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ローレスの湿地帯

 一度装備を元に戻して、私たちは午後からデュアリス東部に位置する《ローレスの湿地帯》を探索することになった。

 湿地帯と言うだけあって基本的に足元は水浸しで、主なモンスターは《フロッグ》と《リザード》という系統のモンスターである。

 強さでいえばレベル10を優に超えるモンスター群なので、ウルフやゴブリンに比べてもかなり強い部類に入る。


 とはいえ、レベルのアベレージが20を超えるという魔の森に比べれば、モンスターのレベル自体はよほど優しい環境である。

 湿地帯は所々に木が生えてこそいるものの、大抵の場所は足首程度の水場だから、ここにたどり着いたプレイヤーにとっての敵はモンスターと言うよりは地形なのかもしれない。

 それでも、魔の森に続くフィールドに比べれば視界が開けている分悪辣さは少ない。

 爬虫類や両生類に生理的嫌悪感を抱く訳でなければ、街の周辺フィールドのひとつとしては適正な難易度だと言えた。



「という訳でローレスの湿地帯に来ましたよー」


『カエルがデカい』

『湿地帯……濡れる……閃いた!』

『↑ほう』

『足元水浸しで冷たそう』


「意外と冷たくはないよ。それが逆に程よい気持ち悪さなんだけどね」


「ぬるい……ちょっと冷たい水って感じです」


 デュアリスの街を出る前に配信は再開して、街の東にちょっと行ったところから広がる湿地に足を踏み入れた私たちは、コメントに向けてこのなんとも言えない感触をリポートする。

 トーカちゃんは普段、比較的魔法使い寄りの装備なんだけど、今回はリンちゃんのようなローブを短めのマントに変えている。

 裾が濡れるのが嫌なのだそうだ。気持ちはよくわかるよ。


「じゃ、そろそろ装備の紹介しちゃいますか! お待ちかねのやつだぞ!」


「ひゅーひゅー」


『キタ━━』

『キターーーー』

『やったぜ』

『ふぅー⤴︎⤴︎』

『待ってた』


 街で「この後装備公開します」と言ってからコメントは割と盛り上がっていたのだが、いよいよと言う事でみんないい反応を返してくれる。

 とはいえ魔法少女のように変身バンクはないので、メニューをパッパッと操作して装備を切り替えるだけなんだけど。


「はい。という事でこれが新装備! 《赤狼装束・独奏》です!」


『おおー』

『へぇー』

『可愛い』

『なるほどね』

『和装だ!』

『着物っぽい』

『御札持って御札』

『結界とか張りそう』


「いや結界とか張れないから」


「張れる職業ありますよ?」


「うそん」


 御札の代わりに落ちてた葉っぱを持ったら『ポンポコ』というコメントを書かれた。私はたぬきじゃないやい!

 というかトーカちゃんの言うように結界が張れる職業があったとしても、私は転職できないから結局私には使えないんですよね。脳筋陰陽師スクナ爆誕である。


 それはさておき。まあリスナーの反応は何だかんだで概ね好評と見ていいだろう。

 子猫丸さんのセンスに感謝。あるいは奥様のセンスなのかもしれないけど、少なくとも私はこれを大変気に入っている。

 高い防御と敏捷を兼ね備え、速度低下をものともしない。そして湿地に来てわかったけど、この装備微妙に撥水性があるっぽい。

 火に弱く水に強いってそういうことなのかなと思いつつ、私たちは湿地の中を進み始めた。


 とりあえず目に付いた《アマフロッグLv12》というモンスターをターゲットする。アマフロッグ……アマガエルかな?

 そんなに好戦的なモンスターではないようで、触れられる距離に近づくまでノンアクティブなままのようだ。

 とりあえず近づいて金棒で殴りつけてみると、妙な抵抗感と共に1割ほどHPが減った。


「タフいね」


「フロッグ系のモンスターはHPが高いのと、打撃耐性をいくらか持ってたと思います」


「くっ、剣士優遇……!」


 びよんと伸びてきたベロ攻撃を素手で弾きながら、私はこの世の不条理を嘆いた。

 見た目通り鈍重なようで、アーツをビシバシ叩き込んであっさり倒せはしたんだけど、弱点がよくわからないのと打撃耐性が意外と厄介だなと思った。

 とはいえ超・金棒は耐久に優れた武器だ。耐久勝負にはもってこいだろう。


「トーカちゃんはカエルとか大丈夫なんだっけ?」


「生物は全般行けますね」


「それは強いな」


 私自身は生き物が気持ち悪いとかそういう感覚はよくわからないんだけど、世の中にはダメなものはダメという人が確かに居る。

 カエルとか可愛いと思うんだけどね。噛みつかないし。触ると弱っちゃうから触れないけど。


 ちなみにアマフロッグは30センチ大のアマガエルである。この位のサイズになると最早別の生物だ。

 水中にいるからなのか特に変色もしていない綺麗な黄緑色の体色のせいで、隠密も潜伏もあったもんじゃない。

 

 それでもさっき攻撃を受けたプレイヤーを見かけた時、一撃でかなりのダメージをもらっていたようなので、攻撃力は高いのだろう。



 しばらくアマフロッグを狩りながら進んでいると、少し広めの陸地が見えてきた。


「なんだろうね、アレ」


「なんでしょう?」


 上陸して散策してみると、中央のあたりに数メートルの沼を見つけた。

 試しに転がっていた石ころを投げ込んでみると、沼の中からビョッと伸びてきた何かに絡め取られて消えていく。

 水面に残った波紋を見て、私とトーカちゃんは微妙な気持ちで顔を合わせた。


 しばらく様子を見ていると、沼の水面に何かが浮上してくるのが見えた。

 表示されてる名前は《ウシフロッグLv22》。元ネタはウシガエルなんだろうけど、普通にレベルが高い。

 何だかんだ午前からちまちまレベルが上がって23に達した私とほぼ同じだ。しかも例に漏れず打撃耐性持ちなんだろう。


 しばらく睨み合っていた私たちだけど、唐突に沼から飛び出してきたウシフロッグによってその均衡は破られた。


「で、でかっ」


「うわぁ……」


『でけぇ!』

『2mのカエルだぁ』

『まずいですよ!』

『強そう』


 顔だけしか出してなかったから分からなかったけど、このカエル、私が戦ってきたモンスターの中ではアリアやレッドオーガに次いでデカい。

 流石のトーカちゃんもドン引きである。

 ウシフロッグは少し首を動かすと、突然泥の砲弾を吐き出してきた。


「うわぁっ、危なっ!?」


「きゃあっ」


「トーカちゃん!?」


 悲鳴の方に視線を合わせると、トーカちゃんが宙でひっくり返されている。

 私が泥の砲弾を回避している間に、トーカちゃんがウシフロッグの舌に絡め取られてしまっていた。


「ね、姉様助けてぇ」


「く、このエロガエルめぇ!」


 どちらかと言うと桃色に染まるリスナー達を無視して、トーカちゃんを救うべく私はウシフロッグへと突撃するのだった。





 あの後。

 ウシフロッグとの30分に及ぶ激戦を制した私たちは、更なる試練に襲われた。

 その試練とは、《トノサマフロッグLv25》。体長4メートルにも及ぶそのモンスターは、弾丸のような突進を繰り返すだけという、見た目や名前の割にはしょぼいモンスターだったんだけど、とにかく火力がえぐかった。

 直撃を食らってしまったトーカちゃんがあわやデスペナルティに陥りかけたり、気を取られた私も吹き飛ばされて空を飛んだり。

 なんだかんだで倒したものの、水浸しの泥だらけで散々な目にあったのだった。




「しばらく湿地帯には行きたくないな……」


「ホントです。前に行った時はもっと楽なエリアだったんですけどね……」


「まあ、ゲームにハプニングは付き物よ。良かったじゃない、撮れ高が出来て」


「リンちゃぁん……」


 今は夜。配信を終えて戻ってきた私たちは、同じく戻ってきたリンちゃんと共に3人でご飯を食べていた。


「ふふ、湿地帯はナナには地獄だったでしょ?」


「ホントだよ。打撃耐性持ちばっかだし……倒しやすそうなリザード系統は全然出てこないし」


「そう言えばそうでしたね。4時間ほど探索してましたけど、リザードは他のプレイヤーの前でも現れてないみたいでした」


 そう、湿地帯にはリザードとフロッグという二系統のモンスターが出るはずなんだけど、配信中には全く出てこなかったのだ。

 これに関してはリスナーも困惑していて、途中少し話す機会があった他のプレイヤーも今日は見てないと言っていた。


「……そう、リザードが出なかったのね。天候によって出現の割合は変わるんだけど、今日は晴れだったはずよね」


「そうだよ」


「雨でないのに、フロッグが大量発生……と言うよりはリザードの減少? 何かありそうね」


 私たちの話を聞いたリンちゃんは真剣な顔で悩んでから、切り替えるように笑顔に戻った。


「ま、気にしても仕方ないでしょう。明日は魔の森に行くんでしょ? 魔法には気をつけなさいよ?」


「わかってるよ〜」


「クス、ナナ姉様は魔法耐性が皆無ですもんね」


「赤狼装束も魔法耐性はないからねぇ」


 明日以降挑戦する予定のダンジョン《魔の森》。トリリアへと続くそこは、魔法を使うモンスターが目白押しだという。

 職業《童子》の影響で魔法耐性を一切持っていない上に鬼人族の低い耐性も相まって、今の私は紙っぺら並みに薄い魔法防御しか持っていない。

 それでも新しいダンジョンに挑むのは楽しみなのだった。

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