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流鏑馬場での一幕

 近いうちに修練場に行く約束をした後黒曜と別れた私は、すっかり暗くなってきた空を見上げながら流鏑馬場を目指していた。

 理由は、2日前に出した1000点満点の報酬を貰うため。

 時間的にはまだ夜の7時は過ぎてないんだけど、少し時間が余ってしまったから、残りの時間を流鏑馬場で潰すことにしたのだ。


「暗いのにそこそこ賑わってるねぇ」


『ライトアップされてるし』

『明日から週末だからでは?』

『鬼人の里って全体的に照明少なめだもんなぁ』


 リアルの時間とこの世界の時間がだいたい連動しているせいか、社会人の場合働いて帰ってからのログインだと暗くなっていることが多い。

 だからプレイヤー自身は最低限の夜目が利くようになっているし、大きな街は照明もそこそこ充実していたりする。

 ただ、リスナーの視点では基本的に夜目が利くようにはなってないから、そこは課金オプションを使う必要があるんだけどね。


 鬼人の里は灯りらしい灯りが点在する灯篭くらいしかないから、里の中は夜になるとかなり暗い。

 流鏑馬場は上映スクリーン自体が謎に発光してるのと、流鏑馬の的の周りがちゃんと照らされていること、それからレールホースが明るさに関係なく常に一定のルートを通ってくれるおかげで、ある程度の暗さまでなら最低限の営業はできるみたいだった。

 それに、よく見るとスクリーン越しの景色は課金オプションと同じように暗視効果があるようで、流鏑馬をプレイしている人は暗くてもよく見えるようになっていた。


 流鏑馬場で観戦に興じている群衆をざっと見た感じ、22人いるうちの7割くらいはプレイヤーかな。

 7時まで1時間くらいあるし、みんな流鏑馬の待機がてら賭けでもしてるんだろう。


 ここの賭け事はピッタリ得点を言い当てなきゃいけない代わりに、ピタリ賞を当てると掛け金の10倍がペイされる。

 3000イリスまでしか賭けられないから賭ける側も破産しないし、胴元が大損することもない。

 あくまでも流鏑馬観戦のおまけ要素みたいなものらしい。

 一昨日はヒミコさんが私に2000イリスをかけて、満点を宣言して20000イリスゲットしたとホクホク顔で言っていた。


「スクナさんじゃないですか。お久しぶり……ではないですが、一昨日ぶりですね」


「あ、メグルさん。こんばんはー」


 観客の最後尾にひっそりと付いていると、ふと見知った顔に声をかけられた。

 私と同じ《童子》プレイヤーのメメメ・メメメ・メメメルさん。通称メグルさんだ。一昨日一緒に《焔の古代遺跡》の隠しボスを倒した仲で、私を鬼人の里に案内してくれた恩人でもある。

 ちなみに一昨日聞いたところによると、彼はネカマプレイヤーだと公言していて、アバターは綺麗な女鬼人だけど声は渋い男声だったりする。

 どうせ使うなら可愛いアバターがいいじゃないですか、とは本人の談。プレイスタイルは人それぞれだよね。


「聞きましたよ、一昨日満点を出したとか」


「あはは、噂の広がりは早いね。今日一日で何回聞いたかな……」


「人の口に戸は立てられぬというやつですね。とはいえこの里の数少ない娯楽ですから、話題になるのも当然かとは思います」


「スクナたそ〜!」


「ていっ」


「あべしっ!?」


 メグルさんと雑談している私の後ろから飛びかかってきたプレイヤーの腕を掴み、顔から地面に落ちるようにそっと軌道を変えてやる。

 そのプレイヤーはものの見事にズシャァッと地面を滑っていった。


「ヒミコさん……何やってるんですか」


「メグちゃん、そんなゴミを見るような目で見ないで欲しいんじゃが。スクナたそを見つけたから抱きつこうとしただけじゃって」


「やれやれ、ハラスメントで通報されても文句は言えませんよ」


 地面を滑っていったプレイヤーはヒミコさん。まあ、見てなくても声と足音でわかってはいたけども。

 長いこと鬼人の里にいる2人だからか、会話にも無駄な遠慮のようなものはないみたいだった。


「ヒミコさんも一昨日ぶり。レベリングは順調?」


「賭けのあぶく銭で武器を変えたおかげで、今日は結構いい感じじゃった! まあ今はデスペナ中なんじゃけど」


「里の中にいる時は基本デスペナですもんね」


「仕方ないじゃろ! ただでさえ適正から程遠いのにステ半減で勝てるわけないんじゃから!」


 ヒミコさんはそういうと、シクシクと泣き出した。

 どういった理由からかは知らないものの、ヒミコさんは低レベルの時点でこの里まで友人にキャリーしてもらい、そのまま放置されているせいで里から抜け出せなくなった人だ。

 じわじわとレベルはあげてるみたいで、遠くないうちに鬼人の里を抜け出せそうではあるらしい。ただ、現状はまだまだ適正レベル以下のようだった。

 アバター操作が上手くて戦闘慣れしていればレベル差なんてある程度は覆せるけど、ヒミコさんはそこら辺もあんまり得意じゃないみたいだしね。


 でも、上手く戦えないと自覚しているからこそ戦闘では正面戦闘を避け、《罠師》というレアスキルで戦っているらしい。

 これはあまりにもモンスターにボコボコにされているヒミコさんを見兼ねてとあるNPCに伝授されたものだとかで、ヒミコさん曰く「罠の設置は面倒じゃけどないと戦えん」とのこと。

 失礼な言い方になっちゃうけど、良くも悪くもヒミコさんが弱いからこそ手に入れられたレアスキルなんだとか。


「そういえば、スクナさんは何をしにここへ?」


「流鏑馬の報酬を貰いに来たんだ。満点の報酬は一昨日受け取れなかったから」


「なるほど。では流鏑馬をしに来た訳ではないんですね」


 メグルさんはそう言うと、少し残念そうな表情を浮かべていた。

 そんな様子を見たヒミコさんはニンマリと笑みを浮かべると、非常に鬱陶しい動きと共にメグルさんを煽り出した。


「メグちゃんは見てないんじゃもんなぁ? ふへへへ、ワシはこの目でしっかり見たというのにのぅ」


「ほう、ケンカなら買いますよ」


「す、すぐに暴力に移るのは良くないとワシは思うな」


『即堕ち二コマで草』

『よわい』

『このヒミコちゃんのクソガキ感、正直すき』

『↑わかる』


「まあまあ。私もまだまだ暇な時間あるし、ちょっとやってこようか?」


「ホントですか?」


「助かった……」


 あまりにも自業自得なヒミコさんに助け舟を出してあげると、メグルさんの表情も一緒に明るくなった。

 まあ、流鏑馬が終わるまではどの道報酬は受け取れない訳だしね。


「ちょっと申し込んでくるね」


『おお、またやるんか』

『初見満点だもんなぁ』

『難易度上がってるかもしれんし』

『見てて気持ちいいから毎秒やって』


「毎秒は無理定期」


 とはいえ配信者として、得意分野での魅せプは楽しんでいかなきゃね。


「おじさーん、私もやらせてー」


「おう……って嬢ちゃんじゃねぇか。昨日来るのかと密かに思ってたんだが、なんかあったか?」


「ちょっとお墓参りに行っててねー」


「そうか、そりゃ大事なことだな。この後取りに来るんだろ?」


「うん。で、その暇つぶしにやろうかなって」


「了解だ。今は3人待ちだから、ちと待ってな」


 流鏑馬の受付をやってる鬼人族のおじさんに参加の意思とこの後受け取りに行くことを伝えて、私は一旦2人のもとに戻ってきた。


「3人待ちだって」


「すいません、無理やりやらせてしまうような形になってしまって」


「いいよいいよ、メグルさんには恩があるし、何より流鏑馬自体楽しいしね」


「実際のところ、前回はまだそこそこ明るかったじゃろ? この暗い中でも当たるもんかのぅ?」


「んー、そもそも私、昼でも夜でも見え方変わらないんだよね。暗い方が逆光もなくて見えやすいくらいかもしれないなぁ」


「ふぁっ!?」


 元々プレイヤーには最低限の暗視が付与されてるというのはさっき言ったけど、それとは関係なしにそもそも私自身が暗さの影響を受けない。


 すごい今更な話だけど、不思議なことにVR空間ではプレイヤーの五感がかなり正確にそのまま反映されてしまう。

 これは仮想化に伴う認識がなんちゃらでどうこうした結果らしいんだけど、私には残念ながらその理屈は理解できなかった。

 説明してくれたリンちゃんもよく理解していないらしいから、とんでもなく難しい理論だということだけは分かる。

 まあ、今重要なのはリアルほどじゃないにせよ、この世界の私も夜目が利くということだ。


「まあ見ててよ。全部当ててくるからさ」


 私がそう言って笑うと、メグルさんとヒミコさんが2人して目に手を当てて天を仰いだ。

 え、何その反応は。

 これまでの人生でされたことがないような反応を返されて、私は思わずキョトンとしてしまうのだった。

メグル・ヒミコ「くっ……(推しの無邪気な笑顔が眩しすぎる)」


みたいな反応。2人ともリスナーだからね。仕方ないね。

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― 新着の感想 ―
スクナ「ゴーガン、束ね撃ち!」 ヒミコ「加減できんもんかのぉ」 メグル「これが、若さってやつなのね」
[良い点] 目の前で推し本人の笑顔が見れたらそうなるよね。 “尊…っ!”ってなるよね。鹿たないね。
[一言] ポイントのタップ制、評価忘れてた作品に気付けるので助かる(作品関係なくてごめんなさい)
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