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習熟度と投げ銭

「またわからないことがあったら来ますね」


「はい。またのお越しをお待ちしています」


 受付のお姉さん(ナディアさんと言うらしい)に見送られ、私は職業登録所を後にした。


 あの後、ナディアさんから説明されたのは職業の習熟度の話だった。

 レベルだったり熟練度だったり習熟度だったりとこんがらがりそうになるけど、眠くなりそうな話を頑張って聞いた。



 習熟度というのはレベル21から先、1レベルごとに1ポイント貰える数値のことだそうだ。

 もしレベル21以降も無職のまま戦っていた場合、職業を登録するまではプールされ、登録した瞬間に振り分けられる。

 レベル20の時点で登録したら習熟度0。30なら習熟度10が、一度にひとつの職業に注ぎ込まれる形だという。


 この習熟度を上げることでアーツを覚えたり、ステータス補正が上がったりするんだけど、何よりも重要なのは一定値で《上位職》が開放されるってこと。

 例えば《剣士》の習熟度を30まで上げると《剣豪》に進化する。《魔法使い》なら《魔導師》になるそうだ。

 1レベルで1ポイントの習熟度を獲得できるから、レベル50まで上げると、この2つの職業は上位職に進化するという事だ。

 

 また、一度上げて手に入れた職業由来のアーツなどは、別の職業でも普通に使えるらしい。



 例えば剣士のアーツ《シャープエッジ》。

 これは武器の切断力を上げるというシンプルな効果を持っているけど、一度習熟してしまえば魔法使いでも使えたりする。

 そうやって別々の職業を一定の習熟度まで上げると、《魔法剣士》のような上位職に派生することもあるらしい。


 《童子》に関しては現状、上位職は見たことがないとナディアさんは言っていた。

 ただし、必ず存在するはずだとも。

 曰く、「派生先が《???》となっていて、登録所としても詳細がわからない。枠はあるので派生先はあるはず」との事だった。


 私の他にも童子を職業にしているプレイヤーはいる。

 それでも現状判明していないということは、習熟度以外にも何かしら特別な条件がいるのかもしれない。

 もしかしたら、単純に魔防が低すぎてレベルが稼げずに、習熟度が必要値に達していないだけかもしれないけど。



 ざっくり纏めると。

 登録した職業はレベルアップに合わせて習熟度が上がる。

 習熟度を普通に上げれば、一定の数値に至った時に上位職に変化する。これが《剣豪》や《魔導師》のような職業に当たる。


 転職した場合は変わった職業の方に習熟度が加算されていき、場合によっては特別な上位職に派生する。

 こちらは《魔法剣士》のような職業だ。

 転職不可の私には関係ないけど、そういうのもあると覚えておいて損は無いだろう。


 現在の私は、ステータス表記を想像するに職業:《童子》習熟度1と言ったところだろうか。

 現状は物理技能、つまり筋力、頑丈、敏捷の3つから、それぞれ5%ほどのステータス上昇を見て取れる。


 でも、逆に言えばそれだけだ。そもそも《童子》っていう職業から想像しうるアーツがない。

 習熟度を上げることで得られるメリットについて、改めて調べてみる必要がありそうだった。





 時刻は6時を回り、空に星が見えるくらいの暗さになっていた。


「結構時間かかっちゃったなぁ……こういう所、配信ではどうしたらいいのかな。よければコメントください」


 今朝の赤狼との戦いの時もそうだったけど、常にリスナーを意識したプレイをするというのは不可能だ。

 長時間に及ぶボス戦闘は今後もありうるし、今回のように説明を聞いたり、単純にロールプレイを強いられるシーンもあることだろう。


 私は配信者としてはペーペーの極みだ。

 リンちゃんに聞くのもいいかもしれないけど、リンちゃんの配信スタイルもまた、積み上げてきたものの上で成り立っているはず。

 私は私なりに、せっかくなのでリスナーの意見を募ることにした。


『プレイ優先で』

『せやせや』

『もっと暴れて(はぁと)』

『ナディアさんすこだ……』

『たまにコメントに反応してくれれば(ボソッ)』

『実況は動画で見れるから配信では生の姿を見たいんじゃ』


「なるほど……じゃあやりたいようにやっていこうかな」


りたいように……?』

『ヤりたいように』

『やはり撲殺鬼娘は格が違った』

『俺はスクナたんが優しい心の持ち主って知ってるから!』


「みんなの中での私の評価とは……ぐぅ」


 おかしいなぁ。一体何故私はそんなにバイオレンスなイメージになってしまったのだろう。

 私はこんなにも心優しい女の子なのに。

 ……いや、女の子は流石に厳しいな。そこまで若々しくはなれないや。



「もう少し狩りをしようかな、と思ったんだけど……暗くなってきたし、今日はこの辺りで配信をやめます。まだ、夜間配信用のサブ機能買ってないので」


 街中はまだまだランプや街頭で明るさを保っているけど、街の外は既に宵闇に支配されている。


 実は、WLOの配信機能は課金制である。

 1日3時間限定の配信権限で月々1000円。

 私やリンちゃんのように制限なしだと月々3000円だ。

 このお金がかかるというのがミソで、誰も彼もが配信をしていない理由はここにあったりする。


 そこに諸々のオプションがあって、夜間配信時にリスナーの視界を確保するための機能もそこにある。

 これはリスナー視点だと明るく見えるというだけで、プレイヤーの視界は明るくならない。

 だから、リスナーにはモンスターの不意打ちが見えても、プレイヤーは気付かずにやられるなんてこともあったりする。

 

 ちなみにフルオプション付きの配信権限はだいたい月に1万円する。高い。

 流石にフルオプションともなれば採算の取れるゲーマーにしかできない芸当だけど、リンちゃんは1回の配信で何倍も稼ぐとか。



 ついでに、どうやって稼ぐのという話をすると。

 ストリーマーという職業が成り立ち始めた頃から、配信の視聴者数などとは別に、直に配信者を支援する機能がある。


 通称『投げ銭』である。

 

 実際には配信サイトによってその名前は異なるんだけど、どこに行っても投げ銭といえば通じてしまう。

 WLOと提携している「ライバーズ」では「ライブチケット」なんて洒落た名前が付いているんだけどね。

 たいていの場合は支援額から何割かを運営が持っていって、余りが配信者に振り込まれる。


 この支援のポイントは「ただお金を寄付する」訳ではなくて、投げ銭をした側にもメリットがあるという事だ。


 例えば、支援額に応じて配信の支援者欄に名前が載るとか。

 投げ銭をする時に一緒にコメントを残すと、流れることなく表示され続けるとか。

 何よりも大金を支援することで配信者に名前を覚えて貰えるとか。

 有名ストリーマー達はこういった方向でもお金を稼いでいるわけだ。


 リンちゃんは月に数百万以上を配信だけで稼いでて、それに加えて企業の案件とかプロとしての活動とか……とにかくいっぱい稼いでる。

 かくいう私も、この配信中にチラホラと投げ銭してもらっているみたいだ。

 前の配信でもされていたのかもしれないけど、そこまで気を配る余裕はなかった。



「明日は……流石に早朝からってことはないかな。10時くらいから始めると思う。告知出すのでよかったらチャンネル登録お願いしまーす」


『登録したで』

『忘れてた』

『早朝はきついので助かるぅ』

『仕事で見れねぇ……』

『社畜兄貴……』

『宣伝を忘れない配信者の鑑』


 何だかんだでチャンネル登録者数も順調に増えてくれそうで何よりだ。

 明日は日曜日なのに仕事……と思ったけど、私も週7で働いてたわ。

 サービス業は休日こそメインだからね。休日出勤が社畜とも限らない。


「ではでは、今日は1日ありがとうございました。おつかれさまー」


『おつー』

『乙』

『おつであります』

『つ乙』

『つ旦』

『今お茶入れたの誰だ』


 街中ならどこでもログアウトができる親切仕様に感謝しつつ、私はコメントに見送られてログアウトするのだった。


感想はありがたく読んでます。

誤字報告機能を解放したので、そちらもお願いします。

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