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師範代、黒曜

「そこの赤衣の鬼人、止まりなさい」


「んっ?」


 寄り道はあったけど、ようやく辿り着いた鬼人の里。

 いざ入ろうとわくわく気分で門を通り抜けようとした私は、穏やかな声で静止された。

 声は上から。声の主は不思議なほどに緩やかな速度で、私の正面に降り立った。全然気がつかなかったけど、門の上にいたんだろうか?


「その全身から漏れ出すただならぬ妖気。里に入れる訳にはいきません」


 声だけを聞けば落ち着いた女性のようだけれど、声の主は私よりもずっと身長の低い、黒い着物を纏った少女だった。

 とても鋭い視線をこちらに向けている。なんでかはわからないけど、もの凄い警戒されてるみたいだ。


「黒曜さん? 珍しいですね、アナタが門番だなんて」


 彼女の様子とは対照的に、メグルさんは軽い調子でそう言った。

 鬼人の里に来てそこそこ長いから当たり前といえば当たり前だけど、彼女はメグルさんの知り合いらしい。

 黒曜、というのが名前だろうか。名は体を表すと言うべきか、透き通るような黒髪が印象的な少女だ。


「メグルさん。ええ、看過できぬほどの妖気が里に迫っておりましたので、こちらで見張っておりました。お知り合いですか?」


「ええ。彼女が例の、琥珀様の弟子ですよ」


「えっ?」


 少女は一瞬固まり、視線を改めて私に向ける。

 全身を上から下まで丁寧に眺め、少し考えるような仕草をしてから、何かに納得したように頷いて警戒を解いた。


「……それは、それは。道理ですね」


 え、私ってこの里では琥珀の弟子って扱いなの?

 そしてその一言で納得しちゃうの?

 そもそも「ようき」ってなんなんだろう。陽気……妖気? うーん、鬼って一応妖怪的な扱いだしこっちかな。


「失礼しました。私の名は黒曜、話は琥珀様から聞き及んでおります」


「スクナです」


「ではスクナさんと。ようこそ、鬼人の里へ。新たな仲間の来訪を、我ら一同心より歓迎いたします」


 先程までの鋭い視線は完全になくなり、黒曜と名乗った少女は穏やかな表情でそう言った。





「なるほど、スクナさんは解呪の手がかりを探るためにこの里へ来たのですね」


「うん、そうなんだ」


 時間的には午後3時を回ったくらいか。

 一悶着起こりそうだったのを何だかんだ回避した私は、黒曜と共に鬼人の里を歩いていた。

 最近はなんかこう、みんなして私の丁寧語を嫌がるよね。別に私も堅苦しく喋りたい訳ではないけど、バイト生活中はほとんど丁寧語しか喋ってなかったはずなのになぁ。

 自然体でいられるのはありがたいからいいけどね。


 ちなみに、クエストの報告に行きたいからと、メグルさんとは里の入口のところで別れた。

 ここまで案内してくれたメグルさんには感謝しかないけど、それを伝えたら「ボス攻略の手伝いだけで対等以上に助けて貰ってますから」と笑っていた。

 しばらくはこの里を中心に動くような気がするし、また一緒に戦えたらいいね。


 それはそれとして、わざわざ黒曜が私を連れ立っているのは、私の全身を蝕んでいる呪いが原因だ。

 鬼神の侵食。デッドスキルを使ってしまった副作用であり、ステータスやスキルの使用に大きな制限をかける呪い。

 どうもこの呪いが、先程黒曜が言っていた「妖気」というものを恐ろしいほどに撒き散らしているらしい。

 鬼人族であれば感じ取るだけで日常生活に支障をきたす程度には、凄まじいプレッシャーを放っているんだそうだ。


「道中、モンスターに襲われなかったのもそれが理由でしょう。この里の周辺にいるモンスターは、妖気にとても敏感ですからね」


「なるほどねぇ。異変の原因は私自身かぁ」


 良かったのか悪かったのか。

 まあ、異変に関して警戒しなくて良くなったのはいいことだろう。また真竜みたいなのに襲われたらたまったもんじゃないしね。


 話を戻すけど、この呪いに関しては私に何ができる訳でもなく、かと言って鬼人の里への出入り禁止を申し渡すような事態でもないとのことで。

 それでも住人のストレスになる可能性はあるので、黒曜の提案で《鬼灯の腕輪》と呼ばれる妖気の放出を抑える腕輪を貰うことになった。

 それを着ければ、里を歩き回っていても問題ない程度には妖気が抑えられるらしい。


「解呪の方法に関しては、私も心当たりはありません。そもそも鬼神様に関わる情報そのものが、この里では統制の対象です。里の古株であれば何か知っているかもしれませんが……」


「うーん、まあなんとか手がかりを見つけられたらって感じだね」


「貴女も鬼神様の祝福を受けた者。その身に纏う装備はかの赤狼を倒した証だと聞いておりますし、何よりその呪いは鬼神様のお力そのもの。里長(さとおさ)を含め、親身になって下さると思いますよ」


「そうだったらいいなぁ」


 実のところ、今の私は鬼人族の好感度が上がる系だったりNPCの好感度が上がる系の称号をセットしていたりする。

 未だ正体がいまいちわからない《妖気》とやらのせいで里の住民からなんかこう……やべーやつを見る目をされるから、少しでもマシになったらいいなと思ったのだ。


 その効果はと言うと、妖気ダダ漏れのやべーやつからなんか色々とやべーやつに変わっただけだった。

 住民たちは私を見て顔を引き攣らせてから、隣にいる黒曜を見て安心したような表情をしているので、私がどう称号を変えてもあまり意味はないということなのかもしれない。


 それにしても黒曜って、この里の人にもの凄い信頼されてるっぽい。

 道行く人々がほとんど黒曜に挨拶か会釈をしていて、彼女もまた穏やかな態度でそれを受け止めている。

 130くらいしか身長がないのに、その存在感は計り知れないほどに大きい。

 鬼人族は見た目と年齢が一致しないというのは琥珀の例でわかっているけど、黒曜はもしかしたら琥珀よりももっとずっと歳上なのかもしれない。


「そういえば、スクナさんは鬼の舞を琥珀様から継承されたんだとか」


「あ、うん。そうだけど」


「少し前、珍しく琥珀様が里帰りされたのです。その際に、初めての弟子を取ったととても嬉しそうにお話されておりました。これまでそんな素振りすら見せずにひとり戦い続けていた彼女が見せた姿に、我々は酷く驚かされたものです」


 子を見守る親のような、どこか慈しみを孕んだ言葉。彼女が琥珀のことを大切に思っているのが伝わってきた。

 確か琥珀は一度、鬼人の里を追放されている。

 怒りに我を忘れて、この里を半壊させてしまったからだ。

 最終的には和解して、今は鬼神の封印を解く鍵を探して外の世界を旅している。

 そして、多くの鬼人族を見定めた上で、異邦の旅人である私たちプレイヤーという鍵を見つけた訳だ。


 そういえば、イベントの時は始まりの街にいたけれど、あれはあくまでも人々を守るためだろう。

 普段の琥珀が何をしてるのか、私何も知らないや。


「ねぇ、黒曜。琥珀って鬼人族のお姫様なんだよね?」


「ええ、その認識で間違ってはおりません。より正確には神子(みこ)の一族と呼ばれる、鬼神様の直系にあたる一族の末裔。正真正銘、貴き血を引くお方です」


 なるほど、文字通り神の血を引く神子って訳なんだ。


「幼い頃からやんちゃな方で……ふふ、琥珀様に武を教えたのは私なんですよ」


「へぇ……じゃあ私から見たら黒曜は大師匠(おおししょう)様なんだ」


「スクナさんは私から見れば孫弟子ですね。琥珀様は私の教え子の中で最も早く終式に到り、師範代の称号を得ました。私の弟子であったのは5年ほどの短い期間でしたが……時折、会いに来てくれます。いつになっても弟子というものは可愛いものですね」


 琥珀について語る黒曜は、本当に嬉しそうに微笑んでいる。可愛がっていた弟子が今でも忘れず顔を見せてくれるというのは、嬉しいことに違いない。


 鬼の舞のアーツは、筋力値に依存して覚えるようになっている。その設定を単純に考えるなら、レベルアップのボーナスが全て筋力値に振られてきた琥珀が最速で鬼の舞を極めるのは必然といえば必然だろう。


 とはいえ、終式に関しては必ずしもそうとは言えないみたいだけど。

 実は《五式・童子の型》までは修得可能筋力値がわかっているものの、終式に関してはどうやって習得するのかがわからないままなのだ。

 前に琥珀が言ってた。終式は人生を写す鏡、だったっけ。

 琥珀の終式はその絶大な筋力値を活かした一撃必殺らしいけど、黒曜はどんな技なんだろう? それが少しだけ気になった。


「ここが里長の御屋敷です」


 黒曜の声掛けでハッとする。

 気づけば門から結構な距離を歩いていて、大きな屋敷の門の前に着いていた。


「里長、かぁ……」


 この鬼人の里を束ねる長。

 どんな人物なのか、会うのがとても楽しみだった。

黒曜さんは琥珀と同じくらいにキャラ原案ができてたり。

スクナは琥珀から教えてもらいましたが、鬼の舞は本来黒曜から教えてもらうのがノーマルルートです。

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