円卓との交流
《円卓の騎士》は、私がこのゲームを始めたころには既にゲーム内で有数の規模を誇っていた、かなり大規模なクランだ。
具体的にどんな活動をしているのかは私にはわからないけど、特徴的なのはクランの加入資格だろう。
トーカちゃんが言っていたところによると、剣士プレイヤーしか入れないらしい。
これは職業としての《剣士》系のプレイヤーしか入れないということだ。
そしてもうひとつ。クラン内序列上位11人に付与される称号がある。
円卓の騎士は月に1回希望者同士のPvP大会を開き、その結果の上位11人を《円卓》と呼び、いわゆる幹部メンバーのように扱うそうだ。
私と関わりのあるところだと、使徒討滅戦のときに共闘したシューヤさんは第3位だったかな。《双大剣》スキルという誰も知らないスキルを隠し持っていたりと、なかなか実力の読めない人だった。
その《円卓の騎士》でクランリーダーをやっているのが目の前の幼女、アーサー。私は彼女のことをアーちゃんと呼んでいる。
「それで、アーちゃんたちはなんでモンスターに追われてたの?」
「それはワシが光る狐を殺ったからじゃな」
「光狐って《シャイニー・フォックス》のこと?」
「うむ、そんな名前だったかもしれん」
からからと笑うアーちゃんだけど、後ろに立っている騎士風装備の女性はゲンナリとした表情をしていた。
ああ、彼女はアレだ。《円卓》の第11位、スリューさんだ。
シャイニー・フォックスは殺すと周囲にモンスターを大量に呼び出すトラップのようなモンスターで、私も魔の森で好奇心から殺してしまい、酷い目にあったことがある。
結果として琥珀と出会えたわけだから、今となってはいい思い出くらいのものだけどね。
「おお、配信中だったんじゃな。邪魔してしまったかのう?」
「ううん、特には。時間つぶしがてら無銘の試し斬りしてただけだから」
『試し斬り(打撃)』
『うーんこの』
『9時は回ったしそろそろ薪割りできるんじゃない?』
「そうだねぇ。レベルも上がったしそろそろ帰ろっか。……アーちゃんたちはどうするの?」
「帰るというのが鬼人の里ならばついて行かせて欲しいのう。そろそろスリューも限界であろうし」
唐突に話題に上がって驚いたのか、スリューさんは一瞬ビクッとしてから無言で頷いた。
ついさっきまであんなに元気に叫んでたのに、急に静かな感じになってしまった。
「スリューさんどうかしたの? さっきから喋ってないけど……」
「こやつは元々無口じゃぞ?」
「あれ、そうなんだっけ? でもさっき大声で叫んでたよね」
「あー……スリューはな、ワシ以外の前では無口の設定でロールプレイしとるんじゃ。だというのに大声出してるところを見られたのが恥ずかしいんじゃろ」
「そうなんです?」
スリューさんはアーちゃんの暴露でショックを受けたような表情を浮かべていたものの、私の問いかけに顔を真っ赤にしながら頷いた。
『酷いものを見た』
『羞恥責めいくない』
『主にだけ本当の自分を見せる……はっ、閃いた』
『キマシタワー?』
『↑そもそも主従なんか?』
「無理に聞いちゃってごめんなさい」
無理に口を割らせたみたいになってしまって、私は申し訳なさから素直に謝った。
スリューさんの中でどういう風に決着したのかはわからないけど、彼女は少し赤い顔のまま私の頭をぽんと叩いて微笑んだ。
私がきょとんとしていると、アーちゃんが苦笑しながらスリューさんの代弁をしてくれた。
「気にしなくていい、じゃとさ」
「なんかほんとごめんね。やぶ蛇しちゃって」
「構わん構わん。スリューがいいと言っとるし、何より助けて貰ったのはこっちじゃからのう。うむ、体力も回復したしそろそろ行かんか?」
「……うん、そうだね。多分ここからなら20分もかからないし、早く里に行っちゃおっか」
私のやぶ蛇でちょっと微妙な雰囲気が流れかけたものの、2人の気遣いですっかり明るい雰囲気を取り戻した私たちは、誘導石を片手に鬼人の里を目指すことにした。
「そう言えばアーちゃん、前は刀じゃなくて剣を持ってなかったっけ。武器変えたの?」
「いや、剣は今強化に出しておるでな。最近《刀》スキルの取得条件を満たしたのもあって、遊びで使っとるだけじゃ」
「なるほど。それにしてはいい刀だね」
「これはメンバーのお下がりじゃな。前回の序列2位からもらったんじゃ」
なるほど、道理で刀のサイズがアーちゃんの身長に合っていないわけだ。
武器のサイズはプレイヤーによって自動調節されるということはないものの、宵闇と無銘のサイズ差のように、作成する時点でサイズを設定する事ができる。
両手剣の下限サイズはここまでとか、そういう武器種による細かな制限がいくつかあるものの、アーちゃんの身長に合わせたサイズの刀を作ることは十分に可能なはずだ。
なんでわざわざ合わないサイズの刀を使ってるんだろうと思っていたんだけど、貰いものなら前の使い手の身長に合わせたものだろうから、身長が合わないのも当然だった。
「でも、本武器じゃないならなおのこと無理はするべきじゃなかったんじゃないの? シャイニー・フォックスの面倒くささはアーちゃんも知ってるでしょ?」
「知っとるからこそ殺したのよ。そもそもあれはスリューの特訓なんじゃから」
「特訓?」
「そうとも。そこなスリューはつい先日の序列争いに敗れてのぅ。当然序列は剥奪されて、今は《円卓》ではないんじゃよ」
面白そうに語るアーちゃんの言葉を聞いて、私は思わずスリューさんの方を見つめた。
スリューさんはものすごい気まずそうに目を逸らし、さっきやぶ蛇をしてしまっただけに私も深くは突っ込めず。
なんとも言えない雰囲気になりかけた瞬間、アーちゃんがビシッとツッコミを入れた。
「それはさっきやったじゃろが!」
「ご、ごめん」
「全く、2人して変に気を遣いおって。別に気まずいことなどないぞ。月イチの序列争いは当初から決めておったし、負けて落ちたなら次に勝って奪い取ればいいんじゃからな」
「そ、それもそうだね」
そうだ、そのためにスリューさんはこうして特訓をしているんだろうし、私が気を遣うのは筋違いだ。
私にできるのはスリューさんを応援することくらいだ。頑張って強くなってください。
「なんにせよ、今日は迷いの森に特訓しに来たんだね」
「そういうことになるのう。この森に出現するモンスターが多くなっとると聞いて、ここ数日はレベリングをしつつ特訓する日々じゃった。光る狐に関してはその集大成くらいの気持ちだったんじゃが……まだ不足のようじゃの、スリュー」
残念そうに告げるアーちゃんに、スリューさんは諦めたように頷いていた。
全身から「まだ終わらないんだ……」というオーラが出ているような気もするけれど、私は見なかったことにした。
「そうじゃ、先ほどモンスターが多くなっとると言ったが、ヌシの方で心当たりはないか?」
「いや、私も最近里に来たばっかりなんだよね。なんなら今日初めて森のモンスターと戦ってたくらい。確かにモンスターが多いなーとは思ってたんだけど」
アーちゃんに聞かれたものの、私としてもその疑問に答えられるような情報は持っていなかった。
私の答えを聞いたアーちゃんは顎に手を当てて思案する。
「ふぅむ、そうか。話によるとここ数日間は倍近く増えていると聞いとる。プレイヤーは死に戻りできるから良いがNPCにとっては死活問題らしくてのう」
「あー、それは確かにそうだろうね。何かが起こってるのかな?」
「フィールドの異常に関しては先日の黒竜の件もあるしのう……原因はあると思うんじゃが……」
「しばらく様子を見るしかないねぇ」
迷いの森の異変。どうやらアーちゃんの口ぶりだと森の外では結構問題になってるのかもしれない。
でも、鬼人の里の中ではさっぱりそんな様子はないんだよね。
3人で首を傾げつつ、今ここで考えても仕方ないだろうという結論に至った私たちは、とりあえず鬼人の里へと向かうことにするのだった。
森中に妖気を撒き散らした結果……逃げ出したモンスターで生態系が乱れ……。
一体この異変は誰の仕業なんでしょうね()