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ナナの配信 #質問への回答中なう

ホントにお待たせしました。

配信回後編です。

「反省した?」


「たぶん〜」


「多分ってなによ」


「はっはっは」


『絶対反省してねぇw』

『さすがに草』

『OPのアホ面に戻ってますよ』

『ファニーフェイス:▹』


「はぁ……リスナーに見せつけるにはちょうどいいデモンストレーションだったけどねぇ……」


「でしょ?」


「ドヤ顔しないの。あんな風に壊して、マッスルコーポレーションにネガキャンだって言われても文句言えないんだからね」


 ため息をつきながら苦言を呈するリンネだが、事実あれは少し問題のある行為だった。

 あんな風に簡単そうに破壊してしまえば、真っ先に疑われるのはシャフトの強度に決まっているのだから。

 ましてこんなに注目されている配信でそんなことをしてしまえば、リスナーへのネガティブキャンペーンと取られてしまってもおかしくはないのだ。


「でも頑丈だったよ?」


「私たちの目には柔く見えたのよねぇ」


『チューチューアイスが真ん中で折れなかった時みたいだったわ』

『スッスッスッて感じだった』

『柔らかい棒だとしてもあの速度で折りたたむのは無理やねんな』

『パワーに関してはもう十分わかったので……(震え声)』


「まあいいわ。どうあれナナのパワーを見せつけるにはぴったりなのだけは確かだし。とりあえずそれ片付けて次の質問にいきましょ」


「ほーい」


 ナナは軽く返事をして、既に真っ二つのシャフトをジムの壁に立てかけた。



「えーと、次の質問は……デデン! これです!」



【スポーツは得意?】



「おぉ〜?」


「さっきのとあんま変わんないわね」


「でもリンちゃん。私、スポーツでは結構負けたことあるよ」


 超人的な身体能力を見せつけた直後に来た同種の質問に少しつまらなそうなリンネだが、ナナはそうでもないようだった。

 事実として、ナナはスポーツにおいて何度も負けたことがある。それこそパッと回数を思い出せない程度には、敗北の経験があった。

 とはいえナナが浮かべているのが悔しそうな表情ではなく少しいたずらっぽい笑顔である時点で、大方の理由は想像できてしまうのだが。


『相手を殺っちゃったのか……』

『反則負けか……』

『仕方ないよな……』

『わかるよ……』

『↑お前らなぁ……』


「いや、それは私が勝っちゃダメって言ったからでしょ。勝っていいって言った試合で負けたことないじゃない」


「まぁね!」


『はい』

『はいじゃないが』

『さすナナ』

『ほらね』

『やっぱりな』

『ナナはそういうところある(確かな事実)』

『煽り散らかしてて草』

『負けたことある(わざと)』

『舐めプの極み』

『つまり勝ちたいと思えば絶対勝てるんですよね??』

『極悪で草』

『スポーツ漫画のラスボスチームを後日談でボコボコにする海外チームみたいな悪役感』

『手のひらくるっくるで草』


「ナナの場合はパワーだけじゃないからねぇ。テクもスピードも桁外れなのよ。ほらナナ、中学の頃の100メートル走の記録を言ってやりなさい」


「んぇ? 4秒くらいじゃなかったっけ」


「こういうことよ」


『ひぇ』

『爆速ぅ!』

『世界記録の半分以下はヤバいですよ!』

『時速何キロやねん』

『↑だいたい90キロです』

『車より速いってマ?』

『ゼロスタートで4秒? 妙だな……』

『最高速じゃなく平均速度で90キロってのがあたおか過ぎる』

『高速道路走ってどうぞ』

『中学の時ってそれつまり今はもっと……うっ頭が』

『わたしのかんがえたさいきょうのしんゆう』

『フィジカルモンスターすぎる』


「このスペックだからね。世界レベル程度じゃ遊びでも勝負にならないわ」


「嫌味っぽくなるけど……勝って楽しい訳でもないし、わざと負けるのは退屈だし。単純に狡いだけになるからね〜。進んでやりたくはないかな〜」


『(嫌味じゃ)ないです』

『しゃーない』

『競技として成立しないんだね』

『そもそも道具が先に壊れそうだもんなぁ』

『その身体能力を活かしてNINJAとか出てみない?』

『↑確かにアスレチック系とか挑戦系は向いてそうだな』


 単純に運動するのは好きだし、戦うのも好き。

 思うまま体を動かすということ自体が、ナナにとっては一種の娯楽だ。

 けれど、ナナは基本的に「自分より弱い相手」との勝負を好まない。レベリングのような作業で雑魚狩りをするならともかく、本気で戦うなら、心が熱くなるくらい強い相手がいい。

 そしてソレは、どう足掻いても現実世界では得られないものだ。


 スポーツは才能だけで全てが決まるものでは無いが、そうは言っても限度がある。赤ん坊が大人に勝てないように、常人ではナナには勝てないのだ。

 何せナナにはただでさえ高い身体能力以外にも、極限まで研ぎ澄まされた五感がある。

 最低限、ナナより高い身体能力ステータスがなければそもそも闘いが成立しない。

 勝とうと思えば絶対に勝ててしまう。これは傲慢ではなく、どうしようもない事実だった。


「VRゲームをやってる最大の理由がそこなのよ。同じステータスなら同じ身体能力になるって仮想空間の原則のおかげで、ナナはようやく同じ土俵に立てるわけ」


「死ぬほど動きづらいけどね……でも、手抜きせずに使える力を全部使っていいのは、本当に楽しいんだ〜」


『などと供述しており……』

『なるほど』

『確かにVRはナナが遊ぶのに向いてるのかな?』

『普通の人はゲーム内アバターを「すごい身体能力」って思うのにナナは「動きにくい」って思うんだな』

『トップアスリートも慣れるまでは大抵そうだとは聞くしそんなもんなのかも』

『パワーもスピードも器用さもってそんなのずるじゃん!』

『弱点はないんですか;;』


「そんなのないわよ」


『神は死んだ』

『もうダメだぁ……』

『むしろナナが神の遣いかなにかだろもう』

『ナナ、神の子説』

『某宗教に消されそうだからやめとけ』

『完全無敵の超人やな』

『二代目霊長類最強の称号を襲名するしかない』

『↑ネタじゃないのがまた怖いところ』



「さてさて……次の質問はこれ!」



【好きな食べ物、嫌いな食べ物を教えてくだせぇ】



「おー、定番の質問だ〜」


「やっとマトモなのがきたわね」


『助かる』

『くだせぇってなんだ』

『俺らの需要的にはいい流れだったんじゃないか』

『超人系の需要とかいう新しい方向性』


 やっと来た普通の質問に喜ぶナナ。

 リンネもほっとしたように息を吐いた。

 とはいえリスナーの大半はナナの規格外なスペックを見るために来ていた訳で、これまでの流れ自体は掴みとしてはむしろ良好な部類だった。

 実際、リスナーの数は最初の段階から全く減っておらず、なんなら増えているくらいなのだから。


「ナナは何でも食べるけど、基本的にカロリー重視よね」


「カロリーの多い洋食とか、カロリーの多い中華とか、カロリーの多いお菓子とか好きだよ。ゼロカロリーの食べ物はあんま好きじゃないね。食べる意味がないからな〜」


『うーん?』

『カ ロ リ ー』

『なんやこのカロリー至上主義ガール』

『食べる意味とは』

『全世界の女性に喧嘩を売るスタイル好きだよ』

『さすがに毎朝菓子パン7つ食べるだけのことはある』

『ゼロカロリー食品に謝って』

『↑こんにゃくとかは食べる意味あるもんな』

『なんで太ってないの……?』


「ナナは基礎代謝が高いのよ。生きてるだけでも普通の男性の3倍くらいかしらね」


「へぇ〜」


「なんでナナが感心してるのよ」


「あんま意識したことなかったからな〜」


 両頬をもにもにと弄りながら、ぼけっとした表情でナナはそう言った。

 リンネの言う通り、ナナはシンプルに基礎代謝が高い。身体能力を維持するために必要なエネルギーは、ただ生きているだけでも成人男性の数倍である。

 一見すると燃費が悪いようだが、能力を考えればそれでも省エネな方だ。常人を遥かに超えるスペックを、たったそれだけのコストで賄えるのだから。


 とはいえ、だからカロリーの多いものが好きなのかと言われると、それだけが理由というわけではない。

 沢山食べさせないとすぐに動けなくなる幼少期のナナに、周りの大人がそういう食べ物を沢山食べさせていたのも理由のひとつだ。

 結局のところナナが高カロリーな食べ物を好むのは、「食べ慣れた物が好き」というありきたりな理由が半分くらいを占めているのだった。


「あ、でもアイスは好きだよ。特にソフトクリームは好き。これは前になにかの配信で言った気がするなぁ」


『人間の心もあったか』

『よかった』

『安心した』

『アイスは飲み物だからノーカロリーだよね』

『↑カレーは飲み物理論やめろ』

『具体的な食べ物の名前が出るだけで安心するわ』


「ナナはゲテモノも食べられるのよね」


「食べ物は食べ物だからね〜。私は毒も効かないし〜」


『悪いが虫料理はNG』

『ハチノコ美味しいよ』

『ちょっと待って待って』

『なんて?』

『ゲテモノでスルーしかけたけどおかしなこと言ったね?』

『毒が効かないは草』

『ほんとに人間か?』

『ナナアンドロイド説来たな』


 日常会話くらいのユルっとした雰囲気で交わされた会話だったが、一部のリスナーはナナの爆弾発言を決して聞き逃さなかった。

 リンネもナナの発言を聞いて、今思い出したと言わんばかりにポンと手を叩いた。


「ああそうそう、ナナは毒が効かないのよね。確かフグの丸呑みくらいはいけるはずよ」


「そのくらいなら大丈夫だね。一応言っとくけど、みんなは真似しちゃダメだよ?」


『どんな体質なんだ』

『嘘乙って言いたいだけの人生だった』

『人を10人ヤれる毒だぞ』

『ウソとホントの区別がつかなすぎる』

『真似せんわい』

『ちっちゃい子が真似しちゃうかもだから』

『フグの丸呑みは物理的に無理だろw』


 普通の人が言えば「嘘でしょw」と笑い飛ばせるセリフも、ナナが言うと本当に聞こえてしまう。

 リンネが大真面目な顔で肯定するのも、いやに信憑性を高くしていた。リンネは割と冗談を言うタイプだが、イタズラやからかい半分で言うのがほとんどで、真面目な顔で冗談を言うシーンなど滅多にないからだ。


「ふふふ、今度見せてあげるからね〜」


「いや、コンプラ的に無理。ナナは死なないってわかってるけど、普通の人なら死ぬようなことは流石にできないわ」


「あ、そっかぁ……」


『残念そうで草』

『逆になんで死なないってわかるんですか(純粋な疑問)』

『試したんやろなぁ……』

『人体実けうわ何するやめくぁwせdrftgyふじこlp』

『ふじこネタ懐かしいな』

『鷹匠の闇に触れるな』

『消されたか……』


「ついつい話が脱線しちゃうわね」


「淡々と答えるだけなら動画で撮ればいいんだし、これはこれでいいんじゃないかな」


「それもそうね。とはいえあんまり長引かないようにはしましょう」


 リスナーからすれば爆弾発言だが、当の二人からすればそれほど重要な話題ではなかったのか、あっさりと話は流される。

 結局毒が効かない発言の真偽は明かされないまま、次の質問に移ることになるのだった。



【リンネと知り合った経緯とか、どんな関係なのか知りたいです】



「これ、何回か話してないっけ?」


「全員が知ってるわけじゃないんだから、何回でも教えてあげればいいでしょ」


「それもそっか〜」


 過去の配信で触れた話題に首を傾げるナナだったが、リンネの言葉で納得する。


「えーと、知り合った経緯はお母さん経由だね。リンちゃんのお母さんと私のお母さんがすっごい仲が良かったんだよ。三歳の頃に初めて会ったんだ〜」


「正確にはお父さん同士も……というか夫婦揃って仲良しだったみたいね」


 ナナは深くは知らないが、リンネの両親とナナの両親は父親同士、母親同士、それぞれが幼馴染の関係だった。

 リンネの母、怜がリンネの父である鷹匠光輝に惹かれ、二人の恋を応援している内にナナの両親もくっついた。

 そんな関係だったからこそ、リンネとナナは巡り会ったのだ。


「あの頃のナナはお人形さんみたいだったわよね。ぜんぜん喋らないし、動かないの」


「あの頃はしょうがないって。逆にリンちゃんは天真爛漫だったね」


『ほほぅ』

『リンネの子供時代の話って貴重だよな』

『お人形さんて』

『ナナは昔陰キャだったのか』

『↑小さい子なら引っ込み思案って言うべきだろ』

『天真爛漫っていうか傍若無人だった説』

『ナナを振り回す姿が容易に想像できる』

『リンネはガキ大将とかやっててもおかしくない』

『リンネが大人しい方が違和感ある』

『しょうがないとは?』

『人形みたいなナナってのは想像しにくいな』


「あー……ナナ、昔のことって話しちゃっても大丈夫?」


 リスナーの反応を見て、リンネがナナに問いかける。

 これに関しては、ナナの持つ過去の中でも最もデリケートな話題だとわかっているからだ。

 しかしナナはカラッとした表情で頷いた。


「うん。隠すようなことでもないし、もう乗り越えたから」


 ナナはもう、両親の死と共に思い出した過去の全てを受け入れ、そして乗り越えた。

 ソレに惑わされるようなことはもうないのだ。大切なものは今この場所にあるのだから。

 ナナの目を見て全てを理解したのか、リンネは頷いて話し始めた。


「オッケー。……ナナはね、昔から化け物じみたパワーの持ち主でね。二歳の頃にお母さんの手を握りつぶしちゃったことがあるのよ。手を繋ごうとして、嬉しくて力が入っちゃったのね」


「それがもの凄くショックでね〜。そのことが酷いトラウマになって、何かに触るってことが怖くて怖くて仕方なかった時期があったんだよ〜」


『うわぁ……』

『お母さんもホント大変だったんだな』

『ほんとに生まれつきだったんだ』

『人体を握りつぶすってマ?』

『そんな軽く話すことじゃないよ……』

『二歳の頃には既に超怪力だったんか』

『桁違いってレベルじゃねぇぞ』

『草生やせない……』


 ケロッとした様子のナナに比べて、リスナー達は思ったより重たい過去にテンションを下げていく。

 ナナの過去については、リンネですら容易には口にしない程度には苦難に満ちている。規格外すぎて逆に生きるのに苦労するなんて笑えない話をずっと傍で見てきたからこそ、リンネはそれを茶化せなかった。


「なんにも触れない、触りたくないってドンドン自分の殻に閉じこもっちゃって、私が会った時にはもうホントにただの人形だったわ。感情のかけらもない感じで、つまんない子だなって思ったもんよ」


「こんなこと言ってるけど、リンちゃん初対面でいきなりギューって抱き締めてきたんだからね。私すっごいびっくりしたんだよ」


「な、なんにも反応しないナナが悪いのよ」


「そうかな?」


「そうよ」


『草』

『さすリンネ』

『初手を全力のハグで行くのは強すぎる』

『そりゃびっくりするわ』

『小さい女の子同士なら許されるからセーフ』

『ほのぼのして見えるけどナナを知ってると親は気が気じゃないよな』

『一歩間違えたらリンネ大怪我待ったなしだもんなぁ』

『リンネのつよつよムーヴすき』

『パーフェクトコミュニケーション来たな』


「あれは嬉しかったなぁ」


「もう……そんなことばっかり覚えてるんだから」


「大事な思い出だもん」


 少し恥ずかしそうに口を尖らせるリンネとは対象的に、ナナはとても嬉しそうにそう言った。


 初めてリンネに会った時、ナナは「なんて脆そうな生き物だろう」と思った。ずっと両親の目が届くところでだけ育てられていたナナは、自分以外の子供に出会ったのはそれが初めての経験だったからだ。

 それが突然自分を抱き締めてくるものだから、驚いて固まることしかできなくて。

 抵抗したら傷つけてしまうから、されるがままになるしかなくて。

 混乱して強ばった身体が弛緩するまでずーっと、リンネはナナを抱き締めてくれていた。

 思えばあの時点で、ナナはリンネに絆されていたのだ。心の底で望んでいた人肌の温度を、再び与えてくれたのだから。


『てぇてぇ空間だ』

『ナナはこういうとこあるよ』

『リンナナしか勝たん……』

『リンネがタジタジになるのレアすぎんか』

『ただの幼なじみではないんだ』

『目が優しい』

『もう夫婦やん』


「まぁ、出会いはそんな感じ。あとは普通にずっと一緒に育ってきた感じだよね」


「夜以外はずーっとウチにいたもんね。敷地内はフリーパスだったし、週の半分くらいはお泊まりしてたし、ほとんどウチの子みたいなモンだったのよ」


『いいなぁ』

『小さい頃だと都内の別邸じゃなくて長野の豪邸の方かな』

『どっちにせよ羨ましす』

『家が隣とかそんなレベルじゃねぇな』

『鷹匠邸のフリーパス持ってるってマジ?』

『難攻不落の鷹匠邸で有名だからな』

『ワイも豪邸で幼少期を送りたかった』


「リンちゃんとの関係はそんな感じかな。ホントにただずーっと一緒にいたとしか言えないよね」


「思い出を語るのは簡単だけど……関係って言うと、まあそうなるわよね」


「というわけで、この質問の答えはこんなものかな。世界で一番大切な人だよ」


「ん゛っ゛」


『不意打ち食らってて草』

『とんでもねぇ声出してて笑う』

『リンネをここまで翻弄できるのがすげぇよ』

『お前がナンバーワンだ』

『ふとした拍子にてぇてぇをぶち込んでくる』

『リンネは愛されてんなぁ……』

『俺らの知らないリンネでぶん殴られるのヤババババ』

『リンネがナナのいない時期に荒れてた理由がよくわかった気がした』

『ナナが居れば凶獣なんて生まれなかったんだ……』


 察してあげないとわからなかった昔と違い、今のナナはリンネへの想いを素直に口に出すようになった。

 純度100%の親愛を不意打ち気味に食らって思わずむせたリンネに、リスナーはしみじみとコメントを残した。

 ナナは昔からちょくちょく見ていたからか気にしないが、リンネが予想外の事態に動揺する姿というのは、それほどまでに貴重なものなのだった。


「さ、さてと。早いけどそろそろ最後の質問にするわね。本当はもっとしっかり時間を取りたかったんだけど……明日はバトラーの本戦だし、チームの練習もしなきゃいけないのよ」


「そうだね。じゃあ最後の質問にしよっか〜」


 すぐに気を取り直して、リンネは配信を締めに向かわせる。配信時間自体は30分と経っていないが、明日も大会は控えているのだ。

 お披露目という形で急遽枠を取ったが、使える時間はできるだけ大会の練習に充てたいのも本音だった。



【今後の活動方針について教えて!】



「ふむふむ……やっぱりゲームの配信がメインになる気がするな〜」


「今のところは配信メインでやっていくことになるでしょうね」


「基本的にはWLOかな〜。色んなゲームに手を出してもいいんだけど、今はWLOが一番楽しいんだ。ただ、明日のバトラーみたいにゲームの大会に助っ人的に出ることはあると思うから、そのへんも見てもらえればなぁって」


 最後の質問に関しては、ナナは予めリンネと打ち合わせをした通りに答えた。

 とはいえ、これまでの配信と大きく内容が変わる訳では無いため、打ち合わせをした意味は薄い。あくまでも配信の締めをスムーズにするためのものだ。


「配信の時間も少し夜に寄せるようにさせるわ。これまでちょっと無頓着すぎたものね」


『マジで助かる』

『社会人の仕事時間みたいな配信時間してたもんな』

『朝から夕方までじゃさすがに見れないっすわ』

『これは嬉しい情報だな』

『もうちょっと動画投稿もして欲しい』

『動画といえば薪を数時間延々と割り続けるだけの耐久動画が地味に40万再生されてるの好き』

『赤い狼、レイドバトル、黄金の騎士、月の狼、薪割りのチャンネル五大コンテンツだぞ』

『薪割れる』

『WLOのアニメみたいなオートカメラワーク好きだからもっと色々やって欲しいな』

『アクションといえばVRエベレスト登頂とかどうすか』

『↑キチクソゲーやめろ』

『↑高山病と臨死体験ができるとかいうとんでもない売り文句』

『↑絶版してる定期』


 いつも朝から晩まで配信する割に夜はなかなか配信しないナナの配信スタイル変更は、リスナーからすれば素直に嬉しい報告だった。

 そして地味に再生数を稼ぎ、ボチボチの収入を生み始めている配信の切り抜き動画たち。

 意外と人気があるこれらに関しても、今後はちょっと気を掛けようとリンネは思い直す。

 人気商売をする以上、引き出しを多く用意しておくに越したことはないのだから。


「ちょっと短いけどそろそろ終わりかな?」


「ええ。いつもの配信が長すぎるだけでもあるけどね」


「否定はできないな〜」


 リンネの苦言を、ナナは苦笑しながら受け入れる。

 我慢しようと思えばいくらでも我慢できるという理由で、ナナの配信には食事休憩もおトイレ休憩も基本的には無い。あるとしたら、リンネと時間を合わせてご飯を食べる時くらいだからだ。


「じゃあ、明日の大会も頑張るから。応援に来てくれたら嬉しいな〜」


「明日は私も割とガチ目にやるから、暇を作って見に来なさい」


「暇ならじゃなくて暇を作ってなんだね……」


「当然でしょ」


『ほんとリンネらしいわ』

『リンネがガチるなら見る価値はあるなぁ』

『ガチのリンネとかそれこそWGCS以来だろ』

『VRのリンネはポンコツやぞ』

『世界獲ってからは落ち着いたからな』

『楽しみ』

『バトラーは国外からも見られるから楽しみだよ』

『ナナが暴れるの期待してる』


「それじゃあまた、よかったらチャンネル登録よろしくね〜」


「ナナがそれ言うの初めてじゃない?」


「配信者っぽいでしょ?」


「どちらかというと動画投稿者かしら」


「なんと」


 程よく締まらない掛け合いを最後に、配信画面が切り替わる。

 1時間どころか30分程度の短い配信。そのアーカイブは即日100万再生を超え、その内容の希少さから『リンネファンの聖地』と呼ばれるようになるのだが……それはまた別の話である。

ナナ、初めてのチャンネル登録喚起(実績解除)

ナナとリンネの出会いは書籍版の限定特典で書いてたり。パーフェクトコミュニケーションでナナは即堕ちしました。やったぜ。

ちなみに中学の頃のナナと今のナナではスペックが2桁くらい違います。ナナはただ生きてるだけで際限なく強くなっていくぞ!

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― 新着の感想 ―
「ナナは基礎代謝が高いのよ。生きてるだけでも普通の男性の3倍くらい」あ、愛気?
[一言] 正直早くMMORPGの方に戻って欲しい
[良い点] リンナナのやり取りが好きです [一言] 少し前に3巻読んで続きが気になったので4章から一気に読みました。 ナナや周囲のキャラの人外ムーブが面白いです。
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