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はるると新兵器

「準備を整えるべきだと思うんだよね」


 メルティと別れた後、鬼人の里を歩きながら私はそうリスナーに語り掛けた。


「メルティはね、今の世界最強なんだって。昔は酒呑で今はメルティって感じみたい。でね、ちょっと前に冒険者ギルドのNPCの噂を聞いた感じだと、とにかく派手な魔法をバンバン使うタイプらしいんだよ」


『ふむふむ』

『砲台タイプか』

『魔法を防げるシールドが欲しいな』

『てか突然挑戦状叩き付けるからビビったぞ』

『戦闘狂がよ』

『勝ち目あるの?』

『鬼人族と相性最悪じゃん』

『魔法の規模感とかわかる?』

『無理ゲーだと思うけど』


「本気で戦うとフィールドがひとつ焦土になるくらいの規模感だって」


『終わったな』

『おつでーす』

『あきらめろん』

『無理ゲーなんてもんじゃねぇ』

『ひぇっ』

『これが世界最強の規模』

『桁外れやなぁ』


「無理ゲーなのはわかってるの! 大体ね、私の予想だと多分パンチ一発で死ぬと思う。パンチキックどころかもうビンタとかデコピンでも死ぬよ多分」


 メルティの推定レベルは()()()()()の一言に尽きる。

 NPCの話だったり世界観の設定は有志が作った非公式のウィキに結構まとめられていたりして、私も暇な時に読んでたりはするんだけど、メルティの能力に関する記載はほとんどない。

 唯一わかっていることは、メルティは自分でも御しきれないほど破滅的な規模の魔法を使うらしいということくらいだ。

 前回の使徒討滅戦はメルティがひとりで追い返したんだって。全く弱体化できてない使徒を正面から消し飛ばしたらしいんだけど、戦闘の余波で永久焦土が広がったとか広がらなかったとか。


「なので一矢報いる方向で検討しております」


『食いしばり+カウンターは鉄板やで』

『カウンターしかないな』

『ジャイアントキリング……いやキルしちゃまずいのか』

『プレイヤーは何回でも死ねるからいいけどな』

『相性がね……』

『とにかく範囲を防げる手段が欲しくない?』


「食いしばりはある! 30秒死ななくなるやつ。だからこれをベースに立ち回りたいよね」


 《鬼の舞》の五式・童子の舞はプレイヤーに30秒間の食いしばり効果を与えるという、地味にとんでもないスキルだ。なんたって30秒間死なない訳だからね。

 まあ実際には毒や出血、あとは暑さとか寒さみたいなスリップダメージでは普通に死ぬんだけど。それでも一定時間は敵の攻撃で死ななくなるって言うのは大きなメリットだ。


「……ふふふふふ、なにやらご相談のようですねぇ……」


「にょわぁっ!?」


 あまりにも突然背後から聞こえてきた声に、私は思わずとんでもない声を出してしまった。


「そんなに驚くことですかぁ……?」


「け、結構驚いたよ……」


 振り返ってちょっと下を見れば、やや不服そうな顔のはるるが立っていた。一応私の専属鍛冶師をやってくれてる、ちょっと変わった女の子だ。

 相変わらずボロ布みたいな服装だけど、引きずってるメイスの種類がちょっと変わった気がするな。


「メルティ・ブラッドハートが来たようですねぇ……」


「知ってるの?」


「配信を見てましたからぁ……」


「そういやはるるはそうだった。まだこの里に居たんだね」


「報酬の話がついてないですからねぇ……それにこの里には別の用事もあったのでぇ……ついでに済ませたまでですぅ……」


 はるると子猫丸さんの二人には、月狼戦に向けて無料で装備を作ってもらった借りがある。

 その返礼を月狼の素材でするという話は既にしているし、私も納得して受け入れた話だ。だからもちろん、今日明日中くらいにははるるの元に出向くつもりだった。

 でもまあ、自分から来てくれたのならそれはそれでありがたい。


「あ、そうだ。これが私の武器を作ってくれてる鍛冶師のはるるだよ。前にも紹介したけど、今日のリスナーさんは知らない人もいっぱいいるだろうからね」


「よろしくですぅ……」


『ロリやん』

『激ロリ』

『好き』

『奇抜なファッションやね』

『スクナの裏取るの地味にやばくて草』

『久々な気がするけど前回の配信にもいたぞ』

『今日は人が多いから説明多いのは仕方ない』


「こう見えても成人はしてるんですよぉ……ふふふ……」


「そうなんだ……」


 いやまあ、確かに子供らしからぬってところは沢山あったからはるるが成人だってことは薄々察してたけども。

 身長だって変えようと思えば変えられるし、プレイヤーのリアルに突っ込むのはあんまりいい事じゃないからね。

 配信者の中でだって、私やリンちゃんみたいに所在が割れてる方が珍しいんだから。


「報酬の前にちょっと小話ですぅ……メルティと戦うそうですがぁ……まず間違いなく蹂躙されますよねぇ……」


「それはそうだね」


「そこで私が造った最新作を持ってきたんですぅ……その名も《ティアドロップウェポン》ですよぉ……」


 ババーン! と取り出されたのは、一見すると《簒奪兵装・逢魔》そっくりの装備だった。でもそれは見た目だけの話だ。持ってみると明らかに軽いハリボテだった。

 はるるのことだから、何かしらの機構を仕込んであるんだろう。見た目を合わせたのは虚をつくためかな。


「これはですねぇ……中にアイテムをひとつだけ仕込むことができる機構を備えてましてぇ……」


「……そっか、なるほど、確かにそれなら……」


「不意打ちには持ってこいだと思いますよぉ……」


「うん、助かるよ。ちなみにおいくら?」


「大した素材も使ってないですしぃ……試供品なのでタダで結構ですぅ……」


 はるるから飛んできたアイテムの譲渡申請を許可して、はるるの言う《ティアドロップウェポン》を受け取った。



――


アイテム:《落涙の金棒・試作一号》

レア度:アンコモン・PM

属性:ー

要求筋力値:645

攻撃力:+210

耐久値:150/150

分類:《打撃武器》《片手用メイス》

ウェポンスキル:《アイテム格納》

鍛治師はるるの作成したティアドロップウェポンシリーズの第1弾。

破損時に格納したアイテムが飛散する機構が組み込まれている。


――



「性能自体はぼちぼちだね。逢魔に比べるとだいぶ弱いかな」


「そればかりは仕方ないですぅ……武器の中に無理やり空洞を仕込んだ分性能は落ちてしまいますからぁ……」


「苦労してるんだね」


「試行錯誤が私たちの最大の楽しみですよぉ……」


 楽しそうに話すはるるからは、失敗や思い通りにいかないことに対するストレスは微塵も感じとれなかった。


「んじゃ、来てくれたし月狼素材選んでってよ。毛皮系は子猫丸さんが欲しがるだろうから、武器に使えそうな爪とか牙の素材がいいかな?」 


「もちろんそれもいただきますけどぉ……今欲しいのは別のm」


「あ、とりあえず《魂》は1個譲るよ。レアドロップあげる約束したもんね」


「ぬぐぅ……スクナさんは本当に腹芸のしがいのない人ですねぇ……」


「ん? まあ3つドロップしてるし、お礼も兼ねてさ」


「断る理由もないのでいただきますけどぉ……はぁ……こっちも色々と考えてフリーの鍛冶師やってるんですよぉ……そもそもこれじゃギブアンドテイクが成り立ってねぇんですよねぇ……」


 珍しくブツブツと文句……文句かな? ちょっぴり荒れた口調で話すはるるに驚いていると、はるるはパンと自分の頬を叩いた。


「とりあえずこれはスクナさん向けの装備の検討に使わせてもらいますぅ……ネームドウェポンの製造も久々ですしねぇ……」


「それでいいの? いや、私は嬉しいけど」


「ドラゴさんが少しだけ市場に流した素材の価値から言ってぇ……レア抜きの月狼素材だけでも相場的には十二分ですからぁ……これからも良好な関係を築いていくための投資ですよぉ……」


 逢魔の値段は確か赤狼装束の方と合わせて4500万イリスぐらいだから、単純に半額とみても2000万イリスを超える借りがある。

 それを月狼の通常素材だけでトントンにできるものかなぁとは思ったけど、レベル150のネームドモンスターの素材だ。

 この先いつ手に入るか分からないほど貴重な品だと考えれば、その価値にも納得できなくはなかった。


「はるるがそう言うならいいけど……素材が足りなかったりしたら言ってね。私が行ける範囲でなら取りに行くから」


「それは勿論ですぅ……頼りにしてますよぉ……」



 その後選んでもらったアイテムと《魂》をはるるに送ってあげると、「ふへへへへぇ……」なんて言いながらなんだかんだと嬉しそうに頬を綻ばせていた。

《魂》が3つなくても約束だからって理由で上げてる姿が目に浮かぶ。

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― 新着の感想 ―
[一言] この子もアカギ並に物欲ないからな……良い方向には働いてるけど。
[良い点] スクナがはるるを後ろから抱き上げたら配信爆上がりしそう…
[一言] その手の物欲とはホント無縁だからなぁw
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