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湖底廃都・エス≠トリリア

 湖底廃都・エス≠トリリア。

 廃都。廃都。

 そう、ここは深淵に呑まれ、打ち捨てられた都。数多の死者の魂が眠る鎮魂の地。

 その最奥で静かに眠るは、イリスの秘宝を護る七星王の一角。《天璣てんきの水竜王・エス=アルマ≠レオ》。


 かつて鬼神が世界を破壊した後、平らになった世界の上に人々は再び文明を築いた。

 エス=トリリアは栄華を極め、だからこそ地に堕ちた。

 700年前のある日。

 あまりにも突然、大地が落ちた。

 極大の崩落現象。

 生まれたのは数百メートルから数千メートルの、あまりにも大きな空洞。

 湖底廃都に住んでいた人間は残らず全員が落下の衝撃で死に絶え、後に残ったのは衝撃で半壊した豪奢な街。

 突然の死という理不尽への怨念と呪いはすべてを拒絶する異空間を作り出し、水中に佇む湖底の廃都は誕生した。


 それは流れ込んだ膨大な水が静かに確かに隠した真実。

 廃都の悲劇を忘れるな。

 天を統べる者が居るように。

 大地を支配する者が居るように。

 大海で寛ぐ者が居るように。

 湖底を呑み込む者が居るように。


 見えない地底を這いずるナニカが。

 今なお世界を削り続けているということを。





 無事に湖底廃都へ辿り着いた私は、今後ワープポイントとして使えるようになるらしい石碑をアクティベートするついでに、その内容を読んでいた。


「ふむふむ……つまりおっきなモグラみたいなのがめちゃくちゃに穴掘ったから、地盤沈下して水竜淵底このみずうみができたってこと?」


『台無しやん』

『多分そう』

『ミミズかもしれん』

『なんかゾクゾクする設定』

『元々はただの空洞だったんかこの湖』

『つまりエレベーターが落っこちた時みたいな死に方かぁ』

『水竜王はエス=アルマ≠レオって言うのか』

『血が出ないゲームだからこそ血痕ひとつない綺麗な街並みがまた生々しい』


「ボロボロではあるけどねぇ」


 呪いによって水の侵入を阻む、美しい湖底都市。

 半壊してもなお、当時の栄華の名残が見える煌びやかな街だ。それこそ一切崩れぬままにこの湖底に沈んだなら、竜宮城と見紛うほどに。

 かつてのトリリア。

 湖底廃都・エス≠トリリア。

 ここは煌びやかな水晶の廃都。

 街の建造物の大半が水晶によって彩られ形作られたその様は、都市としての機能を全て停止してもなお美しかった。


 とはいえ、都市の奥の方を見れば明らかに攻城クラスの兵器によって要塞化されているのが見て取れる。

 要塞都市としての本領はもう少し街の中心に用意されていて、目に見える部分は居住スペースだったのかもしれない。


「ほんとに綺麗なんだけどね。何人のNPCが死んだんだろう、ここで」


『数千人は堅そう』

『こりゃ海中の大墳墓だな』

『くわばらくわばら』

『酒呑童子の暴走よりはマシだったんちゃう?』


「あはは、確かに」


 最低でも3つの種族と物理的に世界の5割を破壊した酒呑が殺してしまったNPCの数なんて計り知れない。

 それに比べれば都市ひとつくらい……と思ったけどやっぱやばいよ。都市がひとつ壊滅は。

 大地を食い荒らして水竜淵底を創ったナニカは、世界のどこかでまだ生きているのかな。

 そしたらまた別の場所で、大災害おなじことが起こるんだよね。


「ぞっとしないな。……よし、デスペナも抜けたしそろそろ探索に行きますか!」


 早速探索に行かずに安全地帯でボヤっとしてたのは、シンプルにさっき潜って死んだ時のデスペナルティが解消されてなかったからだ。デスペナ中は弱くなっちゃうからね。


「安全地帯出たらすぐに戦闘とかならないといいんだけど」


『フラグだぞ』

『あ〜あ』

『言霊って知ってる?』

『オワタ』


「いやいや、そんな漫画みたいな展開にはならないよ。にしても安全地帯が広いね。どーりで街にモンスターが見えなかったわけだ」


 安全地帯は正門の奥、100メートルくらい歩いたところにある噴水広場を中心に円形に広がる形をしていた。

 街の正門付近だけだと思ってたから、正門の辺りにモンスターが見えないのは不思議ではあったんだよね。


「とりあえず右に曲がってみるかぁ」


 噴水広場から右手。都市が堕ちた時に傾いたのかはわからないけど、少し下り坂になっている方向に向かう。

 流石にこの位置からなら、安全地帯を抜けたあたりにフラフラと歩くモンスターが見えた。

 安全地帯は結界みたいなもので、中にいる間は攻撃ができない代わりに攻撃もされない。

 余裕を持って近づいてみると、それは顔のない人間のようなモンスターだった。着ている服からして、多分この街に住んでいた人たちの残骸かな。

 モンスターと呼ぶには余りにも普通のNPCっぽい風貌に、少し攻撃を躊躇ってしまう……人もいるかもしれないね。私は平気だけど。


 《ロストシティ・ゴーストLv105》


「強っ!?」


 ノクターン以外では初めて目にするレベル100超えのモンスター。

 しかも単体じゃなくて、パッと見た感じだけでも今ここで戦闘を始めれば4体は同時に相手しなきゃいけないってくらいワラワラと湧いてる。

 つまりこのダンジョンの難易度はこれが最低レベルってことだ。

 推奨レベル100はダテじゃないね。


「よーし、ゴーストバスタースクナ、行きます!」


『流石推奨レベル100のダンジョン』

『初遭遇で105の集団かよ』

『嬉々として飛び込んでいくんだよな』

『まさか湖底に来て戦うのがNPCの幽霊なんてことある?』


「そーゆーこともあるよ!」


 レベル105の初見モンスターが4体。油断なんてする余裕は一切ない。

 パッと見た感じ動きはそれほど速くない。集中すれば捌ける範囲だ。


「先手必勝!」


 一番左で僅かに他3体と距離を空けている少女ゴーストの頭をフルスイングで打ち抜く。

 減ったHPは3割。私のステータスが種族限定装備の効果で1.4倍、つまり140レベル相当であることを考えるとかなり硬い。

 ただ、打ち抜いた感覚は思った以上に湿っている。有り体に言って、人間を殴った感触がくっきり手に残っていた。


「この手応えの生々しさはゴーストってよりゾンビじゃない? 悪趣味だねぇ」


 まあ、普通の人は人間を殴った感触なんて知らないからあまり気にしないだろうけど。


「う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


 考え事をしている中でも容赦なく、4体の中では一際素早く攻撃を繰り出してくる成人男性型ゴーストの引っ掻きを手で払って腹を蹴り飛ばす。


「おっも」


 さっき殴ったり手を弾いた時点で薄々察してはいたけど、こいつらもの凄く重い。

 人体なんてもんじゃない。たぶん重量で言ったら300キロくらいはある。

 現実世界と違って質量がそのままダメージになるわけじゃないけど、受け流したり吹っ飛ばしたりしにくくなるのは確かだ。


「んじゃあ……これだっ」


 レベルが高い割には突進して殴ってくるだけのゴーストの手を弾いて懐に入って全力の当身。一瞬浮いた相手の腕を取って一本背負いで叩きつけた。

 落下の衝撃は質量が重いほど大きくなる。自分のパワーが足りてるなら投げ技は非常に有効だ。案の定成人男性ゴーストはスタンしていた。

 動けないついでに顔面に思い切り金棒を叩きつけて追撃しておく。逢魔の攻撃力が上乗せされた攻撃の方が単純に強いからね。


「っ……とぉ!?」


 距離を取ってヒットアンドアウェイか一気に詰めるか悩んでいると、正面にいる3人とは別の方向から何かが飛んできた。

 紫色の液体を飛ばしてくる魔法。シュワシュワ言ってるから毒系のやつかなぁ。

 視線を向けると、建物の2階にいかにも一般市民って感じの目の前の四人とは違う、冒険者然としたゴーストがいた。

 名前はロストシティ・シーカー。きっとこの街が滅んだ時に共に死んだ冒険者なんだろうね。


「んで、こっちもか」


 更に逆側からは弓矢の一撃。掴み取ろうかと思ったけど、何かが塗られてるのを見て回避した。

 これで6体。タフだからまだ一体も倒せていないのに、敵だけがあっという間に増えていく。

 嫌な予感がして、思わず五感を解放する。


「いや……待って、これ……!」


 居る。居る。居る。

 それはもう、うじゃうじゃと。蠢く音が耳に届く。

 街がひとつ堕ちた時、そこに住んでいた人数。あるいはそこを訪れていた観光客に、冒険者のような仕事人まで。

 分かっていたことだけど、想定を遥かに超えている。


「この都市めちゃくちゃモンスターいるんだけど!?」


 パッと耳に届く範囲だけで、数千体。

 私たちの戦闘の音が届いてしまう範囲だけで絞っても23体。

 メルティが私と相性が悪いと言った理由がよくわかる。

 ここは殲滅系の全体攻撃持ちがひとりはいないと攻略は困難だろう。

 おそらく万を超えるレベル100超えゴーストがひしめく、地獄のような物量ダンジョンがそこにあった。


 4、5、6と増えて。

 2つ減って4つ増える。

 8、10、13、17、23。

 増える。増える。どんどん増える。

 倒す速度がまるで追いつかない。

 際限なく敵が増える。

 それは理不尽なまでの手数の暴力。

 これが湖底廃都・エス≠トリリアの歓待。


「ふ、はは」


 向けられた視線の数にゾクリとする。

 ゴーストの体を足場にしながら、建物の縁や突き出した水晶片を利用する。

 時に攻撃を踏み台にして、私は廃都の空を舞う。


 これはメルティと戦った時みたいな、絶望的な戦力差を誤魔化す戦いじゃない。

 この場で最強なのは私だ。

 その私を引きずり下ろそうと蠢く数多のゴーストたちの怨念を、全て捩じ伏せる戦いだ。


「ははっ、あはははっ」


 溢れ落ちる笑いが止められない。

 ヒリつくような悪寒が背筋を凍らせる。

 集中力が高まる。視覚と聴覚は早々に全解放した。

 興奮する心と、集中によって醒め切った頭が共存していた。


「私の集中力が切れるか、君達の数が足りなくなるか」


 1ミリの油断も許されない数の暴力との戦い。

 不意に、シーカーが打ち込んできた矢を撃ち払う。

 それが始まりの合図になった。


「やれるだけやってみよっか!」


 WLO始まって以来の超長時間戦闘。

 総時間257分の壮絶な耐久戦が幕を開けた。

ところでリンネとの合流の約束は5時からとなっております。

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― 新着の感想 ―
[一言] きっと257分耐久動画が作られて盛り上がるんだろうな(笑)
[良い点] フラグじゃん!! フラグじゃん!!!!
[一言] 4時間以上、集中して戦い続けることができるメンタルの強靭さよ さすが最強生物
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