傲慢な怪物たち
素で銃弾を視認できる今のスクナにとって、WLOの魔法の速度というのは欠伸が出るほど遅いものだ。
それこそつい昨日まで銃弾飛び交うゼロウォーズの世界にいた訳で。
アポカリプスが使っていた超高速の光の槍のような魔法でもなければ、魔法単体の対処に苦慮することはない。
まして、限界以上に視覚を解放した今なら尚更だった。
斜め上から降り注ぐように襲い来る300の氷槍。
氷柱と言うからには真上から降ってきてもおかしくない。発声を聞いた直後はそう警戒していたが、比較的対処しやすい形の魔法形態にスクナは安心していた。
(誘導が上手いや。普通に避けてたら当たる位置が何ヶ所か見える)
スクナの瞳は魔法発動の直後から全ての氷槍の動きを捉えている。
先頭の槍を中心に、どの氷槍がどれだけのサイズで、他の弾との間にどれだけの距離を保っていて、どれだけのスピードで動いているのか。
それらの情報をもとに、まるで迷路をゴールまでなぞるように、スクナの脳内では無数の回避ルートが瞬時に浮かんでいた。
斜めに飛んでくる物体を回避するのに有効なのは、前に倒れ込むか後ろに思い切り飛び退るかだが、流石にそこまで甘くはない。
わかりやすく前後への回避を誘導されて詰むルートが84。それを理解して詰みを回避しようとすると引っかかる、悪辣な罠が76。
全く罠がない……ように見えて、最後に引っ掛けるためのルートがいくつか。
無秩序に見えて回避はきちんと詰まされている。かと言って全部迎撃するのも困難を極める。
ただ、スクナの眼にはそれ以外の道も確かに映っていた。
「こういう数だけの魔法は対処が楽でいいや。……そこでしょ!」
走ったり飛んだり跳ねたり。
そうして大袈裟にかわす必要すらなく、スクナは氷槍に向かって前進していく。
一歩、二歩、三歩進んだところで、特に名前もない使い捨ての金棒を狙い通りにぶん投げた。
先頭を飛んでくる氷槍から右後ろ2メートルの位置にある氷槍が持ち手の居ない金棒という「オブジェクト」に命中し、その金棒を弾き飛ばす。
更に、氷槍の軌道を少しだけズラすような角度で飛ばされていた金棒のせいで、その氷槍自体も相殺ではなく軌道を変えて後続の氷槍とぶつかった。
軌道のズレがズレを呼び、軌道が変化しぶつかり合った氷槍同士は相殺し合う。相殺しきれなかった魔法がまた新たに不規則軌道の氷槍となって他とぶつかり誤差を呼ぶ。
そう、喩えるならブロック崩しで弾を隙間に潜り込ませた時のように、魔法自体が内側から食い潰されていく。
スクナ自身が手を加えずとも魔法自体が勝手に崩壊していく様子はさながら、終わらない玉突き事故のようでもあった。
そんな魔法を眺めながら四歩、五歩と歩数を重ね、時折飛んでくる消しきれなかった氷槍を躱していく。
最終的に十二歩進んだところで、300もの本数で射出された《乱舞・凍て氷柱》は突破された。
「……どんな視界で世界を見ていればそんな芸当ができるのかしら。まさかスキルのひとつも使わずに突破されるとは思わなかったわ」
流石に予想外だったのだろう。
魔法を発動した手のひらを見つめながら、心底不思議そうな顔を浮かべてメルティは呟いた。
計算してできるようなことではない。
ただ理解っている人間にはそれが見えるという、あまりにも不条理な結果だけが残っていた。
「いいわ、素敵よ。貴女がこの戦いで何を得ようとしているのかはわからないけれど、私としても貴女たち異邦の旅人が持つ可能性を測る良い機会になりそう。……そうね、面白いものを見せてくれたお礼に、魔法戦闘の中でも少し特殊な技を見せてあげる」
メルティはそう言うと、両の手を軽く合わせる。
バチッと一筋の雷が走ったかと思えば、メルティの両手は赤い雷に覆われていた。
いや、わかりやすく赤雷が帯電しているのは両手だが、よく見れば全身から雷が迸っている。何らかの理由で属性を纏っているのは確かだろうが、その効果まではわからなかった。
「なにそれ、かっこいいね」
「そうかしら? これは《魔装》と呼ばれる技術よ。その名の通り魔法を『纏う』魔導士の上級技法で、魔法の属性によって異なるバフを与えてくれるの。例えばこれは迅雷属性を纏っている訳だけれど……」
パリ、と小さな放電音。
姿が消えたと思った瞬間には背後を取られていた。
少なくとも周囲からはそう見えていたが、今のスクナの瞳はメルティの動きを完全に見切っていた。
(あの雷の効果? さっきの倍は速い……けど、見えてる)
メルティが動き出す直前に、予め攻撃が来るであろう方向に防御を挟み込む。そこに凄まじい威力の回し蹴りが直撃した。
彼女からすれば軽い蹴りのつもりだろうが、ただ速さと力の掛け算だけでスクナを容易に殺せる威力がある。
本来なら即死級、生き残ったとしても数百メートルは吹き飛ばされる威力を有するその一撃を金棒越しに受けた瞬間、スクナは吹き飛ばされることなく、その足元が蜘蛛の巣状にひび割れた。
吹き飛ばされることなく攻撃を受け止めたスクナに追撃をすることはせず、メルティは音もなく距離を取った。
「……受けられただけじゃなく、力を大地に流されるとはね。貴女にそんな繊細な武芸の心得があるなんて知らなかったわ」
「あんまり好きじゃないんだ。武術って弱い人が強い人を倒すための技術でしょ? そもそもモンスター相手に使える武術もほとんどないし」
「傲慢ね。好まないと言う割には随分と極めているんじゃないかしら?」
「メルティだって武術は使ってないでしょ? それに、好きじゃないのと使えないのは違うよ。練習なんかしなくたって一度見たら覚えられるもん。大切なのは技じゃなくて術理って奴だしね」
全ての武闘家が憤慨しそうなスクナの主張に、メルティは呆れ返っていた。
見たものをそのまま写し取り、体現できると言い張る傲慢さ。だが、恐らくそこから無駄を省いて完全なモノとするところまでをただ見るだけでできてしまう才能が、事実として存在しているのだろう。
どうしようもなく不平等な話だが、スクナが武を好まなくとも、スクナは武に愛されているのだ。
「数多の武術から術理だけを抽出して、自分だけの無形の武として体系を成す。それがどれだけ理不尽なことなのか理解しているのかしら。武神が聞いたら激怒してしまうわ」
「理不尽な自覚はあるよ。でもそういう風になっちゃったから」
「なっちゃった、ねぇ……」
それは生まれつきではない、成長の過程で獲得した異能なのだとスクナは言外にそう告げた。
どこまでが才能で。
どこまでが努力の結果なのか。
逆に何ができないのだろうかと思うほど、完成された才能が目の前に立っている。
惜しむらくは此処が、どこまでいってもレベルの支配する世界であるということだけだ。
「まあいいわ。これ以上そこを掘り下げてもお互い意味はないわね。それに私と貴女のステータス差からして、そのくらいはできないと話にならないのも事実だもの」
そう言って、メルティは一度《魔装》を解いた。
会話をしながらも、スクナはここまで一切集中状態を解いていない。
常に相手の一挙手一投足に目を見張らせている。
そんな中で、不意に臨戦態勢を解いたように見えるメルティの行動を見て、スクナは一瞬やる気を失ったのかと眉をひそめた。
だが、それが杞憂であることはすぐに証明された。
メルティがそれまで常に浮かべていた余裕の笑みを消し、影を束ねて黒翼を展開したからだ。
「《終式》を使いなさい」
「いいの?」
「使わないと、ここからは戦いにすらならないわよ」
「……わかった」
終式は五つの舞を挟む都合上、発動に若干の時間を伴う。
どのタイミングでどう使うか、ある程度のシミュレーションはしてきたものの、想像以上の強さを持つメルティを前に使うタイミングを失っていたのは事実だ。
それを使うよう促された。
明らかな施しだが、スクナはそれに突っかかることなく受け入れた。
隙を突くための嘘ではないのは明らかだ。
絶対者である彼女にそんな汚い手は必要ない。
羅刹、諸刃、水鏡、鬼哭、童子。
五度の拍手が舞を彩り、奉納された神楽は酒呑童子の力の欠片をその身に降ろす。
変身は一瞬だった。
両の手の甲に黄金に輝く鬼灯紋。背負った羽織りにも同じく鬼灯が刻まれ、それが鬼神の力の一端であることを如実に示している。
黄金に染まった瞳もまた、酒呑童子と同じ色だった。
「本当に……鬼神の力を降ろせるのね」
感慨深そうに、メルティはただそれだけを口にした。
はるか昔の記憶を噛み締めているのか。はたまた単に感想を口にしただけなのか。
酒呑童子の本来の姿を未だに見たことの無いスクナには、そのどちらなのかは分からなかった。
「さぁ、踊りましょう。神話の時代の舞踏を」
漆黒の翼を羽ばたかせ、メルティは天空からそう告げた。
☆
影の世界に、終わらない爆発音が響き渡っていた。
「……他人事ながら、凄いな」
もう5分近く経つにもかかわらずいまだ衰えることのないスクナとメルティの戦いを眺めながら、琥珀は感心したようにそう言った。
メルティは影の翼を広げ、上空から魔法の絨毯爆撃を繰り返している。対してスクナは地上を駆け回りながら全ての魔法をいなしていた。
あらゆる魔法の最低威力が、並の魔導師のマスターランクスキルで使えるようになる最上級魔法に匹敵し、魔法の等級が上がるごとに指数的に威力が跳ね上がる。
毎秒のように降り注ぐ直径10メートルはあろう魔法球。無詠唱だが、あの連打性能は恐らくただの「ボール系」魔法だろう。
見る限り合計18の属性が入り乱れ、七色の巨大魔法球が乱舞している様は、ある意味ではとても「映え」ている。
最弱の魔法であるファイアですら大地を焼き尽くす火炎になるのがメルティの魔法の規模感だ。
中級の《ランス系》の魔法であればそれは神器を思わせる大槍となるし、《ブラスター》に至ってはもはや極太のレーザー光線だった。
「なのに、なぜ君は死なずに戦えるんだいスクナ」
どういう視界をしているのか、一体何が見えているのか。
琥珀には到底理解できないほど精緻な視野でもって、そこにあるはずがない道を、スクナの《眼》でしか見えない道を切り開いていく。
そこに一切の無駄はない。最大限に高めた力を、最小の単位で制御しきっている。
自身が持つ最強のバフである終式・スクナの舞。
その莫大な強化幅を完全掌握できている証拠だった。
さらに言えば回避だけをしている訳でもない。
基本的には武具の投擲による遠距離攻撃で、ごく稀に隙をついては一気に距離を詰めてメルティに近接攻撃を加えている。
しかしスクナの攻撃はメルティに届かない。直接当てることさえできていない。
彼女の攻撃はメルティの数メートル手前で止められていた。
突破できない最大の理由は、メルティが纏う極悪な魔法障壁にあった。
「あれが魔法戦闘の到達点とも言われる《多重多層構造魔法陣》、そのひとつである《時の城塞》か……」
《時の城塞》。それは無属性の上級防御魔法である《ハニカムシールド》を四重発動し、それを更に12層に積み上げた、戦闘態勢に入ったメルティを守る絶対防御領域の名前だった。
テイルズスキル《多重多層構造魔法陣》。
これはかつてメルティが第四の七星王を下した際に編み出した、通常魔法を最も強く使うための魔導戦術奥義だ。
この戦術は主に二つの魔導理論の融合によって成り立っている。
ひとつは《多重魔法》。
そしてもうひとつが《多層魔法》である。
前者に関しては、スクナも一度は目にしたことのある現象だ。
かつてアルスノヴァとの戦いでリンネが見せた《連星術》というスキルがまさにこの《多重魔法》を実践するためのスキルだった。
《多重魔法》は簡単に言えば、大量の魔力とより多くの詠唱時間を割くことで魔法を圧縮し、一撃の威力を飛躍的に高める技法だ。
1発で1ダメージしか与えられない魔法でも、10発分の魔力で100ダメージを与えられたりする。
結果的に見れば単発で魔法を撃つより10倍も効率よくダメージを与えられるという寸法だ。
対して《多層魔法》は「魔法の連射性」を高めるための技術。
《餓狼》のような一部のアーツにもあるものだが、魔法には必ずクールタイムが存在する。要は強力な魔法の連続発動を制限するための措置だ。
例を挙げるならファイアボールであれば2秒、ファイアランスであれば5秒のクールタイムが設定されている。
魔法のクールタイムはスキル単位ではなく、魔法ごとに独立して存在するもの。ファイアボールは2秒で1発しか撃てないが、例えば別の魔法であるアイスボールならファイアボールの直後に撃てる。
実際にメルティが多くの属性でボール系魔法を使い分けて放っているのは、各魔法ごとのクールタイムに引っ掛からないようにするためだ。
10秒程度ならいい。だが、このクールタイムが100秒、1000秒、あるいは数日にわたる場合もある。
そうした強力な魔法を予め発動して、「溜めておく」のが《多層魔法》だ。
原理としては《符術》が最も近いだろう。特定のアイテムを素材に符を作り、その中に魔法や妖術を込めていつでも使えるアイテムとして形にする。《多層魔法》でも同じように、何らかの触媒に魔法を留める必要がある。
《多層魔法》と違うのは、《符術》はアイテムであるが故に術者以外でもその魔法を使えるということ。
逆に《多層魔法》の利点は、自分自身を触媒として魔法をチャージできるため、《呪符》を作るという工程を踏み倒せることだ。
他にもいくつかデメリットはあるが……「クールタイムを無視した魔法の連射を可能にする」ことが《多層魔法》の本質であるのは変わらない。
《多重多層構造魔法陣》はその名の通り二つの魔導理論を掛け合わせることで、「魔法を圧縮して効果を高め」「それをクールタイムを無視して連射する」という、魔導における究極の無法を可能にした極みの技術だ。
もちろんそれほど都合のいい力では無い。
《多重魔法》発動による莫大なMP消費と、発動に時間を要する点。
《多層魔法》によって自身の体に魔法を「留める」代償として、継続的なHP消費を強いられる点。
それから、《多重多層構造魔法陣》には一種類の魔法しか込められないという制限。
この3つを乗り越えられるパラメータと装備・スキル構成を持つメルティだからこその高等戦術だ。
攻撃に転用すれば破滅的な火力を有するソレを、メルティは自身の防御にしか使用しない。
なぜならメルティには既に「強すぎる魔法」という最強の矛があるからだ。
(私なら容易く破れる。だが、今のスクナでは厳しいだろうな)
《時の城塞》を破るには、メルティの意識外から四重構造の《ハニカムシールド》を突き破る高威力攻撃を叩き込むか、12連続で展開されるソレをメルティの攻勢を防ぎながら砕き続けるかの二択を強いられる。
当然、砕くのに時間をかければ再び《層》は補充されてしまうから、どちらにせよ短期決戦は避けられない。
琥珀の火力であれば、攻撃系のアーツを使わなくとも破るのは容易い。だが今のスクナでは火力が足りないのは明らかだった。
(攻撃系のアーツが封じられている。メルティの魔法の暴威が技後硬直を許さないからだ。今の二人の戦いの間では0.1秒の硬直でさえ致命的だ。スクナが魔法を一発でも耐えられるのならターン制も成り立つが、それが成り立っていない以上どうにかして隙を突くしかない)
レベル差は優に10倍以上。レベルの面だけでもそれだけの数値差があり、更にはメルティはかつて最優と呼ばれた最強種の一角である「吸血種」だ。
鬼人族はステータス面で優れた種族ではあるが、吸血種ほどの数値は持たない。更に職業の補正、パッシブスキルの補正、装備の持つ効果……その全てがレベル相応の強さを持つのがメルティだ。
スクナが全開のバフで全ての物理ステータスを10倍以上に増やしている状況でもなお、ステータス面で完敗している。
むしろそんな状況でも冷静に、幾十幾百と飛び交う魔法のほんの僅かな空白を見つけ続けるその眼力と判断の速さを賞賛すべきだ。
天から無数に降り注ぐ万雷を躱すに等しい絶技。
一手のミスが全てを終わらせてしまうというのに、すでに5分以上もメルティの猛攻を凌ぎ、シールドに弾かれたとはいえ繰り返し攻撃を加えている。
「この状況で笑えるその心の強さこそ……だね」
何より。
降り注ぐ魔法の雨を前に、スクナは笑っていた。
心の底から楽しそうに。絶望なんて微塵もないみたいに。
メルティも、琥珀も、思わずつられて笑ってしまうくらい。
絶望的な景色とは対照的に、子供のように笑っている。
苛烈であるはずなのに穏やかな不思議な空気感を、琥珀は外から眺めていた。
そして、不意に。
空中で笑うメルティと目が合った。
「……メルティ。ソレを使うというのであれば私も傍観だけでは済ませられないぞ」
いいや、むしろそれこそが自分をここに同行させた理由か。
メルティの意図を理解して、琥珀はため息をついた。
☆
「面白い、本当に面白いわ! 視線、指先の動き、感情、身動ぎさえも貴女にとっては未来を読む材料になってしまうのね!」
当たらない、ということをこんなにも面白く感じたことは無かった。
スクナ。高々レベル100に達した程度の弱者が、こうまで自分の攻撃を回避できるものなのか。
空中からの絨毯爆撃を、常に紙一重で回避する。
初撃の《ファイア》を回避した際に失策を打ったからか、常に「次の行動」まで見据えている。
メルティが見る限り、あらゆる魔法を発動する前に既にスクナは行動を起こしている。
発声の前の僅かな呼気が、発動する魔法の名前を教えてくれる。
無詠唱だったとしても、視線が、指先の形が、手のひらの向きが、狙いや意図を示してくれる。
それさえ分かればあとは発動後に規模を測るだけ。
言葉にすれば簡単だが、実行のためにどれほどの負荷を己の身体にかけているのか。
常にアラートが鳴り続けていてもおかしくない程、絶大な情報負荷が今のスクナには掛かっているはずだ。
そしていくら強力なバフをかけていると言っても、ステータスは依然メルティが遥かに上だ。
凡人なら圧殺されるほどの魔法を前に、強いスキルをほとんど使わないでここまで食い下がれる圧倒的な戦闘センスには舌を巻くしかなかった。
(何よりも、時折飛んでくる反撃が素敵よね。本気で勝つ気があるってわけ……)
針の穴を通すようなコントロールで時折飛んでくる投擲物。
それは《時の城塞》を破るには至らなくとも、四重のハニカムシールドの内2層を破壊した。
何よりメルティの意識を削るように、意識の外から飛んでくるのが厄介だ。
更にはそうして作った隙を見て殴りかかってくるだけの度胸もある。一歩間違えば迎撃の魔法に撃ち抜かれたっておかしくないと言うのに、メルティが絶対に迎撃できないタイミングでだけ狙ってくるのだ。
「いいわ! ここまで耐えた貴女へのご褒美に、魔導の窮極を見せてあげるっ!」
構えていた魔法の全てを乱雑に大地に叩きつけて、メルティはそう言いながら空高く舞い上がった。
ここからが本領だとはっきりわかるほどに、メルティの右手に何かが集約されていくのがわかる。
ただ、これまで一切見た事もない予備動作を前に大規模の魔法が来ると判断したスクナは、回避ではなく精一杯の迎撃態勢を取った。
「《星よ、堕ちて、私の敵を永久の眠りに誘って!》」
希うような切なさを秘めた、わずか三節の詠唱。そこから放たれるのは、殲滅に特化したメルティの代名詞。
《天眼》《時忘れの魔女》、そして《墜星》。
曰く、天眼のメルティはかつて七星王の一角を滅ぼしたという。それに準えた極大魔法。
すなわち岩石属性の真理魔法。
「《メテオ》」
その瞬間、絶望の化身は舞い降りた。
「さあ、星の衝突を防いでみなさいな」
直径200メートルはあろう隕石を従えて、メルティは嗜虐的な笑みを浮かべた。