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お誕生日配信⑤

最近夜に起きてられないので朝投稿が増えそうです。

 始まりの街・東のフィールドは、耳を澄ませばそこかしこにモンスターがいるほど、人気ひとけ人気にんきもない狩場だった。

 まあ、聞く限り特別人気の出るような要素のあるフィールドではないし、鈍重で初心者が一番狩りやすいであろうボアは北のフィールドにいるわけだから、いきなり東に来るってプレイヤーが多くないのは確かなんだと思う。

 ただ、それにしたって……というか、それ以前にここに来るまでの間にすごい違和感があった。


「すごい今更なんだけどさ。このサーバー人少なくない?」


『確かに』

『昔のRPGくらい人おらんわ』

『気づかれましたか』

『まあ明らかにね』

『まるでサ終前のようだ:(』


 始まりの街を少し見て回っただけですぐに分かった。

 とにかく人が少ない。それはプレイヤーに限った話じゃなくて、NPCの数も異様な程少ないのだ。

 それこそ散見、という表現がちょうどいいくらい。街中を歩き回る生活感のあるNPCもいなければ、そこら中にあるNPCショップのほとんどから店員が消えていて、メニューカードを介した自動売買のためだけの機能が残っているような状態だった。


 最近あった大規模アップデート。大量のプレイヤーによる狩場の競合などを緩和するために、サーバー分けが行われたのは記憶に新しい。

 リンちゃん曰く、簡単に言うと世界の複製を作ることでプレイヤー数の分散を図ったということらしいけども。

 まあ、それによってサーバーごとの人数が減っているというのは理解できる。そうじゃなきゃ分散させる意味もないしね。


 ただ、私が始めたばかりの頃を思い返すと、始まりの街の混雑具合は半端じゃなかった。

 さながら大きな駅の通勤時間帯のごとく人がひしめき合っていて、10メートル先が見えないってくらいには混雑してたのだ。

 今WLOはわざわざサーバーを増設しなければならないほど新規ユーザーが増えている状況。つまり始まりの街はいつだって人に溢れているはず。

 サーバー分け以外の要素を加味しても、いくら何でもこのサーバーは人が少なすぎた。


「ああ、それに関しては簡単よ。ここ、上級者向けのサーバーだから」


「上級者向け?」


「正確にはグリフィス到達者向けのサーバーっていうべきね」


 首をかしげていると、リンちゃんが詳細を説明してくれた。


「リソースの奪い合いを緩和するためにサーバーを新しく建てた訳だけど、そうは言っても全部の世界に平等にオブジェクトを置くのも無駄でしょ。上級者は前に進んでいくから滅多に手前の街には戻らないし、初心者が一足飛びで進めるゲームでもないからね」


「なるほど、つまりここはグリフィス到達者向けだから、始まりの街とかデュアリスとかがほとんど空っぽになってるってこと?」


「そういうこと。ちなみにトリリアまでそうね。そりゃあこの世界を楽しみたいって思ってゲームを始める初心者は、こんなガラガラの街に来て虚無みたいなビギナーライフは送りたくないわよね」


 ビギナーの頃に始まりの街で実際にNPCと会話した記憶はほとんどないから、NPCの有無がプレイそのものに与える影響はあまりないような気はするけど、そうは言ってもこのサーバーにはプレイヤーすらいないわけで。

 それに、実際に生きているNPCがいるファンタジー世界なのに、生活感皆無の半ばゴーストタウンみたいな場所からスタートしたいって人はいないだろうしね。私だって嫌だし。


「逆に目立ちたくなかったり、本当に狩りの効率だけを求めてクエストとかガン無視するような初心者が使うには、こういうサーバーも都合がいいってわけ。モンスターがうじゃうじゃポップしてるのもそういう理由よ」


「まー今の私たちにはちょうどいいね。スーちゃんは次はちゃんと人がいっぱいいるサーバーに行くんだよ?」


「あ、はい。そうします」


 幸いと言うべきか、直接凸ってくるようなマナー違反のリスナーはいないけど、数少ないプレイヤーの中には明らかに私たちを見に来たであろう人もいる。視線でわかっちゃうからね、そういうの。

 これだけ注目を浴びてる中で普通の初心者向けサーバーに行っていたら周りに迷惑をかけてただろうから、今回は上級者向けのサーバーを選んで正解だったと思う。

 とはいえスーちゃんにはあの雑多な感じも楽しんでもらいたいから、今後ひとりでプレイする時はこういうのは選ばないように伝えておいた。



「じゃあ試射してみよっか。まずはスーちゃんどうぞ〜」


「それじゃあアソコのウサギを狙ってみます。……よっ」


「ピギッ!?」


 手馴れた様子で弓を構えて、撃つ。

 放たれた矢は20メートルほど先に居た体長30センチほどのラビの頭を綺麗に射抜いて、ヘッドショットで確殺した。

 特別フォームが綺麗だってわけではないんだけど、自分なりの撃ち方を持っていて外れる気のしない良い射撃だ。


「流石に精度いいわね」


「結構慣れてる手つきだね?」


「一時期、武器スキンの弓を使って遊んでたことがあるんです。こんな近距離戦で使ったことはないですけど」


「あ〜、確かに動画いっぱい見てた時に弓使ってる人割といたかも」


 銃弾飛び交うサバイバルシューティングゲームだけど、結構イロモノ武器が混ざっていることがある。

 例えばレーザーガンであったり、フライパンであったり。何かとコラボしている時は「魔法」なんてものもあったり、それこそMHKSだって常設とはいえ明らかなイロモノ枠だ。

 そんな中で、確かにゼロウォーズVRでは「弓」という武器があった。いくつかのシーズン限定で、一部のスナイパーライフルの代わりに出現するアイテムだったと思う。

 あの世界であらゆるキル記録を総ナメしてるスーちゃんであれば、当然相応に使いこなせるはず。


 もちろん、WLOの弓とゼロウォーズの弓は全くの別物だ。WLOの弓はせいぜい30メートルくらいしか威力が持たないけど、ゼロウォーズでは200メートルくらいなら充分効果がある武器だからね。


「弓ってとても素直なので、手元さえ狂わせなければそうそう外れることはないです。ただ、やっぱりアバターの操作精度が良くないのと、直射の射程が思ったより短いですね。思ったように矢が飛ばないです」


「元々弓って山なりに撃って射程を出す武器だし、直射はそんなもんだと思うよ」


「そうなんですね。まあ、それでも近接武器よりは距離感が測りやすくて助かります」


『淡々とやるな〜』

『そういうとこはスクナと似てる』

『アシストなしって結構ムズいんだけどな』

『当て勘が良すぎる』


 射程が短いなら短いなりに、動きにくいなら動きにくいなりに。

 感覚を掴んでからは一瞬でアジャストできたみたいで、スーちゃんは目に付いたモンスターをサクサクと射抜いていく。

 特別フォームが綺麗だとかそういう訳ではないんだけど、ちゃんと当たる。距離感をちゃんと掴めてるからだ。

 ゼロウォーズの時も特別射撃フォームが綺麗だってこともなかったから、当てるための最低限の技術を身につけた後は「自分がやりやすい形」を作るタイプなんだろうね。


 そんな感じでサクサクモンスターを狩っていると、4匹目のラビを狙った時に照準が上手く合わなかったのか、スーちゃんが一発誤射をした。

 20メートルの距離で、目測で数十センチのズレ。まあ慣れてるとは言ってもそういう誤射はして当然だろうと思った矢先。

 お互いの真ん中あたりで矢の軌道がグネッと曲がって、ラビの胴体に突き刺さった。


「……おお?」


「……うん?」


 想像していなかった動きに、スーちゃんと二人で一瞬固まってしまう。


「なんで二人して固まってんの。今のがシステムアシストよ」


「ああ、そっか! いや、知ってたんだけど実物ってちゃんとは見たことなくて」


「結構ぐにゃっと曲がるんですね……曲芸撃ちとかできそうな」


 弓って武器が人気な最大の理由。

 それが今のシステムアシストによる命中補正だ。

 なんと言っても近接戦闘が苦手な人って結構いるし、かと言って弓ってなかなか簡単に扱える武器でもない。

 そこでこのゲームの弓はSPを消費することで、ちょっと外したくらいの攻撃であれば無理やり命中させてくれるアシストが付けられている。

 これが戦い慣れしていないプレイヤーには結構好評で、矢の補充で多少出費は大きくなるものの、その分カジュアルな戦闘が楽しめるわけである。


「あ、レベル上がりました!」


「おー、いいね〜。……アーチャーだとどのステータスを上げるのがいいんだろ?」


「うーん……」


『火力に直結するのは筋力だな』

『敏捷ないと引き撃ちがきつくなるよ』

『とりあえず筋力でいい』

『獣人の補正考えると敏捷は割と後回しでいいと思う』

『筋力一択!』

『矢の攻撃力差が小さいから筋力と武器攻撃力が火力に直結するねん』


「お、みんなありがと。見る限り筋力重視の人が多いかな。でも一応ウィキも調べよう……」


「ですね。スキルツリーとかも気になります」


「魔法系のステータス上げてマジックアローみたいなの撃てたりしないかな」


「それはもう各属性魔法に矢の魔法としてあるんじゃないですか?」


「確かにそうだ。メルティ使ってた」


『発想が小学生』

『まあ魔法の矢ってアイテムはあるけどね』

『属性矢と属性魔法の矢の違いとは???』

『属性矢は物理攻撃に属性付与だから頑丈で判定、属性魔法の矢は魔防で判定するんや』

『矢を用意すれば武器の属性を考えなくていいから弓は攻撃力特化の装備が多いんだぞ』

『システムアシスト強化なんてスキルもあるから是非』


「ここぞとばかりに詳しいリスナーいるね!? 打撃武器の知識は全く教えてくれないのに!」


『アンタがナンバーワンだからや』

『教えることないです』

『むしろ教えられてる定期』

『打撃武器スキルなんて属性攻撃のないマゾいスキル上げるバカおらんからね』

『スーちゃんは教えがいがあって助かるで』


「ちゃんと私のためになる知識を仕入れてもろて……」


「どうしたんです?」


「いや、リスナーが役に立たないなって話」


『遺憾の意を表明する』

『独自ビルドで独自ルート走ってるスクナに問題があるよね?』

『投擲スキルとか検証のしようがないんですわよ』

『武器破壊芸人』

『撲殺鬼娘』

『ぺったんこ』


「おいこら」


 仮にも誕生日配信中だと言うのにこの反応。

 いつも通りだなと苦笑しつつ、最後のリスナーには配信者権限で3分間コメント禁止のパンチを食らわせておいた。

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某リスナ「『ぺったんこ・・・訂正、洗濯板』」 スクナ氏「洗濯板ってなに? 洗い物を叩くの?」 うーんこの、ジェネレーションギャップw
[一言] 『ぺったんこ』
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