ミーティング
お久しぶりです。
何とか生きてます。
「ただいま〜」
「ナナ姉様、リン姉様、お帰りなさい。ご飯を作っておいたので、後で少し食べてくださいね」
「お帰りです。トーカと配信見てました」
「いや、すうぱあさんはさっきまで寝てましたよ」
「ギクッ」
「なんのコントよ、それ」
配信を終えて、後片付けをリンちゃんの小間使いさんにお願いした私達は、早々に引き上げてHEROESの本部に戻ってきていた。
まあ、本部なんて言っても普段暮らしている部屋の一階層下にあるってだけだけど。
それでも、戻ってきた時にはトーカちゃんとスーちゃんが待っていてくれて、なんとなくチームっぽさが出てきたなと思えた。
「思ったよりあっさり終わりましたね。もう少し長引くかと思ってたんですが」
「配信でも言ったけど、明日のこともあるしね。そもそもお披露目ったってナナ自身は前から配信やってるんだから、今更っちゃ今更だし。ちょっと気になるくらいで終わらせるのがちょうどいいわ」
「なるほど。まぁ、ナナ姉様のプロデュースはリン姉様のお仕事ですから、私も口を挟む気はありませんけど」
早々に配信を止めたことが意外そうではあったものの、トーカちゃんはリンちゃんの方針に素直に従うようだった。
スーちゃんの方は私がどう配信をするのかに関してはまるで興味がなさそうだけど、私に向けてくる視線はキラキラと輝いていた。
「ナナ、ナナ、後でちょっと遊びましょう」
「ゼロウォで?」
「ですです。チーム練習とは別に、ナナと試したいことがいっぱいあるんです」
「ふふふ、いいよ。でも、明日に響かない程度にね?」
「はいっ! さっきまで寝てたので大丈夫です!」
「それはどうなんだろ……。てか寝てたんだね」
「実は寝てました」
なんでさっきは起きてた風の嘘をついたのかな……?
それはさておき、たっぷり寝たおかげか元気そうなスーちゃんだけど、人はどんなに沢山寝ても寝溜めができるわけじゃない。
下手をすれば夜寝られなくて明日のコンディションに響くんじゃ……と思ったけど、スーちゃんレベルのプレイヤーがそんなしょうもないミスはしないかと思い直した。
ホントに明日に響くようなら、リンちゃんがなんとかするだろうしね。
トーカちゃんの作ってくれた夜ご飯を食べた後、4人でミーティング用の部屋にやってきた。
「さて、そろそろ明日の話をするわよ」
リンちゃんがそう言うと、部屋の電気が消えて壁に映像が映し出される。よく見ると天井からプロジェクターがせり出していて、マンションの改造に余念が無いなぁなんて思ってしまった。
「明日は本戦よ。今日の予選はあくまでもお祭りレベルだったけど、明日は違うわ。それなりに強いのが出てくる。すうぱあ、このリストに貴女から見て厄介そうなのはいる?」
手元のタブレット端末の映像を壁に映しているようで、映し出された画面には本戦に出場するチームの名前とメンバーがズラッと並んでいた。
話を振られたスーちゃんはしばらく眺めてから、何人かの名前を挙げ始めた。
「うーん……この中だと、フォトン、クレバス、軽業ゆーた。この3人は文句無しに強いです。特にフォトンは別格ですね。国内だとボクの次の次の次の次くらいには強いです」
「『冬秋夏春』のフォトンね。有望株の『おにぎりーズ』は?」
「4人とも下位のランカーとして実力は安定してます。ランクに見合う強さはありますけど、個々人に特別に警戒する要素はないです。チーム戦で強いのかは知りません」
「すうぱあ基準だと私たちに当てはめられないところもあるから、警戒対象にはしておくわね」
リンちゃんとスーちゃんの間で、あっという間に話が纏まっていく。ゼロウォーズVRについて話す時のスーちゃんは、いつだって真剣だ。
それにしても意外だったのは、スーちゃんが参加プレイヤーの名前や実力をかなり正確に把握していそうなことだった。
リンちゃんが有名プレイヤーをマークしてるのは当然として、問われたプレイヤーの得意や苦手、強みや弱みまでスーちゃんは把握しているようだった。
「なんにもわからないね」
「ですねぇ」
「あっはっは」
「うふふふ」
リンちゃんがスーちゃんにひたすら聞き取りをしている横でトーカちゃんとのほほんとしていると、リンちゃんはため息をついていた。
「あのねぇ……ナナは覚えても覚えなくても変わらないからいいけど、燈火はちゃんと覚えておきなさいよ」
「大丈夫ですよ。ちゃんと覚えてますから」
「わかってて言ってるのよ。燈火は優秀だもんね」
「えへへ」
明らかに含みのある会話。不穏な空気とかは全くないけど、昔のふたりを知っている私からすると、違和感のようなものはある。
リンちゃんとはたまに会ってたけど、トーカちゃんとは6年も疎遠だったからなぁ。
二人の関係以前にトーカちゃんに関して、私は自分が思っている以上に知らないことが多いのかもしれない。
そんなことを考えつつトーカちゃんと雑談していると、スーちゃんからの聞き取りを終えたリンちゃんが映像を止めて部屋の電気を点けた。
「ま、だいたいこんなもんでしょ。ありがとね、すうぱあ」
「役に立ちそうですか?」
「そうねぇ……燈火、どう?」
投げ渡されたタブレット端末を危なげなく受け取った燈火ちゃんは、すごい速さで内容を精査していく。
「……うん、かなり役に立つと思います。というかこれ、私以外が読むことは想定してないですよね?」
「当たり前じゃない。ナナは作戦遂行能力はあるけど、直接話したことのない相手をいちいち覚えたりしないもの」
「へへへ、それほどでも……うん? これ褒められてる?」
「諦観ってやつですね」
スーちゃんからの鋭い一言にグサッと刺されつつ、確かに会ったことない人の名前は滅多に覚えないなぁと思った。
それこそ、強い印象とか興味を持たない限りは、なかなか人の名前なんて覚えられない。
今でいうと……そう、スーちゃんよりだいぶ劣るけど強い「フォトン」って人の名前は覚えた。
あとは特殊なケースだけど、鬼人族専用掲示板を通じて会話したプレイヤーの名前に関しては、何人か覚えてたりもする。
「ま、興味無いことへのナナの記憶力がポンコツなのはいいとして。ゼロウォーズのチーム戦は装備にプレイヤーの個性が無いから、個々のプレイヤーを特別に覚える必要はあまり無いのよ。ひとり一種類しか武器を持てないゲームだと、各プレイヤーの得意武器はかなり重要になるんだけどね」
「あー、なるほど」
スナイパーだから距離を詰めれば狙撃はできない! 無力化成功! なんてことはなくて。
スナイパーが当然のように短射程高威力のショットガンのような武器をサブウェポンに持っているのが、ゼロウォーズのようなバトロワ系シューティングゲームだ。
オールラウンダーであることは絶対条件。その下地があって初めて、得意な武器や戦法が活きてくる。
特に装備はフィールドを移動する時に拾えたものを使うしかないから、とにかく運が絡む。
だから、着けている装備から相手を特定するなんてことはまずできないのだ。
「そもそもチームVSチームの対抗戦じゃなくて、複数チームのサバイバルだからね。キャラクターの数も限られてるから、パッと見の編成でどこのチームかわかる訳でもないし。試合中に個人の特定なんてできやしないわ」
リンちゃんのセリフに、スーちゃんもトーカちゃんも当然のように頷いている。
私も、似たようなキャラ・武器構成の4人組の動きを見ただけで中の人を見抜くなんてことは、とてもじゃないけどできないと思う。トッププレイヤーともなれば、得意キャラも何人もいるものだ。
現にスーちゃんは得意キャラとしてゴリ押しが得意な「リトゥ」を使っているけど、本人曰く全キャラを同じレベルで使えるらしい。
WLOくらいのクオリティやプレイヤーごとの多様性があれば、今の私なら足音とか衣擦れ音で特定できるんだけどね。
良くも悪くも画一的なキャラクター性がウリのシューティングゲームでは似たような音ばかりになってしまって、どうしても特定は難しい。
「とはいえ、一応ナナも目は通しておきなさい。名前を覚える必要はないけど、いくつか作戦も練っておいたから」
「おっけー」
「読み終わったらチーム練習するわよ。私もそろそろカンを取り戻さなきゃね」
胸を張ってふんすっと気合を入れるリンちゃん。
珍しくやる気満々な姿に、私はなんだか嬉しくてクスリと笑みを零した。
スーちゃんもだいぶ馴染んできました。
なんだかんだでお姉さん方に囲まれて緊張してたんです。14歳ですからね。
あと20話くらいで5章が終わりそうなので引き続き楽しんで貰えるよう頑張ります。