簒奪の力
今回は武器編です!
「そもそも私が子猫丸に協力を申し出た理由はですねぇ……スクナさんからいただいた金塊と交換であるアイテムを手に入れることに成功したからなんですぅ……」
「あるアイテム?」
「ずっと探していた属性宝珠でしてぇ……詳しいことは武器の性能を見てもらうのが一番ですかねぇ……」
属性宝珠っていうのはグラビティジュエルやクリムゾンジュエルみたいな、装備に属性を付与するアイテムの通称だ。
はるるがずっと探していた、というくらいだからそれなりに特別な代物なんだろうなというのはわかる。
「それではお披露目ですよぉ……そいやぁ……」
ものすごい緩い掛け声と共に、武器を包んでいたベールが剥がされた。
まず目に付いたのは、1本だけ明らかに違う存在感を放っている金棒だった。大きさは影縫と同じくらいで、一番スタンダードなサイズに見える。
ただ、気になるのはその見た目。まるで星空を形にしたような、深みのある紫金の色味。これは……黒曜の持っていたグラディウスと同じ素材だろうか?
オーバーヘビーメタルの純正品は漆黒に染まるから、別の素材か合金かのどちらかであるのは間違いない。
それ以外にも、覆いの下にはかなりの数の武器が隠されていた。
その全てがマットな黒地に赤のラインという統一されたデザインで、何かシリーズものの装備にも見える。
ハンマーが2本と、両手棍、バット、それからナイフやら鉄球やら箱にひとまとめにされてる投擲具たち。
先程の金棒の他に、4本の長物と投擲具が用意されていた。
「この金棒とこちらの武器群は完全に別のものですからぁ……まずは金棒の方から説明させていただきますぅ……」
よいしょぉ……と言いながら金棒以外の武器を退けて、はるるは幸せそうな表情で立て掛けた金棒に手を置いた。
「こちらの金棒の名前は《簒奪兵装・逢魔》……《簒奪》の属性を付与した物理特化兵装ですぅ……」
「ドレインの属性?」
「性能の方は実際に見てもらった方が早いかとぉ……」
はるるに促されるままに、早速武器を受け取ってステータスを確認する。
――
アイテム:《簒奪兵装・逢魔》
レア度:ハイレア・PM★
属性:簒奪(SP)
要求筋力値:721
攻撃力:+351
MP:-100
知力:-100
耐久値:361/361
分類:《打撃武器》《片手用メイス》
奪え
奪え
奪い尽くせ
終わりなき闘争の為に
――
「……なに、この性能」
「ふふふふふ……驚いてもらえましたかぁ……?」
「いや……だって……ええ……?」
予想外にぶっ飛んだ性能に言葉を失う私を見て、はるるはイタズラが成功した子供のような表情で笑っている。
どこから突っ込むべきなのか。
とりあえず、攻撃力の数値が桁外れすぎる。
+351ってどういうことだろう。巨竜と戦った時に持っていた宵闇が+130くらいで、無銘でもせいぜい+150に満たなかった。聞いた話だとネームドウェポンであるドラゴさんの大剣ですら+150くらいだったはず。
これまで持ってきた武器と比べて、攻撃力があまりにも桁違いすぎる。
あるいは、もしかするとこれが筋力値700を超えた装備の基本的な火力なのかもしれない。
どちらにせよ、物理特化兵装という言葉に恥じない化け物っぷりだ。
それに、721という要求筋力値もまた絶妙だと思う。
一応この3日間のレベリングによるステータスの上昇を加味して、かつ赤狼装束改のステータス強化を含めれば、私の筋力値は750を優に超える。
これができるのは、ファミリアスキル:《鬼哭啾啾》が基礎ステータスの数値を盛ってくれるおかげだ。
そして赤狼装束改の要求筋力値が10しかないから、合わせても余裕で装備はできる。
それにしたって、3日前の私では装備できなかったのも事実で。
更にいえば《鬼哭啾啾》の効果次第では装備はできなかった可能性だってある。
もしかしたら完全な無駄足で終わっていたかもしれない、そういう絶妙な調整をしているのだ。
できる限り筋力値を使い切ってみせるという、宵闇で起こってしまったステータス申告詐欺への恨みが感じられた。
「この★って表記はなんなの?」
「その武器は宵闇を元に作成した武器ですからぁ……普通武器を強化した際には強化回数に応じて★が付くんですぅ……『ネームド装備以外は』という注釈が付きますけどねぇ……」
初めて見た表記に関してはるるに聞いてみると、武器に関する新たな情報が出てきた。
「あー、だから赤狼装束の方にはついてなかったんだ」
「そうですねぇ……ちなみに★はレア度によって付けられる数が変わりますぅ……コモンならばひとつまで、レアなら2つまでと増えましてぇ…レジェンドなら6個まで付けられるらしいですねぇ……見たことがないのであくまでも噂程度ですがぁ……」
「レジェンドレアは流石にね。じゃあハイレアは下から4番目だから★4つまで付けられるかな?」
「そうなりますねぇ……★が全て付くと強化は打ち止めになりますがぁ……上位のレアに匹敵する性能になるらしいですよぉ……」
つまりハイレア★★★★みたいな表記になると、実質エピックレア並の性能になるってことか。
ネームド装備に★が付かないのは、そもそもレア度の括りが違うから……ということなのかもしれない。
いくつ星を付けたって、上位のレアがなければ強化の指標にはならないもんね。
「というか、ふたりとも私のMPと知力を下げすぎじゃない?」
「ハッハッハ、要らないステータスとなるとそれかなと思ってね」
「実際必要ないですよねぇ……?」
「いやいらないけどさ……ステータスにマイナスの数値があったらとんでもないことになってそうだよ」
これまでも宵闇が持っていた重力属性の発動にMPが必要だったくらいで、おそらくその機能が削除された《簒奪兵装・逢魔》ではMPの消費はなくなっている。
そして知力は物理ステータスで言う所の筋力のようなものだから、魔法の威力や魔法系装備の要求ステータスくらいしか使い道がない。
物理特化な私にとって、このふたつのステータスを捨てるのは非常に合理的なステータス配分なのは確かなのだった。
「まあいいや……それで、この簒奪っていうのが新しい属性宝珠のやつだね」
「そうですぅ……」
「りょーかい。ていっ」
はるるに言われるままに私は開きっぱなしの武器ステータスから属性の欄をタップした。
――
属性:《簒奪》
この属性が付与された武器によって与えた物理ダメージの量に比例して、HP、MP、SPのいずれか、またはいくつかを奪い取って回復することができる。簒奪の対象ステータスが少ないほど効果は上がり、多いほど効果が下がる。
――
簒奪。奪い取るという表記からして、おそらく与えたダメージに比例して回復するんじゃなくて、相手のソレを吸収して自分のものにするタイプの回復方法だろう。
HP、MP、SPの3つのステータスに有効で、このうちひとつに限定するといっぱい奪えて、3つ全部を対象にするとそれぞれ少しずつしか奪えない感じかな?
そして武器ステータスの属性欄にある(SP)の表記からして、多分この《簒奪兵装・逢魔》にはSP限定の簒奪効果があると見た。
「これはつまり、この金棒にはSP限定の簒奪効果があるってことかな?」
「その認識で結構ですぅ……ずっと、そういうのが欲しかったんじゃないですかぁ……?」
「そうだねぇ……うん、よくわかってる」
ニヤリと笑うはるるに、私は素直に頷いた。
使えるSPを2倍にする《月椿の独奏》をつけていて、鬼人族というSPの高い種族を使ってなお、これまでの戦いでSPが十分に足りるということはなかった。
攻めきれない。赤狼との戦いから先、格上の敵を相手にそう思わなかった戦いは一度だってないのだから。
「赤狼との戦いの時からずぅっと追いかけ続けてぇ……スクナさんが格上相手でも受けに回らず前に出られる装備をずっと考えていましたぁ…………子猫丸とはそこら辺で分かり合えましてねぇ……研究の末に完成したのが《赤狼装束改・鬼哭ノ奏》と《簒奪兵装・逢魔》のふたつの装備ですぅ……」
「このふたつの装備のシナジーを完璧に活かせば、かつてないほどの継戦能力が手に入るはずだ。細かなステータスの面まで全てを君専用にカスタムしてある。きっと気に入って貰えると思うよ」
満足そうな2人を見て、私はどうしてここまでお誂え向きの性能になったのかを理解した。
要するに、2人とも私の配信をずっと見ながら、私の細かなステータスやら取得スキルまできっちりと把握していたわけだ。
だから《簒奪兵装・逢魔》の要求筋力値はギリギリのところを攻めることができたし、私にMPを使うような手札がないことも承知済みだったと。
「ちなみにおいくら?」
「合わせて45Mイリスってところですねぇ……」
「45M?」
『ひぇっ』
『やばすぎぃ!』
『1M100万だから4500万だぞ』
「ひぇっ……」
聞きなれない言葉に首を傾げていると、シュバババッと書き込まれたリスナーのコメントに目が飛び出るくらいびっくりした。
武器防具含めて4500万イリス。
私の全財産に加えて、全ての金塊を売り払ってギリギリくらいの金額に震え上がる。
むしろふたりともよくそんな大金を出せたものだ。生産職ってそんなに儲かるのかな?
「お代は月狼のレア素材でひとつお願いしますねぇ……」
「そこは倒す前提なんだね」
「スクナさんの強さは信頼してますからぁ……」
嬉しいことを言ってくれる。
私が負けることなんて全く考えていない物言いに、私は思わず苦笑した。
「私は金塊を貰っていいかな? 下手に大金を貰うより使えそうだからね」
「あ、はい。今送りますね」
「ありがとう、助かるよ」
月狼の素材を強請るはるるとは対照的に、子猫丸さんは即物的な報酬を求めてきた。
それを聞いた私は、早速子猫丸さんに金塊を送る。
正直、はるると違って現実的な報酬で非常に助かった。
しかし、金塊ひとつが仮に1000万イリスで売れたとしてそれでもまだ大赤字だろうに、子猫丸さんはこれ以上はいらないと首を横に振った。
「絶対取ってきてくださいねぇ……」
「はいはい」
そんなに月狼の素材が欲しいのか、思いのほかグイグイくるはるるを手で抑えつつ、そういえばと思い立つ。
「そういえばさ、こっちのは結局なんなの?」
「ああ……これはですねぇ……オマケですぅ……」
「ほぇ?」
「簒奪の宝珠が手に入る前にいくつか試作した子達なのですがぁ……いかんせん失敗作でしてぇ…………要求筋力値と耐久度だけがなぜか異常に高いのに攻撃力が低いんですぅ……」
私が先ほど避けられた武器群について聞くと、はるるはそう言って首を傾げた。
いや、首を傾げられても……と思いつつ、メニューカードで武器のステータスを確認する。
――
アイテム:《試作48号》
レア度:レア・PM
要求筋力値:664
攻撃力:+65
耐久値:5906/5906
分類:《打撃武器》《両手棍》
鍛冶師はるるの習作。
――
「なんじゃこりゃ」
試しに見てみた両手棍のステータスは、確かにはるるの言う通り異様な偏り方をしていた。
しかも、投擲具を除いて全てが似たような耐久特化のステータス。664というとんでもない筋力値を要求する割には、筋力値200くらいで使えた影縫にも劣る攻撃性能しかない。明らかな失敗作だ。
はるるもこういう失敗はするんだな……と思いつつも、彼女がこれを私の元に持ってきた理由もなんとなく理解した。
「要するに、好きなように壊せってことね?」
私のメイン火力のひとつである、《打撃武器》スキルの最強アーツ《メテオインパクト》。
このアーツには、発動した際に武器の残耐久値が多いほど、アーツの威力が増すという性質がある。
下位アーツであるフィニッシャーも含め、これまで幾度となくはるるの武器を砕きまくってきた私だ。
ならばいっそこれも砕かせてしまえというのが、はるるの考えなんだろう。
「話が早いですぅ……思う存分ぶっ壊してくださいねぇ……」
意図が伝わって満足したのか、はるるは嬉しそうに笑いながらそう言った。