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流鏑馬の報酬

やっと受け取れたという気がします。

「いや……しかし驚きました。どうやったらあんなに簡単に当てられるんですかね……」


「メグちゃん、それ言うのもう7回目くらいじゃ」


「あはは」


 サクッと1000ポイントを出して、流鏑馬場でちょっとチヤホヤされてからしばらく。

 流鏑馬の時間が終わったあと、私たちは3人で受付のおじさんの家を訪れていた。

 最初は私ひとりで行こうかなと思っていたんだけど、2人とも一緒に行きたいと言っていて、おじさんも「別に構わねぇ」そうだったから、せっかくなので3人でお邪魔させてもらうことにしたのだ。


「しかしなぁ、実際すげぇもんだ。一体どこであんな技術を身につけたんだ?」


「うーん……特に練習したことはないんですよね」


「そういうとこじゃぞ」


「全くです」


『才能に味を占めてきたな』

『イキリ鬼娘』

『最初の頃はもっと初々しかったのに』

『これだから才能マンは』


「みんなが辛辣っ!」


 できるものはできるんだから仕方ないでしょ!


「ハッハッハ! 才能ってやつか! まー世界にゃ生まれつきバケモンみてぇなやつもいたりすっからな。スクナの嬢ちゃんもそん中のひとりって感じなのかもしんねぇな」


 ジトーっとした視線を送ってくるメグルさんやヒミコさんとは対照的に、おじさんは景気よく笑っていた。


「さてと、んじゃまあそろそろ嬢ちゃんに渡す報酬を見せてやるとすっかな」


「おお、待ってました」


 おじさんは特に勿体ぶることもなく、ひとつの桐箱を取りだした。

 なにかの骨董品だろうか?

 そう思って見つめていると、おじさんがそっと蓋を開ける。

 中に入っていたのは、怪しげな光を放つ漆黒の反物。

 恐らく何かしらの素材のようなものであるのは間違いない。反物ってことは防具用だろうか。


「こいつは《鬼哭紬きこくのつむぎ》っつってな。とあるモンスターの素材を、この里に伝わる秘奥の技術で紡いだ反物だ」


「きこくのつむぎ……」


 隠れ里の秘奥の技術で作った反物。いかにもレアな雰囲気が漂うアイテムだ。


「こいつを使って作った防具は、布製にも拘らず金属鎧を遥かに凌駕する。それでいて軽く、柔軟だ。ただ、それだけならただ頑丈なだけの布。モンスターの素材を使った布地なら大抵はそのくらいの効果を持ってるもんだ。お前さんのその赤衣みてぇにな」


「確かに、そうなんだろうね」


 現実世界ならどう足掻いても金属の方が頑丈だろうけど、ファンタジーの世界ならそんな当たり前な法則なんて存在しない。

 モンスターの強さがそのまま素材の強さと言わんばかりに、布製の防具が金属鎧を凌駕する。

 もちろん鍛冶師の腕や金属の種類にもよるだろうけど、強い装備はほとんどモンスターの素材から作られるものばかりなのだ。

 だから、ただ単純に頑丈なだけの布だというのであれば、《鬼哭紬》に目新しい価値はない。


 この《鬼哭紬》は流鏑馬1000ポイントの報酬なのだが。

 少なくとも今の段階では、500ポイントでもらったハイレアアイテムの《月火花つきひばな》と比べて特別に価値あるものだとは思えなかった。


「《鬼哭紬》にはな。鬼人族が纏った時にだけ、その力を強化してくれる効果があるんだ」


「鬼人族の専用装備……ってこと?」


 なるほど、それはなかなかにワクワクする設定だ。

 鬼人族にしか装備できない……という訳ではなくとも、鬼人族が纏った時にだけ真の力を発揮する装備。

 なんかほら、伝説の勇者が持った時だけ真の力を発揮するけど、それ以外はなまくらな聖剣みたいなね。


 対象こそ個人じゃなく種族単位だけど、さすがにオンラインゲームでたったひとり限定のレアアイテムなんて出せないもんね。

 ネームドの《魂》だって初回に限り確定ドロップするというだけで、倒し続ければ誰にだって手に入れる可能性はあるのだから。


 さて、問題は《鬼哭紬》がどれだけの効果と柔軟性を持つ反物であるのかというところだ。

 鬼人族の力を増す、という謳い文句。ステータスを底上げするとか、常にバフがかかるとか、あるいはダメージカットの効果とか。

 後はステータス関連だと、力を増すだから筋力や攻撃力だけしか上がらないとか、それ以外のステータスにも効果があるかもしれないとか、その辺りが気になる。


 あとは素材としての柔軟性。《鬼哭紬》のみで装備を作る必要があるのか、あるいは装備の強化素材として使ったりしてもそのバフ効果が続くのかどうかは重要な部分だ。

 具体的に言うと、赤狼装束の強化に使った場合でも、その鬼人族に対する効果は残るのかってこと。

 元々赤狼装束を強化するつもりだっただけに、そこが共存できないとなるとサブ装備として使うことになると思う。


 そんな私のワクワクしつつも不安な気持ちを、おじさんの衝撃的な一言が吹き飛ばした。


「コイツで作った装備はな……ただ装備してるだけで、鬼人族の全ての物理技能の基礎ステータスを4割も底上げしてくれるんだ」


「はぁっ!?」


「4割!?」


 あまりに衝撃的なその発言に、私とメグルさんが身を乗り出して叫んだ。

 それが本当ならとんでもない効果だ。バランスをどこかに捨ててきたと言わんばかりのあまりに破格の性能だ。

 絶句して言葉も出ない私とメグルさんをよそに、ヒミコさんが首を傾げる。


「ん? 何をそんなに驚いておるんじゃ?」


「いやいやいやヒミコさん4割だよ? 4割だよ? 4割なんだよ?」


「う、うむ。それは分かっとるよ?」


「わかってないですよ!」


「ふぇぇ……」


 ちょっと能天気なヒミコさんに思わず詰め寄ると、鬼気迫る私たちの様子に気圧されたのか、彼女は少し涙目になって縮こまっていた。


「ま……この場での反応としちゃあ2人の方が正常だな」


「……流石に効果がヤバくないですか?」


 私よりも先にメグルさんがそう言った。

 それは私も聞きたいことだったから、特にそれを咎めるつもりもない。少なくとも今私は冷静さを欠いてる自信があるから、比較的冷静なメグルさんに感謝すべきなくらいだ。


「ああ。だがな、《鬼哭紬》は使い手に実力を求める。具体的に言うと、こいつを使って作成した防具は必ずある制限がつくんだ」


「制限?」


「筋力値が500ないと装備できねぇんだ。これは装備の重たさが原因なんじゃなく、素材自体が要求する装備制限。だから、装備自体の要求筋力値は別になるな」


 筋力値500で装備制限。装備制限って言葉自体は初めて出てきた要素かな?


 勘違いされがちだけど、要求筋力値が足りなくても装備はできる。ただ、要求筋力値を超えて装備をすると、その場から動けなくなるだけだ。

 だから、おじさんがわざわざ装備制限と明言したということは、恐らく「筋力値が500ないと根本的に装備自体ができない」ということなんだと思う。


「《鬼哭紬》は鬼人族にとっての決戦装束に使われる、特別な反物なんだ。この里でそれを扱える鬼人は黒曜様を除けば数人だけ。認められし者にしか纏えない装備って訳だな」


「決戦装束……なんかカッコイイね」


「ははっ、そんな感想が出るか。まあそうだな、滅多に見れるもんじゃねぇが、例えば黒曜様の決戦装束はそりゃあもう気高くて美しいんだぜ?」


 比較的質素な着物を纏う黒曜を思い浮かべて、その服装を漆黒の豪奢な着物に置き換えてみる。

 うん、確かにこれはこれでかっこいいかもしれない。


「その効果ってさ、他の防具の強化とかに使っても消えたりしない?」


「ああ、そりゃ大丈夫だ。素材としてはかなり使いやすいほうだぜ。筋力値の制限こそついちまうが、鬼人族のステータスを底上げする効果は消えねぇはずだ」


「そっか、よかった」


 おじさんの言葉を聞いてほっとする。

 実のところ、《鬼哭紬》が赤狼装束の強化に使えるのかはまだわからない。

 インベントリに入れて赤狼装束の強化素材を見ればわかる事だけど、今おもむろにそんなことをしても白けちゃうしね。

 ただ、強化に使えないという可能性は私の頭の中にはなかった。《鬼哭紬》が赤狼装束と引き合っているような、そんな感覚があったからだ。


「その装備の強化に使いてぇのか?」


「うん、ずっと一緒に戦ってきたから」


「そうか。使えるといいな」


「きっと大丈夫だよ」


 私の考えていることがわかったのか、おじさんは茶化すようなこともなく頷いてくれた。


「おお、そういや筋力値は大丈夫なのか? いざ装備を作っても装備できねぇんじゃ意味ねぇしな」


「そうでした、スクナさんってそんなに筋力特化のステータスでしたっけ?」


「あー、うん。そこは大丈夫」


 今持っているボーナスステータスポイントを全て注ぎ込めば、実は筋力値は500を優に超えるのだ。

 だから、その部分は全く心配していなかった。


「ふむ、よく分からんが話は纏まったようじゃな」


「ヒミコさん。どうかしたの?」


「話に入るタイミングがなくていじけとったんじゃ」


「素直だね」


 ずっと会話に入り込むチャンスを窺っていたらしい。

 嬉しそうな表情を浮かべる姿は、先程までいじけていたとは思えないほどだった。


「流鏑馬の報酬はこんだけだ。《鬼哭紬》は流鏑馬で満点を出す実力があるやつには融通するように里長から指示されてっから、メグルもヒミコも頑張れよ」


「誰でも手に入れられると?」


「ああ、流鏑馬で満点をとりさえすりゃ誰にでもやるさ」


「なるほど、やる気が出てきました。スクナさん、今度指導してもらえませんか?」


「いいけど、あまり参考にならないかもよ?」


「ワシも100点くらいは取れるようになりたいんじゃあ」


「12点だもんね」


「うぇぇん、スクナたその無慈悲な一言に胸がえぐられるぅ」


 手で顔を覆って泣き真似をするヒミコさんを放っておいて、《鬼哭紬》をインベントリへとしまう。

 メニューカードに燦然と輝く《レア度:エピック》の文字。プレイヤーの中ではもしかしたら最速かもしれない、エピックレアのアイテムをゲットした瞬間だ。


 赤狼装束の強化に使えることも確認した。そして、巨竜から手に入れた《魂》もある。

 今夜はさすがに迷惑だろうし、明日になったら子猫丸さんに相談してみようかな。



「また気軽に遊びに来てくれ」


「大事に使うね!」


「貴重なアイテムを見せていただきありがとうございました」


「お菓子が美味しかったのじゃ」


 すっかり夜も遅くなり、私たちはおじさんの家を後にして、特にやることもないのでそのまま解散することになった。

 胸に大きな期待を抱いて、私は長い一日を終えるのだった。

《鬼哭紬》は、はっきり言ってこのタイミングで取得することを想定されていません。流鏑馬で満点を取る以外にいくつか取得の手段があり、正規ルートと呼べるのはそちらになります。むしろそちらのルートの方が確実に全プレイヤーの手に入ります。

ただし、そのルートは本来三桁レベルになってから進めるようになるため、現状では流鏑馬で手に入れるしかありません。つまりスクナは先行ゲットした形になるわけですね。

また、各種族に専用の強化装備はあります。妖精族なら魔法特化の強化装備、エルフならバランスよく〜みたいな感じですね。


あと、スクナのステータスですが、ちゃんと計算したら筋力値がボーナス抜きで450を超えてました。なのでボーナス足したら500超えます。ホントはステータスが足りないから修行〜みたいな流れになるはずだったのですが……(汗)

脳筋バンザイ!

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― 新着の感想 ―
子猫丸「旅に出ます。サガナイデクダサイ 」 奥さん「!」
[一言] ここ暫くは筋力に全振りしてる感がありますね。 この世界で本来のナナの動きを再現するには器用が足りないと言ってた気がしますが、そこは解決できたんでしょうか?
[気になる点] ちなみに蘇生ポーションのレア度はエピック。ハイレアよりさらに上の、正真正銘のレアアイテムだった。 メニューカードに燦然と輝く《レア度:エピック》の文字。プレイヤーの中ではもしかしたら…
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