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お誕生日配信②

体力テストはシャトルラン派でした。

「そもそもね。身体能力はどう考えてもナナ、燈火、すうぱあ、私の順なわけ」


 着替えを終えたナナと、若干熱の入ったウォーミングアップを終えたトーカとすうぱあに、リンネは当然のことを語った。


「まあそうだね」


「単純な筋力だけならリン姉様も体格相応にはあるんですけどねぇ……」


「リンちゃん運動神経が欠片もないから基礎動作にしか役立たないよね」


『辛辣で草』

『ボコボコで草』

『リンネもナナもお互いのダメなとこは結構ボロくそ言うよな』

『そこを補う関係性がてぇてぇなんだぞ』

『それはそう』

『実際リンネの運動神経はギャグ』

『投げたボールが後ろに飛ぶのはもう世界の法則が乱れとるんよ』


「だからすうぱあには先に言っておくけど、この二人に張り合おうなんて思うんじゃないわよ。私よりは強いんだから、貴女なりの全力で計測すればいいわ」


「わかりましたけど……燈火もですか?」


「そうよ。見てればわかるわ」


「はあ」


 すうぱあは「わざわざ注意するようなことだろうか」と思いつつも、リンネが言うんだから何かしら意味のあることなんだろうとひとまずは納得することにした。


「それじゃあまずは握力測定ですね! 大学入ってからは測ってないですけど、伸びてますかね〜?」


「あ、私は最後にするね」


「えっ、じゃあ、とりあえずボクから……これ、ぎゅっと握ればいいんですよね?」


「そうよ。思いっきりね」


 人生のほとんどをゲームが強くなるために捧げてきたすうぱあは、握力計なんて器具を生まれてこの方使ったことがなかった。小学校に通っていた間もその大半を休んでいた彼女は、体力テストを実施する日も例に漏れず休んでいたからだ。

 もし休む日が違っていれば、触る機会もあったかもしれない。そう思いつつ、彼女は手に持った握力計をぎゅっと握った。


「……えいっ!」


「42キロ。平均よりは10キロ以上強いわね」


『なかなか強いやん』

『余裕で負けたんだが?』

『うむうむ』

『体格大きいと筋量もその分多いからかなぁ』

『いいやん』


「結構良さげですか?」


「初めてにしてはいいと思うわよ。図体には見合うって感じね」


 大きな体に相応の筋肉。ムキムキの筋肉ダルマとは程遠い、あくまでも鍛えていない14歳の女の子ではあるが、それでもサイズが大きければそれなりの出力はある。

 ちなみにリンネの握力は35。虚弱に思える割にはそこそこ強いが、それでもこの時点ですうぱあにすら負けていたりする。


「じゃあ次はトーカちゃんだね」


「はい! 見ててくださいナナ姉様、私の成長を!」


 ニコニコ笑顔ですうぱあから握力計を受け取ったトーカは、ナナに向けてビシッとサムズアップを決めた。


「すぅ、はぁ……はぁっ!」


 いつになく真剣に。

 握力計からミシッと軋む音が鳴るほど、燈火は思い切り右手に握力を込めた。


「81キロ。昔と比べるとだいぶ伸びたかしら?」


「わ〜、すっごい強くなったねぇ」


「えへへ、そう言って貰えると嬉しいです」


『ヒェッ』

『嘘だろ』

『ちょっとマテ茶』

『怖い怖い怖い』

『はあ!?』

『やばすぎぃ!』

『トーカちゃん……?』

『そんなバカな』


「トーカ……凄い、ですね?」


「そんなことないですよ、すうぱあさんも立派です! トレーニングすればもっと強くなりますから」


「う、うーん?」


 ウォーミングアップ代わりに仮設アスレチックで遊んでいた時から凄い運動神経をしているな、とは思っていたものの。

 自分とそう大差ない体格で二倍も握力の数字が違うなんて。


 すうぱあから見たトーカは、ナナやリンネと比べたら能力の突出具合でこそ見劣りするけれど、その分親近感の湧くお姉さん。

 自分より大きな女性がいるというのも、無駄に大きく育った(と本人は思っている)すうぱあにとっては安心感を与えてくれる。

 ナナを好きすぎる以外に欠点のない人……そう理解していたはずではあるのだが。


(見劣りどころか……)


「わかったでしょ? ナナに隠れてるだけで、この子も大概フィジカルモンスターなのよ」


 トーカは規格外ナナ規格外リンネの妹分。

 その意味を改めて理解わからさせられたような気がした。


「二人とも計測終わった〜? やっちゃっていい〜?」


 トーカの握力にすうぱあが驚いている間に、トーカは反対の手も測り終えたらしい。

 それを受け取ったナナがなにか許可を求めると、リンネが軽く頷いた。


「いいわよ」


「ほーい」


 ガシャン。くしゃっ。

 一秒と持たない。

 まるで抵抗なんてないかのようにナナの手の中で握力計のバネが弾け、持ち手は豆腐のようにあっさりと握り潰された。

 そんな衝撃的な光景を見ても、すうぱあが感じたのはあまりに落ち着いた納得感だけ。


(あぁ。だからナナは最後にするって言ったんだ)


「あ〜、やっぱり壊れちゃった」


「いいのよ、どうせ旧型だし。このサイズでナナの握力を受け止められる装置なんて作れないもの」


『なるほどな』

『ワァ……』

『マジかよ』

『ふぅ……』

『わかってたつもりなんだけどな』

『目を疑う』

『SUSlol』

『金属製……ですよね?』

『流石っす』

『在庫処分やんけ!』


「とまあだいたいこんな感じで進んでくから、よろしくね?」


『何をよろしくすればいいんだ』

『とりあえず拡散はしときますね……』

『わかった(わかってない)』

『全部受け入れる覚悟はできたぞ』

『スーちゃん可哀想』

『トーカがニッコニコで嬉しいよ』

『試されるリスナーの受容力』





 ①長座体前屈。


「これだけはナナ姉様に勝てるんですよね!」


「身長差の限界があるからねぇ」


「ボ、ボクは固くて、ダメそうです」


『なるほど』

『リーチの差もあるからか』

『手が伸びたりしなくて安心したよ』


「関節を外せばいくらか伸ばせなくもないよ?」


『やめてクレメンス』

『見たくないです』

『外さないで』

『格闘漫画で見たやつだ!』

『そういう種目じゃないのよ』



 ②立ち幅跳び。


「せーのっ!」


「……ジャスト10メートル。手ぇ抜いたわね?」


「えへへ、キリのいいとこでね」


『跳んだァ!』

『不自然に浮かなかったか?』

『ナナでもちゃんと反動つけて跳ぶんやね』

『走り幅跳びも真っ青』

『飛んだとこの床凹んでますけど』

『ドゴンって音してたからね』

『着地がピタって』

『体幹のなせる技やね』


「真似しちゃいますね、せーのっ!」


「275センチ。うん、まあこんなもんでしょ」


「ボクは102センチでした。跳び方が難しくて」


『トーカ凄いんだけど霞むな』

『立ち幅跳びって難しいよね』

『スーちゃんの記録は可愛いなぁ』

『和むわね』

『精一杯やってるのがわかってええな』

『応援したくなる』



 ③ハンドボール投げ。


「……は中止です。なぜなら取りに行ける範囲に球が落ちないからです」


『草』

『草』

『草』

『握力計も同じ扱いでよかったんじゃ……』


「すうぱあだけはやっておく?」


「いや、どっちでも……ところでハンドボールってなんですか?」


「うーん、まあ簡単に言うと球技よ」


「雑すぎませんかリンねぇ……」


「手でやるサッカーみたいなのだよ」


「サッカー……ってボールを蹴るやつですよね」


『サッカーを知らない!?』

『スーちゃん浮世離れしてんなぁ』

『ナナは一体どこまで飛ばすつもりだったのか』



 ④持久走、1500メートル。


「あれ、女子は1000メートルじゃなかったっけ?」


「短すぎるでしょ、ナナには」


「ま〜ね」


『競技用グラウンドもあるのか……』

『なんのために用意したんだこれ』

『持久走?』

『ウチはシャトルランだったわ』

『どっち選ぶかは学校次第なんだよな』

『小中高やってれば大概どっちも経験してるやろ』

『途中でやめられないから持久走は嫌いだ…』

『なんで持久走なんだ?』


「シャトルランだとナナ的になんの測定にもならないのよ」


『草』

『でしょうね』

『一応上限はあったような』


「そんな中学生でもできるような上限になんの意味があんのよ。チンタラ走ってるところなんて見たくないでしょ」


『あい』

『すんませんでした』

『ごもっともで』


「どのくらいのペースで走ろうか?」


「世界記録は3分20秒くらいよ」


「えーと、200秒を15で割って……100メートルにつき13秒ちょいか。じゃあ半分で6秒フラットくらいかな?」


「任せるわ。ここはコーナーもあるし怪我しない程度にやって」


「ぶつかると危ないので私たちは後にしましょうね」


「ボクはまず1500メートルも走り切れる気がしないんですけど」


『わかりみが深い』

『文化部を殺すための種目だよな』

『帰宅部も死ぬぞ!』

『スーちゃん顔真っ青で草なんだ』

『トーカは余裕そうだな』

『100メートル6秒フラットには誰も突っ込まないの????』

『100メートルの現世界記録は9秒台なんだ^^』


 毎度のことながら体力テストが具体的にどんなものか知らないすうぱあは、これから1500メートル走らなければならないという事実を知って顔を青ざめさせた。

 トーカは入念なウォーミングアップをしており、ナナは既にスタートラインでのほほんとしていた。


「よーいドンは音声使うわね」


「ほいほ〜い」


『On your mark. SET. パァン!!』」


『消え……てないわはっや』

『一歩が広すぎる』

『飛んでるだろもはや』

『フォームめちゃくちゃ綺麗で草ァ!』

『久しぶりに聞いたな今の音声』

『この速度でコーナリングして吹っ飛ばない対G性能』

『風圧をものともしない圧倒的な体幹』

『ドッドッドッて足音してるぅ……』

『自動車並みの速度なんだが?』

『ホントに一周24秒で帰ってくるの草』

『これ早送りじゃないんだよね?』

『だが胸は揺れない』

『ただただ信じられん』


「……ほっ、ほっ、よっと! リンちゃんどう?」


「1分30秒02」


「ぐぅ、コンマ2秒ズレかぁ」


「ラップ管理甘くなったんじゃない?」


「だねぇ……思ったより制御が甘いや」


『アニメのOP一曲分で終わったんじゃ』

『息とか切らさないんです?』

『速さもだけど体力どこから湧いてんの』

『アバターが動きにくいって言ってたのはこれが理由ですか』

『コンマ2秒で悔しがるのis何』

『これがアニメーションや合成でないことが信じられないlol』

『汗くらいはかくんやね……安心した』

『頼むから実は映画だったって言ってくれ』


「実は映画だった」


『ほんとに言うやつがあるか!』

『ひん』

『楽しむ方向に切り替えるかぁ(白目)』

『ところで今のって本気?』


「そこそこかな。1500mを疲れずに走れる速度としては結構真面目に走ったよ。みんながウォーキングするくらいには頑張ったと思う」


「そのレベルだと昔はもう少し遅かったし、身体能力の上限は成長と共に上がってるわね」


「制限なく運動してる時の楽しそうなナナ姉様、久しぶりに見たけど素敵ですぅ」


「トーカ……いや、うん。凄いですよね、ナナは」


『それは頑張ったって言うのか?』

『1時間くらい歩いたら足が痛くなるんだよな〜』

『そう言われると息が上がらないけど汗はかくくらいの運動量かも』

『時速が15倍くらい違うんすがね……』

『成長……?』

『トーカちゃんはほんま』

『トーカちゃんってガチの人?』

『すうぱあがあまりにも普通の子でほっとするわ』


「じゃ、そろそろ二人も準備しなさい」


「はーい」


「う、はい……」


「二人とも頑張って〜」


「はい!」


「じゃあ行くわよ〜」


『On your mark. SET. パァン!!』」


『スクナは呑気だなぁ』

『スーちゃん頑張って……』

『漂う絶望感がすごい』

『ゆっくりジョギングなさい』

『トーカの身体地味に筋肉すごくね?』

『派手派手なんですよね』

『マジでフィジカル強者じゃん』

『ナナの速さのせいで麻痺したけどトーカもクソ早くないか?』

『なんと日本記録に迫るペース』

『逸材すぎるだろ』

『スーちゃんは思ったよりは綺麗なフォームで走るのぅ』

『トーカと比べるとナナは細すぎるだろ』

『細すぎて胸もない』

『哀れな』


「ほっとけ!」


「周囲の環境に最適化するナナの身体が育ててないってことは、ナナには要らないって判断したんでしょ」


「そうだけどさぁ……釈然としない!」


「その分私が大きいからいいのよ」


「それもそっかぁ……」


『吸い取るな』

『貧乳はステータスなんや』

『いいのかそれで』

『お胸もだけど身長155センチで止まった理由とは』


「はっ、はっ、はっ、はっ、はぁぁっ……はぁっ、はぁっ、ど、どうですか!」


「あらおかえり。タイムは4分12秒ね」


「お疲れさま〜。速かったよ〜」


「ベストタイム、はっ、更新、できましたっ」


「高校の時から10秒ぐらい縮めたかしら? 相変わらず努力を怠らないわね、燈火は」


「偉いよね〜。よしよし」


「え、えへへ、えへ」


『死ぬほど汗だくやん』

『お疲れ様〜』

『クソはえぇ……けど疲れとるなさすがに』

『ナナで麻痺させられたけど日本記録と5秒くらいしか変わらんやんけ』

『フィジカルモンスター……』

『フィジモン』

『よく考えなくてもナナとリンネの妹分なんだなって』

『ワイもこの二人に褒められてみたい』


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」


「お、スーちゃんもおかえり」


「はぁっ、はぁっ……っはぁっ、はぁっ」


「無理に喋らなくていいよ〜。背中さすったげる」


「7分10秒。これまでほとんど運動をしてこなかった割には相当速いわね」


『十分速い』

『ま、負けた』

『お疲れ様だ』

『よく頑張った』

『えらい』

『感動した』

『一番共感できる』

『体力つけてこうな』


「リスナーがみんな優しい」


「ま、頑張った度合いで言えばナナよりずっと上だもの。もちろん一番は燈火だけど」


「はぁっ、はぁっ……し、しにます……」


「生きて〜」


「そう簡単に死なないわよ。ほら、水飲んで」


「あ……ざ、ます」


「ふぅ、私はやっと落ち着いてきました」


 走り終わった後は苦しそうにしていたトーカも、5分も経てばケロッとした表情に戻りつつあった。

 反対にすうぱあは今にも倒れそうで、回復にかかる速度でも基礎体力の差が如実に現れていた。


「スーちゃんは手ぇ抜かないねぇ。ペース配分はぐちゃぐちゃだったけど、めいっぱい頑張ったんだもんね」


「タイムを狙う動きではないですけど、体力テストって意味だとこれ以上ないほど正しい姿勢ですね」


「バカ真面目。ま、手抜きを覚えるよりはいいことよ」


『たし蟹』

『シャトルラン10回でやめたワイに効くからやめちくり〜』

『手を抜きがちな大人に突き刺さるなぁ』


 やめようと思えばいつでもやめられるし、手を抜こうと思えばいくらでもペースを落とせる中で限界いっぱいまで速度を出し続けることができるのは、ある意味で才能だ。

 そんな頑張り屋さんがなるべく早く回復できるように、ナナはグロッキー状態のすうぱあを優しく介抱するのだった。

ナナが本気で体力テストをする時はちゃんとした施設でガッチガチにやるので、今日のこれは本当に軽い体力テストでしかないです。

なのでナナのと言うよりは、スーちゃんとトーカの体力テストですね。

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― 新着の感想 ―
「②立ち幅跳び。」 『身長160cmもない女性が2階建てより高くジャンプしている。いや、跳んでいるんだ。  鷹匠家め、なんて怪物を連れてきたんだ!!』
[一言] やっぱここに出てくる人ってどこか必ず人外の域だよね 先祖に神話生物か何かいたのかな
[気になる点] 人外ってこういうこと言うんだな~ [一言] 正直に告白します。 体力はあるけど1回だけガチでボール投げた時に滑ってボールが後ろに飛んだことがあります! (ハズイ)
2023/08/14 18:52 退会済み
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