ネームドスキル
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《赤狼装束》
4点一式
レア度:ネームド・PM
防御力:+50
敏捷:+50
要求筋力値:5
ネームドスキル:《狼王疾駆》
孤高の赤狼・アリアの素材から作られた戦装束。
装備者に軽やかなる速さを与え、赤狼のその速さは衰えることを知らず。
赤狼は常に待っている。己を倒しうる強者を。
※この装備はロストしない。耐久度がなくなった場合《破損待機状態》となる。
※ネームドスキルは装備に付与される特異なスキルです。装備者のスキル枠に関わらず、その恩恵を受けることができます。
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《月椿の独奏》
頭装備
レア度:ネームド・PM
ネームドスキル:《赤狼の独奏歌》
赤狼の魂が宿りし髪飾り。
緋色の花弁は月に嗤い、終わりなき歌を奏でよう。
※この装備はロストしない。耐久度がなくなった場合《破損待機状態》となる。
※ネームドスキルは装備に付与される特異なスキルです。装備者のスキル枠に関わらず、その恩恵を受けることができます。
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「おぉう……」
私はその性能を見て、思わず天を仰いだ。
何から突っ込むべきだろうか。上から順に突っ込んでいこうか。
4点一式というのは、聞いていた通りだから特に言うことも無いか。着ける時は一式。外す時も同じく。
レア度:ネームド・PMに関しても特に言うことはない。
これは純粋に、ネームド素材のみならず《魂》を利用した生産武具であるということの証明でしかないからだ。
問題は防具性能である。
私がこれまで装備していた鉄板装備+αの組み合わせは、実のところ防御力のほとんどを鎖帷子が占めていた。
合わせて防御力が+20。
ガントレットとグリーブが器用と敏捷に僅かながらの補正を加えてくれていたが、1レベル分にも満たないわずかな上昇量なのでこれはあまり関係ない。
さて、《赤狼装束・独奏》の防御力はと言えば。
一式で+50。繰り返そう。+50である。
つまり、一切の金属使用無しでこれまでの2倍以上の防御力を誇る装備なのだ。
この時点で割と意味がわからないが、敏捷+50というのも意味がわからなさすぎる。
これはざっと、レベル10分のボーナスステータスポイントとトントンの数値だ。
純粋なレベルアップによる数値で言えば《鬼人族》でも40弱、人族なら50レベル分だ。文字通り桁違いすぎる上昇量である。
「どうかな。僕もレア度:ネームドの防具を作ったのは初めてだったから、その性能には驚いたよ。というより、そもそもこれまでのネームド討伐者はみんな武器を作ったからね。防具にした時どんな性能になるのかは未知数だったんだ」
想像を超えていた。
それは私だけではなく、子猫丸さんも同様だったらしい。
生産職でもない私のチンケな想像はさておき、装備生産者としてプレイしている子猫丸さんがそう言うのだから、私の感覚も間違ってはいないのだろう。
「これ、実際にはどのくらいやばい装備ですか?」
「最前線のプレイヤーがオーダーメイドで装備を整えれば、君と同じ軽戦士でも60を越える装備はある。ただ、その数値の敏捷補正を持つ装備は見た事がない。しかも、ネームドスキルなる能力まで併せ持っている」
「あっ……スキルはまだ確認してないや」
「スキルをタップすれば詳細が見られるよ」
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《狼王疾駆》
ネームドスキル
赤狼の遺志を継ぎし者、その歩みを止められる者はいない。
・敏捷低下に対する耐性(特大)を獲得。
※このスキルは常に効果を発揮する。
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「敏捷低下耐性か……」
「デバフ系の敵への対策にはなりますね」
「耐性を持った装備が総じて抑え目の性能になりがちなのを考えると悪くは無いと思うよ。とはいえ、敏捷低下のデバフをかけてくる敵は多くはないが……」
それはそうだろうと私は思った。
リンちゃんと一緒にやっていた古きよきRPGなんかでも、バフデバフの基本は攻撃と防御だ。
その上で戦略上組み込むかどうかというのがすばやさに関するバフなのであって、重要度で言えば低い方だ。
それに大抵の場合、下がった能力は上げることで相殺出来てしまうし。
まあ、それでも機動力が必要な私にとってはありがたい耐性であることに変わりはないんだけどね。
「とはいえ、高い防御、壊れ級の敏捷補正に加えて耐性付きと隙のない構成だ。君のお眼鏡にかなうくらいの品は作れたのではないかと自負しているよ」
「はい! 見た目も素敵ですし、何より敏捷に補正が入るのがいいですね!」
「喜んでもらえて嬉しいよ。ちなみに布系装備の基本的な性質として火属性と斬突属性に弱く、水属性と打撃属性に強いというものがある。どうやらロストしない装備のようだけど、防具にも耐久値は設定されているから気をつけてくれ」
「そんな設定もあるんですね……」
子猫丸さんの言う耐性とは耐久値に関する耐性のことのようだ。布だから燃えるのに弱くて濡れるのには強い、そんなイメージかな。
赤狼装束も髪飾りも共にロスト、つまり消滅はしないみたいだけど、壊れてしまうことはあるのかもしれない。
後で聞いた話だけど、防具は武器と違ってロストしても消滅はしないらしい。突然インナー姿にされたら問題だからだそうだ。
その代わり、防具としての全ての性能を失ってログアウト後に消滅するんだとか。変なところで凝った仕様だよね。
和気あいあいと赤狼装束の使い道について話していると、子猫丸さんが口を開いた。
「スクナ君、もうひとつの装備も見てごらん。こう言ってはなんだが、本命はそっちなんだ」
「あ、はい」
そう言った子猫丸さんは少しだけ顔を顰めていた。
話を聞く限り、本来作った装備を上書きして誕生したみたいだし、複雑な気持ちではあるのかもしれない。
赤狼装束の項目から戻って、月椿の独奏の説明からネームドスキルを選択する。
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《赤狼の独奏歌》
ネームドスキル
赤狼の魂より受け継ぎし無尽蔵のスタミナ。
戦場で舞い踊れ、月が隠れ椿の花が落ちる前に。
・装備者のデスペナルティを2倍にし、SP消費を半減する。
※このスキルは常に効果を発揮する。
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「………………?」
思考が、止まった。