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思いがけない来客

「ふぁぁ……」


 起きた時、既にリンちゃんはベッドから抜け出していて、布団の中にいたのは私1人だけだった。

 欠伸をしながら居間に向かうと、ご飯の匂いだけでなく話し声が聞こえてきた。

 電話かと思ったけど、リンちゃん以外の人の気配もする。来客かなと思いつつ、私は居間のドアを開けた。


「おはよー。誰か来てるの?」


「おはよう。貴方も知ってる子よ」


 どうやらリンちゃんと来客者はテーブルについて会話をしていたようで、ぱっと目に入る位置にいた。


 金髪、碧眼。西欧系の顔立ちが印象的な、とても綺麗な少女。

 身長とか細かな部分に差異はあるけど、見覚えのある顔なのは間違いない。

 リンちゃん曰く彼女は私の知ってる子らしいし、多分間違いないだろう。


「もしかしてトーカちゃん?」


「はい! お久しぶりです、ナナ姉様」


 少女――トーカちゃんは、花のような笑顔でそう言った。





 彼女の名前は鷹匠燈火(たかじょうとうか)。名前で分かる通りリンちゃんの親族で、従妹にあたる人物である。

 リンちゃんの叔父さんの娘で、お母さんがイギリス人。

 容姿はお母さんのものを強く遺伝した影響で日本人離れしているけど、生まれも育ちも日本のはずだ。


 小さい頃からよく一緒に遊んでて、とりわけリンちゃんがよく可愛がっていたから、私も自然と仲良くなって。

 中学の半ばくらいまではよく遊んでいた仲なのだ。


「うわー、大きくなったね。前に会った時は私より小さかったのに」


「身長ばかり伸びてしまいまして……お恥ずかしいです」


「そんなことないよー、かっこいいって」


 座った状態でも大きく感じたけど、立った姿はもっと凄い。多分、180を優に超える身長だろう。

 手足も長くて、身長も高い。慎ましやかな所もまた、逆に彼女の美しさを際立たせている。

 頭ひとつ分以上身長が違うから、ほとんど見上げるような感じだ。


「ナナ姉様はお変わりありませんね」


「ナナはここ10年くらいずっとそんな感じよね。時間が止まってるみたいに変わらないの」


「2人が育ちすぎなんじゃないかな……」


 他愛のない話で盛り上がる。久しぶりの再会で、見た目も大分変わってしまったけど、トーカちゃんは私の知るトーカちゃんのままだった。



「で、なんでこんな朝早くから?」


「ナナ姉様に会いに。こちらにいらっしゃると、リン姉様から連絡を頂きましたので」


「私に? 嬉しいけど、どうして?」


「え……?」


 リンちゃんに用事があったならともかく、トーカちゃんが私に会いたい理由は特に思いつかない。

 そう思っての発言だったのだけど、トーカちゃんは私の言葉を聞いて石のようにピシリと固まってしまった。

 目の前で手を振っても反応しない。いきなりどうしたんだろう。


「り、リンねぇ……ナナねぇが……」


「はいはい、ショックなのはわかったから泣かないの。忘れられてなかっただけマシよ」


 硬直から抜け出したものの目尻に涙を溜めるトーカちゃんをポンポンと慰めると、リンちゃんはため息をついて言った。


「ナナ……貴方、燈火と会うのはいつぶり?」


「中学の頃からだから……6、7年くらい?」


 言われて思い返したのは、両親が事故死してから色々あって誰かと遊ぶ余裕さえなかった頃。

 それこそリンちゃんの言葉さえ耳に入らないほどに憔悴していたあの時の事だった。

 リンちゃんとさえまともに一緒に居られなかったのだから、当然トーカちゃんとの付き合いもなくなっていったのだと思う。


「知らなかったと思うけど、貴方地元では失踪したって噂されてたのよ? 貴方が叔母さんのところに引っ越して行った後、燈火なんて『ナナねぇが死んじゃった』なんて大泣きして大変だったんだから」


「ちょっ、リンねぇ待って言わないで!」


「えっ、嘘でしょ」


 恥ずかしそうにリンちゃんに縋り付くトーカちゃんは、外向けの敬語をすっかり忘れてあたふたしていた。

 この、ちょっとカッコつけてすぐに化けの皮が剥がれるのを見る感覚は久々だ。

 元々私たちの前では敬語を使わない子だったのだ。

 逆にそれ以外では常に敬語で喋る子だったけどね。


 それにしても、失踪か。思えば私、リンちゃんとその両親以外には何一つ言わずにいなくなっちゃったかも。

 卒業式は出たけど……一応持たされている携帯端末にも、リンちゃんと元職場と派遣会社の電話番号しか連絡先は入ってない。

 だから、私が失踪した説そのものは発生する可能性自体はある、けども。


「リンちゃん、何も教えなかったの?」


「ええ。面白かったから」


「いや、うん。私の非もあるから責めようとかは思わないけど……そっか。ごめんねトーカちゃん。生存確認に来てくれたんだね」


 こともなげに言ってのけるリンちゃんを責める権利は私にはなく、私はトーカちゃんに謝った。

 彼女はそれを聞いて一瞬顔を曇らせたものの、すぐさま嬉しそうな顔に戻っていた。


「そういう訳じゃ……んんっ、そういうことです。今後はこういうことがないように、連絡先を交換しておきませんか?」


「うん、いいよ」


 アルバイト先の人達は他人だから登録しなかったけど、トーカちゃんは家族みたいなものだ。

 こうして改めて出会えたのだから、連絡先くらいは登録しておくべきだろう。


 そう考えて、部屋の片隅に置いてある数世代型落ちした携帯端末をトーカちゃんに預けた。

 何せもう8年は変えてないから、進化し続ける携帯から見れば随分レアなシロモノである。

 慣れているのだろう。手際よく連絡先を交換したトーカちゃんは、10数秒で端末を返してくれた。


「うへへ、ナナねぇの連絡先……」


「燈火、よだれ垂れてる」


「嘘っ……垂れてないじゃないですか!?」


「垂らす前に教えてあげたの。舞い上がる気持ちは分かるけど、もう少しピシッとしなさい」


「うぅ、はい」


 理由はよくわからないけど、トーカちゃんがリンちゃんに小言を呈されているのを見るのも懐かしい。

 末っ子のリンちゃんがそれでもお姉さんぶれるのがトーカちゃんだったからなぁ……。

 肝心のトーカちゃんもリンちゃんに憧れていて、とっても仲のいい姉妹にしか見えなかったのを思い出した。


「さて、積もる話もあるかもしれないけど、とりあえずご飯にしましょ。今日の予定についても詰めなきゃいけないし」


「予定?」


「私がなんの理由もなく燈火を呼んだわけないでしょ」


 リンちゃんはそう言うと、呆れたような表情でため息をついた。


「ナナねぇ、WLOの話ですよ」


「あ、なるほど。……トーカちゃんもやってるの?」


「やってるも何も、燈火もストリーマーだもの。WLOは私がやらせてるわ」


「リンちゃんがやらせてるんだ」


 一緒にやっている、という表現じゃないのがポイントである。


「燈火は第1陣なんだけど私ほど時間を取れないから、確かまだ第4の街(フィーアス)辺りだったわよね」


「いえ、まだ大学が忙しくて、第3の街(トリリア)周辺の探索をしてます」


「あ、そしたら私とも近いねぇ」


 私は第2の街(デュアリス)にいるから、街1つ分駆け抜ければ追い付ける位置にトーカちゃんはいるようだ。


「燈火、ナナとコラボしたくない?」


「したいです!」


「お昼までにデュアリス。出来るわね?」


「できます! お隣借りますね!」


「いいわよ。12時になる前に一旦戻ってきなさい」


「わかりました! ナナねぇ、会って早々ですが失礼します」


 2人の間で何らかの合意があったようで、トーカちゃんは嵐のように去っていった。


「行っちゃった」


 突然の再会からの突然の別れ……というか、うん。

 残された私はあまり働いていない頭を酷使することも無く、とりあえずテーブルについてバターロールにかぶりつくのだった。

高身長ポンコツ系ハーフ美少女燈火ちゃん。

作中屈指の甘えんぼさんです。

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