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耐久しきれないのなら

めちゃくちゃ遅れて申し訳ないです。

リアルの方が死ぬほど忙しくなってまして……しばらく不定期投稿になりそうです。なるべく週1目指します!

「《飢え喰らえ、狼王の牙》《月影よ、依り代となれ》」


 リンネの雷霊が二人の虚を突く形で着弾してから、20秒経った頃。

 ぶわりと巻き上がるバフの光が終末の世界を蒼く照らした。

 ただでさえHPを削られている状態での《餓狼》の使用。

 それはスクナがリンネの意図を理解したからこその行動だった。



 回避だけでは15分を耐えきれないと思ったから、スクナはリンネに助けを求めた。

 そのスクナの思いを汲み取った上でリンネが提示してきたのは、6回だけのサポート。

 それはリンネがスクナに向いているターゲットを奪わずにいられるギリギリの回数なのだろう、というのはすぐに理解した。

 スクナですら捌くのが精一杯の攻撃を、リンネが捌けるわけが無い。ターゲットの移行は即、リンネのデスに繋がる。

 動きをどれだけ正確にシミュレートしたとしても、実際に身体が追いつくかは別の問題だからだ。


(リンちゃんのおかげで、影法師の攻撃のカラクリはわかった。けど、省エネモードじゃどのみち防げない)


 影法師の攻撃がスクナの予測をすり抜けてくる理由はわかっても、現実的にソレに対処するのは難しい。

 今のスクナは限りなく思考のレベルを落とし、反射だけでほとんどの行動を制御しているような状態だった。そうでなければ15分も意識を持たせられなかったからだ。


 ただ、影法師の攻撃はその状態では防げない。命中するその一瞬に全力の集中力をかけてようやく完全な回避かガードを挟める、そういうレベルの話になるからだ。

 当然そんな集中力の使い方をすれば、意識は5分と持たない。

 つまりリンネによるサポートがなければ影法師の攻撃を回避できないという事実は、何も変わってはいなかった。


 最大の問題は、既に1分間に2回は影法師の攻撃を避けきれないタイミングが来ている中で、残り5回のサポートではとても足りないということだ。

 それ以上のサポートはターゲットの問題で望めない。かと言って残り5回のサポートではとても足りない。


(つまり逃げ切るのは無理だって、リンちゃんは判断したんだ)


 スクナもリンネも、辿り着いた結論は同じ。

 すなわち「15分逃げ切るのは無理」ということ。

 不可能を可能にする、なんてことができるほどリンネの予測に自由度はない。

 彼女にできるのはどこまで行っても0を1にすることではなく、0.1%の可能性を100%にぶち上げることなのだから。

 だからリンネがそう判断したのなら、逃げ切るという方向性はない。

 しかし、それでも尚スクナはリンネの真意を汲み取っている。


(本当にクリアを諦めたのなら、無理だからさっさと帰ろうって言うはず。そうじゃなくてサポートをしてくれるってことは、勝算があるんだ)


 酒呑童子は確かに「15分耐え切れ」と言ったが、倒してはいけないとは言っていない。

 影法師を倒せば試練は終わるはずなのだ。これが戦闘である以上、むしろ正道はそちらとさえ言えるかもしれない。

 攻撃が通ることは既に確認済みだ。スクナの蹴りもリンネの魔法も、大ダメージとは言わないまでも5%程度のダメージにはなっていた。


(問題は爆速の自動回復リジェネ。毎秒5%はエグいよ実際。ただでさえ動きが機敏で攻撃タイミングもないのに、ちょっと目を離したら回復されちゃうし。まあ私も使ってたわけだけど……)


 弱体化版の《憤怒の暴走》。デッドスキルと呼ばれるソレとは比較にならないほど弱い効果だが、バフ抜きの回復効果だけでも無尽蔵に思えるほどの耐久力がある。

 故に決着をつけるのに必要なのは、短時間での最高火力。

 残り5回のリンネのサポートで25%の削りが期待できるとして、それが回復を相殺そうさいしてくれる。

 つまりその5秒以内に決着をつけるのが現実的なラインだとスクナは判断した。


(メルティとの戦いで使った音速機動はバフが足りないから無理。空中闊歩エアウォークを使った機動戦も時間の無駄。ラストをメテオインパクトで詰めるとして、5秒で出せる最大火力……手持ちで使い勝手のいい強めのアーツが少ないんだよねぇ、十重桜は反動に耐えられそうにないし。まあいいや、とりあえず……ギアを上げよう)


 15分持たせるつもりで温存していた、残り少ない集中力。

 それをここから先の10秒で使い切るように全開で解放する。

 世界が一瞬静止したかのような、思考の超加速。

 傍目からはたった10秒にしか見えないごくわずかな時間も、スクナにかかれば何十倍にも何百倍にも引き伸ばされる。


 だが。

 引き伸ばされるのは思考の時間だけ。

 実際に動作に使える時間は変わらない。

 システムによって定められたステータスが許す範囲で、最大威力のコンボを組み立てる。


 攻撃開始のタイミングは、次にスクナが回避できなくなる瞬間。

 現時点でおよそ2秒後に訪れるその瞬間に届くように、視界の端でリンネが雷霊に指示を出しているのが見えた。

 つまりここで、回避は考えなくていい。恐らく今回は先程と違い、攻撃が届く前に横槍を入れてくれるはずだからだ。


(そうだね……うん、これでいこう)


 切る手札は決めた。5秒で100%、影法師のHPを削るための手段……になるかはわからないが、現時点で短時間に出せる組み合わせ。

 その初撃のために、リンネの雷霊が直撃して再び影法師が麻痺スタンする直前に、スクナは大きく20メートルほど()()()()()()()した。


 バックステップの最中に背中から取り出したるは、手持ちで最強の攻撃力を誇る《簒奪兵装・逢魔》。

 スクナはそれを逆手に持ち、スタン直後の影法師に対して思い切りブン投げた。


「《轟砲ごうほう》!!」


 それはプレイヤースキル依存度が高すぎて未だに不人気筆頭と言われる《投擲》スキルの中でも最高の威力を誇る、()()()()()()()()()()()()()()破滅の投擲。

 その名に相応しい轟音を響かせて、一条の光が宙を翔ける。

 麻痺で動けない相手に対して、スクナが得意技とうてきを外すはずもなく。

 大砲が直撃したかのような爆音とともに、投げ物としては余りに大きすぎる金棒が影法師の顔面に突き刺さった。

 これで14%。投擲スキルの最高峰は、相応のダメージを影法師に与えた。


(んで、一気に詰めて、肘をドカンっと)


 《轟砲》を投げた勢いのまま踏み込み、アーツの技後硬直が解けた直後に大地を蹴る。たかだか20メートルの距離を詰めるのに、今のスクナは瞬き以上の時間を要しない。

 思い切り距離を詰め、もうそろそろ麻痺から2秒ほどの時間が経ちそうな影法師の鳩尾に、突進の勢いのまま全力で右肘を打ち込む。

 いわゆる八極拳における頂肘ちょうちゅうに近いが、スクナからすればその体勢から一番効きそうな攻撃をしただけだ。


 ドグッ! と音を立ててめり込む感触は、クリーンヒットを予感させた。現にHPは5%近く削れている。

 更にスクナはそのまま身を翻すと、先程ブン投げたことで宙に浮く簒奪兵装を左手で掴む。

 そして《瞬間換装》を発動し、簒奪兵装をはるるから沢山押し付けられた《試作52号(壊しても良い武器)》へと持ち替え、そのまま新たにアーツを放った。


「《フィニッシュ・クラッシャー》!」


 それは武器の耐久値500につき0.5倍の攻撃倍率を持つ、簡易版のメテオインパクトとも呼ばれるアーツ。

 以前月狼戦で使った時は、《試作48号》という耐久値5500を持つ武器を使用し、5.5倍という破格の攻撃倍率を与えた。

 今回の《試作52号》は48号の兄弟武器。どちらも簒奪兵装の作成時に同じ過程で作られた廃品だが、それ故に試作品たちの性能は似たり寄ったりだ。


 振り下ろされる《フィニッシュ・クラッシャー》だが、スクナがアーツを発動する直前に影法師の麻痺スタンは既に解けていた。

 影法師は当然回避しようと動く……その刹那のタイミングに再びリンネによる雷霊の攻撃が突き刺さり、ごく短時間の麻痺へと陥らされる。

 その結果、《フィニッシュ・クラッシャー》は影法師の肩口に直撃し、赤いポリゴンと武器の破砕音が響き渡った。


(これで60%、あと半分……は、メテオインパクトだけじゃ削れない、からっ)


 麻痺の時間はどんどん短くなり、残りの雷霊全てが引き起こすであろう麻痺の時間は、回復してからのラグを考慮しておよそ2秒といったところだろう。

 技後硬直から開放されたスクナは続けざまに《試作53号》を換装し、今度は振り上げる形で《フィニッシュ・クラッシャー》を放った。

 技後硬直が短いと言っても、全く一切無いわけではない。

 それでもスクナが限られた時間で出せる手軽な最大火力はこれしかない。その度に武器がボコボコと壊れていくのはコラテラル・ダメージと言うやつだった。


(で、ここで……麻痺が切れると)


 二度目の《フィニッシュ・クラッシャー》をぶつける直前、影法師を拘束していた三度目の麻痺は解けた。

 鬼人族であるが故の()()()()の低さ。それは容易に三度もの麻痺を呼び起こしたが、繰り返し状態異常が発生したことで耐性が強化され、もはや雷霊の衝突程度で麻痺は起こらない。

 だが。雷属性魔法が基本的な性能として持つ麻痺属性とは別に、モンスターには麻痺に陥る方法がある。


 ガッ! と打ちつけられたのは、顎に向かって振り上げられた《フィニッシュ・クラッシャー》。

 振動、あるいは衝撃による脳震盪。正確にはこのゲームでは脳というものが頭に詰まっているわけではないが、状態異常の原理自体は同じだ。

 投擲スキルのアーツ《轟砲》によって既に頭部に強い衝撃を受けていた影法師は、ここで更なる麻痺スタンに陥る。

 その隙を見逃さないように、残る2匹の雷霊が影法師に突撃し、スクナも《試作54号》を取りだして最大火力のアーツを振り下ろした。


「《メテオインパクト》ぉっ!!」


 ガシャァァン……という武器の破砕音。

 30秒もの技後硬直に加えて武器破壊と引き換えに、素で6倍+耐久値の倍率換算で5.5倍、合計11.5倍の最大火力が直撃した。

 加速した思考の中で、徐々に減っていくHPを眺め……全力の攻撃を加えてもなお、残り3%ほどで停止するのを見た。


(あっ)


 5秒は少しばかりオーバーしたが、それでも短時間で出せる火力としては申し分なかった。スクナが考えうるほぼ理想的なコンボだったはず。

 それでも僅かに倒せない。ギリギリで影法師の耐久力が上回った。


「《ライトニング・バリスタ/スピリット》」


 ダメだった、とスクナが諦めそうになった瞬間。

 いつか見たことがある、けれど()が明らかに違う紫電の弩砲どほうが影法師の身体を貫き、僅かに残ったHPを削り切った。

いいとこ取りのリンネ。

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― 新着の感想 ―
[一言] リンネは多分スクナが削り切れない場合も予測したうえで動いたんでしょうね 確かに削り切れるならヘイトがリンネに切り替わっても問題ない
[良い点] これぞ阿吽の呼吸!
[一言] びゅーりほぉ…
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