤさんが見せてくれた《双大剣》スキル。全く余裕がなかったからちゃんと見てはいないんだけど、なかなか面白そうなスキルだった。

 私がはるるに作ってもらってる超重量級武器は置いといて、基本的に武器って小さくて細いのは軽いし、大きくて太いのは重いものだ。

 見た目が割とそのまま重さに反映されるから、レイピアの二刀流と大剣の二刀流じゃ話が違いすぎる訳だ。


「そんなわけでサブウェポン属性をつけた武器は要求筋力値を考えなくていい利点があるわけですねぇ……」


「ふーん……ぶっちゃけなんか制限あるでしょ、それ」


 二刀流のメリットは手数が増えるおかげで火力が上がること。

 そしてデメリットは、両手が塞がること。

 基本的には手数の多さで火力を増やすのが大前提であって、武器を2本装備したから攻撃力2倍! なんて、虫のいい話があるわけない。


「武器のステータス欄を見ていただければわかるんですがぁ……カッコ書きの数字がありますよねぇ……」


「ああ、うん。攻撃力の半分の数値が載ってるよ」


「サブウェポンとして持った武器は攻撃力が半減するというのがぁ……スクナさんの言う制限なんですねぇ……」


「なるほど。色々気を使ってもらっちゃったかな」


「ふふふ……結果的にそうなったと言うだけなのでお気になさらずぅ……最高の武器を作ったら結果的にちょうど良かったというだけですからぁ……」


 650の横にある、カッコで囲まれた数字の記載。

 325という攻撃力は十分すぎるほど高いけど、数値的にはちょうど逢魔と同じくらいになる。

 つまりサブウェポンとして持った場合は、現段階であまりにもオーバースペックな性能を、レベル100のプレイヤーメイド品並みまで落とせるということになる。

 いや、正確には種族限定装備のことを考えるとレベル140かな?


 ともかくはるるのしてくれた武器のサブウェポン化という配慮は、せっかく作ってくれた武器が強すぎるから使えない、みたいな本末転倒な状況を救ってくれたわけだ。


「切断武器属性はまあ……一応槍だから? あれ、ボールペンの棍の時はこの属性ついてなくなかった?」


「クーゲルシュライバーってちゃんと呼んであげて欲しいんですけどぉ…………あれはあくまで打撃武器に外付けの刃をくっ付けただけなのでぇ……今回は変形の中に槍以外にも切断武器があるんですよぉ……」


「そういえばボタンは他にもあったね……後は《変形武器》と《自動回収》か。まあなんというか、字面から能力は伝わってくるんだよね。たった今手の中で変形してたばかりだし、投擲武器だから拾わなくてよくなる効果かな、みたいなさ」


「全くその通りですねぇ……」


「で、この《No4》ってなに?」


「4種類の形態を持っているということですけどぉ……」


「ちなみにそれってニュートラルな状態は?」


「含まれませんねぇ……」


「そ、そっか」


 棒に着けられたボタンの数は4つ。つまりボタンごとにそれぞれ別の用途が設定されてるってことか。


「それではぁ……4つの形態の紹介といきましょうかぁ……」


 ひとつ目。形態モード投げ槍(ジャベリン)

 これはもう一度見た。《投擲》スキルを活かすために作ってもらった今回の新武器の中心コンセプトだ。

 投擲用とはいえ穂先がついているおかげで一応短槍としても使える。まあ、金棒を差し置いて近接で使うことはあまりなさそうだけどね。


 2つ目。形態・二連刃ダブルエッジ

 名前だけ見るといかにもな感じだけど、実態はいわゆる十徳ナイフみたいな、柄から刃を引っ張り出して使うタイプのナイフだ。バタフライナイフとはちょっと構造が違うかな。

 サイズは持ち手込みで40センチくらい。投げナイフとしては相当大きい。


 どうやらこれは投げナイフとしての側面だけじゃなく、シンプルに短剣としての役割も持っているっぽい。

 投げて使うための剣先が尖っているナイフと、切り裂いて使うためのサバイバルナイフ。この二種類がボタン操作で切り替えられる可変式ナイフって訳だ。

 打撃武器への相性が極端に悪いタイプのモンスターに使って欲しいとのこと。普段は投げナイフの代わりになるからその点で見ても悪くはない。欠点もあるけどね。


 3つ目。形態・反射鉄球スーパーボール

 名前の通り、これまた私がよく使う投擲武器のひとつである鉄球の形態。

 スーパーボールとは言うものの、これはあくまではるるが自分の中でつけた名前だから、ゴムボールみたいに跳ねたりはしない。可能な範囲で跳弾するくらいだね。


 ただこれはさっきのナイフにも言えることだけど、これまでは要求筋力値が一桁しかなかった投擲アイテムの代わりとしては、恐ろしく重くなった。

 要求筋力値920だからね。900倍重くなるって訳ではないんだけど、それにしたって重さは桁外れだ。はるるが言ってた通り、もう遠距離狙撃に使える重量じゃない。

 ナイフは切断属性の、鉄球は打撃属性の投擲武器として、弱点がピンポイントな敵に対して使っていくことになると思う。


 そして4つ目、最後の形態。

 これがまあ……はるるの本領発揮というか。


形態モード如意棒にょいぼう……ね」


 如意棒。如意金箍棒にょいきんこぼう

 西遊記に出てくる孫悟空のメインウェポンのひとつとして名高い、伸縮自在の鉄棒の名前だ。

 両端にはしっかりと金箍かなたががはめられていて、ある程度は西遊記の描写を再現してるんだろう。


「原典では重さ8トンあり伸縮は天上から地獄の底までと言うほどのスペックですがぁ……流石に再現のしようがなくてぇ……」


「うん、そりゃ無理だろうね」


 私も詳しくはないんだけど、如意棒と言えば自由自在に伸び縮みする鉄棍というイメージは根強い。

 はるるの言う通り、物語の中ではそれはもうとんでもなく重たくて、伸び縮みする性質上携帯性にも優れていて、孫悟空は確か耳の中に入れて持ち運んでたとかそんな設定だったはず。


「最大伸長は5.3メートルで最小は30センチまで縮みますぅ……伸縮の速度は相当なものなので瞬時の調整が必要ですがぁ……スクナさんの反射神経なら自在に伸び縮みさせられるかとぉ……」


「そのくらいならまあ使えるかな。軽く振ってみたいからちょっと離れてて」


 基本の長さは1.6メートル。棒術の棒としては短い部類に感じるけど、私の身長を考えるとこのくらいが一番扱いやすい。

 伸縮にかかる時間は最大から最小までで0.5秒ほど。0.5秒で5メートル伸びるわけだから、0.01秒につき10センチの伸縮があるってことだ。

 確かにこれは相当な反射神経がないと扱いきれないだろう。


 伸縮自体は思考操作もできるっぽい。ただ、ボタン操作に比べるとやっぱりわずかなラグがあって、伸びすぎるし縮みすぎる。

 ボタンの位置は固定されてるから、棒を振り回す中で必ずしもボタンを触れるとは限らない。だから基本的には長さを縮める時だけ思考操作にして、伸ばす時はボタン操作が良さそうだ。


「……ふんっ!」


 試しに最大の長さに伸ばして、頭の上でぐるっと1周回転させてみる。

 ブォォン!と音を立てて風を切る様は壮観だけど、全身が遠心力に引きずられそうになる。重くて長いって言うのはそれだけで凄まじいパワーを生むからだ。

 軽くひと回ししただけでわかる。使いこなすのに過去一苦労しそうな、とんでもないじゃじゃ馬武器だ。


「ふぅ。こりゃ〜ちゃんと練習しないと使いこなせそうにないね」


「へぇ、そんなに重いの?」


「持ってみる?」


「いやよ、私の筋力値ナナの10分の1くらいしかないのよ。潰れるに決まってるわ」


「あはは、確かに」


 基本状態の如意棒を投げ渡そうとしたら、びっくりするくらいの速度で逃げられちゃった。

 まあリンちゃんは魔法使いだからね。筋力ステータスなんて欠片も上げてない人族プレイヤーに持てる重さじゃないよね。


「とりあえずこれは要練習として……後はそうだ、ネームドスキルも確認しなきゃ」


 要素が多すぎてすっかり忘れてたけど、これも《魂》を使って作ったネームドウェポンだ。

 当然ながらネームドスキルが付与されてるわけで、なんなら本来はそっちが目玉になるはずなのに、危うく見落とすところだった。



――


《月狼の夜想曲ノクターン

ネームドスキル


月狼の魂より受け継ぎし苛烈なる反発の力。

月夜に戦火を奏でよう、夜の帳はまだ降りたばかり。

・月光属性攻撃の威力が30%増加する。

・このスキルを持つ装備は無属性を除く全ての属性へ反発する。反発が発生する度、装備の耐久度を消耗する。


※このスキルは常に効果を発揮する。


――



「…………んん?」


「ふぅん……なるほど、やっぱりそういう方向性なのね」


『強い?』

『強そう』

『どうなんだこれ』

『全属性メタ……ってコト!?』

『属性に反発とは』

『月光属性は強化されてるんだね』

『火力面は地味か?』


「あー……このゲーム、属性攻撃はガード性能のある武器で受けるか、同じ属性か弱点属性じゃないとかき消せないって仕様があって……反発する、だから多分そういう制限を全部関係なく強引に消し飛ばせるってことかな、とは思うんだけど」


「その認識で結構ですよぉ……実際に試してみたところプレイヤーが使える範囲の上位属性まではひと通り消すことができましたのでぇ……」


「はるるが試したの? どうやって?」


「武器の造り手が造った武器を試し斬りできないわけないですよぉ……ちゃんと制作者向けのスペック確認用エディットモードがあるんですぅ……」


「そうなんだ……と、話を戻そう。だから簡単に言えばこの武器を使ってる限り、あらゆる属性攻撃は打ち消せるようになるってことだね」


『強くない?』

『強いじゃん』

『マジで強そう』

『めちゃくちゃ言ってないか?』

『耐久減るって書いてあるよ』

『防具も属性耐性だったよな。属性メタ過ぎん?』


「だねぇ……ちなみにはるる、反発で減る耐久値ってどんなもん?」


「一発1~3、打ち消す威力しだいで最大10ってところですねぇ……」


「うぐっ、結構きついな」


 結論から言うと、スキルそのものはめちゃくちゃ強い効果だとは思う。


 属性攻撃をどうやって迎撃するかというのは全プレイヤーの至上命題のひとつだ。

 片手武器を使うプレイヤーならもう片手に盾を持つ。

 両手武器の中には大剣のようにガード性能のある武器もある。

 あるいは多彩な属性アーツによって打ち消す。

 この辺りが鉄板の対応策だろう。

 私も《鬼の舞》の水鏡の舞を使うか、それこそ終式を発動して権能《徹底抗戦》の能力を発動しない限りは、回避以外で属性攻撃を凌ぐ方法は無い。


 そんな中、この武器は一定の耐久損耗を犠牲にすればあらゆる属性攻撃を打ち消せる。

 アーツも要らない、盾も要らない。ただ純粋に武器の効果だけでそれを成せる。間違いなく破格も破格のトンデモ効果だ。


 とりわけ衝撃的なのは上位属性まで打ち消せるという点。

 上位属性に共通する特徴は、同格の同属性攻撃か弱点属性でしか打ち消せず、下位の同属性――獄炎属性なら炎属性――を吸収すること。

 厳密に言うと岩石属性は実体があるから物理攻撃を通してしまうとか属性固有の性質もあるみたいだけど、基本的には一貫した特徴と言っていいと思う。


 つまりこの武器は、あらゆる属性相性を無理やり突破して、一方的に月光属性を押し付けることができる訳だ。

 『蹂躙猟機じゅうりんりょうき』なんて凄い名前だけど、確かにこの一方的な横暴さにはちょうどいい名前なのかもしれない。



「とりあえずちょっと試し投げしたいな」


「おぉ……いいですねぇ……」


「とりあえず目新しいところってことで、投げ槍モードね。これはね〜、動きが鈍くて大きい的に当てるのに向いてるんだよね」


 投げ槍に限った話じゃないけど、投擲物の当て方は基本的には平面で山なりに投げるか、高所から射ち下ろすように投げるかの二択だ。

 一応空を飛んでる相手に対して下からぶん投げる方法もあるけど、そういうのは流石に弓とか鉄砲みたいな飛び道具の領域かな。


 ただ、投げ槍を地上から山なりで投げて当てるのは意外と難しい。激しく動く相手に当てるのは基本的には不可能と言ってもいいくらいだ。

 なぜかって、そもそも山なりを描く狙撃は軌道が大きくなる分命中に時間がかかるからだ。

 投げて、当てるまで。

 その隙間の時間が長ければ長いほど、投擲の命中率は下がる。それだけ予測しなきゃいけない要素が増えるから。

 撃ったら即命中する銃が強いのも、超音速で飛ぶミサイルが強いのも、結局は速度がずば抜けているからだ。


 それに、手首のスナップだけで投げられるダーツやナイフや鉄球と全身を使って投げなきゃいけない槍では、モーションにかかる時間からして全く違う。

 本来は弓矢と同じで、数による飽和攻撃をするための武器なんだ。


「WLOにはゲームらしく投擲物をまっすぐ飛ばせるアーツなんかもあるから、山なりで偏差撃ちを狙う必要はほぼないんだけどね……かっこよさ重視ならこういうのかな?」


 50メートルほど先に居たボアを捕捉して、10メートル軽く助走をつけてからその場で思い切り飛び上がる。


「《轟砲》!」


 全身を捻って放たれたジャベリンが、容赦なくボアの胴体を貫いた後、地面と衝突した瞬間に爆発する。

 まあ、爆発って言っても小さなものだけど。

 自動回収の効果で手元に戻ってきた武器を掴み取って、くるりと回して肩に担ぐ。


「どう? いい感じでしょ」


『ええやん!』

『素直にかっけぇ』

『やってみたい』

『かっこよ』

『アニメで見た事ある画角』

『悔しいけど良い』

『様になってる』

『初めて持った武器の使い慣れ方じゃないんだよね』


「期待以上にいいですねぇ……! 《投擲》スキルもこれから人気が出るかもですよぉ……」


「ふふん、もっと褒めてくれてもいいよ」


 なかなかの絶賛の嵐。なかなか普及していかないスキルだけど、私の頑張りで《投擲》スキルユーザーが増えるならそれは嬉しいことだ。


「ところで耐久は大丈夫ですかぁ……?」


「……あっ、1回で耐久10も減ってる!?」


「投擲の耐久損耗は比じゃないですからねぇ……」


「耐久91だよね? 10回で壊れちゃう……」


「反発効果でも耐久は減るんだから、ちゃんと耐久管理しないとダメそうね」


 ネームドウェポンは壊れてもロストはしない。修理に持っていけば直すこと自体はできる。

 だから逢魔みたいに壊れることそのものは気にしなくていいんだけど、流石にここまで耐久消費に難がある性能だと、リンちゃんの言う通り使いたい時にちゃんと使えるように耐久管理する必要がある。


「高性能の代償はこんなところにあったのか」


「応急砥石ならお安く譲りますよぉ……」


「ケチ!」


「ふふふふふ……」


 結局、耐久値を瞬時に回復できるアイテムを10個ほどはるるから譲ってもらうことにした。1個10万イリスもしたから、これだけで100万イリスの出費だよ。

 高レベルの鍛治師じゃないと売ってもらえないんだって。研ぎもひとつの商売だから仕方ないんだろうけどね。


 そんなこんなで新しい武器と新しい防具のお披露目は、なんだか締まらない感じで終わった。

お誕生日関連の話はあとひとつです。

そしたら黒狼編に進みます。

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