お誕生日配信①
毎年夏は忙しさがピークに……!
「今日は体力テストをやるよ」
『なんだなんだ』
『いきなりで草』
『一時間待機してたんだが?』
『開幕ドアップは心臓に悪いて』
『お肌が綺麗すぎるぞ』
「あはは、ごめんごめん。んじゃ改めておはよー。本日は7月7日、七夕ですよ〜」
『おはようございます』
『おはよー』
『おはよう!』
『おはよう』
『おはー』
『おはよう!』
「んでもって私の22歳の誕生日でもあります。祝ってどうぞ」
『おめでとう!』
『おめでとう!』
『はぴば!』
『おめでとう!』
『めでたい』
『おめでとうございます!』
『ハッピーバースデーーXDD』
『おめでとー!』
「ありがと〜。んじゃそんな訳で配信やっていこっか」
時刻は朝九時。月曜日の早朝なだけあって配信の視聴者は少ない……かと思いきや普通に40万人いる。マジか、と思ったけど内訳をよく見ると海外のリスナーが半分くらいだ。
コメントは全部翻訳されてるから具体的にどのくらいの海外リスナーがコメントしてくれてるのかはわからないけど、時差の関係でちょうどいいって人もいるのかもね。
「で、話を最初に戻して。今日は体力テストをやるよって話なんだけど。みんな知ってると思うけど、私って学歴的には中卒なのね。最後の3ヶ月は中学にも行ってないし卒業式も出てないんだけどさ。で、そこからリンちゃんと暮らし始めるまでも6年半くらい空いてるんだよね」
『知ってる』
『初めて聞いたが』
『古参ぶっていいか?』
『ウィキで見た』
『知らんぞ』
『学歴マウント取れるやん』
『リンネも高卒(高校には行ってない)だもんな』
『大卒のワシ、ちょっとでも勝てる部分を見つけて歓喜』
「だからね、中学卒業して以来一回も体力テストと健康診断受けてないんだ〜。まあ、健康診断はそもそも普通のところじゃ受けられないから仕方ないんだけど。普通の人用の健康診断だと基本的に異常値しか出ないんだよね、私」
『そらそうよ』
『人間用の健康診断ではね……』
『スペックが違いすぎるからね』
『健康診断は大事。古事記にもそう書いてある』
『病気になるとこが想像できん』
『体力テストもぶっちぎりそうだけど』
「学校のは目立たないように手ぇ抜いてたよ。ちゃんとした体力テストは鷹匠の施設でやってたの。健康診断もそうだね」
『なるほど』
『リンネの伝手かぁ』
『納得した』
『ぶっちゃけいい研究材料だろうしな〜』
『独占できる旨味みたいなのは実際ありそうだよね』
『超ハイテクな検査してそう』
『100メートル走4秒のバケモンだからな』
「そゆこと。まあ私だって全然納得してたし、人体実験みたいなことは無かったしね。私が自分の力をちゃんと制御できるようにしてくれたのは、鷹匠グループのバックアップがあったからなんだよ」
ちなみに鷹匠グループが私の身体を研究したことによって得られた成果は特にないらしい。
私が恐らく人間であろうってことと、人の域に収まらないスペックを持っているって事実の確認くらいかな。
メタルハザード・キルスコープを筆頭にした、私にしか使えない道具類はある意味では成果なのかもしれないけど。
「だからね、今日は久しぶりにちゃんと検査して、ついでにちゃんと私のスペックを公開しようって話になったんだ」
『おお〜』
『マジで楽しみだ』
『今一番需要あるまであるぞ!』
『リンネはやらないの?』
『健康診断もするの?』
『鷹匠の検査施設とかも楽しみだな』
「リンちゃんは来るけど体力テストはお休みだね。一昨日から体調崩してるの、みんなも知ってるでしょ? 他のVR部門の3人はみんなやるよ。私だけじゃなくて、スーちゃんもここ数年体力テストは受けてないらしいしね。あと私は一応健康診断もやるけど、配信に映すのは身体測定と視力聴力くらいかな?」
『すうぱあちゃん?』
『ナナのつけるあだ名、ちゃんが付きがち問題』
『リンちゃん、トーカちゃん、スーちゃん、我ら!』
『女の子四人は暑苦しくなくてええですなぁ』
『平常心で見なきゃ』
『トーカちゃんとすうぱあ、どっちもえらく恵体だよな』
『↑推定180超え女子』
『大きい女の子っていいよね』
『リンネも平均よりはずっとでかいんだよね』
『ナナがぽつんと小さいの好き』
「私の身長は別に特別低くはないやい」
平均身長160センチちょっとのこの国で180とかある他の三人がおかしいだけなんだ。
「菜々香様、間もなく到着致します」
「あ、はい。みんな、そろそろ到着するって」
『どこへ?』
『検査機関的な?』
『そういや車の中だったな』
『今の声はリンネの第4専属運転手の宮根さんだな?』
『↑なんでそんなこと知ってんの怖』
『↑運転手の声ソムリエってマジ?』
『↑こわE』
「よくわかったねぇ……」
☆
「はい。というわけで着きました! ここが鷹匠家の八王子邸だよ! まあ簡単に言うとトーカちゃんのお家だね」
以前行った本家ほどでは無いにせよ、普通じゃ目にすることがない程度には巨大なお屋敷。
そして、お屋敷を囲むように広がる庭園。
更にそれを取り囲むように巡らされた頑強な鉄柵に、その周囲を守るように建てられた工場群。
ここは鷹匠家が東京近郊に保有する中では最大の私有地。通称・八王子庭園と呼ばれる別荘地であり、研究機関に私は来ていた。
『でっっか!!?』
『トーカの家!?』
『衝撃の展開で草』
『八王子郊外に鷹匠関連の施設があるのは知ってたけどトーカちゃんの家なんだここ……』
『鷹匠グループの工場って話をどこかで聞いたけど違ったんか』
『本邸は長野のはずだからこれでも別荘なのか?』
「だいたいそんな感じ。確か東京ドームが30個入るくらいの広さはあるんだよ。ま、今日用事があるのはあっちのお屋敷じゃなくて、周りの建物の方だけどね」
長野の方にある本家とここの違いは、設備の質の高さ。
平たく言うと、ここにある機材の大半は長野のお下がりらしい。ただ土地面積はこっちの方があるから、何でもかんでも長野の方がいいって訳でもないみたい。
『へぇ〜』
『知られざる鷹匠グループの秘密やね』
『なんかのインタビューで言ってたから多分秘密でもないんやろ』
『トーカちゃんが住んでるのはお初情報だぞ』
『↑いやトーカ自分の配信で普通に言ってたけど』
『↑知らんかった……』
「トーカちゃんの配信も見てあげてね〜。最近は美容系の動画とかも上げてるみたいだよ」
私よりもトーカちゃんの方が配信者としては先輩だし、経験値はずっと上だ。トーカちゃんはモデルをやってることもあって、美容とかファッションに関する内容も多いみたい。
「あれもこれもパッと見は工場みたいに見えるけど、いくつかはちゃんと体育館になってるんだよ。やろうと思えばバスケとかバレーみたいなスポーツなんかもできるけど、せいぜいグループ社員さんの慰労のためくらいにしか使われてないんじゃないかな」
敷地内を歩きながら、そんな小話をしつつ。
3つくらい建物を通り過ぎた先に、一際大きな建物が現れた。
「ここが屋内総合訓練場だね。でっかいでしょ?」
『デカすぎんだろ……』
『ドーム球場並じゃん』
『私有地にこんなもん建ててどうすんのってくらいデカい』
『はぇ〜』
『訓練場?』
『航空写真で見たやつだ!』
「そ、訓練場。ちゃんと準備すれば射撃訓練とかもできるやつね」
要は自由に使えるだだっ広い屋内空間でしかないけど。
その分カスタマイズ性が高くて、色んな訓練や実験みたいな用途に使えるのが、この屋内総合訓練場のいいところだ。
「頼も〜」
スライド式の大きな扉を開いて中に入ると、既に体力テストの準備は整っているようだった。
張り切ってるのか、わざわざ体育教師のようなジャージ姿に着替えてるリンちゃんに、何やらアスレチックに挑んでるトーカちゃんとスーちゃんの姿も見えた。
「リンちゃ〜ん」
「あら、来たのね。もう配信中?」
「うん。準備はできてる?」
「燈火とすうぱあがアレでウォーミングアップしてるくらいね」
「りょうかーい。じゃあ私も着替えてくるよ」
「はいはい。……ナナ、カメラは置いていきなさい」
「あっ、そうだった!」
危うく着替えシーンを映して配信BANでもされるところだった。
見られて困るもんじゃないけど、動画サイト的には見せられると困っちゃうもんね。
「じゃあリンちゃん繋ぎよろしく!」
「ええ、任せて」
配信用に使っていたスマホを一旦リンちゃんに預けて、運動用の格好に着替えに行く。
汗はかかないけど、リンちゃんが選んでくれた服が汚れたり破れたら嫌だもんね。
『行ってら』
『行ってらっしゃい』
『惜しい』
『↑ナナの着替え見てもな……』
『↑犯罪臭の方が強いわ』
『てかトーカちゃんとすうぱあちゃんは何やらされとんのあれ』
『NINJAで草』
『屋内にあんなもん設置できんのか』
『ウォーミングアップってレベルじゃねぇぞ!』
『早く着替えてこないと二人が死ぬぅ!』
続きます。多分3話くらい。