実況解説ブースにて
リアルがてんやわんやしとります。
忙しいと言うより大変です。
そして投稿頻度が低すぎて大会の設定がちゃんと一貫してる自信がない……。
最新話の設定が最新なので気にせず読んだってください。齟齬があれば後で直します。
バトラー2日目、午前9時。
今回のバトラーではメインイベントとして、ゼロウォーズVRによるWGCS国内最終予選が用意された。
とはいえ、バトラー会場全体では同時進行で多数のゲームタイトルの大会や新作発表ブース、それから昨日のパンチ力No.1決定戦のようなエンタメ系イベントも行われている。
昨日すうぱあやナナが楽しんだ屋台スペースも含め、朝だと言うのにお祭り騒ぎの大盛況だった。
そんな中、ゼロウォーズVR本戦実況ブースでは既に会場の観覧席が一通り埋まり、立ち観戦の観客たちもまばらに集まってきていた。
「さぁいよいよ始まります! 今回のバトラーの目玉イベント! WGCSオールスターズの最終予選を兼ねた、ゼロウォーズVR最強チーム決定戦!! 予選を勝ち抜いた全48チームによる熱い戦いの幕開けですっ!!」
「司会は毎度おなじみ、私セバス=ちゃんと」
「ゼロウォーズVRは正直まだまだ理解が浅い! けれど熱意は人一倍! 暇だったのでMCを受けたマイケルがお送り致します!」
舞台の上に立つのは今日の実況を務める2人のMCと、それ以外に女性がひとり。
昨日はパンチ力No.1決定戦の実況をしていたMCのセバスとマイケルだが、もうひとりの女性もまたゼロウォーズVRの公式大会を見ていれば常連とも呼べる人物だった。
「なお、本日は解説として『ゼロウォーズ管理会社ハイウェポン開発部門』よりタナカ統括部長に来ていただいております。タナカ部長、よろしくお願い致します」
「はい、管理会社のタナカです。皆さんよろしくお願いします」
瓶底メガネに白衣というあからさまな格好の女性が、淡々とした口調で挨拶を述べる。
ゼロウォーズ管理会社ハイウェポン開発部門。ゼロウォーズにおける武器の開発や調整を担当する機関である。……という公式設定を元に、運営メンバーが公式イベントにやってくる際に使われる所属がいわゆる『管理会社』だ。
タナカは公式イベントにおけるプレゼンターを担当しており、基本的にゼロウォーズ関連の公式イベントとなれば大抵は彼女が出張してくる。
そのため、ゼロウォーズ作品のユーザーでMCを任されがちなセバスと並んで、タナカもまた「毎度おなじみ」のメンバーなのだった。
「時刻は朝9時と、連日非常に早い時間帯での開催となりました! 本日の試合数は計11試合と非常に多くなっておりますので、サクサクと進行していかなければなりません!」
「第一試合の開始は30分後ですね。巻きで進行という訳で、まずはルールの再確認と行きましょう。ではタナカ部長、お願いします」
「はい。本戦ラウンドは各12チームずつ、AからDの4ブロックに分かれて各2試合を行います。このうち上位3チームが決勝ラウンドに進み、決勝ラウンドでは残った12チームで3試合を行います。最終的に上位2チームにはワールドゲーマーズチャンピオンシップ・オールスターズへの参加権が与えられます」
「いわゆるWGCS! ゲーマーたちの夢の舞台ですね! ちなみに、各ラウンドでの順位を決める方法とはなんでしょうか?」
「順位を決めるポイントは二つ。ひとつはサバイバーポイント。単純に、試合の中でのチーム生存順位に応じてポイントが付与されます。そしてもうひとつがキルポイント。脱落、あるいは勝利するまでにチーム全員で稼いだ殺害数に応じてポイントが付与されます。この二種類のポイントの合計が高いチームが勝者となります」
タナカによる口頭での説明に合わせて、会場に用意された巨大スクリーンに映像が表示される。
参加者からすれば今更なルール説明ではあるが、観客や配信の視聴者の中にはルールを理解していない者もいるため、この手の説明は絶対に必要な要素だった。
「生き残るだけでもダメ! 敵を倒すだけでもダメ! 逆に言えば、途中で負けてもチャンスはある! 堅実に行くか! 漁夫の利を狙うか! はたまたとにかく殺りまくるか! 選ぶ作戦によって立ち回りも変わります!」
「チームの戦略が勝敗の鍵を握りますね。さて、それでは今大会における注目チームを解説していきましょう。マイケルさん」
「了解です! なお、この注目チームの選出はファン投票を行いまして、本戦出場の48チームから上位5チームを選出しております! 不公平じゃないからそこんとこよろしくぅ!」
テンション高めにマイクを握るマイケルの大振りな動作に合わせて、スクリーンの内容が切り替わる。
表示されたのは5つのチーム名。マイケルが言う通り、今回の大会における注目チームとしてファン投票で選ばれた5チームの名前だった。
「ファン投票第5位! よく見る顔! よく見る名前! 人気者たちの寄せ集めチーム! 《おにぎりーズ》!」
「本人たちの希望とはいえその紹介は如何なものでしょうか……。名前は個性派、しかし4人とも非常に安定した実力を持つ現役ランカープレイヤーです。チームメンバーの名前を見ると元々仲良しだったのかな? といったイメージが湧きますが、意外なことに寄せ集めという言葉の通りこのメンバーでチームを組むのは初めてのようですね。予選は堅実なプレイで勝ち上がってきました」
チーム《おにぎりーズ》。チームリーダーの明太子を中心に、こんぶ、ツナマヨっち、銀ジャケといういかにもおにぎりの具材のようなプレイヤーネームのメンバーが集まったチーム。
どのメンバーもゼロウォーズVRの公式大会では常連のプレイヤーなのだが、4人とも元は違うチームに所属していたところ、今回たまたまチームを組むことになったというのが真相だ。
これまでは敵として、今日一日は味方として。おにぎりの具材というあまり固くない絆に結ばれたチームである。
「チームリーダーの明太子氏からは『おにぎりは全ての具材を包み込む母のようなもの。圧倒的なバブみで勝利を掴みとります』というメッセージが研究室宛に届いていますよ」
「普通に意味がわかりませんね? おにぎりとバブみの関係とは!? そんな《おにぎりーズ》はこの後すぐ、Aブロックにて試合となります!」
タナカが読み上げたチームの意気込みに、マイケルは容赦のないツッコミを入れた。この内容でツッコまれるのは、残念ながら当然でしかなかった。
「お次はファン投票第4位! チームのコンセプトは臨機応変! 集うは各分野のエキスパート! チーム《Vやねん!》!!」
「メンバーそれぞれがひとつの技能を極めたスペシャリスト集団ですね。短射程、中射程、長射程、そしてアイテムホルダー。特に射撃武器以外のアイテム使用を極めている、リーダーのマスターV選手は非常に面白いプレイングを見せてくれます。特に彼の爆弾アイテム遣いは必見ですね」
チーム《Vやねん!》。チーム名はノリで付けた感満載だが、チームとしては既に2年近いキャリアのあるベテランアマチュアチームである。
メンバーそれぞれがひとつの射程しか使えないという一芸特化な技術を持つため強みと弱みがハッキリしており、その強みを活かして戦うことで結果を残してきた。
特にチームリーダーのマスターVは射撃武器を一切使わずに勝利する動画を累計100本以上アップしている実績があり、彼の知名度がそのままチームの知名度と言っても過言ではないほどである。
その反面、チームの得意領域に持ち込めないと格下と思われていた相手にあっさり負けたりもするので、ピーキーな印象の強いチームだった。
「マスターV選手からは『倒すべき壁があちらから来てくれました。私たちが頂点なのだと証明します』とのコメントを頂いております」
「これはわかりやすい宣戦布告! 誰に宛てたものなのかはこのあとすぐにわかるでしょう! なんと言ってもスペシャリスト集団である彼らにとっては不倶戴天の敵が待っています!」
スペシャリストと言ったからには、その分野で最強であることを証明したい。
そう思っていた《Vやねん!》のメンバーは、片思いの宿敵である怪物と戦う機会を心待ちにしていた。
《Vやねん!》のメンバーが勝手にすうぱあへの闘志を燃やしている理由は単純で、ゼロウォーズVRにおけるほぼ全ての《記録》を独占しているのが彼女だからである。
「続いてファン投票第3位! チーム戦など関係なし! 俺らは俺らの道を往く! プロゲーミングチーム《天上天下》!!」
「チーム戦の利点を完全に捨てて、全員がソロプレイの如くフィールドに散って戦う特殊な戦法を取るチームです。この戦法は個人の奇襲性能に特化しているため、奇襲が失敗して先手を取り損ねると逆にタコ殴りにされがちです。索敵の強いチームには不利を強いられるはずなのですが……そこを押し切れる個人の実力こそこのチームの真骨頂です」
プロゲーミングチーム《天上天下》。正確には、《天上天下・ゼロウォーズVR部門》とでも呼ぶべきか。
力のあるプロチームが、ひとつのゲーム部門のみで構成されることは少ない。《天上天下》もその例に漏れず12の部門を持つチームで、チーム名自体は今トレンドにあるゲームタイトルの大半で聞こえてくる。
チームコンセプトは「唯一無二」。結果を求められるプロであればこそ、オンリーワンなプレイングを。
チームメンバーにコンセプトを強いるというよりは、そういうプレイングができるメンバーだけを掻き集めたのが《天上天下》だった。
「実力はあってもチーム戦に向かないプレイヤーもいますから、それを逆手に取った戦法とも言えます。何よりファン投票の順位を見れば、このチームがどれだけ人気であるかがわかりますね。リーダーの軽業ゆーた選手からは『ファンの皆さんと所属企業のため、一生懸命頑張ります』とのコメントを頂いております」
「唯我独尊とはかけ離れた丁寧なコメントだぁ! これが《天上天下》が愛される秘訣なのか!? 今大会を荒らし回るのか、注目したいところです!」
軽業ゆーた。17歳ながらチームリーダーを務める少年から届けられたコメントは、無難で丁寧な内容だった。
チームコンセプトの割にメンバーが一般人並の感性の持ち主ばかりであるというのも、このチームが好かれる理由だったりする。
「さてさてさて! ファン投票第2位! 常道こそ王道! 奇策など不要! 強さで全てを押し通す! 元 《アルカトラズ》所属、フォトン選手率いるチーム《冬秋夏春》!!」
「強力なエースをリーダーに据えた実力派チームです。リーダーのフォトン選手はゼロウォーズVRの大会ではおなじみと言ってもいいでしょう。普段は単独での大会参加が多い選手なのですが、今回はチームレギュレーションでの参加となりました。フォトン選手は中射程のフルメタルライフルを得意とする選手で、チームメンバーのクレバス選手、タカくん選手、へっだぁ選手の三人とはアルカトラズ時代からの友人だそうです」
「なるほど! 確かアルカトラズは最終ランキング上位500位内経験者のみで構成されたグループでしたね!」
「そうですね。既に解散したグループですが、ゼロウォーズの初代から長く続いた伝統あるチームでした。本大会にもフォトン選手だけでなく複数名参加していたと思いますね。フォトン選手自身もゼロウォーズ2の時代から世界の舞台で戦ってきた古豪です」
プロ・アマチュアを問わず、もっと上手くなりたいというトッププレイヤーが切磋琢磨する互助集団であったのが《アルカトラズ》というグループ。ゼロウォーズシリーズの初代からVRまで全ての作品のプレイヤーが入り乱れていたため、参加人数は全盛期では500人を超えていたとも言われている。
前述の軽業ゆーたとマスターVもこのアルカトラズに所属していた経験があり、かつてはどのシリーズの公式大会でもアルカトラズの名を聞かない日はない程に有名なグループだった。
その中でもフォトンが特別に名指しされている理由は、過去に彼がアルカトラズの運営中核メンバーであり、多くの実績を残したプレイヤーのひとりだったからだ。
ゼロウォーズ2の時代に世界大会個人部門で第3位。ゼロウォーズVRでも国内大会の個人部門では二度の優勝経験がある。
結果としてグループは解散してしまったが、アルカトラズと言えばフォトンと言われていたほどに彼の名前はこのグループと紐づけられていたのだった。
「リーダーのフォトン選手からは『何がなんでも一位でWGCSに出ます。絶対に勝ちます!』と力強いコメントを頂いております」
「古豪率いる実力派ということですね! 《天上天下》とは打って変わって、逆に正道を行くスタイル! 感情の籠ったコメントは溢れ出る熱意か、それとも震える自分を鼓舞する声か! 経験を活かしたクールなプレイに期待です! ……それではファン投票第1位に行きましょう!」
チーム《冬秋夏春》は大会開催前の大本命だった。
フォトン率いる《冬秋夏春》はそれだけ安定して強いチームであり、実際に予選もチーム内キル数8・全員生存という非常に強い結果で突破している。
それがひっくり返った理由は、たった2人のプレイヤーにあった。
「最凶最悪のキルマシーン! パーフェクト・レコードホルダー! ゼロウォーズVR史上最強とまで呼ばれたレジェンドプレイヤー・すうぱあ! そんな伝説を引っ提げて、あの有名チームが今度はゼロウォーズVRに殴り込み! 世界で唯一《皇帝》を倒した女! 革命児・リンネ選手率いるプロゲーミングチーム《HEROES》!!」
「まさかの、と言わざるを得ないです。すうぱあ選手の参加は、全てのゼロウォーズVRプレイヤーに激震を走らせたと言っても過言ではないと思いますが……」
「そうですね。我々管理会社としても非常に驚いています。知らない方のために説明しておくと、すうぱあ選手はランクマッチ月間最終順位で12ヶ月連続1位という衝撃的な記録を持つプレイヤーです。我々管理会社としても信じ難い記録でありまして、当時はユーザーの皆様から『チートでは無いのか』『本当に人間なのか』『公式が用意したツールではないか』など多くの問い合わせを頂いたほどです。もちろん一切の不正なしということになったのですが、この結果には調査をした我々の方が驚いたくらいでした」
マスターVやフォトンが明確に宣戦布告をした相手であり、今大会における最警戒対象でもあるすうぱあ。
すうぱあはチートツールの使い手ではない。この事実に誰よりも驚いたのはプレイヤーではなく運営会社の方だった。
全ての記録が、理論上は可能な範囲に納まっている。そしてすうぱあ自身もまた、不可解なほどの索敵能力はあれどシステム上逸脱した動きは一切していない。当然アカウント削除の対応は取れなかった。
公式が1プレイヤーに対して「チート不使用」の宣言を出さざるを得なかった、極めて稀有な事例。
それ以来すうぱあのプレイは全て厳戒態勢の監視下に置かれ、その監視は最終的にタナカが話した通りの大記録を達成するまで続いたのだった。
「ユーザーどころか管理会社さんも震撼させた怪物的記録だったんですね! 予選でも通常より人数が半分少ないハーフメンバーでのチーム戦で、なんと単独で26キルという驚異的な記録を叩き出しています! セバスさん、大会実績なしでファン投票第1位という結果はこの辺りからでしょうか?」
「それは間違いないでしょうね。加えてすうぱあ選手はこれまで目に見える形での大会参加が一度もなかったことでも有名ですから、ランクマッチで世界最強の肩書きを持った彼女への期待も込められているのではないかと思います」
「なるほどなるほど! これは実況解説の立場としても、それから選手の立場としても、すうぱあ選手のパフォーマンスが本大会の鍵になりそうな予感です!」
「そしてそのすうぱあ選手を引き連れてきたのがあのリンネ選手ということで、これまた話題性の塊ですよね。VRに関しては苦手だと公言しているリンネ選手ですが、コンシューマー版ではゼロウォーズ3でWGCSの優勝を飾った実力者でもあります。戦略面では右に出る者はいないとの評もありますので、すうぱあ選手とのコンビネーションが期待されますね」
自身がVRを苦手だと明確に話しているリンネのプレイそのものに期待するファンは、実のところほとんどいない。
ただ、「リンネは絶対になにかやらかしてくれるはず」という期待感がバトラーの開始前から存在していて。
その期待に応えるように、リンネは今まで誰ひとり接触すらできなかったすうぱあという怪物を連れてきた。
やっぱりリンネは想像の斜め上をいってくれるなぁという嬉しさから、そしてすうぱあという劇薬をリンネが使いこなすのを期待して、HEROESを推しているファンはそれなり以上に存在する。
VR投資で大儲けして、一時期世界長者番付に父と並んで名前を連ねていたり。
わずか19歳でWGCSを制したり。
仮想通貨で20億円損した話をしたり。
かと思えば個人で賞金総額1億円の非公式ゲーム大会を開いたりする。
元よりリンネはそういう「俺達にはできないことを平然とやってのける」という期待感のある人物なのだ。
「他2名についても語れることは沢山あるのですが、ちょっと尺が足りないのでこの後で。リーダーのリンネ選手からは『久々に荒らすわよ。楽しみに待ってなさい』とのコメントを頂いております」
「大胆不敵な挑発ですね! チームエースの実力は予選ラウンドで証明済み! 最強プレイヤー擁する彼女たちの牙城を崩せるチームはあるのか!? はたまた思ったほどに強くないということも有り得るか!? 注目のHEROESはCブロックにて参戦です!」
試合の開始はまもなく。
ゲーマーたちの熱い夏が始まろうとしていた。
今明かされるリンネの過去(箇条書き)。